雪村千鶴
「ええ〜!!?沖田さんに誘われたぁ!?」
千鶴の所属する第二担当は騒然となった。
喫茶室から帰ってきた千鶴が、顔は真っ赤で心ここに非ずのぼんやり状態なのを不思議に思った同僚のお千が、どうしたの?としつこく聞きだし、第一担当の沖田から夕飯に誘われたことを聞き出したのだ。
「ほんとに!?秘書課チームがコンパ誘っても断ったっていう沖田さんが?」
「受付チームも、何回か誘ってる子いるんだってよ!でも全部断られてるって。今じゃあ、もう打つ手がなくて静観みたいだけとっ」
「ねぇ知ってる?新入社員のミスJ大学の女の子、沖田さんにメールアドレス聞いたんだって!」
新たな情報に、女子社員達はどよめく。
「で、どうなったの!?」
「『自分のメールアドレスは覚えてないし、面倒だから使ってない。携帯も今持ってない』……で玉砕」
あまりにもそっけない総司の断り文句に、女子社員達の顔はひきつった。噂話だから心穏やかに聞いていられるが、それが実際自分だったらどれだけ心がくだけるか……
いや、それは同じ担当で仲が良く、癒し的存在の千鶴でも同じだ。
「だっ大丈夫……?千鶴ちゃん、確か沖田さんのこと結構好き……だったんだよね…?」
恐る恐るお千がそう聞くと、千鶴は顔を真っ赤にして頷いた。
遠くで担当の課長が『仕事しろよ』という顔でこちらを見ているが、今はそれどころではない。
第二担当の女子社員4人は、千鶴をとりかこんだ。
「今夜?何時?どこで?」
「ろ、6時半に一階受付で待ち合わせ……」
お千は時計を見る。
「6時に終業だから30分でお化粧しなおして……髪はどうしようか…。服は…服はもうどうしようもないわよね……」
千鶴は今日の自分の服を見下ろした。久しぶりに暑くて、化粧もかなり手抜き、髪も何もかまっていなくておろしたまま、服もシンプルなワンピース、靴は履き古した地味なペタンコのバレエシューズだった。
「どうしよう……」
見栄えのする総司の横にたつと明らかにしょぼい。千鶴は涙目で4人を見た。
4人は腕組みをする。
「化粧は……私フルメイクセット持ってきてるから就業したらやったげる。シャドウの色が今日のワンピースと同じブラウンゴールドだから、大丈夫。」
「髪は横で緩く結ぼう。大きなお花のついたゴムがあるからそれ貸してあげる。」
「靴は私の5センチパンプスはいて。つま先にかざりついてるし、脚長く見えるから。」
「アクセサリーは?何かないの?襟ぐりが結構あいてるけど…」
その言葉にもう一人が応える。
「あ、千鶴の机の中にローズクォーツのペンダントトップのネックレスがある!これは?」
いいじゃん!という声にかこまれて、千鶴は頼もしい仲間に、千鶴は熱くうなずいたのだった。
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