やきもち
千と二人で総務に行くために席をたった千鶴は、いつもの習慣で総司の席を見た。
そこはもちろん空席だ。
今週から総司と左之の二人は一階下の七階で、大型案件のプロジェクトチームが集まった部屋へと移動してしまっていた。そこには当然サービス部の女性がいて、きっと机を並べて一緒にモニターを覗き込んだりコーヒーを淹れてあげたり他愛もない話をしてわらったりいちゃいちゃしているのだろう(違います。仕事をしてます)。
こんな暗いもやもやした感情は初めてで、千鶴は溜息をついた。
2月の中旬になればまたもとの席に戻ってくるはずだが、それまで一か月もある。総司はいそがしいだろうからデートもできないだろうし、顔も見られない。
そして総司の傍には、総司の事を好きな魅力的な女性。
考えてもしょうがないのだが、ついつい考えてしまうのだ。
どんよりしている千鶴には気づかず、隣を歩いている千が「あーあ、めんどくさいわね〜明日」と伸びをしながら言った。
「明日?明日は土曜日で会社休みだよね?何かあったっけ?」
千鶴がそう言うと、千が呆れたように続けた。
「やだ、今朝朝礼で言ってたじゃない。うちの会社の前の公園で今週の土曜日、お祭りがあるって」
そういえばそんな話を聞いたような気がする。
千鶴はぼんやりと思い出した。
たしかうちの会社も協賛しているから、このビルに勤めている社員は各自で明日お祭りを見に行くようにという指示だったような…
「そっか。明日お祭りに行かないといけないんだっけ…」
「まぁお祭りだし出社するわけじゃないし好きなときに行って好きに帰ればいいし楽っちゃ楽だけど面倒よね〜。千鶴ちゃんはどうするの?もしよかったら一緒にお祭りまわる?それとも沖田さんと何か約束してるの?」
千鶴が否定をしようと口を開いた時、休憩室から「きゃーっ!」という女子社員達の黄色い声が聞こえてきた。
千と千鶴が顔を見合わせて休憩室を覗き込むと、そこにはサービス部の女子社員達が4,5人すわっており、その中には総司のプロジェクトチームにいる例の女性もいる。彼女達が興奮して大きな声で話しているせいで、廊下で立ち止まった千鶴達にも会話の内容が聞こえてきた。
「えー!夜も泊まったりしてるの?7階で?二人で?」
例の女性が少し自慢するように微笑んで頷いた。
「でも別に横になったりしないわよ。ずっと仕事してて机につっぷして仮眠して、また仕事して……って感じ。でも寝顔見ちゃった♪すっごくまつげ長くて、まつげも茶色いの!」
きゃあっ!という黄色い悲鳴があがると同時に、千鶴の顔が暗くなる。
サービス部の他の女子社員が、例の女性に聞いた。
「ご飯とかはどうしてるの?」
「やっぱり私と沖田君がペアで仕事することが多いから行動や休憩も同じになるのよね。だから三食一緒に食べてるの。結構好き嫌いが多くて何を食べるか決めるのが大変で」
大変、と言いつつどこか嬉しそうなその女性の表情と対照的に、千鶴の表情はさらに暗くなった。
別の女子社員がさらに聞く。
「明日とかどうするの?出社するんでしょ?お祭りは?」
「んー、多分一緒に行くと思う。明日出社は私と沖田君だけだし」
えー!!デートじゃないのそれ!と騒いでいる喫茶室に背を向けて、千鶴は歩き出した。
千が慌てて後を追いかける。
「ち、千鶴ちゃん……気にしなくていいわよ。沖田さんは別に……えーっと……『彼女』は千鶴ちゃんなんだから!」
「……」
千の慰めの言葉は嬉しいが、情けないことに口を開くと涙がこぼれてしまいそうで千鶴は小さく頷くことしかできなかった。
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