Q.仕事と彼女どっちが大事?
その夜8時……
千鶴は自分の部屋で携帯とにらめっこしていた。
総司が明日、サービス部のあの女性とお祭りに行くのはイヤだ。自分がこんなに心が狭いとは思わなかったが、千鶴は本当にイヤだと思った。
総司自身は別にそんな気はないのかもしれない。でも明日総司の横であの女性が嬉しそうにお祭りを見ているのがイヤだ。
自分の我儘だとはわかっている。勝手なやきもちだとは思う。
イヤなのは自分なのだから、なんとかするのも自分でなんとかしなくてはいけない。
しかし今総司は仕事中だろう。そこにこんな……私情で電話やメールするのは気が引ける。
でも…
今連絡しなければ明日は総司と彼女が二人でお祭りに行くのを指をくわえてみていなくてはいけない。
申し訳ないがここは我儘をさせてもらおう。千鶴は心の中で総司に謝った。
次はメールにしようか電話にしようか散々迷う。
そして千鶴は、電話をすることにした。
総司がパソコンで資料をまとめていると、胸のポケットに入っている私用の携帯がなった。
誰かと思い表示を確かめてみると、千鶴からだ。
千鶴からの電話は初めてではないだろうか、何かあったのかと思いながら、総司はプロジェクトルームを見渡した。
今日の残業は総司とサービス部の女性だけで、彼女は今はそれほど忙しく無いようで机の上の整理をしている。
ここで通話しても今なら仕事の邪魔にはならないだろうと判断して、総司は通話ボタンを押した。
「もしもし?」
『あっ!すっすいません!雪村です。あの…今大丈夫ですか?お仕事…』
「うん、今は大丈夫。どうしたの?めずらしいね」
『……』
「ん?何?」
我ながら甘い声だなと思いつつ、好きな子に甘くなるのは当然か、とも開き直る。
『あの、明日……明日は休日出勤ですか?』
「うん。まぁしばらくはね、しょうがないかな」
総司はそう言いながら椅子の上で伸びをして、壁にかけてあるカレンダーを見た。
「多分2月の中旬ごろまではこんな感じ」
『あの……あの……忙しいところ本当にすいません。あの、もしできたらでいいんですが……明日のお祭り…一緒に行けないでしょうか?』
「明日?祭り?」
千鶴に言われて総司は思い当たった。
そう言えば明日近藤さんが協賛している祭りを見に行くように言われていたっけ…
「そっか。いいよ、一緒に行こうか?」
『いっいいんですか?お仕事、大丈夫ですか?』
何をそんなに驚いているのかわからなかったが、総司は特にこだわりもなく返事をする。
「うん、どっちにしても仕事はいったん中断して行くわけだし、千鶴ちゃんと会えるならその方が嬉しいよ」
『……』
赤面していそうな千鶴の沈黙に、総司の顔にほほえみが浮かぶ。
「どうして突然こんなお誘いをしてくれたの?」
『……』
「……ちょっと放っておきすぎた?」
電話の向こうから蚊の鳴くような小さな声で、千鶴が「……はい…」というのが聞こえてきて、総司のほほえみはさらに深くなった。
「ごめんね。明日は午後休むよ。祭りを見た後映画でも行こうか?」
『えっ?大丈夫ですか?』
「うん。まぁ別の日に残業すればいいしなんとかなるよ。じゃあ一時に前のドトールで待ち合わせでいい?」
『はっはい!ありがとうございます!』
電話を切って、携帯を胸ポケットに戻しながら総司は思う。
どうも「彼女」ができたのが随分久しぶりのせいで、スケジュールを一人で決めて一人で動きすぎてしまったようだ。
そういえば以前、平助たちとスキーに行ったせいで別れた彼女には、こんな風に自分のことを反省したことはなかったな、と思う。
当時はやりたいことができない「彼女」の存在がめんどくさく、正直うっとうしいと思う時もあった。
今は……千鶴が必死になって誘ってくれたこと、多分電話をする前にいろいろ一人で悩んでいただろうこと、そして自分と会いたいと思っていてくれることが、とても嬉しい。嬉しいというか……にやける。
ふと顔をあげると、総司はこちらを見ていたサービス部の女性と目があい、にやけていた口元を手で覆う。
わざとらしく咳払いをして、総司は精一杯あっさりと言った。
「そういうわけだから、明日は午後から休むよ」
A.彼女による
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