映画1



ドトールに現れた総司は、ダウンの下に黒いポロシャツ濃い茶色のスリムなズボンをはいていた。
さっぱりした顔をしているから、きっと昨日は会社に泊まりではなかったのだろう。
「待った?」
隣にコーヒーを持って座った総司に、千鶴はどぎまぎした。
ドトールは店が狭くて席も狭い。壁際のカウンターに座っていた千鶴の横に座ると、ガタイのいい総司とすごく近くになってしまう。
二人きりでこんなに近くにいるのは、クリスマスイブのデート以来だ。
総司は二人の距離が近いことに気づいているのかいないのか、千鶴の顔を覗き込む様に体をよせてくる。
なんだかこれまでと違うような気がする総司の様子に、千鶴は顔を赤らめた。
「どうしたの?」
「ま、待ってません。大丈夫です…!あっあの……!何を観ますか?あの……いまやってるのを……」
そう言いながら、千鶴がガサガサと雑誌の映画情報のページを開ける。総司はコーヒーを一口飲んでから興味なさそうに答えた。
「んー?なんでもいいよ」
「じゃあ、どんなのがいいですか?私はホラー以外なら……」
「別に映画を観るのが目的じゃないでしょ?千鶴ちゃんの好きなのでいいよ」
総司の言葉に、千鶴は首をかしげた。
「映画を観るのが目的じゃない……?」
総司は緑の瞳を悪戯っぽくきらめかせながらさらに千鶴に顔を寄せた。
「カップルが映画を観るなんて、暗闇でいちゃいちゃする目的以外ないじゃない」
零れ落ちるような総司のフェロモンに、千鶴はくらくらした。
今までの総司は、そういう雰囲気をだしていなくて……多分わざと出していなかったのだと思うけれども、そのおかげで千鶴は少しだけ安心できたのだが。
「い、いちゃいちゃ……」
千鶴は、後ろの壁にピタリとくっついて、迫ってくる総司から距離をとろうとする。総司はにっこりを微笑んだ。
「そう。僕の新年の抱負は『さくさくいこう』だからね」
「さ、さくさく?」
意味が分からず目を見開いた千鶴に、総司はさらに顔をよせて唇に軽くキスをした。
「!!!」
「こーゆーこと」
顔を真っ赤にして、慌てて回りを見渡している千鶴を楽しそうに見つめながら、総司は二人のカップを持って立ち上がった。
「行こうか?途中でお祭りを見て、映画館でいちゃいちゃしよう」
当然のように千鶴の手をとるそのやり方も、去年よりも少し強引で。
千鶴は総司のペースにすっかり巻き込まれて、茫然としたまま席を立ったのだった。






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