社員食堂3
クリスマスイブのデートの約束を取り付けた後、総司は無事出張先へと旅立った。
これから新年あけまで総司と会えないかと思うと、千鶴は日々の楽しみが減り毎日が色あせるような気がする。会社にくるのもなんだか少し億劫なような……
でもクリスマスイブに会える……♪
メールや電話ができたらいいのだろうが、千鶴にはまだ勇気がなくてできないでいた。総司からも何の連絡もない。
普通の彼氏彼女だと不安になるところだと思うが、千鶴は総司がメールや電話は用がないとしない、と言っていたことを知っているので、寂しいものの特に不安にはなっていなかった。
社員食堂に担当の女子同僚とともにお昼を食べに行くと、ちょうど左之が一人でお昼を食べていた。
近くに行くと、どうぞ、というように左之が椅子をひいてくれたので、女子同僚と一緒に千鶴は左之のいるテーブルに相席をする。
「総司からなんか連絡あったか?」
左之がA定食の鯖の塩焼きを食べながら千鶴に聞いた。
「いえ、特に何も……」
千鶴が答えると、左之は口をへの字に曲げる。
「まったくあいつは……もうちょっとマメに連絡するように言ってやらねーとな」
「別にそんな……。付き合えるようになっただけで十分幸せです」
そういう千鶴の表情が、頬を染めながらも本当に幸せそうなので、皆の間になんだか気恥ずかしいようなほのぼのとした空気が漂う。
初デートの時にパンプスを貸してくれた女友達が言う。
「クリスマスイブの日にデートはするんでしょ?」
千鶴は嬉しそうに頷く。もう一人の女の同僚が聞いた。
「クリスマスプレゼントはどうするの?」
その言葉を聞いた途端、千鶴の動きが止まった。目を見開いてみるみるうちに深刻な表情になっていく。
「ど、どうしよう……!考えていなかった……何がいいでしょうか?」
千鶴は困ったような泣きそうな顔でみんなを……特に左之を見た。
左之は目を瞬かせてご飯を一口口に入れて思う。
……何がいいってそりゃあ……
リボンつけて『私がプレゼント☆』が一番嬉しいだろ、普通。
付き合いだしたばっかで手つなぐのもドキドキしてるような進展具合の今なら、総司のやつ泣いて喜ぶんじゃねぇか?
つーか、そんなプレゼントなら俺も欲しいし。
そこまで考えて、すがる様な瞳でこちらを見ている千鶴と目があい、左之は頭を掻いた。
「あー……そうだな。まぁあいつが一番欲しがっているのはわかるんだけどよ……」
そうして、ちらりと仔犬のようないたいけな瞳の千鶴を見る。
「だめだ!俺にはそんな汚れたことは言えねぇっ……!」
頭を抱えている左之を、千が冷たい瞳で見て言った。
「……何やってるんだか……。まあ言いたいことはなんとなくわかりますけどね」
その後、千鶴は隣の女子同僚と別の事でおしゃべりしながら笑ってお昼を食べている。その反対側の机の端で、千が左之に囁いた。
「沖田さん、クリスマスイブの夜は出張先に戻るんですか?」
左之も囁き声で返す。
「そうらしいぜ」
「……」
なんで?と顔に書いてある千に、左之が言う。
「千鶴ちゃんがあんまり……慣れてなくて、手ぇだしにくいらしい。あと……千鶴ちゃんが昔無理矢理キスされてショックだったってのも関係してんのかもな。ゆっくりやらないと、みたいな?」
「え?なんであの子が昔無理矢理キスされたことを沖田さん知ってるんですか?」
「俺が話した」
途端に千から黒いオーラがもくもく湧き出る。
「っそんなこと言わなくていいんですよ!千鶴ちゃんは沖田さんが好きなんだから、無理やりキスされた人とは比べる意味がないじゃないですか!!」
「悪かったよ。まぁでもだから総司からは手を出しにくいと思うぜ」
左之の言葉に千は考え込んだ。
「……じゃあ千鶴ちゃんから?迫らないとだめってことですか?」
二人は顔を見合わせて想像した。
千鶴から……せまる?
『沖田さん、あの……プレゼントです』
『え?どれが?』
総司は何も持っていない千鶴の手を見て、不思議そうに彼女の顔を見た。
今日の彼女は、いつもと同じ黒いAラインのコートにベビーピンクのマフラー、そして首に赤いリボン……
リボン?
『これは?』
総司が聞くと、千鶴は真っ赤になる。
『プレゼントの……リボン、で…す……』
『……』
一瞬固まった総司だったがすぐに理解する。
『……そーゆー意味でいいんだよね?』
千鶴がコクンと頷くのを確認して、総司は千鶴の手をつかんで引っ張るようにして歩き出した。
『え?あの…?』
『帰ろ、早く。君んちがいい?僕んち?』
『あ、あの……夕ご飯は…?レストラン予約してたんじゃ……?』
『キャンセルでしょ、そんなのもちろん。家でゆっくり別な物を食べさせてもらうよ。あー!そのリボンほどくのが楽しみすぎて死にそう……いや、ほどかないほうがいいかな、全部脱いでそのリボンだけってのも燃えるよね…!』
『あっあの私初めてなんで、いきなりハードル高いプレイとかは……!』
『大丈夫だいじょーぶ!さ!早く!』
想像している左之の脇腹を、千が肘でつつく。
「何鼻の下のばしてるんですかっ」
我に返った左之が照れ臭そうに言った。
「いやぁ想像すると、こう……いろんなところがもぞもぞするなぁ」
にやけながら呑気にそんなことを言っている左之に、千は溜息をついたのだった。
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