クリスマスイブデート


千鶴は改札を出てすぐの、大きなクリスマスツリーの下に立っていた。
きつくなってきた冷え込みのせいで、手袋をしていてもかじかむ手をこすりあわせていると、後ろから総司の声がする。
「ごめん、待った?」
土曜日なのに出張先からこのためだけに来てくれた総司は、当然ながらスーツにコート姿だ。
「いいえ」
千鶴はにっこり笑って首を振る。
土曜日で年末でクリスマスイブ、と三拍子そろっているだけあって、街はすごい人ごみだった。人ごみではぐれないように自然と総司が手を差し出し、二人は手をつなぐ。
二人で歩いて予約している店へと向かう途中で、千鶴は、あの……ちょっとすいません、と言ってつないでいた手を離した。
大勢の人が行きかう歩道の端に移動して、総司が千鶴は何をするのか見る。彼女ははめていたやわらかいピンク色の手袋を外した。
「あ、あの……これで……」
千鶴は手袋をバックにしまい、素肌の手を総司の方に恥ずかしそうに差し出す。
黙って差し出された手を眺めている総司に、千鶴は、あの……?と不安そうに問いかけた。総司はその声で、千鶴の手から彼女の瞳へと視線を移す。
「……どうして手袋はずしたの?」
総司の問いかけに、千鶴は何かおかしかったかと頬を赤らめた。
「す、すいません……。手袋をしないで手をつなぎ……たくて……」


!ずきゅん!


……あれ、何今の音

総司は自分の胸の方から聞こえてきた音を下を向いて確かめる。が、当然ながら特に何もない。
「あの、変でしたか?手袋、はめた方がいいでしょうか……?」
「いや、変じゃないよ。っていうか嬉しいよ、そりゃ素肌の方がその……」
今度は総司の目じりがうっすらと赤くなった。
ごまかすように総司は無言で千鶴の素肌の手をとった。そして前つないだ時のように手のひら全体を握るのではなく、千鶴の華奢な指と指の間に自分の指を入れるつなぎ方をする。
千鶴は一瞬ビクンと体を震わせたが、なにも言わずにぎゅっと握り返してきた。

 うわ……何この心臓の音
 ちょードキドキするんですけど……

総司はそんなことは表情に出さずに、隣で赤くなっている千鶴をチラリとみる。
「「……」」
またもや沈黙して、二人は歩き出したのだった。



「……ありゃあ、男としたらかなりクるぜ」
二人の緊張している背中を見ながら、クリスマスツリーの後ろで左之が呟いた。
「女でもかなりキましたよ。ずきゅんずきゅんと」
千が答える。
「っつーか千鶴、無茶苦茶かわいくない?あんなこと好きな子にされたら俺ならぜってー鼻血吹く!」
平助が、関係ないのに頬を染めながら言った。
「なんだか心配になって見に来ちゃいましたけど……」
千が言うと、平助が続けた。
「クリスマスイブにこんなことしてる俺らってそーとー寂しくない?」
左之が言う。
「あいつらが無事店に入ったら、もういいんじゃねぇか?」
「そうですね」
千が総司と千鶴の後をつけながら微笑む。
「なんだか……もどかしいですけど、でも二人ともすごく幸せそうですもんね。余計なお世話だったかな」
「余計なお世話っつーか……もうすでに俺にとってはあいつらの行く末は娯楽だな」
左之が伸びをしながら笑った。雰囲気のいいレストランに入っていく二人を見ながら平助も頷く。
「なんか見てるとこっちがドキドキするっつーかさ。まぁその後は寂しくなるんだけど。ま、一君と新八さんが店とっといてくれるってゆーからさ、今からみんなでいこーぜ!」
大好きな子が幸せになって。それをみんなで喜んで。
こんなクリスマスイブもかなり楽しい。

千はそう思いながらにっこりと笑ったのだった。




ヨーロッパの田舎風な雰囲気の店内に、気取らない料理、気さくな店員……
千鶴と総司はクリスマスイブのディナーを楽しく食べていた。
食事の終わり、コーヒーと紅茶を飲んでいるときに、総司がカバンからスッと何かを差し出した。
つやつやした銀色の紙のA4用紙サイズくらいの大きさの箱だ。
「沖田さん、これ……?」
「クリスマスプレゼント。あけてみて」
千鶴は驚いた。わざわざ帰ってきてくれるのがクリスマスプレゼントだと思っていたのだ。それとは別にさらに何かプレゼントをもらえるなどとは思っても見なかった。
「あ、ありがとうございます」
嬉しさでかあぁっt頬が赤くなるのを、少し俯いて隠しながら千鶴は箱の持ち手の部分からそっとあけていく。
中にはきれいなレース模様のセロファンに包まれて……
「これは……お花?鉢植えですか?」
「うん。スノードロップっていうんだって。出張先の近くの花屋で見つけたんだ。なんだか千鶴ちゃんみたいだな〜って思って。花が好きだって言ってたしこの子も千鶴ちゃんちの子にしてあげてくれると嬉しいな」
繊細な花を指でそっとなぞっていた千鶴は、嬉しそうに総司を見る。
「はい!もちろんです。大事に育てます。すごい……!かわいい……お花の花びらの所に緑の模様があって……スカートみたい」
夢中になって花をみたり一緒に入っている育て方のワンペーパーを見ている千鶴を、総司は嬉しそうに眺めていた。
プレゼントは何がいいか散々悩んだのだが、やはりこれにしてよかった。彼女があの花を大事にしてくれていると、まるで自分を大事にしてくれているようでなんだかくすぐったくて心地いい。
しばらくあちこち鉢植えを確かめていた千鶴は、ハッと気が付いたようにカバンからこれまた可愛らしくラッピングされた小さなプレゼントをとりだした。
「あ、あの……私もプレゼントです」
「僕に?ホント?」
総司は嬉しそうに受け取った。
「何?」
ラッピングをとると四角く細長い箱が出てきた。蓋をあけると……
「ボールペン?」
千鶴が頷く。
「左之さんに聞いたら、沖田さんはよくボールペンを折っちゃうっておっしゃってたんで。すごく書き心地がいい上に軸がとっても強いのを選んだんです」
それは深い藍色で光沢があり、重さも適度でとても持ちやすそうだ。そういつもボキボキ追っているわけではない。折ったのはあれがはじめてだが……。それにいつも使っているボールペンは会社支給の安いものだが、さすがにこれは折ることはできないだろう。

 いや、千鶴ちゃんがキス以上のもっとひどいことされたとか聞いたら折るな

妙に確信を持ちつつ、総司は千鶴ににっこりとほほ笑んだ。
「ありがとう。大事にするよ」






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