クリスマスイブデート2
その後は、二人で巨大なクリスマスツリーと光を使ってビルの壁に様々な絵を映していくイルミネーションを見に行った。
クリスマスイブだけあってカップルや家族連れでかなり込み合っている。もちろん千鶴と総司は手をつないでいた。
帰りは千鶴が総司を駅まで送って行くといったのだが、総司は千鶴の家まで送って行くと言ってきかなかった。
「クリスマスイブだし寂しい男が発狂して襲ってくるかもしれないじゃない?」
そんなことはあるわけがないと思うものの、総司の思いやりが嬉しくて、千鶴は送ってもらうことにする。
総司はその後また新幹線の駅にまでもどり、新幹線で二時間……
仕事で疲れているのに申し訳ないと千鶴は思うが、でも会えて嬉しいのも本音だった。
地下鉄の駅まで二人で歩いているときに、千鶴はふと歩道脇にあるゲームセンターに目を止めた。
「何?ゲーセン?行きたいの?まだ時間あるし寄って行こうか?」
すぐに気が付いてそう言う総司に、千鶴は首を振った。
「いえ、違うんです。ゲームじゃなくて……その……」
千鶴が見ている物へ総司も視線を向けると、それは……
「プリクラ?」
「は、はい……あの、沖田さんの写真とかあると嬉しいなってふと思って」
「女の子は写真が好きだね〜。中学生とかじゃないんだし、携帯写メじゃだめなの?」
ああ!そうですね!と千鶴はぱっと顔を輝かせて総司を見た。総司は、そんなに写真が欲しかったのかと目をぱちくりさせる。
「じゃあ……あそこで撮ろうか」
ゲームセンターの隣には、大きなエントランスのあるファッションビルがたっており1階の広々とした広場にはクリスマスツリーと、それを囲む様に壁際にベンチが置かれていた。ベンチにはぽつりぽつりとカップルや高校生が座っているが、それほど混んではいない。
空いているベンチの近くで、じゃあ撮ろうか、と総司が言うと千鶴はバッグから携帯を取り出し、総司に向かって構える。
「……何してるの、千鶴ちゃん」
総司が呆れたように言うと、千鶴は真面目な顔で答えた。
「?沖田さんの写真を……。あの、こっち見て笑ってください」
「はぁ?ちょっとちょっと、何僕一人を撮ってるのさ。一緒に写るんでしょ?」
総司の言葉に千鶴は驚いたように目を見開く。
「ええ?私も一緒に入るんですか?いえ、あの……待ち受けにしたいんで、自分が写っているのは恥ずかしいです……」
「ええ!?待ち受けにするの!?僕の写真を!?そんなの僕のほうこそ恥ずかしいよ。千鶴ちゃん恥ずかしくないの?待ち受け画面って結構他の人に見えるじゃない」
唖然としながら言う総司に、千鶴は頬を少し染めて言う。
「恥ずかしくないです、全然。携帯見るたびに沖田さんを見れるなんて嬉しい方が大きいです」
「〜〜〜〜」
!もう〜!カンベンしてほんとに……
そんな可愛い顔で、本人に向かってのろけられて、僕いったいどう反応すればいいのさ…
ガシガシと頭を掻きむしり、総司は心を落ち着けるために深呼吸をする。
「よし、じゃあもちろん僕にも撮らせてくれるんだよね?千鶴ちゃんの写メ」
「ええ?私のですか?そんなの欲しいんですか?」
驚く千鶴に、総司は内心考える。
写真が欲しいか……。これまで総司は写真にあまり興味がなく、撮っても見ることもなく保存もいいかげんだったのだが……しかし自分でも恐ろしいことに千鶴の写真が携帯に入っている、というのはちょっと嬉しいと思ってしまった。
我ながらキモいとは思うが、さすがに待ち受けにはできないけれども、誰もいないところでこっそり彼女の写真を見られたら、かなり……なごむのではないだろうか。
総司は真顔で千鶴を見た。
「うん、欲しい」
「ええ〜!そ、それは……困ります。恥ずかしいですっ」
「それなら僕だって一緒だよ。ばっちりカメラ目線の僕の写真が千鶴ちゃんの待ち受けになっててさ、それを左之さんとか平助に見られた日には……。誰かほかの人に見られるってことじゃなくても、千鶴ちゃん今頃携帯待ち受け見てるのかな〜とか思ったらもう……なんかほんとに謝りたくなるよ、全身で」
「??謝るって誰にですか?」
「いや、僕にもわかんないけど、ホントごめんなさい許してくださいって言いたくなるくらい恥ずかしいってこと。だからさ、二人で撮ろうよ。それならまだバカップルレベルだと思うんだよね」
「そう……でしょうか……」
半信半疑の千鶴を説得して総司は一緒にベンチに座り、千鶴の携帯をインカメラにする。変な顔だといやなので何枚か撮ってくださいねっという千鶴と一緒に、腕の長さの分だけ離した携帯の画面を覗き込み、総司はパシャパシャと5枚くらい連続で写真を撮った。
確認のため、総司がデータファイルを見ようとすると、千鶴が慌てて取り上げる。
「ちょっちょっと待ってください……!私が最初に見て選びます。変なのは消しちゃうので……!」
別に変顔だってかわいいからいいのに、と総司は思ったが、千鶴が必死なので特に止めずに携帯を取られるままにして、隣で一緒に画面を覗き込んだ。
その時ふっと……いい匂い……千鶴の匂いがした。
シャンプーの匂いなのか香水か何かをつけているのか……いや、そういう人工的な匂いではなく、甘く暖かく……優しい匂い。
一緒に一つの携帯を覗き込んでいるため、千鶴の顔が総司のすぐそばにある。髪が総司の頬にふれ、体温すらつたわってきそうな距離。
ああ、すっごいドキドキするんですけど…
ちょっと近すぎたかな……
総司は動揺し離れた方がいいか千鶴の表情をうかがおうとして、気づく。
千鶴は総司の近さに全然関心をはらっていなかった。
「これも変、こっちも……半目になっちゃってる……でも沖田さんの表情はこれが一番素敵なんだけどな……やっぱりこっちの方がいいかな……」
ぶつぶつと呟きながら写真の総司には見惚れているが、今すぐ隣にいる本物の総司には全く無関心だ。
ライバルは自分なのだが、総司は内心ムッとした。
「……千鶴ちゃん」
わざと低い声で耳元で呼ぶ。千鶴は、ひゃっと小さい声を上げて振り向き、あまりの総司の近さに驚いたように後ろに少しのけぞろうとした。
が、総司は千鶴が身を引く隙を与えずに、さっと唇をよせる。
ちゅっとリップ音がしそうなくらい、軽いキスだった。
総司は唇を離し、目を真ん丸に見開いている千鶴を見る。自分の唇に、先程触れた彼女の唇の柔らかい感触が残っていて、総司は唇を舐めそうになるのを我慢した。
もう一度触れたくて思わず千鶴の唇にやってしまう視線を、必死に彼女の瞳に戻してみると、彼女は口をポカンとあけていた。
頭が真っ白になっているのが丸わかりの千鶴の表情に、総司は内心吹き出しそうになるが、何とかこらえて真顔で言う。
「……ごめん、不意打ちだったね。手をつなぐときだけじゃなくて、キスの時もちゃんと聞かないとね」
総司の言葉は、千鶴の右の耳から左の耳へとスルーしているのがよくわかる。けれども総司は気にせずに続けた。
「千鶴ちゃんにキスしたい。してもいい?」
これが限界だと思っていた千鶴の瞳は、更に大きく見開かれた。
それと同時に一気に顔が真っ赤になる。
「あっあああああのっあのっ、どっどどどどどどどうして……あのあの、ええっ!?」
「キスしてもいーですか」
千鶴の動揺ぶりが面白くて、総司はついからかうように言った。
「だっダメです……!」
「え?」
意外にもきっぱりした拒否に、もうすっかり第二回目を頂こうと思っていた総司は前につんのめった。千鶴は真っ赤になってあわあわしながらも言う。
「こんな、ひっひひひ人がたくさんいるところで…そういうのは、だっだダメですっ」
ああ、なるほど、と総司はがっかりしながらも内心うなずいた。
恥ずかしがり屋の千鶴だから、そういう返事は当然かもしれない。
真っ赤になって、拒否したことで総司の機嫌が悪くならないかびくびくしながらも、きっぱりと自分の意見を言う千鶴に、総司は好感を持つ。
左之さんから聞いた、無理やりキスされた嫌な思い出を思い出さないでいてくれただけでも収穫かな。今後もキスしても大丈夫ってことだしね。
「そっか、千鶴ちゃんは真面目だし恥ずかしがりだしね。じゃあ写真、僕の携帯にも頂戴」
意外にもあっさりとひいた総司に、千鶴はすこし拍子抜けしたような顔をした。
千鶴はちょっとぼんやりして、そしてすぐにハッとして、「メールで添付しますっ」と言って厳選した二人のベストショットをメールで総司へと送ったのだった。
「このマンションだっけ?」
以前も送ってきたことのあるマンションの前で、総司は立ち止まった。
「はい。ありがとうございました。これからまだ出張先に帰らないと行けなくて、明日も仕事なのに家まで送ってもらっちゃって……」
「気にしなくていいって前も言ったでしょ?今日は僕が千鶴ちゃんに会いたくて勝手に来たんだし、送るのだってその方が僕が安心するから送っただけだし」
嬉しそうにはにかむ千鶴を薄暗がりの中で見て、総司も知らず知らずのうちに笑顔になる。
「じゃあね。しばらく会えないけど……年明けには会社に戻るから」
「はい。待ってます。がんばってください」
にっこりとほほ笑んで、じゃあね、と言って踵を返した総司を、千鶴は呼び止めた。
「おっおおおおおお沖田さんっ」
総司が振り向くと、千鶴が例のごとく真っ赤になってイヤに真剣な顔をしている。
どうしたの……?と総司が聞こうとしたとき、千鶴が思い切ったように言った。
「ここなら大丈夫です」
思い切って言ったのだろう、ぷはーっと息を吐いている千鶴を、総司は不思議そうに見た。
「何が?」
思っても見なかった返しだったようで、千鶴は視線をあちこちへ彷徨わせる。
暫くそうした後、千鶴はあきらめたように溜息をついて肩を落とした。
「いえ、なんでも……」
その彼女の様子に、総司はピンときた。
胸の奥からピンクの泡がぷくぷくと噴出してくるような浮き立つ気分になる。
自然とにんまりとしたほほえみが唇にうかぶのを意識しながら、大股でまた彼女の傍へ戻り、視線をあわせる。
「何が?」
総司がわざと言わせようとしていることに千鶴は気が付き、困ったようにさらに赤くなった。
「……なんでもないです……」
「なんでもなくないでしょ?わざわざ呼び止めてさ。ここなら何が大丈夫なの?」
「……」
俯いてしまった千鶴の顎に指をかけて、総司はゆっくり顔を寄せる。そしてもう一度囁いた。
「ほら、言ってみて……」
間近で覗き込んでくる総司のきれいな緑色の瞳に、千鶴は催眠術をかけられたようになる。
そしてぼんやりとつぶやいた。
「キス…しても……大丈……」
千鶴の言葉の途中で、総司の唇が柔らかく重なる。
感触を確かめるように、総司は優しく何度も唇を合わせた。千鶴の甘い匂いが総司を包む。
思わず切れそうになる理性をなんとか繋ぎ止めて、総司は軽いキスだけで唇を離した。ふと視界に入った千鶴の手が震えているのに気が付き、総司は手を伸ばして握る。
「……大丈夫だった?」
キスの後の台詞にしては変ではある。が、総司がそう聞くと、千鶴は真面目に頷いた。
その真剣な瞳や、染まった頬、潤んだ瞳、すべてが耐えようもなく魅力的で、総司はまた唇を寄せたくなる衝動にかられる。
しかし無理矢理奪われたキスなど回数にはいらないし、そうなると今のが千鶴にとってのファーストキスなわけで、いきなりいろいろ……まあ具体的にはディープキスだが……は止めておいた方がイイだろう。もう一度キスをしたら、多分我慢できないだろうという自覚はあった。
そうして総司はお行儀よく、手をつないだまま千鶴が落ち着くのを待っていたのだった。
帰りの新幹線の中は、意外にもすいていた。
しかしよく考えると当然かもしれない。平日ならともかく土曜日のクリスマスイブの終電の新幹線に乗る人間は少ないだろう。
総司は席に座りながら携帯メールを打っていた。
打ち終わるとしばらく画面を見ながら考える。
かなり長い間考えた後、総司は思い切ったように送信ボタンを押した。
一方そのころの千鶴の部屋……
デートとキスの余韻で、千鶴はぼんやりしながらお風呂に入り、ぼんやりしながらドライヤーで髪を乾かす。
ドライヤーが終わると携帯がチカチカと点滅しているの気が付いた。ドライヤーの音で気が付かなかったが、あの色はメールだ。
特に何も考えずにメールボックスをあけた千鶴は、受信メールを見て目を見開いた。
驚きと嬉しさのあまり頬が熱くなる。
それは総司からのメールで、本文にはたった一言、『おやすみ』と書いてあったのだった。
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