社員食堂2


「あれ」
「お?」
込み合った社員食堂で、お盆を持って席を探していた左之と総司は、椅子に座っている千と目があった。ちょうど千達第二担当の女子4人の席の隣が二つ空いている。
「あいてるか?」
左之の言葉に千はうなずいて言った。
「どうぞ。たまたま千鶴ちゃんの横があいてるし」
「おっラッキーだな!ほら総司!」
総司は左之を睨みつつ、皆の視線を痛いほど感じながら千鶴の横に座った。少し椅子をずらしてスペースを開けてくれる千鶴に「ありがと」と小さい声で言うと、千鶴は頬を染めながらも嬉しそうに微笑んだ。
その微笑に、周囲を妙に意識していた総司も笑顔になる。
そして千鶴の食べている物を覗き込んだ。
「弁当?給料日過ぎたばっかりなのに?」
頷く千鶴に、総司は自分のカレーライスを一口食べてからかうように言った。
「どうしたの?また誰かにステーキをおごった?」
千鶴がむぅっと頬を膨らませるのを見て、総司は声を出して笑った。千鶴は総司を軽く睨みながら言う。
「慣れると……夕飯の残りを余らせないで済むのでお弁当の方が楽かなって思って。時々お弁当にすることにしたんです」
「そうなんだ?」
「そうなんです」
ぷいっと視線をそらせてお弁当の煮物をつまんだ千鶴を、総司はニヤニヤしながら見ていた。
朱塗りのつやつやした弁当箱にきれいにおかずが詰められている。
総司の視線は、その弁当箱に添えられた千鶴の細い指先に移った。ピンク色に塗られ何かレースのような模様がつけられている爪。白く華奢な手。

仕草が優しい。弁当箱の蓋を総司の邪魔にならないように反対側に移しただけなのに、何故か見入ってしまう。
総司は軽く瞬きをすると、目の前にある自分のカレーライスに視線を戻して一口食べた。
目の前で千としゃべっている左之を見て、会話に入ろうかとも思うが、どうしても視線が千鶴に行く。
千鶴は反対側に座っている同僚の女の子と何かをしゃべって笑っていた。
総司は千鶴の首元に、前に一緒にスペイン料理を食べに行ったときにしていたピンク色の石のネックレスが光っているのに気が付いた。

あの石は……冷たそうだけど、千鶴ちゃんは冷たくないのかな。それとも体温で石が温まって気にならなくなるのか……

そんな取り留めもないことを考えいてると、視線に気づいた千鶴が総司を見た。
「沖田さん?どうかしましたか?」
「ん?ああ……その石…きれいだね」
思いもしなかった総司の言葉に千鶴は目を瞬いた。
そして自分のネックレスの事かと総司の視線から気づいて胸元の石をそっと触る。
それを見て総司はなぜかドキリとした。
そして気づく。

 そうか。僕は触りたかったんだ……

彼女の胸元で揺れているつやつやとした石。彼女の体温が伝わり暖かくなっているのか、冷たいままで彼女の肌に触れているのか。あの石の滑らかさは彼女の肌と同じなのか……

胸元の石を見るために視線を下げた千鶴の顔を、総司は見つめる。

真っ黒で幾重にも重なった長い睫が彼女の白い頬に影を落とす。皮膚の薄い瞼の透明な白さがきれいだ。
柔らかく動いて頬を覆う黒い髪。きれいな鎖骨のラインが、見つめるのをためらわせるほど色っぽい。そして胸元の石を愛撫するように撫でる千鶴の指……

彼女のきれいなところを見つけるたびに、僕の鼓動が早くなる。
それはまるで、世界に初めて光がさした瞬間のようで……

ぼんやりしていた総司は、にやにやしながら自分を見ている左之に気が付き、ハッとした。
左之の隣の千も、視線は外しているものの総司の様子に気が付いていたようでニヤニヤしている顔が斜め横から見える。

「これはローズクォーツっていう石で……」
唯一何も気づかず千鶴だけがネックレスの石の説明を、総司に嬉しそうにしていた。
総司は、自分のカレーのスプーンをとると、左之をじろりと見てから一口食べ千鶴の言葉に返事をするのだった。









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