応援団 2



喫茶室で座った三人は、早速紙パックジュースを飲みながら情報共有をする。
「で、金曜日の残業中に千鶴ちゃんにメールを打ったあと総司はそそくさと帰ってったってワケだよ」
左之の情報に、平助は呆れたように言う。
「なんだよ。だからあの時呼び捨てだの飲み会に二人で行ったのかだの、総司の奴俺に絡んできたワケ?で、つきあいだしたの?」
「いや、それは知らねぇんだよ。総司は今朝は別にいつもと普通だったんだけどよ。でもさっきの千鶴ちゃんの反応。ありゃー間違いなく総司の奴いろいろおいしくいただいたんじゃねーの?」
左之はそう言うと、千を見た。千は腕を組んで頷く。
「なるほど。沖田さんからのメールがきたのね。だから千鶴ちゃんは担当飲み会を途中で抜けて沖田さんと会ってたのか……」
そう言い、そのあと例の既婚者が携帯で沖田と話した、という内容を平助と左之に伝えた。
「マージーでっ!じゃああいつらつきあいだしたんかぁ!」
「ようやくかよ。ったく!総司のやつ手間かけさせやがって」
よかったよかったと笑い合っている平助と左之とは対照的に、千は複雑な顔をしている。

「今朝ね。千鶴が出社した時、同じ担当の女の子たちと千鶴を質問攻めにしたのよ……」


------女子休憩室午前8時45分

「で!?あの後二人でどーしたのっっ!?」
つめよる同僚4人に、千鶴は頬をぼっと染めた。
「お、沖田さんね、家まで送ってくれて……」
きゃー!!!という黄色い悲鳴が女子休憩室に響いた。
「いいのよ!そんなプライバシーにかかわることまで言わなくて!」
「でも聞きたい!」
「沖田さんどんなだった!?」
口ぐちに問いかけられる弾丸のような質問に千鶴は律儀に答える。
「て、手を……」
口ごもる千鶴に、千がかぶせた。
「だっだされちゃったのね!!私たちの千鶴ちゃんがぁ!でもいいわっ千鶴ちゃんが幸せなら……」
「手をつないじゃった……っ」

へ?

という顔をしている同僚4人には気づかず千鶴は恥ずかしそうに続けた。
「あんまりお話はできなかったんだけど……でもちゃんと家まで送ってくれたよ」
「……え?そうなの?」
「まぁ、そりゃ最初からは…ねぇ?」
「じゃあ週末会ったりしたんだ?」
首を振る千鶴に、同僚たちはさらに聞く。
「メールは?」「電話は?」
どちらも首を振る千鶴に、千が恐る恐る尋ねた。
「……つきあうことになったのよね?」
「……携帯電話で沖田さんそうやって言ってたけど、それについてはその後話さなかったの」
千鶴がそう言うと、同僚4人は顔を見合わせる。
「え?じゃあ何の話をしてたの?」
「何も」
「無言?」
頷く千鶴に同僚たちは黙り込んだ。





「???なんじゃそりゃ?意味わかんね」
クエスチョンマークを顔に張り付けて、平助が頭を掻いた。左之が考えるように視線を彷徨わせてから言う。
「でもよ、さっきのあの二人の反応からすれば、つきあってんだろ。ぴっくりするくらい進展がないっていうだけでよ」
「そ、そうよね?千鶴ちゃんはもう……すっかり夢の中で舞い上がってるから、もし沖田さんがそのつもりじゃないんだったらどうしようかと……」
心配そうな千に、左之は笑いながら言った。
「『そのつもりじゃない』はねーよ、確実に。総司のやつ自分で気づいてない……というか認めてないだけで、相当千鶴ちゃんにまいってるぜ」
千はほっとしたように笑うと、手を付けていなかったミルクココアの紙パックに、ブスリとストローを差し込んだ。
「そうなの?ほんとにとっととくっつけばいいのに……ってもうくっついたのか。その割にはなんというか……こう……イライラするのよね、見てると」
平助はニヤニヤしながらカルビスを飲む。
「おれはニヤニヤするけどなー。あの総司がさー。無言で手をつないで彼女の家まで送るだけって……ウケル」
左之もニヤニヤしながら言う。
「そうだよなぁ。高校生かよってかんじだよな」
ニヤニヤしている男二人に、千が聞いた。
「え?沖田さんってつきあったことあるの?」
「この年ならそりゃあるさ」
左之が当然のように肯定した。平助も頷く。
「この会社に来てからは彼女いねーけど。あいつ何人かとはつきあってるぜ。片手で十分くらいだろうけどさ」
「そうなの!?」
千の驚き様に、平助は逆に不思議そうに聞いた。
「なんで?女嫌いとか噂でもあんの?」
「そういうわけじゃないけど……いろんな誘いを惜しげもなく断ってるっていうから、決まった彼女がいるのか女性に興味がないのか……ってみんな思ってたから」
「あいつはなー……」
左之はそう言うと長い脚を組んで背筋をぐっと伸ばすと、頭をかいた。
「彼女がいても、もって三か月なんだよ。いっつも『私と仕事どっちが大事なの!?』っていうお約束パターンでめんどくさくなっておしまい」
左之が言うと平助もうなずいた。
「がつがつしてないように見えるからさ、するーっと手をだしてするーっとくっついてるんだよな、あいつ。くそ!うらやましい!」
「そうなんだ……」
途方に暮れたような千の様子に、左之が「どうした?」と聞く。
「千鶴は……女子高、短大で女子ばっかでね。彼氏できたことないのよ。で、あの子かわいいし押しに弱そうだし隙あるし……で短大の時コンパで無理矢理キスされてね、かなりショックうけてて……。今はもう全然大丈夫なんだけど、だけど……。あの子のペースにあわせてくれるような優しい男の人がいいなぁって、私が勝手に思ってたんだけどね……」
「……」

前途多難なカップルに、応援団は溜息をついた。













BACK  NEXT


戻る