買い出し 1




「で?」
腕組みをして総司が言う。左之が腰に手をあてて答えた。
「だからお前が行ってきてくれって」
左之はそう言って自分の後ろにいる千鶴を前へと押し出す。

「第二担当の鈴鹿は、急な打ち合わせでいけなくなっちまって代打が千鶴ちゃんなんだとさ。ビンゴの景品はもう鈴鹿とリスト作ってあるからあとは買ってきてくれりゃあいいからよ」
そう言って左之はリストを総司に渡した。総司は受け取りながらも疑わしそうな視線を左之に送る。
「……なんかすごく陰謀くさいのは気のせいですか」
左之は余裕で総司のじと目を交わして背伸びをしながら楽しそうに笑った。
「まぁまぁ。誰かが行かなきゃいけねーのは確かなんだしよ。同じアホなら踊らにゃ損損♪」
そして総司の肩を抱いて千鶴に聞こえないようにこそっと囁く。
「東急ハンズの裏に寄って帰ってきてもいーんだぜ」
東急ハンズの裏は飲み屋街で、さらにその奥にはラブホテルが立ち並んでいる。総司は無言のまま左之の足を思い切り踏みつけて、椅子の背にかかっていたコートを手に取った。
「じゃ、行ってきます。すぐ帰ってきますから」
痛みをこらえてうずくまっている左之は、無言のまま手を挙げて答えた。

真っ黒なAラインのコートにベビーピンクのマフラーをした千鶴は、正直言って可愛かった。
東急ハンズまでの道は、オフィス街の真ん中にある大きな公園を突っ切っていくと近いため、二人は人影まばらな午後の公園を並んで歩いていく。
総司は隣を歩きながらコートのポケットに両手をいれる。いつもなら何も考えなくても適当な話題がでてくるのだが、何故か頭が真っ白で総司は少し焦りながら何を話そうか考えながら歩いていた。

つきあうことに(多分)なってから、そういう事に関して……今後の方針とか?…について話し合ったことはなかった。普通ならデートに誘って彼氏彼女でしかしないようなことを段階を踏んでしていって、正式な言葉がなくてもそういう関係になっていたのだが、どうも千鶴との関係はいつもの調子がでない。
まず仕事で大きな案件が決まった直後で無茶苦茶忙しい。から、デートにほぼ誘えない。そして彼氏彼女でしかしないようなスキンシップをとろうとしても……
そこまで考えていた時、きゃっ!と小さな声がして千鶴がつまずいた。
「大丈夫?」
とっさに総司が腕を伸ばして千鶴を抱きかかるようにして支えた。千鶴の驚いたような顔が至近距離にある。
一瞬二人は見つめあった。
彼女の大きな黒い瞳を総司は魅入られたように覗き込む。
彼女の柔らかそうなピンクの唇に、総司が視線を落とすと……

ぽぽぽ〜

みるみるうちに千鶴の頬がピンク色に染まって行った。
「あ、ごめん」
なんだかとんでもないスケベなことをやろうとしていたような気がして、総司はぱっと千鶴の腕から手をはずし、体も離した。
「いえっ…!あ、ありがとうございました……」
千鶴はさらに赤くなりながら俯いて、恥ずかしそうに礼を言う。

 イヤっていうかんじではなさそうなんだけどねぇ…

再び歩き出して、総司は心の中で溜息をついた。
どうも手を出しにくい。総司は隣の千鶴をチラリと見た。

千鶴は落ち着こうとしているのか、顔を真っ赤にしたまま何度もこっそり深呼吸をしている。髪の間からちらちら見える赤く染まった耳たぶがかわいい。横から見ると睫の長さが際立って、きれいだった。

 きれいな彼女が欲しくて
 でもきれいなままでもいて欲しくて

公園の木々の間からの木漏れ日が、彼女だけを照らしているようで美しい。

ぼんやりとしていた総司は、はっとして今度は自分に溜息をついた。

 まただ。なんなんだこの……ポエムは。このせいで調子がでないんだよね……
 ポエマーになってないでとっととやりたいことのあれやこれやをしちゃえばいいんだけど。



公園を抜けて繁華街を歩いていると、総司の会社用の携帯がなった。会社からの仕事の問い合わせで、総司は千鶴に目線であやまると立ち止まって携帯電話で話し始めた。千鶴は総司の電話が終わるのを待つ間、ちょうど近くにあった花屋を覗いている。
電話が終わった総司が千鶴の所にもどると、千鶴は花屋の店の人と何かを話している途中だった。
「千鶴ちゃんごめん。お待たせ」
総司が声をかけると、千鶴はお店の人に何事か礼を言い総司のもとへ駆け寄る。
「大丈夫だった?話の途中じゃなかったの?」
総司が花屋の店員さんを指差しながら言うと、千鶴はうなずいた。
「ワイヤープランツっていう観葉植物について聞いてたんです。私の会社の机にも小さいのがいるんですけど、ひょろひょろ伸びるだけで細くって……。あそこのお店にあるのがつんつん元気だったんで相談していたんです。やっぱりお日様みたいですね。会社においておくと日にはあててあげられないんで……」
「給湯室は?窓があるよね」
「ああ、そうですね、そういえば。あそこの冷蔵庫の上に昼の間はおかせてもらおうかな……」
真剣に考えている千鶴に総司は聞いた。
「観葉植物が好きなの?」
千鶴はなんだか改まったような総司の質問に、彼を見上げた。
「…はい。観葉植物っていうか……お花とかも好きです。沖田さんは好きですか?」
思っても見なかった質問に総司は目を瞬く。
「え?花?……うーん……好きとか嫌いとか考えたこともなかったなぁ」
「そうなんですか……。家の近所に花屋さんをやっている人がいて、もう売り物にはならないんだけどまだ咲いてるお花とかを時々くれるんです。それでいろんな花の名前とか育て方とかを知っていくと楽しくなっちゃって……」
両手の指先を揃えて口元にあて、幸せそうに話している千鶴を見て、総司もなんだかほのぼのと心が温かくなるのを感じた。

あれやこれや彼女としたいことはいっぱいあるけれど。
彼女がこんな風に楽しそうにしているのを見るのが……好きだ。

総司はまたポエムっている自分には気づかず、幸せそうに微笑んだのだった。










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