買い出し 2
総司が籠を持ち千鶴がリストを見ながら商品を入れていく。
平日昼間だったが年末が近いせいか、店は結構混んでいた。
千鶴がリストを見ながら歩いていると、突然総司に肩を抱かれて引き寄せられた。
えっ…!
千鶴がびっくりして見上げると目のすぐ前に総司のネクタイ(今日は濃いブルーのストライブだった)の結び目とすっきりした顎のラインがある。ふわっと何かいい匂いが……洗剤の匂いだろうか…が千鶴の鼻をくすぐる。
「ほら、ぶつかるよ。ちゃんと前見て歩きなよ」
総司はドキドキしている千鶴の顔など見ずに、狭い通路なのにこちらに向かって突進してきた中年の男性を睨む様にして見ていた。千鶴の肩をさらに引寄せて男性の通るスペースをあけてやりすごず。男性が通り過ぎると当然のことながら、千鶴の肩からはぱっと総司の手は離された。
おっおっきい手……それに…沖田さんって大きいんだな……
抱き寄せられたときに、千鶴の肩幅も目線もすべて総司にすっぽりと埋まってしまっていた。なんだか守られているようで安心するその感覚が初めてで、千鶴はドキドキしてまた顔が熱くなるのを感じる。
この赤面症は小さなころからで、色が白いせいで余計に目立つ。自分の心を隠せないこの垢抜けない癖が千鶴は嫌だった。が、どうしようもない。せめてもの思いで総司からは見えないように俯いた。
「す、すいません。ありがとうございました…」
呟くようにそう言って、雰囲気をごまかすようにリストにもう一度目をやり、千鶴は商品をとろうと棚に手を伸ばした。指示されている購入商品は「ディモイスチャーナノケア」、卓上美顔器だ。ピンクとゴールドとどっちがいいか千鶴が迷っていると総司が聞いた。
「これって机の上に置いてる子いるよね。何の機械なの?超音波だすとか?」
総司の言葉に千鶴は吹き出した。
「違います。これはあの……なんでしょう?よくわからないんですけどお肌がすべすべになるんです。私も欲しくて……。ビンゴであたってほしいです。ピンク色とゴールドとどっちがいいと思いますか?」
「心の底からどっちでもいい。っていうか営業部ってさ男の方が圧倒的に多いよね?男に当たったらどうするのかな」
「それは……自分で使われてもいいですし、奥さんとか彼女とかに差し上げたり……?」
総司はその丸っこい機械を持ち上げて後ろをみたり下を覗き込んだりしながら言った。
「じゃあ僕があてたら千鶴ちゃん行きだね」
「……」
そ、それはどういう……あの、彼女っていう意味でいいんでしょうか。それとも私が『欲しい』って言ったから……?
はてなマークが脳内一杯にあふれている状態で、千鶴はゴールドの方を取ろうかと手を伸ばした。すると、総司が不意に言う。
「……きれいだね」
「え?」
やっぱりゴールドでよかったかと思い、千鶴は総司を見上げた。
「爪。自分でやるの?」
「ああ……」
千鶴は総司の言葉の意味に気が付いて、ピンク色のジェルネイルが塗られた爪を見た。
「千ちゃんと一緒にやってきたんです」
総司が千鶴の手をとり、自分の目の近くまで持ち上げてまじまじと見る。
「この模様はどうやるの?」
斜めに入っているレースの模様について総司が聞く。
「シールみたいなのを貼っていたと思います」
「これってあれだよね、米粒に絵とか字を書く職人っているじゃない?あんな感じだよね」
「え……そ…、そう…でしょうか…?」
千鶴は首をかしげていたが、総司が爪を見るためにとっていた千鶴の手を上から握りなおしたのに気が付いて、目を見開いた。
総司は千鶴の手を握ったまま手を下げて、ゴールドの方の卓上美顔器の箱を反対の手で持ち上げて、床に置いていた籠にいれた。
「これで最後?」
「は、はい」
じゃあレジに行こうか、と言って総司はその状態で自然に手をつないだまま通路を歩き出す。
「……」
千鶴はまたもや自分の頬と耳が熱くなるのを感じた。そっと握られた手に、汗がにじむのもきまりが悪い。
こういうことに慣れていない自分が恥ずかしくて千鶴はうつむいた。
「……わざとじゃないからね」
歩きながら総司が言う。何のことかと千鶴がまだ赤いままの顔をあげると、総司も何か少し照れたような顔をしながら続けた。
「ほら飲み屋でおじさんとかがさ、女の子の手を触りたいから『手相みてあげる』とかやるじゃない。そうじゃなくて……爪はほんとにきれいだなって思ったから。別につなぎたかったらそう言うし」
そう言うと総司は手をつないだまま立ち止まった。
「手をつないでもいい?」
真っ直ぐに瞳を見つめてそう問われて、千鶴はさらに赤くなっていく自分の顔を意識した。血が上りすぎてなんだか視界まで赤くなっているような気がする。
「は、はい…」
言葉と同時にこくこくと何度も頷く千鶴を見て、総司はにっこりと微笑むと、また手をつないだまま歩き出したのだった。
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