メール 



夜8時。残業していた左之は同じく隣で仕事をしている総司に話しかけた。
「おしっと。これで終り!お前はできたか?飲み行くぞ!」
「ん〜あとちょっと……」
パソコンに向かいながら集中している総司は上の空で返事をする。

「ちーっっす!」
その時明るい声がして、サービス部の藤堂平助がやってきた。
「仕事終わった?新八さん、一君ともう先に飲んでるってよ。早く行こうぜ!」
振り向きもしない総司の代わりに左之が言う。
「あとちょっとだってよ。悪いな」
「いーよ別に。新八さんにメールしとく」
そう言ってポチポチとメールを打っている平助を、総司はキーボードをたたく手を止めて見上げた。
「……なんだよ?総司。早く仕事しろよ」
メールを打ち終わった平助が言う。
「……平助、メール使ってるんだね。新八さんも」

「はぁ?」
意味不明の総司の言葉に、左之も頭をかしげた。
「お前だってメールあんだろ?この前千鶴ちゃんとメアド交換したって言ってたじゃねーか?」
左之がそう言うと平助が驚いて声をあげた。
「ええっ!千鶴と?総司が?なんで?」
「なんでってそりゃお前……」
左之がどう説明しようかと口ごもっていると総司が緑の瞳を細めて平助を見た。
「なんで平助、呼び捨てなの?」
「へ?総司のこと?」
「違うよ。千鶴ちゃんのこと」
「千鶴?」
思いもしなかったつっこみに、平助は驚いた。
「なんでって……前一緒に組んで仕事したことあるし、飲みにも行ったことあるぜ?」
総司は眉をしかめた。
「二人で?」
「いや、二人きりではねーけど……」
平助は戸惑い、どうしちゃったの総司?という顔で左之を見た。左之はにやにや笑いながら二人の会話を聞いている。
総司は不機嫌そうな顔のまま、またパソコンに向かった。
「……何あれ?」
平助がこそこそと左之に聞く。左之は肩をすくめて答えた。
「ま、そーゆー時期なんだろ。そっとしといてやれよ」


三人で遅れて居酒屋へと向かう途中、左之が総司に聞いた。
「んで、さっきの話し。千鶴ちゃんとはメールしてんのか?」
薄手のコートのポケットに手をつっこんだまま総司は答える。
「してないですよ。別に話すこともないですし」
「……じゃ、なんでメアド交換したんだよ?」
平助が聞くと、総司はサラッと答えた。
「聞かれたから」
「おまえなぁ、女からメアド聞くって結構な勇気がいるもんだぜ?メアドをわざわざ聞く理由くらいわかんだろ?自分のメールアドレスを教えてやるくらいその気があんなら、せめてお前からメールしてやれよ」
総司は立ち止まって不思議そうに左之を見る。
「『メアドをわざわざ聞く理由』?」
そうつぶやいてしばらく沈黙して考える。そして左之を見て驚いたように言った。
「……千鶴ちゃん…もしかして僕の事好きなんですか?」
左之と平助は呆れて顔を見合わせた。
「好きかどうかは知らねーけどよ。お前ともっと仲良くなりたいって思ってなきゃメアドなんて聞かねーだろ?」
平助の言葉に、しかし総司は納得しかねる、という表情だった。
「僕と仲良くなりたいんなら、なんであんな既婚者と楽しそうに話したり、平助に名前を呼び捨てで呼ばせてるワケ?左之さんとだって仲いいですよね?」
「あの既婚者だって俺とだって平助とだって、別に仲いいっていうほどじゃねぇぜ。普通に同じ会社の社員ならあれぐらいしゃべるだろ?」
「でもすごく嬉しそうに話してましたよ」

それはお前がやきもち焼いてるからそう見えるだけなんじゃねーの……

と、左之も平助も思ったが、賢明にも口にしなかった。
「ま、その辺の真偽も含めて、メールして仲良くなったら聞いてみちゃどうだ?」
左之がそう言うと、総司はポケットから携帯を取り出して肩をすくめた。
「メールするっていっても……何をメールすればいいんですか?だって特に要件もないですし」
平助が、うーん、と考えながら言う。
「俺もあんまメールしねえからなぁ。左之さんは?いろいろやってんだろ?」
左之は平助を軽くこずいた。
「なんだよいろいろって。でもそうだな……たいしたことじゃなくていいんだよ。例えば俺なら……夜寝る前に『オヤスミ。お前の夢がみれたらいいな』とかだな〜、朝に、お早う。今日もお前に会えると思うと元気がでるよ、とかでもいいな。とにかくお前のことを考えてるぜ、っていうこっちの姿勢がつたわりゃあいいんだよ……ってあれ?お前たち何固まってんだよ」
カチンコチニンに固まって立ち止まっている総司と平助に、左之が近寄る。
「さ、左之さん……!さみぃ〜!!でもある意味さすが左之さん!!」
平助が鳥肌をたてながら言う。総司も首筋をかきながら言った。
「そんなメールもらって、嬉しいと思う女の子がいるとは思えないですよ」
散々ないわれ様に、左之はムッとして反論する。
「何言ってんだ!おれのは実績をもとにだしてやった意見だぞ。女はこういうちまちました意味のねぇやりとりがすきなんだよ!」
「いやぁ俺には無理!」
「僕も無理だね。さ、平助行こ」
すっかり変な人扱いをされた左之は、だからお前らはだめなんだよっと言いながら、先に行ってしまった二人を追いかけたのだった。







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