ランチ2 



「昼?」
総司はそう聞き返して、昼を告げるチャイムが鳴っているのに気が付いた。
「ああ……もう昼か。そだね、いこっか」
そう言って総司が足を向けたのは社員食堂の方で……

総司と千鶴の二人で食べていたら、絶対同僚や総司を狙っている女性たちが相席を求めてくるに違いない。それでなくても社員食堂は回転をよくするために開いている席には誰でも座るのがふつうだ。
しかしそれは千鶴が必死の思いで誘った「昼」の望むべき姿ではない。
千鶴は必死に沖田に言う。
「あ、あの、もしよければ外に食べに行きませんか?」
「……今から?」
総司の懸念はもっともだった。チャイムが鳴ったのは12時JUST。今から財布を席まで取りに戻って外に行ったとしたら、外の店はすでに満員で待たなくてはいけないだろう。だからたいてい外に行くときはあらかじめ約束をしておいて、チャイムのなる五分前くらいに外に出るのがふつうだった。貴重な昼休みの時間を立って待つのに使ってしまうのはもったいない。しかも総司はいつも昼ごはんは社員食堂でパッとすませて、昼休憩中にもう仕事にもどってしまうのだ。
断られそうな総司の態度に、千鶴は焦りながら言葉を継いだ。
「あ、あの、えっと……あの、おごらせてください!」
千鶴の言葉の内容と見幕に、総司はちょっとキョトンとして千鶴を見た。
「そう!そうなんです!あの、前のスペイン料理の時、ごちそうになっちゃったんでお返しをしたいと……!夜はいつも残業してらっしゃるんでせめてランチくらいはおごらせてほしいんです!」
慌てて考えた口実だったが、なかなかいいアイディアだと千鶴は思った。
結局スペイン料理も、タクシー代も総司に払ってもらっていたし、こういう形でお返しできるのは……
うんうん、と自分でうなずいている千鶴を見ながら、総司はニヤリと笑った。

「そーか。そういうワケね。……いいよ、じゃあおごってもらっちゃおっかな。財布取りに行っといで」
「はっはい!!」

千鶴が急いで席に戻ると、千たちが昼食に行くのに千鶴を待っていてくれた。
財布を取り出しながら謝って、事情を話す。
「ええ〜!!自分から誘ったの!?」
「しかもおごるって?」
頷く千鶴に皆があきれた。
「それに甘える沖田さんって……」
「いくらお返しって言っても女の子がおごるって言ってるのに、遠慮しないんだ……」
ねぇ?と言いながらお互い顔を見合わせている同僚たちに、千鶴は強い意志を込めて宣言した。

「わっ私っ!このお昼で、沖田さんに携帯のメールアドレス聞いてくる!」
「ええ!!大胆!」
「どーしたの!?」
驚く同僚に、千鶴は言う。
「前のスペイン料理の時も、メールアドレス聞きたかったのに聞けなくて。その後沖田さんいろんな女の子から誘われてるし……。このまま何もしないで沖田さんが他の子とつきあいだしちゃって後悔するのはいやなの。だからがんばる!」
「千鶴ちゃん……」
健気な千鶴に、千たちは感動した。千鶴がそこまで言うのなら、友達としては精いっぱい応援するしかあるまい。
「がんばれ!」
「応援するから!」
口ぐちに励ましてくれる友達の頼もしい声を背に、千鶴は財布と携帯を小さなカバンに入れて、廊下で待つ沖田の所へと向かったのだった。

「すいません、お待たせしました」
「いーえ。じゃ行こっか?」
エンドランスに向かいながら、千鶴は隣を歩く総司を見上げて聞いた。
「何が食べたいですか?どこか行きたいところとかあります?」
「『極上霜降りステーキの店』(←店名)かな」

千鶴はぽかんと口をあけて立ち尽くした。
「……そこって……」
「知らない?ここの裏にある店だけど昼でもあまり並ばないからきっとすぐ入れるんじゃないかな」
鼻歌を歌いながら外に歩いて行く総司を追いかけながら、千鶴はつかえながら言った。
「そりゃあ……一番安いランチで4,500円からですよね……だから並ばないんですよ…?」
「あれ?ステーキキライ?それならそこの向かい側の『高級寿司』(←店名)でもいいよ?」
「そこって、値段がすべて時価で、入ったら一人最低1万円っていう……」
「うん、だからステーキの方がいいかなって思ったんだよね。サーロインにしようかな〜フィレにしようかな〜♪千鶴ちゃんのおごりで、一か月分の肉を食〜べよっと」
「わ、私、手持ちのお金、5千円くらいしか……」
「だいじょーぶだいじょーぶ!あそこカード使えるし!」
「………」
千鶴は返す言葉がなく、茫然としたまま足を機械的に動かす。

機嫌よく歩いて行く総司の後ろを、ドナドナド〜ナ〜……と肩を落として歩いて行く千鶴がいた。















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