チョコレート



「あれ?総司じゃねえ?」
「おーい!総司〜!」
総司が昼休みに喫茶室の前の廊下を歩いていると、喫茶室の中から呼び止められた。
メンバーを確認して、総司は舌打ちをする。

ちっ…!面倒なのに見つかったかな……

総司は『黒い笑顔』と言われている表情でにっこりと会釈をして、そのまま通り過ぎようとしたのだが、「なんだよつきあいわりーな!」「来いよ」と口ぐちにブーイングをうけて、しょうがなく喫茶室へと入った。
中の一番奥のテーブルには、いつもの面々……左之、平助、斎藤、新八が座って食後のくつろぎタイムを過ごしている。
「何か用ですか?」
総司が、早く切り上げようとしてそっけなくそう言うと、左之が呆れたように言った。
「何か用っておまえ、なんでそんなに……ん?なんだそれ?」
左之の言葉に新八も総司を見る。
「ん?なんだ?えらいかわいい袋……ってこれはもしかして……」
総司がさり気なく隠すようにして持っていたのは、シックなこげ茶色の包み紙にピンクの布リボンがついた小さな箱だった。
その見た目と今日の日付から、皆は何かにピンと着た様で……
「バレンタインのチョコレートか」
斎藤が冷静な声で言った。
「正確には来週の火曜日だが、お前は出張中でいないからな」
「今日もらったってこと?まじで?誰からっ…て決まってるか」
平助がニヤニヤしながら頭の後ろで腕を組んで総司を見る。
「なんだ、お前!千鶴ちゃんからもらったのか!許せんなそれは」
新八が机を握りこぶしでたたく。左之は、まぁまぁ、と言ってそんな新八をなだめた。
「ほら、まぁ座れよ。中見せてみろ。っつーか俺も総司と一緒に出張なんだがな〜何にももらえなかったな」
「いえ、座りません。それになんで中見せなきゃいけないんですか」
総司が突っ立ったままそう言うと、平助が楽しそうに言いだした。
「見ーせーろっ見ーせーろっ」
それに悪ノリした左之も、声を合わせだす。新八も合唱に加わりながら言う。
「一人だけずるいぞ!彼女のいない俺たち弱者にも幸せをわけあたえるのが当然だろ!見ーせーろっ」

いい年した男どもの野太い声の合唱に、喫茶室の他の社員が注目するし、廊下を歩いている社員達までのぞきこんでくる騒ぎになってきて、総司は大きく溜息をついた。
「あ〜!もう!見るだけですよ。静かにしてください!」
机の真ん中に、千鶴からもらったチョコを置く。
繊細で華奢な感じに包装されているチョコレートは、むさくるしい男たちのギラギラしたまなざしにさらされて震えているようだった。
「おい、なんつーか……女の子っつー感じだよなっ」
何を想っているのか妙に興奮した様子で新八が言う。平助もうなずいた。
「こんな風にオンナノコオンナノコしたものを間近に見るのって、スゲー久しぶりな気がする」
平助と新八は顔を見合わせて笑うと、新八が太い指をチョコレートに伸ばした。
「じゃあ、ちょーっとこのかわいいお洋服を脱いでもらって……」

パン!

総司の張り手が新八の手をはじいた。
「やらしい手で触らないでもらえます?なんかほんとに嫌なんですけど」
そう言って総司がチョコを持ち上げようとしたその前に、斎藤がさっとチョコを取り上げた。
「雪村がどのようなチョコを作ったのか興味がある。中を開けさせてもらおう」
「え!?斎藤君千鶴を知ってるの?」
平助の驚きに、斎藤はチョコのリボンに指をかけながら冷静に返答する。
「彼女は頻繁に法務部に仕事でくるからな。共通の趣味である菓子作りについてはよく話す。先日ブラウニーの作り方について話したのだが、もしかしてこれはそれかもしれんな」
「ぶらんにー?チョコじゃねぇのか?」
新八の質問に、斎藤は首を横に振った。
「チョコレートで作った……何といえばいいのか……ケーキというには濃厚すぎるが、まぁ焼き菓子だな。クルミやナッツを入れる」
「へぇ?ブラウニーねぇ……あんまり聞いたことないな…って斎藤君!なに包装ほどいちゃってるの!」
淡々と会話をしながら千鶴のチョコレートの包装をといていく斎藤に、思わず話の内容に聞き入っていた総司が慌てて突っ込んだ。斎藤はすでにほどいたリボンを丁寧に結び、包装紙をキチンと折りたたみ、箱の蓋を開けようとしてた。

おおおおおおっ

男どもが覗き込む中、ピンク色の化粧箱が開けられる。
中には……

「……ふむ。やはりブラウニーか。総司、味見をさせてもらう」
「へー、これがブラウニーかぁ……って斎藤君!何をしゃあしゃあとチョコ開けてその上食べるって……ああ!!ちょっとちょっと!」
総司が唖然としている間に斎藤は一口サイズに切られているブラウニーを口に入れてしまっていた。
「ちょっと!!さいとーくん!何やってるのさ!何勝手に……ああ!ちょっとやめてよ!それ僕がもらって……!」
あれよあれよといううちに、新八、平助、左之もブラウニーを一つつまんで口に入れてしまっている。
「なんで彼氏の僕より先に食べてるのさ!ちょっと!!吐き出してよ!」
怒り狂ってる総司には構わず、みな口々にブラウニーの感想を告げる。
「うむ。うまい。いいクルミをつかっているな。歯触りにアクセントがでているしクルミ自体もうまい」
「うっわー!なにこれ!全然もくもくしなくて……ケーキじゃねぇよな確かに!クッキーとチョコの間みたいな?」
「うまい!これ千鶴ちゃんがつくったのかよ?すげーな!!」
「おっなかなかうまいじゃねぇか。これは総司にはもったいねーな、どれもう一つ……」
「あああああ〜!」
総司は箱を取り返そうとするが、こんな時だけ無駄に結束力の強い男どもは自分たちのカラダでバリケートを作って入れないようにする。
可哀そうなチョコレートはさらに一人にもう一つづつ食べられてしまったのだった。

「ほら、総司。あと二つ残ってるじゃねーか。文句いうなよ」
新八が、8割方からになったピンクの箱を総司に差し出す。
「ごちそうさま」
真面目な顔で斎藤が丁寧に礼を言うのが、余計総司の癇に障る。
左之と平助に至っては、「いやーうまかったな〜」「もっと食いてーなー」などと無邪気に笑いながらしゃべっているではないか。
総司は、怒りでフルフルと震えながら、ピンクの箱を受け取った。
男どもに蹂躙されてしまった箱は、食べカスが物悲しく箱の中に散らばり、残りのブラウニー2欠片が、両方の端と端に転がっているだけだった。
「新八さん、左之さん、へーすけ、斎藤君……」
静かに名前を言う総司に、みなが注目すると……

「うおっ総司!!お前髪が白く……」
「目も赤ぇぞ!」
「羅刹だ!羅刹化した〜!!!」
総司はちりぢりになって逃げていく皆を追いかけて、最後の一滴まで血を飲み干したとか飲み干してないとか……









ああ〜ブラウニー食べたい……

来週はいよいよバレンタインですね!
リアルイベント連動型連載なので、14日(火)、15日(水)、16日(木)とバレンタイン連続更新します。
チョコだけに甘いよっ





BACK  NEXT


戻る