結果
きょろきょろとスターバックスの店内を見渡している総司に気づき、千鶴は思わず声をあげた。
「こっちです」
手を挙げた千鶴のもとへ、耳からイヤホンを外しながら総司がやってきた。学校帰りだから制服だ。
総司の学校はブレザーで、初夏のこの時期は半袖のシャツとネクタイ。しかし総司はネクタイはせずに、スポーツバックだけ持っている。
「待った?」
「いえ、大丈夫です。総司君あの……」
言いかけた千鶴を手で制して、総司はスポーツバックを千鶴の向かい側の席に置き、財布を持つ。
「先に買ってくる。話はそのあとでいい?」
「は、はい……」
ようやく席に戻ってきた総司に、千鶴は待っていたように聞いた。
「あの、どうだったんですか?」
「んー?何が?」
椅子に座りながら聞く総司に、千鶴は「もう!」と頬を赤くしてむくれる。
「わかってますよね?推薦の結果です!今日決まるって言ってたじゃないですか」
そう、今日は総司の大学学校推薦が決まる日なのだ。食い入るように前のめりになっている千鶴に、総司は目を瞬いた。
「なんで千鶴ちゃんがそんなに必死になってるの?」
「だって、大事な時期なのに私のお見合い騒ぎでいろいろと迷惑をかけてしまって……」
千鶴の言葉に、総司はつまらなそうに自分のカフェラテにストローをさした。
「な〜んだ。『将来の夫の進路が心配なんです!』とかじゃないんだ。どこの大学に入るかで就職どうするかとか生涯所得がかわるのになあ」
「……」
千鶴は口をつぐんだ。
『将来の夫』……
両家顔合わせの食事会も無事終了し、総司のご両親も海外から一時帰国し簡単な結納(これも食事会だが一応格式あるホテルで)も済んだ。
いよいよ総司の言う『将来の夫』が現実的になってきてはいるのだが、千鶴にはいまいち実感がない。
今日のデートも、総司の進路の結果が早く知りたくて千鶴から言いだしたことだが、それは『将来の夫』云々ではなく、やはり近所の幼馴染の進路がうまく行ったかどうかの心配の方が大きいのだ。
しかしそんなことを言ったら総司がまたむくれるのがわかっているので、千鶴は曖昧な微笑でごまかした。
「推薦、とれたよ」
片目をつぶって悪戯っぽく総司はそう言った。
「ほんとうですか!?」
千鶴が思わず立ち上がってそう聞くと、総司は人差し指をくちにあて「しーっ」と周りを見渡して言う。そして「うん」とにっこりうなずいた。
「よかってです〜」
千鶴がほっとして背もたれにもたれると、総司はカフェラテを飲んだ。
「千鶴ちゃん、こどもみたいだねえ」
「ええ?だって嬉しいじゃないですか?総司君はなんでそんなに冷静なんですか?その方がヘンですよ」
「いや、嬉しいのは僕も嬉しいけどさ。それをそのまま顔色に出すところがこどもみたいって。心配そうな顔したり困ったり喜んだり……考えてることがダダ漏れ」
ぶうっと膨れた千鶴を見て「あ、今はむくれてる」と総司はまたもや楽しそうに笑った。その笑顔が無邪気で、千鶴も思わすつられて笑う。
「じゃあ、お祝いに夕飯を食べに行きましょうか?なんでもいいですよ〜お祝いなんで奮発します!」
大学が決まったらお祝いに一緒にデートしよう、というのは総司が前から千鶴にしていたおねだりだった。
今日、もし結果がよければ夕飯を一緒に食べようと、千鶴はお金をおろしてきている。
「何がいいですか?」と聞いた千鶴に、総司はなにやら変な顔をしていた。
「……どうしたんですか?あ、今日はおうちの方でお祝いとかします?」
「いや、姉さんなんか僕が今日推薦決まるなんてことも知らないんじゃないかな。そうじゃなくて、千鶴ちゃんのおごりなの?」
「え?そうだと思ってたんですが…」
だって総司のお祝いだし、自分は年上で社会人だし。
千鶴が首をかしげてそう答えると、総司は「ふーん…」とつぶやいて、つまらなそうにストローを咥えた。
総司はストローを加えたまま、ちらりと千鶴を見る。
今日の千鶴は会社帰りで、膝丈のスカートにストッキングとパンプス。上はブラウスに長いネックレスでアクセントをつけていて、TPOをわきまえつつおしゃれでかわいい素敵なお姉さん風だ(かなり惚れた弱みフィルタ-がかかってます)。
肩までの髪はつややかで、うっすら化粧している横顔は綺麗だ。
それに引き替え自分は。
総司は今度は自分を見た。学校帰りのいつもの制服。一目で高校生とわかるうえに、スポーツバックだ。何でも入るから便利だし今日も部活に顔をだしたからこのかばんにしたのだが、あきらかに姉と弟にしか見えない。
しかもデート(初デートだ)なのに彼女のおごりって……
別に総司は「男の沽券」とやらにそんなにこだわる方ではないが、しかしこの状態は面白くない。ただでさえ男と見られてないのに、ペットやら弟やらのような感覚でヨシヨシされているようではないか。
まあ、千鶴ちゃんとデートできるようになっただけでもすごいんだけどね
千鶴の婚約話が出る前までは、二人きりでこんな風にでかけるなんてこともなかったし、キスをしたり手をつないだりなんてとんでもない関係だった。今だってそりゃ、キスやら手つなぎは自然にはできないけど、やろうとしたらやれないこともない。
総司は溜息をつくと、カフェラテを飲み干した。
「バイトしよ」
そう言って総司は自分と千鶴のトレイを持って立ち上がった。
「あ、いいです。私のトレイは自分で……」
「いいよ、僕がやる。それからバイトだね」
強引に千鶴のトレイも運んでいく総司について、千鶴は不思議そうに聞き返した。
「バイト?してるんですか?」
「するの。これから。部活も終わりだし大学も決まったし。がんばってバイトしよっと」
「何か欲しいものでもあるんですか?推薦がきまったお祝いに買ってあげてもいいですよ」
「……」
スターバックスの扉を開けながら、総司は横目で千鶴を見た。それをしてほしくないからバイトをするというのに。
まあしかし、こんな微妙な男心を言っても千鶴にはわからないだろう。
「夕飯は焼肉がいいな。おいしいところで」
「焼肉ですか?いいですよ」
どこがいいかな〜、と考えながら店から出てくる千鶴と見て、総司は心の中で思った。
今はまだこんなだけどね。
今に見ててよ、千鶴ちゃん。そのうち千鶴ちゃんがドキドキするような大人になって、夜景の見えるバーとかに連れてくから
それにはまず先立つものだ。
総司はどこでバイトをしようか考えなら、千鶴と一緒に歩き出したのだった。
←BACK NEXT→