総司の部屋 2



重ねた手はぎゅっと握られて引き寄せられた。
「千鶴ちゃん……!」
耳元で総司の感情のこもった声が聞こえる。
千鶴はそのまま柔らかいベッドへと押し倒されるのを感じた。戸惑いの声を上げる前に、総司のすっきりとした顔が近づき、唇を塞がれる。総司の体を抑えようとした千鶴の腕は、総司の両脇にがっちりと挟まれ抱きしめられて、脚を割るようにして総司の腰が当たっている。
「んんっ…!」
総司の唇の動きや押し付けられる体の感じから、総司が……なんというのか、盛り上がっているのを千鶴はひしひしと感じていた。
手をとったことで、正式にプロポーズをOKしたと受け取ったのだろう。その嬉しさが総司の全身から溢れて、千鶴を抱きしめ無茶苦茶にしている。
いや、確かにOKはした。したのだが、いきなりこういう展開になるとは思っていなかった千鶴は、総司の怒涛の愛撫に翻弄されながらも目を白黒させた。最初に抱きしめられたときは、普通のハグのようなものだったが、ベッドに押し付けられている今は全然おもむきが変わってしまっている。
熱い吐息に潤んだ緑の瞳。切なげに千鶴の名前を呟きながら、総司の手は千鶴が着ていたニットのウエストから手を入れて、背中へ回しブラのホックを探る。
「ちょっ……そ、総司君、だ、だめ……!」
「しーっ大丈夫だから……」
宥めるための言葉を呟きながらも、総司は指の動きを止めない。プチンと小さく音がしてブラの締め付けが緩むのを感じるのと、総司の大きな手が千鶴の胸を包むのとが同時だった。
「あっ……」
「千鶴ちゃん……やわらかい……」
感極まったように呟いてのしかかってくる総司に、千鶴は圧倒されっぱなしだった。こんな場所でこんな時間に流されるようにこんなこと、していてはいけないと思うものの、総司の勢いに飲まれて正直もう頭が働かない。
熱いキスは唇だけにとどまらず、顎のラインを辿り、感じやすい耳を探りうなじをなぞる。胸への初めての愛撫に、千鶴はもう我を忘れそうだった。
「そ、総司君……!」

コンコン

「お取込み中悪いんだけど」
冷静なミツの声とドアをノックする音に、総司と千鶴は固まった。
ミツの声は続きを言う。
「薫君が玄関に来てるわよ」

我に返るのが一瞬速かった千鶴は、総司を押してベッドとの間から抜け出す。
「は、ははい!す、すいません!すぐ……すぐ……!」
総司に乱されてぼさぼさの髪を直し、いつのまにかはずされていたスカートのウエストのホックも慌ててはめなおす。
総司はベッドの上にドサリと仰向けになると、「あ〜あ」と溜息とついた。
「ったく、薫か、よりによって」
昔から仲が悪かった相手に邪魔されたので、余計に腹が立つ。総司は舌打ちをして立ち上がった。そしてあわてて出ていこうとする千鶴のために、部屋のドアを開ける。
「千鶴ちゃん、一応、他の男ともうこんなことは無いだろうと思うけど念のため。夜に男の部屋に行くとこういう展開になるからね、無防備にあがりこまないこと」
「……」
ドアの上に腕をついて千鶴を見降ろしている総司を、千鶴はポカンと見上げる。
「……でも、総司君は幼馴染で……」
「うん、幼馴染の男でもこうなるんだよ」
「……最初からそのつもりだったってことですか?」
部屋に千鶴を通したときから、隙があればこういうことをしようと思っていたのかと千鶴は驚いた。最初に来たときは、全然そんなそぶりはなかったのに……
しかし、総司はにこやかに微笑みながら「ウン」ときっぱりとうなずいたのだった


「……千鶴ちゃん。じゃあ明日ね」
総司は沖田家の玄関から、道路にでた千鶴に手を振った。
「はい、よろしくお願いします。総司君、あの……おやすみなさい」
「オヤスミ」
にっこり笑って手を振った総司を、隣の薫がギロリとにらんだ。
「ったく千鶴一人で行かせるんじゃなかったよ。口だけのお前にいいように扱われるってわかってたのに…!」
どうやら薫は帰る途中で、千鶴一人で総司と話し合いをさせても言いくるめられてしまうのではないかと(実際その通りだったのだが)不安になり、戻ってきたらしい。千鶴に、この話を断るための道筋を説明してから総司と話し合うように言おうとしたら、千鶴はもうすでに総司の部屋に行ってしまっていて……
「残念だったね。僕たちの愛の前にはどんな妨害も意味をなさないんだよね」
「薫?家に入らないの?」と実家の家の前で聞いてくる千鶴に、薫は「バイクで自分の家に帰るから」と返事をして、メットを持ち直した。
「別にまだ時間はあるさ。今回の件はどう考えでも道理に合わないからな。ちゃんと話して取り返しのつかないことになる前に止めさせる」
ギロリと総司を睨んだ薫に、総司は楽しそうに微笑み返した。
「ふうん?まあ頑張って、義兄さん」
「義兄さんとか呼ぶな!」
吠える様に言い返してきた薫に、総司はポイッとさきほど部屋で千鶴が忘れたものを投げる。
「あ、これ千鶴ちゃんの忘れ物。義兄さん返しといて」
立ち去る総司の背中を睨みつけて、薫が自分の手に『何を忘れたのか』と目をやると………

それは総司が外した千鶴のブラだった。
案の定、発狂した薫の怒鳴り声をドア越しに聞きながら、総司はいい気味だと笑い自分の部屋へと戻って行ったのだった。






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