新婚の心得〜その2 宅配
千鶴と一緒に暮らすようになって総司には驚いたことがある。
「……」
最初見たときは思わず無言になってしまった。
そして目をそらしてしばらく考える。
千鶴は総司の様子には気づいていないようでそのまま歩いてキッチンに行き冷蔵庫を開けて何かを探している。
今日は日曜日で季節は初夏。
千鶴の着ていたのは薄い水色のTシャツとジャージ素材の膝丈のスカートだった。朝起きたときに少し暑かったから総司も白Tシャツにカーキ色のハーフパンツ姿だ。
それはいいのだが。
ノーブラだよね……
いくら千鶴の胸がささやかだとはいっても、そこは女性なのだからしてさすがに薄いTシャツ一枚だけだとブラをしているかしていないかぐらいはわかる。別に透けてるわけではないがやはり形が……
そこまで考えて総司は何故か赤面した。
いや、もう何度も千鶴の裸は見ているしあの胸だって散々触らせていただいている。が。
やはり何か違うのだ。
そういう場所や雰囲気でないところにノーブラの千鶴が出現すると、思わずそこに目がいってしまうというか。別にその度にムラムラするとか悶々とするというわけはないが……ドキドキするのだ。
なんだか隣のお姉さんの部屋でのリラックスした姿を覗き見しているような。
確かに千鶴は少し前まで総司の好きな人で隣のお姉さんであこがれの存在ではあったし、こんなにリラックスした部屋着姿なんて見たことがなかったから覗いているようなものではあるのだが、しかし今はもう結婚しているのだ。
彼女は妻で、彼女のノーブラ姿を見ているのは総司だけだ。
だからいい……のかな?
そういえば気にしたことも無かったが、姉のミツはどうしていたのだろうか。
想像すらしたくもないしミツがノーブラだろうと水着だろうとなんとも思わないので、一緒に暮らしていたころ総司はミツが部屋着の時はどうだったか覚えていなかった。だが姉の性格からして家の中で『キチンとしている』ことなど考えられないからきっとノーブラだったのだろう。女性は家ではノーブラでいるのがふつうなのだろうか?その方がリラックスできるとか?
総司の前でもリラックスせずいつも完璧に隙のない恰好をしている千鶴なんていやだ。やはり一緒にくつろいでほしい。
総司はブラをしたことはないが、確かに苦しそうな気もするし暑いのかもしれない。
寝るときはどうだったかと総司が昨夜を思い出してみると、確かにベッドに居るときは千鶴はブラをしていなかった。
ということは、やはりブラははずしたほうが楽でリラックスができるのだろう。
総司はそう結論づけると座っていたソファの上で一人密かに頷いて、また膝の上にあるジャンプを読みだした。
「総司君は今日は何か予定はありますか?」
冷蔵庫から麦茶をだしコップについて飲みながら千鶴が総司に聞いた。総司は漫画から顔をあげる。
「うーん…特にないかな?千鶴は?どこか行きたいとことか買い物とかある?」
「来週の分の食料品の買い出しに行きたいです」
「じゃあご飯食べたら一緒に……」
その時『ピンポーン』とインターホンの音がして会話が途切れた。
「誰ですかね…」
と千鶴がつぶやきながらパタパタとスリッパをならしながら玄関に向かうのを見て、総司は驚いて呼び止めようとして思わずむせた。
「ちょっ……ゴホッちょっと待っ……ゴホゴホッ!」
千鶴は気にせずそのまま玄関へと行ってしまう。
総司はジャンプを放り出してソファから立ち上がり千鶴を追いかけた。そしていざ玄関を開けようとしている(チェーンすら取ってしまっていた)千鶴の肩を掴んで間一髪で止めた。
「ちょっと待って千鶴ちゃん!」
「え?な、なんですか?」
勢い込んでいる総司に驚いている千鶴の両肩を掴み、総司はとりあえずくるりと彼女を反転させるとリビングを指差した。
「僕が出るから。リビングに行ってて」
「え?でも総司君どこにハンコがあるか知ってますか?宅配だったら……」
「いーよそんなのサインで」
「でもボールペン……」
「宅配の人が貸してくれるから。いいから千鶴ちゃんは早くリビングに戻ってて」
「……はあ……」
なんだかよくわからない、という顔をしていたが、総司の権幕におされて千鶴は首をかしげながらリビングへと戻って行った。それを横目でみながら総司は溜息をつき、髪をかき上げながら玄関のドアを開けたのだった。
その後千鶴は、ノーブラで玄関を開けないことと、ついでに風呂上りにインターホンが鳴っても出なくてもいいこと、というより総司が家にいるときはインターホンに出なくていい、総司がいないときも部屋着ならでなくていいと説教されたのだった。
男性の視線に無自覚な千鶴ちゃんが沖田さん(総司くん)に説教されるのも萌えます!