【お礼企画 妄想大部屋 2】 







 

■誰のルートが一番千鶴は幸せだったか?■

「とりあえず労咳に羅刹にSの総司はログアウトだな」
ニヤニヤしながら言う左之に、総司はムッとした表情をした。言い返せないところがつらい。
「……でも万年恋人夫婦ですからね、子供ができて所帯じみたりしなかったですし毎日甘々でしたよ」
総司がぶちぶちと呟く言葉は皆に華麗にスルーされた。
「平助も……どうだかな〜。あのエンディングは結構……儚いかんじだったよな。すぐ死んだんじゃねーのか?」
左之の言葉に平助が反論する。
「なんだよ、長生きしたのが千鶴の幸せだってんなら羅刹になってない左之さんか風間になっちまうじゃん。エンディング後に断定しないでルート全体でみようぜ。ルートを通して一番千鶴の笑顔が多かったのは俺のルートだと思うし!」
斎藤が静かに頷いた。
「それはいい指標だ。俺のルートでも千鶴には笑顔が多い」
「笑顔だけでは足りんな」
ゆったりと低い声で風間が参加し、続ける。
「図らずもお前たちはか弱い女性を拉致して軟禁状態にしていた。自分の命をにぎっているお前たちに、千鶴がのびのびと接することができたとは思えん。その点俺と接している千鶴は対等でなおかつ同族だからか幾分ツンデレな本性をだしている。それがまたたまらんくらいかわいいのだが、おまえらはそんな千鶴は知らんだろう?」
「いやそれは違う」
すかさず斎藤が反論した。
「千鶴は俺といるときは結構……意地悪を言う時があった。俺が風邪で寝込んだ千鶴をこっそり看病したことを、後ほど少々意地悪に……というより小悪魔的に聞いてきたことがあった。あまりにも愛らし過ぎて思わず本当のことを言ってしまったのだが、その時の嬉しそうな表情ときたら……」
真顔で滔々とノロケを続ける斎藤を、土方がさえぎる。
「そういう細かいところじゃなくてだな、女が一番幸せを感じるのは、相手の男がどれだけ自分のことを大事にしてくれてるかっつーことじゃねぇか?俺は日ごろから千鶴の幸せを考えていたし、実際新選組から離れて女としての幸せを掴むようつきはなしたぜ。あの時だって俺はもちろん千鶴のことが好きで傍にいて欲しかったっていうのに、千鶴のためを考えてそうしたんだ。ここまであいつのことを考えているのは……」
途端にあちこちから反論が噴き出た。
「俺だって突き放したぜ!仙台に行く前に!」
と平助。
「俺も新選組と一緒に行くように説得した。会津に残ると言い張ったのは千鶴の方だった」
と斎藤。
「そもそも千鶴をつきはなさなくてはいけない状況に追い込むなど、愚か者のすることだ。男なら自分の女は何よりも大事にして守るべきだろう。もちろん自分のわがままにつきあわせるなど言語道断。俺は彼女のしたいことを助けて蝦夷にまで守りながら渡らせ、その後も彼女の心が落ち着くまで待ってから迎えに行った」
風間の言葉に斎藤、平助、土方は黙り込む。(総司はもう皆に背を向けて『しぼりたてキウイフレッシュ』を黙って飲んでいた)。
沈黙になった空気の中、左之が言った。
「ま、いろいろ言ってるがな。千鶴と最初にちゅーしたのも最後までいただいたのも、子供をつくったのも、羅刹にならずに最後まで一緒にいたのも、全部おれだからな。それに俺はもともとの夢からして愛しい女と所帯を持つことで夢をかなえられた満足感があったんだよな。千鶴の方だって志半ばで自分と一緒にいる旦那よりも、自分と一緒にいることが志……っつーか夢だった旦那の方が一緒にいて幸せだったんじゃねぇか?」
完璧な左之の言葉に皆はファミレスの机の下で拳を握りしめる。

(((((くそっっ!!一番おいしとこ持ってきやがって………!!!)))))

皆の心の声がファミレスの空気を震わせたのだった。













■俺たちがどれだけ千鶴を好きなのか■

「ようやく僕の出番がきたね」
総司が飲み終わって空になった『しぼりたてキウイフレッシュ』をタンッと机に置いて、身を乗り出してきた。
「はっきりいって他のみんなは千鶴ちゃんじゃなくてもそれなりに他の女の人と夫婦になってやっていけると思うんだよね。でも僕はダメ。千鶴ちゃんじゃないと多分うまくやっていけない。基本女の人はそんなに好きじゃないし傍にいて欲しくないし、必要じゃないからさ。僕が生まれて初めて好きになった人は近藤さんで、生まれて初めて好きになった女の子は千鶴ちゃん。僕にとっての女の子は後にも先にも千鶴ちゃんだけなんだよ」
総司はそう言うと机の向こう側に座っている千鶴に優しい瞳を向けた。千鶴はじっと総司を見つめていた。
「……君だけだよ」
千鶴の瞳を見つめながら、総司が甘くささやく。
「……総司さん……」
千鶴の大きな瞳が潤んだ。土方をはじめ他の隊士たちは総司の想いのこもったセリフに言葉を呑む。
二人の甘い雰囲気を断ち切るように低音の声がした。
「フン……今のスピーチでわかるのは、お前がどれほど千鶴を必要としているか、であって千鶴をどれほど愛しているか、ではないな」

風間の台詞に他の隊士たちはハッとした。

確かにそうだ。必要であることと愛していることは、はっきりとは言えないが何か違う気がする……

悔しいことに総司も思わずそう思ってしまう。
「いやでもそれは……!千鶴ちゃんが『必要とされること』を求めているとしたら、求めていることを与えてるわけだから……っっ」
総司が必死に言い、場の空気を変えようとしたが一度変化してしまった雰囲気は変わらず……
土方は憐れむような目で総司を見、遠くで暇そうにしているウエイトレスに手をあげて合図した。
「追加注文だ!『しぼりたてキウイフレッシュ』もう一つ追加で」
そして総司の肩をなぐさめるようにポンとたたいて言う。
「俺のおごりだ」

「じゃあ、とりあえず一点リードの原田から行ってみるか?」
土方の言葉で左之は飲んでいたカフェオレを置いた。
「そうだなぁ……俺にとって千鶴はいろんな意味で初めての思いを味わわせてくれた女だな」
左之はそう言うと零れ落ちるような色気をたたえた瞳で千鶴を見つめた。
「妹みたいにかわいいと思っていた女の子がある日突然女になってた……って感じだ。いつも気になって守ってやらねぇとと思っていたら実はてめえの未熟さを思い知らされたり、千鶴の悩んでいることに全く気付いていなかったり……。これまで女関係であんまりそういうことがなかったからな。本気になると俺はこんなにも……何もできねぇのかと思い知ったよ」
「左之助さん……そんなこと……」
気遣わしげにそういう千鶴に左之はうなずいて続ける。
「こんな俺でも信じてついてきてくれた千鶴を、俺は守りたいと思ってる……前世でも、現世でもな」
甘い声でキメた左之に、風間が言い放った。
「フン、下らん」
平助も気にしつつ言う。
「う〜ん……なんか普通?」
土方も言った。
「普通だな」
左之は、ピキピキッと青筋をたてて、カフェオレのカップの持ち手を砕いた。それを無視して斎藤が言う。
「次は俺がいかせてもらおう」
そして斎藤は千鶴を見つめた。
「千鶴……お前は俺に安らぎをくれた。ただ一筋に武士としての生き方を追求し自分を捨てて主君のために……その主君を失くした時に俺を救ってくれたのは新選組で、そんな俺を傍にいて支えていてくれたのが、千鶴、おまえだ。人を殺しいつかは自分も殺されるという世界しかなかった俺に、お前が初めて暖かい世界を見せてくれた。そして最後までついてきてくれた。前世ではお前が最後まで傍にいてくれたから俺は俺でいられた。現世でも……一緒に居て欲しい」
「ちょーっと待ったぁ!」
斎藤の言葉にかぶせるように平助が叫んだ。
「千鶴がいたから、俺が俺でいられたってのは俺の方だよ!」
平助はそう言うと、パッと千鶴の方を見た。
「羅刹になったのは俺が一番早くて、そのことで千鶴に何度も救われたよ。どんどん狂っていく自分が怖くてみっともねぇけど縋ったことが何度もある。でもいつでも千鶴は俺を受け止めて、生きて欲しいってくれたんだ。だから俺は生き続けることができた。俺の脚が崩れたら千鶴が支えてくれる、俺の腕が崩れたら千鶴が代わりに手を伸ばすって言ってくれたこと、俺は絶対忘れねぇ。……今もはっきり覚えてるよ」

千鶴の瞳に涙が浮かんだ。その時のことを思い出したのだろう、唇をぎゅっと噛む。

 千鶴のやつ、平助のルートでそんな熱いセリフを言ってたのか……!俺も言われてぇぇぇ……!

隊士達の嫉妬が渦巻く空気の中、風間が冷静に指摘した。
「それは、おまえがどれだけ千鶴を愛しているか、ではなく、どれだけ千鶴から愛されているか、だろう。自慢か?」
そう言った後、自分の台詞に風間はフッと笑う。
「いや違うな、過去形だ。『どれだけ千鶴から愛されていたか』だな」
イヤに冴えている今回の風間の、もっともな言葉に皆は沈黙した。平助も「う……っ」と言ったきり黙り込んでしまう。
土方が風間を見ながら言った。
「えらそうにコメントばっかぬかしてやがるが、じゃあおめぇはどうなんだよ、鬼さんよ」
「俺か?俺は最後でかまわんぞ。先に聞かせてみろ」
エラそうな風間の態度に、土方は舌打ちする。しかし順番はどうでもいい。要は自分の思いを千鶴に伝えることだ、と思い直して、土方はゴホンと咳払いをした。

「あー……千鶴。俺の長いルートによくついてきてくれた。特に最初のころはおれぁ仕事仕事でほとんどかまってやれなかったな。なのにお前は文句も言わずに俺が少しでも楽になるように快適にいられるように気を使ってくれていた。少しずつお前を知っていくにつれて、大人しそうな外見にかかわらず芯がしっかりしてて強くて……俺が背負っていたものを理解してくれた。それだけで俺は立っていられたんだ。今から思うと俺が弱音を吐けたのはお前にだけだったかもしれねぇな。一度手放したからこそわかる。俺にはお前が必要だ。……前世でも、現世でもな」
真っ直ぐにきれいな紫紺の瞳で見つめられて、千鶴は頬を赤らめた。
「歳三さん……」

「それで終りか」
風間が飽き飽きしたとでもいうように欠伸をしながら言う。じゃあお前はどうなんだよっという隊士たちの視線をうけながら風間は『赤いハーブティ(ローズヒップブレンド)』を自らのカップに注いだ。

「お前たちはみなダメだな」
ティーカップを優雅に唇に運びながら言う風間に、平助が言う。
「なんでだよ」
「口先だけでならいくらでも『お前が必要だ、愛してる』と言える。必要なのは態度だ。お前らは前世で千鶴に何をした?連れまわして命の危険にさらしつらい思いをさせただけではないか。俺はお前たちが全員死に、嘆き悲しんでいる千鶴を知っている。千鶴の心の傷を癒すには時が必要だと思い、身をひきすらした。しかもお前たちが千鶴を振り回した理由は極めて自分勝手な物だ。近藤のため、新選組のため、武士道のため……千鶴のためなどという理由は一つもない。しかし俺は違う。新選組が敗走したという知らせを聞いた際に、俺自身にとってもう新選組を追う理由はなくなった。が、『千鶴のために』蝦夷までわたる手段を考え連れて行ってやったのだ。大事なことなので二度言うが、『千鶴のために』だぞ。その後もそれを恩に着せて強引に妻にしたわけではない。会えない時間が愛を育てるのです、と天霧に教えられたという理由もあるが、主に千鶴の気持ちの整理を考えて俺は一時期身を引いたのだ。あれだけ鬼たちが求めている女鬼を放っておくというのはかなり勇気が必要だったが千鶴にはちゃんと考えて欲しかったのだ」
風間はそう言うと、深い紅い瞳を千鶴に向けた。
「……俺の妻になる、とはどういうことなのかを。現世でも同じだ。お前はそろそろ俺に妻になった場合について考え始めた方がいい」

「千景さん……!」
千鶴が顔を赤くして風間を見た。

(((((くそっっ納得いかないが言い返せない……!!)))))

隊士たちは見つめあっている千鶴と風間を睨みつけていたのだった。

 

 

 






BACK←    →NEXT



                        
                               戻る