【お礼企画 妄想大部屋 1】
「ああ、注文いいぜ。俺は宇治緑茶を頼む。ほら総司、てめーは何にするんだ」
まるで女性のように整った顔をした紫の瞳の男性が、メニューを隣に座っている総司と呼ばれる男性に渡した。
薄い茶色の髪をしたその総司と言う男性はメニューを受け取りながら言う。
「土方さん、ホットとアイスがあるんですよ」
「あ?ああ……じゃあホットで」
土方が答えると、総司がはメニューを開きながら言った。
「僕は〜…『しぼりたてキウイフレッシュ』」
そう言って総司は顔をあげてウエイトレスににっこりと微笑んだ。その微笑があまりにも魅力的で、こちらを見た緑の瞳がきれいでウエイトレスは一瞬仕事を忘れて見惚れた。
そんな彼女には構わずメニューは次の男性に渡される。
ぼうっとしているウエイトレスに、その男性が声をかける。
「注文、いいだろうか」
「はっはい!!失礼しました!」
気を取り直して次の男性を見たウエイトレスはまたポカンと口を開ける。
深い蒼の切れ長の瞳、静かなたたずまいにもかかわらずその男性は存在感があった。長い漆黒の睫にかかる少し長めの前髪がきれいだ。
「俺は……」
そう言って黙り込んでしまった男性に、さらに隣の男性がメニューを覗き込んで聞いた。
「何?一君、どうした?」
「平助…。うむ、いや……ゴホン」
一と呼ばれた男性は、目の下をほんのり染めてわざとらしく咳払いをした。その表情がまたかわいくてウエイトレスの胸はきゅんとする。
一はしばらく黙った後、思いを決めたように言った。
「俺はこの、『ピンクトルネード』を頼む」
「は?ト、トルネード……ですか?」
ウエイトレスが驚いたように聞き返す。
メニューを覗き込んでいた平助が笑って言った。
「一君、トルネードじゃなくてレモネード!」
今や真っ赤になってしまった、一と呼ばれている男性を見て、ウエイトレスはほのぼのとした。
「ピンクレモネードですね」
そう言って注文を入れる。
平助という名の、隣に座っている男性が斎藤に話しかけていた。
「一君がそれを頼むなんて意外だなぁ」
「いや、このファミレスに入ったのは初めてでな、これは一体どんな味かと……」
もごもごと言い訳するように呟いている斎藤に、平助は人のよさそうな陽性の笑顔を向けた。
「そっか。じゃあ俺は〜カルピスソーダにしようかメロンソーダにしようかどっちにしようかな〜。うーん、やっぱカルピスソーダで!」
にかっと笑ってウエイトレスを見た平助に、ウエイトレスもつられて笑顔になった。ピッピッと操作して平助の分の注文入力を終えたのを確認して、次の男性が声をかける。まだ端末に視線を落としていたウエイトレスは、その声の艶やかさに目を見開いた。顔をあげて声をかけた男性を見ると見た目もとんでもなく艶っぽい。
「俺もいいか?俺はカフェオレのホットで」
優しい瞳にあふれ出るフェロモン。ウエイトレスの目はすっかりハートになっていた。
「おい、女」
突然の低い声に、ウエイトレスのハート目は解けた。あわてて声の主の方へと体を向ける。とそこには金髪ともいえるくらいの明るい髪に赤い瞳、エラそうな態度の男性が腕を組んでこちらを見ていた。
「俺は『赤いハーブティ(ローズヒップブレンド)』だ。喉が渇いている。早く持ってこい」
「はっはい!」
焦って立ち去ろうとしたウエイトレスを、土方が呼び止める。
「おいこら風間。また頼んでいない奴がいるだろうが。ったく自分のことしか考えてない奴だな」
「何?みな頼んだだろうが」
風間はちらりと土方を見てバカにしたように笑い、言った。
平助が怒って言う。
「千鶴がまだ頼んでねーだろーが!」
風間がフッと唇を歪めて笑う。
「どこまで愚かなのだお前たちは。千鶴は我妻なのだから、俺の物をわけて一緒に飲むに決まっている」
風間がそう言った途端、ガタガタッと男性5人が一斉に立ち上がった。ウエイトレスは驚き思わず後ずさる。
ここでも一番周りが見えているらしい紫の瞳の男性……土方がウエイトレスの怯えに気が付き、皆に座るように合図をした。
「…驚かせてすまなかったな」
そして風間の方を向き、自分も座りながら言った。
「風間、その話は後だ。千鶴、お前も何か頼め」
千鶴と呼ばれた唯一の女性は、最近は珍しい黒髪に長い黒い睫に黒目がちの瞳、それと対照的に白く透明な肌をしている優しそうな女の子だった。彼女は土方の言葉に慌てたようにメニューに目をやる。
「はっはい…っ。え、えっと…じゃあ私はウーロン茶を……」
総司が皆のメニューを集めてウエイトレスに渡しながら言った。
「じゃ、そーゆーことで、ごちそうさまです土方さん」
「なんで俺がおごることになってんだよ!ワリカンだワリカン!まぁ千鶴は俺の嫁だから俺が払うがな」
立ち去りかけていたウエイトレスは、土方の最後の言葉に思わず立ち止まった。
千鶴……ってあの女の子だよね?さっき金髪の人が妻だって言ってたけど、紫の瞳の人のお嫁さん???
「副長、申し訳ないのですが千鶴は自分の嫁です」
静かな声で蒼い瞳の斎藤が言った途端、隣で平助が大声で抗議の声を上げた。
「何言ってんだよ!千鶴は俺と夫婦になったの!」
「お前らこそ何言ってんだ。千鶴は俺と一緒になって、公式では唯一子供まで産んでくれたんだぜ?」
艶っぽい声の男性……原田がそう言うと、茶色の髪の総司が冷笑して言った。
「あ、それ僕の子だから」
「っんなわけねーだろっっっ!」
カオスとなっている会話に、ウエイトレスは関わらない方がよさそうだと判断してそそくさと去って行ったのだった。
「……と、いうわけで今の状況を説明すると、だ……」
土方が眉間に皺を寄せて言う。
「何故か千鶴はすべての攻略キャラをフルコンプして転生してきたらしい、と。こういうわけだな?」
「僕達みんな千鶴ちゃんと夫婦になった記憶があるんだよね?」
総司の言葉に、土方は無言で肯定し斎藤はうなずき平助は「ああ」と言う。左之は目線でうなずいて風間は「フン……」という言葉でその通りだという事を表した。
「で、現代では千鶴は一人。一体誰が千鶴を嫁にするか、という話し合いのために今日はこうして集まってもらったわけだ。そこで提案だがな。おれは公式ではメインの攻略キャラだし俺のルートは他と比べて段違いに長い、さらにアニメは俺ルートだろ?どう考えてもここは俺が千鶴をもらうのが筋だと思うんだが」
一斉に起きたブーイングに、ファミレスの客達の視線がこの一角に集まる。
総司が一番に抗議をした。
「あのさぁ、僕が一番いろいろ苦しんだんだよ?近藤さんを亡くして、労咳になって、羅刹になってさ。愛しい嫁を置いて先に逝かなきゃいけなかったんだから、現世では僕に優先権があって当然でしょ」
「優先権で言うなら子供までできた俺だろ?お前ら現世で千鶴を嫁にして子供できなかったらどうすんだ?俺は前世でもう実績があるからな」
とーぜん!という顔でいう左之に、斎藤が言う。
「前世での島原通いを思うと、お前と結婚して千鶴が幸せになるとは思えん。俺は前世では一番ほのぼのとした暖かい家庭を千鶴と築いたという自負がある」
そう言う斎藤に平助がかみついた。
「ほのぼのなら俺だって自信あるぜ!っつーかほのぼのかわいいカップルっていえば平千だろ。ルートに分かれてからデレた一君たちとは違って俺は屯所時代から千鶴に優しかったんだぜ!思いの期間的な長さで言えば俺が一番じゃねーか!」
「フン、くだらん。長さで決まるのなら俺など生まれた時から女鬼を探していたから俺が一番になる」
そして反論しようとしてきた他の5人を手で制して風間は続けた。
「話し合いの前提がばらばらでこのまま続けてもらちがあかん。何かで比較して一番の者が千鶴をめとるというのなら前提条件をまず統一するべきだとは思わんのか、この虫けらどもが」
「ったくいちいちカチンとくる言葉を入れねーと話せねーのかよ、てめーは。まぁでもこいつのいうことはもっともだ。決めようじゃねぇか、その前提条件ってやつを」
土方が風間を睨みながら言う。
「前提条件……とういうと、例えば誰のルートが一番千鶴は幸せだったか?などでしょうか?」
斎藤が言うと、左之もうなずいた。
「それ、いいな。後は……俺たちがどれだけ千鶴を好きなのか、とかはどうだ?」
平助が頬を膨らませて文句を言う。
「いーけどさ。そんなん口がうまい奴が一番うまいこと言うに決まってんじゃん。俺としてはもうちょっと全体的に比較して欲しーんだけど。例えばED後の生活で誰が一番いい夫だったかとかさぁ」
総司が聞く。
「それって一君が言った『誰のルートが一番千鶴は幸せだったか?』とどう違うワケ?」
「『一般的に』いい夫だったか、ということだろう。甲斐性はあったのかとか食べるものや着るものに苦労はさせていないか、とかだな。俺は鬼の統領で千鶴には統領の妻として一番いい思いをさせてやった自信がある」
風間の言葉に、隊士たちはみんな「ム……」と言うと黙り込んだ。
「まぁ実際の比較はこれからやるとして、じゃあこんなもんでいいか?
(1)誰のルートが一番千鶴は幸せだったか?
(2)俺たちがどれだけ千鶴を好きなのか
(3)世間一般的言って前世で一番いい夫だったのは誰か」
様々に同意を示す5人の顔をみて、土方は言った。
「じゃあ始めるぞ」