【マクドナルドで夕食を 9】




きらきらと太陽の光を反射させながら降り注ぐジョウロからの水を、千鶴は花に水をやりながらぼんやりと眺めていた。
チューリップにアネモネ、他に名前も知らない花たち。
千鶴が庭で水をやるようになって、荒れ果てていた庭もすっかり変わった。
一緒に桜にふる雪を眺めてから(風間は見えないが)、千鶴が庭の草花に水をやったり邸内に花を飾ったりしても風間は何も言わなくなった。それどころか、千鶴が庭にいるときにたまに出てくることもある。
目が見えなくても外の空気というのは気分転換にいいらしく、仕事に疲れるとぶらりと庭に出てくる。

今日も風間は出てきて、テラスのあたりでこちらを見ていた。
何も言わず、しかし居るだけで存在感のある風間に、千鶴が緊張しながら庭の草花に水をやっていると、ふと彼がこちらにやってきた。
「ホースで一斉に水をやった方がはやいだろう」
突然話しかけられて、千鶴は驚いて風間を見た。
「……それはそうですけど……」
「水の音からするとジョウロで水をやっているのだろう?なぜそんな非効率的なものでちまちまちまちま水をやっているのだ」
いらいらとした風間の口調に、千鶴もムッとした。
「ホースで水をやりたかったんですが、どこかの我儘な人が庭に水をやる音がうるさいって文句を言って来たので、しょうがなくジョウロで水をやっているんです」
当然ながらその『我儘な人』は風間だ。
風間もそれに気づいたらしく、ニヤリと笑うとホースと水栓場の方へ顎をしゃくる。
「その『我儘な人』は何も言わんだろうからとっととホースで水をやれ」
千鶴はぷうっとむくれるとホースのねじを緩めて蛇口につけた。
「だいたい風間さん、ここで何をやってるんですか?仕事はどうしたんですか?」
「自分の屋敷で何をしようと俺の勝手だ。今日の仕事はあらかた終わったしな」
千鶴は少し驚いて風間を見た。
あの山積した仕事が終わった?
風間は見えていないにもかかわらず、千鶴の視線を避けるように横を向く。
「……正確には『終りにした』」
「どうしてですか?めずらしいですね」
ワーカーホリックそのものの働き方をしてたのに、と千鶴がホースから吹き出す水の量を調節しながら考えていると、風間がしばらくの沈黙の後にふてくされたようにポツリと言った。

「……お前と一緒に時間を過ごしたいと思ってはいかんか」
「……」
「お前と過ごす時間は楽しい」

思ってもいなかった言葉をストレートに言われて、千鶴は目を見開いて固まった。ホースから水があふれ出て地面に落ち、千鶴の脚を濡らしていたが、千鶴は気づかずフリーズしたままだ。
「……」
千鶴はどんどん熱くなりる頬を無視しようと俯き、水をやることに集中しようとした。
こんなに真っ直ぐに、男性から自分に興味があることを伝えられたことのない千鶴は、どう答えればいいのかわからずドギマギするしかない。
「そんな…私なんて別に普通ですし…。か、風間さん趣味とかないんですか?暇なときにストレス解消になって楽しい時間を過ごせるような…ホラ、何か?」
自分の声が上ずって裏返っているのが分かっていたが、千鶴はとってつけたような明るさで必死に聞いた。
風間は、話をそらされたことに気づいているのかいないのか、腕を組んで考えるように首をかしげている。
「趣味か……」
「趣味って言うか、目が見えていたころによくしてたこととか、好きな事とか……」
風間はしばらく考えて、諦めたように肩をすくめた。
「料理以外はなにも思い浮かばんな。仕事しかしていない」
「ええ?休日とか仕事の後は?」
「仕事の準備をしているか仕事の事を考えいるか……俺が継いだ時はカザマグループは内憂外患でとても不安定だったからな」
千鶴は、今度は沈丁花にホースの水を向けながら言った。
「そうですか……。じゃあ、会社を継ぐ前に好きだったこととかはないんですか?」
千鶴に聞かれて、風間はまた考え込んだ。
子供の頃から、他の子どもとは切り離され勉強ばかりさせられてきた。学校の勉強はもちろん語学に経済学、世界情勢についても。そんな趣味のようなことは許されていなかったしやる時間も……
そこまで考えて、風間はふと懐かしい匂いに気づいた。

濡れた土の匂い。空中に飛び散る水のしぶき。

「……虹を見るのが好きだったな」
「虹…ですか?」
「そうだ。そういえば最初に虹を見たのはこの家だった。祖父が大声で俺を呼んで……庭に出てみたら空に大きな虹がかかっていた」
千鶴のホースから聞こえてくる水の音を聞きながら風間は続けた。
「それから、祖父はこの庭で、そうやって木に水をやりながら虹を作ってくれた」
「ああ!ホースの水を太陽の方にむけてですか?」
千鶴はそう言うと、ホースを持ち上げ水の向きを調整する。
「こうかな……あれ、できないな。子供の頃は簡単にできたんだけど……太陽に向かって水を出すんですよね?」
「おい!こちらにむけるな!水がかかる……」
風間がいいかけた文句は、千鶴の明るい声にさえぎられた。
「あ!できた!!できましたよ風間さん!!虹!」
はしゃいだ声と同時に、水のしぶきが風間にもかかる。

はずんだ千鶴の声を聞いて、文句を言っていた風間も思わず微笑んだ。
「虹ができたか。俺には見えんがな」
しかし、まるで見えているかのように風間の心は鮮やかに染まる。
千鶴がホースから水をまきちらし、太陽の光を反射して水滴がきらめき、七色の虹が小さく橋をかけているのが目に浮かぶ。

千鶴の手が風間の手をとって、水しぶきの中へと導いた。
「濡れちゃいますけど……ほら、ここにできてるんです」
「目でもみれんし手でもさわれんな。匂いでもあればわかるが」
風間がそう言うと、千鶴は声を出して笑った。
「この世で本当にきれいなものや大切なものは、目には見えないし触れることもできないそうですよ」
「それではどんなものなのかわからんではないか」
千鶴は風間の手を離し、蛇口をひねって水を止めた。もう庭の木には充分水をやった。
「ほんとうに大事で美しいのは、それを感じる心なんですって」
「心?」
風間は眉間にしわを寄せる。心なんて目に見えなくて触れないものそのものではないか。
千鶴はホースをしまうと、風間を見て笑う。
「風間さん、びしょ濡れですよ…!って私のせいですけど。私も濡れちゃいました。はやく体を拭かないと」
可笑しそうに笑う千鶴に手を取られ、風間の思考は霧散した。


「はい、これどうぞ」
千鶴は、広い洗面室で戸棚の上から清潔なタオルをだして風間に渡した。
「まだ水浴びには早いな」
風間は受け取ったタオルで髪をざっとふく。
千鶴も自分のタオルをとり、そしてふと大きな鏡に映った自分の姿を見た。
髪から滴が滴っているし、白い薄手のパーカーもびしょ濡れで、下に着ている水玉のTシャツの模様が透けているほどだ。
虹を作ろうと頑張りすぎてしまった。
でも楽しかった。
最近風間と一緒にいる時間が楽しくて少し困る。
何が困るのかわからないが。
ちょうどこの洗面所の隣には洗濯機があるし…と千鶴は濡れて張り付いているパーカーを脱いだ。そして隣の洗濯室に半身入りそれを洗濯機に入れながら、綿のクロップドパンツも濡れて肌に張り付き動きにくい上にとても気持ち悪く冷たいことに気づく。
この状態で3階まで行って着替えて、また濡れたクロップドパンツを持ってここに戻ってきて洗濯機に入れてもいいのだが、今脱いでしまってもいいのではないだろうか?
千鶴はちらりと後ろの洗面室を見る。

風間の姿は見えないが、影と音から彼が洗面室で濡れた髪や体を拭いている様子がわかる。けれども風間は目が見えないのだ。
千鶴がクロップドパンツを脱いでショーツ一枚になったとして、それがなんだというのだ?今日は天霧もいないし掃除の人が来る予定もない。千鶴が自分からクロップドパンツを履いておらず、水玉のTシャツ一枚と下着だけだと申告しなければ、誰にも……もちろん風間にもわからないのだ。
千鶴が迷ったのは一瞬で、すぐ次の瞬間にクロップドパンツのウェストのボタンを外す。めくるようにして濡れたクロップドパンツをはぎ取ると、千鶴はそれを勢いよく洗濯機に入れた。
「ふう」
さっぱりした。
Tシャツはそれほど濡れていないし、髪は濡れてはいるもののタオルは巻いているし。
後は3階に行って着替えて、頭を乾かせばいいだけだ。

千鶴がそう考えて洗面室に入ると、ちょうどそこにはブルーのシャツを脱いでいる風間のたくましい背中が見えた。
「きゃ、きゃあああああああ!」
思わず千鶴が上げた悲鳴に、風間はびっくりしたように振り向く。
「なんだ」
「……い、いえ……」

濡れてしまっているのだし、上半身の濡れ具合は風間の方が激しいし、千鶴がクロップドパンツを脱ぎたかったように風間がシャツを脱ぎたかったとしてもおかしくはない。そこまで考えて千鶴ははっとして風間を見た。
案の定風間は、履いていたジーンズのウエストボタンを外し降ろそうをしているところではないか!
「か、かかかかか風間さん!何やってるんですか!ちょ、ちょっとやめてください!!」
千鶴が顔を真っ赤にして慌てふためいてそう言うと、風間は一瞬手を止めて、綺麗な赤い瞳を千鶴の方に向けた。そして見えていないはずなのに、見透かすようにニヤリと笑うと彼女を見る。
「……俺は気にせんぞ」
「わ、私は気にするんです!」
「脱いで見られるのは俺だろう」
「そ、そうですけど……」
そう言われると千鶴は何故必死になって風間が服を脱ぐのを止めているのかよくわからなくなった。
千鶴は風間の裸を見るだけで。別にみると気分が悪くなるようなものではないし、逆に今ずっと見えている上半身は意外に筋肉がきれいについていて腰はひきしまっていてなめらかだから、目の保養といえば保養なのだろうか?いやでも、ここは一応千鶴にとっての職場なのだ。
「セ、セクハラです!その…会社で裸で仕事するのはおかしいですよね?それと同じで……」
これも苦しい。ここは風間にとっては会社ではないのだ。でもどういえばいいのかわからない……
千鶴が困惑していると、風間が笑い出した。
腹の底に響くような低い声の、気持ちいい笑い声が洗面室に響く。
「わかった。ジーンズを脱ぐのは自分の部屋にしよう。濡れたタオルを洗濯機に入れて新しいのをとってくれ」
赤くなりながら千鶴は、風間が投げてよこした濡れたタオルを洗濯機に放りこもうとした。
その時、タオルに赤いシミが点々と散っているのに気づく。

「風間さん、これ……ち、血?どこか怪我したんですか!?」
風間はなんでもないような無造作な仕草で、左手をあげて見せた。
「ホースの口金の部分で切ったようだな。大して痛くもないし、大丈夫だろう」
「そんな…!ちゃんと消毒しないと。見せてください」
救急セットはちょうど洗面室に置いてある。
千鶴はそれを持つと、洗面台に浅く腰かけている風間に近寄り左手を取った。
灯りにかざして見てみると、左手の甲部分が横に擦れるように怪我をしている。傷は深くはないものの浅く広く擦って血も滲んでおり、痛そうに見えた。
「ちょっとしみるかもしれません」
千鶴は救急箱から消毒液を取り出すと、脱脂綿にしみこませた。そしてその脱脂綿をそっと風間の手の甲に押し当てる。
何か痛そうなリアクションがあるかと思ったが、風間は何も言わず何の動きもなかった。
千鶴は丁寧に傷口を消毒すると、まだ消毒箱の方へ行き、ガーゼとテープを持ってくる。

手当をしている間、風間は静かだった。いつも何かと文句を言っているのにめずらしい…と千鶴が視線をあげると、大きな鏡に自分たちがうつっているのが見えて、千鶴は再びぎょっとした。
ジーンズだけはいて上半身裸の風間が、洗面台に浅く腰かけ、その長い脚の間に千鶴が立ち、風間の手を両手で包むように持っているのだ(治療しているからなのだが)。さらに、その千鶴の姿は、髪は風呂上りのように濡れて、薄いTシャツ一枚で、下半身はむき出し。Tシャツはかろうじておしりの下にまで裾があるが、そのせいでまるでショーツすら履いていないような色っぽい姿になってしまっている。
千鶴は鏡の中の自分たちから目が離せず、食い入るように見てしまった。
まるで親密な行為の後の親密な時間のようではないか。見慣れた自分の姿も、風間のたくましい体の横にあると妙に女性らしく見えて、目のやり場に困る。

か、風間さんの目が見えなくてよかった……

顔がどんどん熱くなっていくのを感じながら、千鶴は再び治療している指先に視線を戻した。

治療に集中しようとするのに、千鶴の思考は風間に頬をなぞるように触れられたときのことを思い出してしまう。
探るように、まるで指の先で「見る」ように触れた風間の指……
それを思い出すと、千鶴のお腹の奥がじんわりと熱くなり肌の感覚がぴりぴりと敏感になる気がする。
体の毛が全部逆立ち、全身で目の前の風間の存在を感じようとしているような。
こんなことが風間に気づかれたらたいへんだ。仕事はまだ続くのだから普通の態度をとらないと!



必死で平常心を保とうとしている千鶴とは裏腹に、風間は、、先ほどから千鶴から聞こえてくる謎の音に頭を悩ませていた。
千鶴が動くたびに聞こえてくるかすかな音。庭では気づかなかった。
この洗面室が静かだから聞こえてくるのだろうか。

いったい何の音だ

これまではあまり聞いたことがない音だ。
衣擦れの音かと最初は思った。千鶴の今日の服がこすれる音かと。しかしそう言う感じではない。
なんというか、もう少ししっとりした感じなのだ。服や紙のようなカサカサした感じではなく。
髪が肩から滑る音か?
それも違うような気がする。
風間は千鶴に手をあずけ、消毒やらガーゼやらをやってもらいながら音に集中する。千鶴が動くたびにかすかに音がする。
千鶴が(多分)体をねじり、洗面台にあるはさみかテープを取ろうと体を動かしたとき、またかすかな音が聞こえる。
風間は頭の中で千鶴の姿を思い浮かべていた。立って手当をしている。その時に擦れる場所は……?
多分この音は、風間のカンでは千鶴の素肌が何かに擦れているのだと思う。しかし濡れた服ではこんな音ではないだろうし、となると肌と肌が擦れているということになるのだが、両腕がこんなに頻繁に擦れるとは考えられない。手のひらをこすり合わせる音課とも思ったが、千鶴の両手は今風間の手に触れているので擦り合わせて等いないことがわかる。
「千鶴」
「はい?」
「お前の今の服装を言ってみろ」
「は……ええ!?今の服装?」
千鶴は素っ頓狂な声をあげた。
「そうだ、何を着ている?」
「何をって……今日はシャツの上にパーカーをはおってました。パーカーは濡れちゃったので脱ぎましたけど」
「いや、上ではなく下だ」
「下…下は……」
千鶴は口ごもる。
風間に自己申告さえしなければいいかと思っていたのだが、この流れでは言わなくてはいけないような流れになってしまっている。
「な、なんでそんなこと聞くんですか?」
千鶴が必死に話をそらそうとすると、風間の眉間にしわがよった。
「なぜ答えたくない?」
自分の問いに的確に返事が返ってこないと、風間はいらつくのだ。千鶴は下唇を噛む。
「いえ……今日は…その、クロップドパンツです」
「クロップド……どんな形だ?」
風間がそう言って、千鶴の脚に確かめるように触れようと手を伸ばした途端、千鶴は飛び上がって風間の手を抑えた。
「あの!…あ、あの……その、クロップパンツでした。それも濡れちゃったので、今は脱いでます」
「……脱いで……」
「はい、だからその……し、下着はつけていますけど、その、ズボンは……はいてないんです」
千鶴が小さな声でそう言うと、風間は一瞬黙り込んだものの、しばらくして口を開いた。
「なるほど……」
つまりあれは、千鶴の太ももの素肌がこすれ合う音だったのだ。ひんやりしたような温かいような音。そして音の正体に気づきそれが音をたてる様を想像した風間の腹の奥には、抑えようのない欲望が湧き上ってくるのを感じた。

音をたてるそこは滑らかなのだろうか。
暖かいのか冷たいのか。
その両脚が自分の腰を包むところが見たい……

突然溢れだした自分でも驚くくらいの強い欲望。
あまりの強さに、風間はしばらくギュッと目をつぶった。
そしてふいにそんな自分が可笑しくて思えて笑いだす。
目から入ってきた刺激で興奮したわけではない。勝手に想像して興奮しているのだ。一体自分はいくつだ、と風間はあきれた。女性の脚を想像しただけでこれほど興奮するとは。
笑いながらも風間は何故か妙にすっきりして行くのを感じていた。

気になる物があり、欲しいと思う。
そうだ、自分は欲しいと思っているのだ。
それなら後はそれを手に入れる手段を考え最適な方法を分析し、実行すればいいだけだ。

笑い続けている風間を、千鶴は唖然として見ていた。
風間はかれこれ3分は笑い続けている。何がそんなにおもしろいのか、千鶴にはまったくわからなかったが、風間の目じりにはもはや笑い過ぎの涙すら浮かんでいた。
笑いがおさまってくると、風間は苦しそうに息を何度か深く吸い、また思い出したように小さく笑う。
そして千鶴を見て言った。
「病院に行くとするか」
「……頭の病院ですか?」
千鶴が不安気にそう聞くと、風間はまた深い声で笑い出した。
「そうだな、そのうちそちらの病院にも行く必要がでてくるかもしれん。が、今は視力の方だ」
「え……」
千鶴は驚いて風間を見る。
これまで何度も行くように言っても決して頷かなかった風間が。
「事故の直後に見てくれたうちの系列の病院がある。仕事部屋の机に名刺入れがあるからそこに電話をしろ。すぐに予約を入れて診てもらうこととしよう」
「は、はい…!わかりました。わか……わかりました!行く気になってくれてよかったです」
一体どうした風の吹き回しかわからないが、風間が自分から病院の話をするのも初めてだし、なによりも自分から診察に行くなどと言う言葉は、千鶴は聞いたことも無い。しかし千鶴をはじめ天霧も、そして風間の会社の社員達も皆、風間の視力が戻ることを願っている。そしてそれは病院に行ってはっきりさせる必要があることも、わかっていたのだ。
風間は楽しそうに洗面台にもたれて、微笑んだ。その姿はくつろいでいる美しい肉食獣のようだ。
「お前のその……Tシャツ一枚でいる姿を見たくなった」
「は?」
「本当にきれいなもの、たいせつなものは目に見えないし触れられないとお前は先ほど言ったな」
「……はあ……」
「俺は見たいし触れたい……いや触れる」
風間の言葉に千鶴は治療の手を止めて彼を見た。風間は楽しそうに微笑んでこちらを見ている。
「ジーンズ姿もスカートをはいてる姿も。ドレス姿、着物もいいかもしれんな」
「………」
風間はゆっくりと手を延ばし、千鶴の頬に触れる。
そして背中がゾクリとするような低い声でささやいた。

「全部見たくなった。何も着ていないところも」




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