はじまり



「なんでいつもこの通路通るワケ?」
突然話しかけられて、千鶴は通路の真ん中で立ち止まった。
「他にも通路あるじゃない?一日何回も通るんだから他の通路も使えば?」
冷たい表情と声で言う総司に、千鶴は固まる。後ろの席の原田が、とりなすように口をはさんだ。
「なんだよ、別にいいだろ?誰でも通るよ、そりゃ。通路なんだから。千鶴以外だってたくさん通ってんじゃねぇか。なんで千鶴にばっかそんなこと言うんだよ」
「気が散るんだよ。千鶴ちゃんが通ると」
「……」
「パソコン覗き込んでても視界の端に入ると気になるし、なんかいい匂いがするし……仕事に集中できなくて困るんだよね」

「す、すいませんでした……。これからは他の通路を通るように……」
涙をこらえながら言う千鶴の言葉を、原田はあきれたようにさえぎった。
「あ〜いいよいいよ。気にすんな。それよりちょっと3人で休憩しようぜ。千鶴、ちょっと先に行って喫茶室の席、取っておいてくれねぇか?俺たちすぐ行くからさ」
反論しようとした総司の口を押えて、左之が言った。千鶴は瞬きで滲んだ涙をかわかして、それでも気丈にうなずき、喫茶室の方へと歩いて行く。
声がとどかなくなるほど遠くに行ったことを確認してから、原田は総司の口を押えていた手を離した。
途端に総司が文句を言う。
「何?左之さん僕忙しいんだけど。休憩してる暇なんて…」
「わかったわかった。今から俺が言うとおりにすれば、気も散らなくなるし集中力UP間違いなしだ。いいか?」
怪訝な顔をして頷く総司に、左之は言った。
「喫茶室はお前ひとりで行け。んで今日の夜千鶴を誘って二人で夕飯食べて飲んでこい。いきなり手はだすなよ。千鶴の性格からしたら逃げられるからな。一週間に2〜3回くらい誘って1か月後くらいにお持ち帰りしちまえ。うまいことやって半同棲くらいにまで持ち込めたら、千鶴がここの通路通っても気がちらねぇよ」
仕事する気がなくなるかもしれねーがな。原田は心の中でにやりと笑いながらそう思った。


    


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