【Let's cooking! 1】
総司と一と平助は高校卒業、大学入学前の春休みで、千鶴は4月から高校三年生になる前の春休みです。「青は藍より……」「Blue Rose」の延長線上の設定です。
!!ATTENTION!!斎藤さんのお話(沖千前提)です。興味のない方、オリキャラ苦手な方はブラウザバック!


                                                                     





  春休みの朝9時。
家で朝ごはんの片付けをしていた千鶴の携帯が鳴った。
表示を確認すると……総司。

千鶴は濡れた手をタオルで拭いてから通話ボタンを押した。
「おはようございます。先輩」
『う〜ん……。まだ起きてないから、おはよう、じゃないよ〜。』
「ふふっ。もう受験も終わったしのんびりしてるんですね」
『一君ちでね。平助もいるよ。千鶴ちゃんが泊まりに来てくれないからさ〜。』
千鶴は赤くなった。携帯で、この顔を見られなくてよかった……と思いながら言う。
「……泊まりに…行ったじゃないですか……」

思わず小さくなってしまう声。
エッチ解禁になったんだから、と総司におねだりされて、薫と父親には女友達と旅行に行くと嘘を言って総司の家に泊まりに行ったのだ。その時のことをいろいろと思い出すと、恥ずかしさに身が縮む。
『あの時は幸せだったな〜。はやく千鶴ちゃんと一緒に暮らしたいよ。』
「……」
何と答えたらいいのかわからなくて、千鶴は赤くなったまま黙り込んだ。一緒に暮らしたいのは千鶴も同じだが、たいへんそうだな、と思う。…いろいろと。
『それでさ、さっき一君が、起きろ、って言ってきて。でも起きれないんだよね〜、千鶴ちゃんが起こしてくれないと。』
「は?」
『だから起こしにきて♪』
「斎藤先輩の家まで、ですか?」
『うん』
当然のように言う総司に、千鶴はあきれた。
「うちから斎藤先輩の家まで30分以上かかりますよ?」
『ちゃんと待ってるから大丈夫』
「大丈夫って……。別に心配してるわけじゃ…」
『じゃ、待ってるからね♪』

 ガチャ

一方的に切られた携帯電話を見つめながら千鶴は溜息をついた。

 

 ピンポーン

 

インターホンに一は玄関のドアを開けた。

「おはよう…ございます…。すいません。沖田先輩が……」

後ろめたそうに顔を赤くして汗をかいて小さくなっている千鶴を見て、一は溜息をついた。
「総司か……」


入るように千鶴を促しスリッパをだしてやる。すいません、と小さく謝りながら千鶴は玄関においてある総司と平助の靴をよけて一の家へとあがった。
「今ちょうど朝メシを作ろうとしていたところだ」
「あ、じゃあお手伝いします」
それで朝ごはんができたら、沖田先輩を呼びにいくついでに起こせばいいよね。
千鶴はそう思いながらコートとカバンをダイニングの椅子の上に置く。
「平助君も寝てるんですか?」
真っ暗な廊下の向こうのリビングをみながら千鶴が聞くと、一は小さくうなずいた。冷蔵庫からベーコンと卵を取り出す。
「ベーコンエッグとブロッコリー。あとは…」
「パンですか?ご飯ですか?」
「ご飯だ。おれは朝はコメでないと力が出ない。味噌汁は豆腐にするか……」
和洋折衷だが、おいしそうだ。千鶴は何をしようかとあたりを見渡した。それに気づいた一がベーコンを差し出す。
「コメはもうスイッチが入っているから俺は味噌汁をつくる。千鶴はベーコンエッグをつくってくれ」
「あ、はい」
「ベーコンは弱火でカリカリになるまで放っておいてくれ。そしてそれを取り出して目玉焼きを……」
「わかりました」

 おいしそうにカリカリになったベーコンを取り出して、今度は卵を三つ割りいれる。じゅわっと音がして卵がフライパンででろんとのびた。一がカップに入った少量の水を千鶴に渡す。千鶴は不思議そうに受け取った。
「?水ですか?」
「そうだ。もう少ししたら水を入れて弱火にして蒸し焼きにする」
「そうなんですか。目玉焼き、そんな風な作り方したことなかったです。普通に中火で焼くだけで…」
千鶴の言葉に一は彼女を見た。しばらくそのまま千鶴を見つめ続ける。視線を動かさない無表情な一に、千鶴はだんだん居心地が悪くなってきた。
「あ、あの…?」
千鶴がそう言うと、一ははっとして、水をフライパンにいれ素早く蓋をして火を弱めた。
「すまん。ちょっと思い出していた」
何を思い出していたんだろう…?と千鶴が不思議そうにしていると、一はフライパンを見ながら話しだした。

「黄身がトロリとなるのがいい人間や、黄身まで火がとおっているのがいい人間や、目玉焼きにはいろいろ人の好みがあるとは思うが……。目玉焼きは俺が初めて人のために作った料理で、その人間は黄身まで火がとおってるのがよいが白身は固すぎないのがいい、という好みだったのだ」
フライパンを見つめながら静かな声で話す一を、千鶴は見つめた。

 


 「はじめ〜。ふみに目玉焼きつくってやって〜」
母親の声に顔を洗っていた一は顔をあげた。
「わかった」
そう言ってタオルで顔をふく。一、小学校5年生。妹のふみは5歳。何故か目玉焼きは一がつくったものしか食べないのだ。
「そんなにはじめの目玉焼きおいしのかしらねぇ。作り方だって私のと同じなのに」
そうぼやく母親に、ダイニングのふみが言う。
「お母さんのは毎回違うもん。白身がどろどろだったり黄身が硬すぎたり。お兄ちゃんのはいっつも同じで美味しいんだ♪」
「おれは毎回時間をはかり、火の調整もミリ単位でやっているからな」
淡々とという一に、母親は、そんなこと毎回やってらんないわよ、と言って一に卵とフライパンを渡す。

「目玉って言うんだから、黄身が二つある目玉焼きが食べたいな〜」
いつも同じことを言う妹に、一もいつも同じ言葉を返す。
「卵は一日一つだ。それ以上はカロリーとコレステロールが多すぎる」
一の返答に、父親と母親が顔を見合わせるのもいつもの事だった。
母親がご飯をよそいながら一に言う。
「あ、今日はふみの定期検査の日だからお父さんとお母さんとふみは午後から出かけるわよ。夕飯には帰って来るからね。あんたは剣道の道場の日でしょ。ちゃんと行くのよ」
「わかっている」
フライパンに卵を割りいれながら一は答えた。

 一と歳の離れた妹のふみは、病弱だった。生まれたときから問題を抱え薬療法を続けてなんとか通常通りの生活を送り、幼稚園にも行っているが週に一度病院に検査に行く必要があった。たいてい土曜日の午後に両親とふみで病院に行く。ふみが小さいころは、夜に体調が悪くなり急遽両親が家を空けることが多々あった。そのたびに一は家に一人のこされて、食事は自分でなんとかしなくてはいけなかった。母親はレトルトやそのまま食べられるもの、カップラーメンなどをいろいろ常備してくれていたが、数を重ねるとたとえ小学生でもさすがに飽きる。一は、最初は火を使わずにできるものや、ホットプレートや電子レンジでできるもので工夫していたのだが、だんだんと料理の腕もあがり、一の慎重な性格を見極めた母親から、小学5年生の今では包丁と火を使うことを許されるようになっていた。
そして一の目玉焼きのファンであるふみからは、たとえ母親が家にいるときでも一の目玉焼きをリクエストされるまでになっているのだ。

 もともと面倒見のいい一は、歳の離れた妹が自分に料理をせがむのは嫌ではない。……というより嬉しい。
こうしたらどうか、あれを入れたら?などと美味しそうに食べてくれるふみの顔を想像しながら料理するのは楽しかった。両親はふみにかかりきりで、もともと年の割には異様にしっかりしている一をほぼ放任している状態なのだが、一は、しょうがない、と冷静に受け止めていた。妹はかわいいし、さびしくないわけではないが、助けを必要としているのは明らかに妹の方だ。まだ小さいし体も弱い。我ながら自分は小学生にしてはかなりしっかりしているという自覚もあり、我慢するのは当然だと思っていた。


 「ほら」
そう言って妹の前に目玉焼きの皿を差し出すと、ふみはふんわりと花が咲くように笑った。
その顔が、もう少し年上の別の女性…ポニーテールのような髪型に着物を着て、零れ落ちそうなくらい大きな瞳をしている知らない女性に重なり、一は目をぎゅっとつぶって頭を振った。

 なんなんだろう…。これは。


最近かなり頻繁に見るようになった夢…。小さなころからたまに見ていたが意味が分からず単なる怖い夢だったのが、最近の夢は妙にリアルになってきていた。
斬るか斬られるかの刹那の緊張感、相手の肉を断った時の感触、飛び散る血潮……。現代ではありえない野蛮な夢だ。今の自分と同じ歳のころの夢も見る。まるで時代劇のような世界の中で、自分は両親とは疎遠で、いつも一人ぼっちだった。衣食住については不便はなかったが、道端で他の親子づれを眺めながら、なぜ自分の両親は自分に興味がなさそうなのか、と考えている夢だった。

 どちらにしても、あまり楽しい夢では…、ない。

両親に相談しようにも、夢が怖い、だけではあいまいだし、また両親の心労を増やすだけなので、一は特には誰にも言わなかった。

 

 

 

 
 「生意気なんだよ!」
「中堅に選ばれたからっていい気になりやがって」

 いい気になどなってはいない……。と何度言っても相手に聞く気がないのならしょうがない。

一は溜息をついて道場の道具入れの壁に押し付けられるままになっていた。相手は小学6年生と中学生。道場の先輩だが後から入った一に実力で抜かれてしまっていた。それが気に入らないらしく以前から何度か嫌がらせを受けている。一は性格からか特に反抗するわけではなく、文句をつけられれば、「そうか、すまなかった」と謝り、目障りだ、と言われれば、できるだけ彼らの視界に入らないよう道場の隅にいるようにしていたのだが、そうのような態度が却って彼らのいら立ちを募らせていたようだ。とうとう今日、5人ばかりに囲まれて、先生や見学の親たちに見えない場所でつるし上げられていた。

 早く帰らないと夕飯に遅れるな……。

ぼんやりとそんなことを考えていた一の頬に、相手の拳骨が入った。
「うっ!」
横に倒れた一を、中学生が蹴る。よほど怒りがたまっていたのか彼らの暴力は手加減無だった。しばらく耐えていれば諦めるかと一は思っていたのだが、収まりそうにない。
「左利きのくせに…!!」
憎々しげにそう言って、左の手首を足で思いっきり踏みつけられたとき、一はぶちっと脳のどこかで何かが切れる音がした。目の奥が真っ赤になるのがわかる。

 

 ああ……。この感じだ。夢の中で抜き身と対峙するといつも現れる……。



自分の中の獣が目を覚ます感覚。

 

懐かしいような恐ろしいような気持ちで、一は、右手で踏みつけている足首を掴みそのまま立ち上がる。
「うわっっ!!」
足首をいきなり持ち上げられた少年はバランスを崩し背中から床に転がった。

 「やるからには、やられる覚悟もできでいるのだろうな……」

床に転がっていた木刀を左手で持ち、そう言いながら、ゆらり、と立ち上がった一は、小学生とは思えない殺気をまとっていた。


 

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