【次の日の出来事 沖田総司】
総司大学三年生、千鶴大学二年生の冬の一コマです。SSというより小ネタです。「ある夜の出来事」の次の日設定です。

 

 

 「え?覚えてないんですか?」
「うん、忘れた」
爽やかに笑っている総司の顔を、千鶴は疑わしげに見た。
「僕、なんか言ってたの?」
「……最後の方……。いたずら電話で変なことを言ってくる人みたいになってました」
「全然覚えてないなぁ。ほんとにそんな変なこと言ってたの?」
きわめて怪しいとは思いながらも、千鶴は追求をするのはやめた。

 二人は今、昨日の後遺症で風邪で寝込んでいるという平助のお見舞いに、一人暮らしの平助の家へ緊急物資(オレンジジュース、ボカリ、レトルトおかゆ、カップうどん、等々)を運んでいる途中だった。昨日酔ったままタクシーに乗せられ、コートも財布もないまま寒空で放置されていた平助は、翌日の今日、風邪をひいて寝込んでしまっていたのだ。放っておけばいい、と言う総司を千鶴は怒って一緒に連れてきた。全く反省の色のない総司を説得して、なんとか謝罪の言葉と、使い込んでしまった平助のお金と、財布を平助に渡しに向かっている所だった。

 「ところで薫にはちゃんと言ったんだよね?」
「?何をですか?」
「今日外泊するってさ」
「……」
千鶴は総司の顔を見上げた。総司は『何?』という顔で千鶴を見返す。
「昨日約束したでしょ。今日僕んちに泊まるって」
「……やっぱり昨日の電話の内容、覚えてるんですよね……?」
千鶴の追求を、総司は平然とかわす。
「途中までね。途中から酔いがまわっちゃったのかなぁ……。全く覚えてないんだよ。でも今日千鶴ちゃんが僕んちに泊まってくれる、って約束したところはきっちり覚えてるから」
「……苦しいですよ、沖田先輩」
「?別に苦しくないよ?全然」
千鶴の嫌味も余裕で受け流し、総司はさらに詰め寄る。
「で?平助の家に行ったあとは僕んちに一緒に行くんだよね?」
千鶴が返事をする前に、平助の家についた。

 平助は彼らしく、まぁいいよ、どうせ総司だし……。と意味不明な理由で総司を許してくれた。ただ……。
「俺今日単発のバイトがはいってんだよ。道路工事の交通整理。夜の11時まで。こんなで行けないし、総司かわりに頼む」
「いや……」
「沖田先輩」
即答で断ろうとした総司に、千鶴がキラキラした目で重ねる。
「よかったですね!バイトかわってあげれば許してくれるって!平助君も助かるし…」
別に平助になんか一生許してもらわなくてもいいよ、と思いながらも総司は断りにくくなった雰囲気にとりあえず言葉を呑んだ。
「……じゃあ、バイト行ったら千鶴ちゃん、僕んち泊まる?」
「う……」

こうして奇妙な交換条件が成立した。
平助は昨日の総司の仕打ちを許す代わりに、今日のバイトを総司に行ってもらって。
総司はバイトに行くかわりに、千鶴を自分の家に泊まらせて。
千鶴は……、千鶴は特に何もしていないのに、何故か薫に嘘を言って頼み込んで、今日総司の家に泊まりに行くことになっていたのだった。


 「はい、オーラーイ、オーラーイ」
凍えるような寒さの中、道路工事のトラックを誘導したり、通行する車のために停止を指示したり。
ぶちぶち言いながら総司は平助から託されたバイトをこなす。バイト時間は3時間。

 今夜は千鶴ちゃんの手料理を食べて、いっしょにテレビでも見ながらいちゃいちゃして、お風呂も一緒に入るよう口説いたりして、楽しい夜を過ごそうと思っていたのに……。

総司はかじかむ指先に息を吹きかけて暖める。夕飯はバイトに行く前に千鶴が作ってくれたが、その後の楽しい予定はすべてチャラだ。
だってなんとなくもうオチはわかる。

 すっかりへとへとになって家にたどり着いた総司は、やっぱり……と、自分の想像があたっていたことを悟った。
暖かくあたたためられた自分の部屋。千鶴は床に置いてある机の上につっぷしてスヤスヤと眠っていた。
壁の時計は夜の12時半。千鶴が眠ってしまうのも無理はない。

 総司は溜息をついて髪をかき上げた。しばらく千鶴の幸せそうな寝顔を立ったまま見つめる。
そして眠ったままの千鶴をゆっくりと抱き上げて自分のベッドへとそうっと寝かせた。布団をしっかりかけてあげると、総司は風呂へと向かう。

 千鶴が入れておいてくれた風呂につかって温まり、清潔なTシャツとジャージを着ると、総司は部屋の電気を消して千鶴の横にもぐりこんだ。千鶴の肩の下に自分の腕を入れる。千鶴は、ん……、と小さく呟いて総司の方へ寝返りを打つと総司の顎と耳の間に顔を落ち着けて安心したように溜息をついてまた眠り込んだ。総司はそんな千鶴に反対側の腕もまわして、彼女のいい匂いのする髪に頬を押し当てて。

 神様が何故か自分に与えてくれた幸運を抱きしめて、総司は眠りについたのだった。


 

 

 

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