「なんでもないんだよ。知らない人」
そう言ってにっこりほほ笑む総司に、一と平助はガクンとずっこけた。
いやいやいや、知らないはずねーし!!
iPodを渡されていただろう……!
二人は心の中で総司につっこむが、緊迫した雰囲気の千鶴と総司の間には口をはさめない。
千鶴はポロリと毀れた涙をぬぐおうともせずに、総司を見ている。
……すまんが、平助。走ってここから逃げ出したいんだがいいだろうか。
ずりっ!一君!俺も一緒に連れてって!
平助と一が、いざ走り出そうとした瞬間に、千鶴が口を開いた。
「嘘です……。あの人、沖田先輩のこと知ってました。沖田先輩だって……。なんでウソつくんですか?」
「ああ……えーと……。さっき僕の落としたiPodを拾ってくれたんだよ。それだけ」
さらりと答えているように見えるが、総司の額には汗が光っているのが平助と一には見えた。千鶴ももちろん気が付いていて……。
「……先輩、iPod先週から失くしたって言ってました……」
「……あれ?そうだっけ……」
い、息ができない……!
しっかりしろ!平助!!苦しいのはお前じゃなくて総司だ!
「はっきり言ってください。先輩、先週、あの人の家に行ったんですよね?」
「行ってない!全然!全く!」
あくまでもしらを切りとおそうとする様子の総司に、千鶴はだんだんショックというよりも腹が立ってきた。
「先輩……。先輩があの女の人の家に行ったりするような、そういうことをしたいんなら、もう私となんかつきあうのやめてどんどんすればいいじゃないですか…!」
「千鶴ちゃん、違うんだよ。誤解で……!」
「誤解じゃないです!もう……、もういいです!私だって……私だって……!」
千鶴はそう言うとくるっと後ろにいる平助と一を見た。
「……」
そのまま見つめてくる千鶴を、平助と一は息を呑みながら見つめ返す。
お、俺は何もしてねーぞ!!共犯でもねぇし!今初めて総司がそんなことしてたの知ったし!
俺もそうだ。なんだ、いったい何がはじまるんだ……!
何故か何もしていない平助と一も、千鶴に怒られているような気分になってきて、じっとりと額に汗が浮かぶ。
「へ、平助君!斎藤先輩!!」
「「は、はい!!」」
「どちらでもいいので、わ、私と……う、ううう浮気をしてくれませんか!!」
!!ドッカーン!!
本当に爆弾が落ちたように、4人は固まった。
一番最初に我に返った総司が口を開く。
「ちょっ……。ちょっと待って……ち…」
「沖田先輩は、何も言う資格はありません!」
千鶴の即答に、総司は黙り込んだ。次はさすが幼馴染、平助がなんとか千鶴を落ち着かせようと話す。
「あのさ……、おまえちょっと落ち着けって……。総司の話も聞いて……」
「……沖田先輩、本当のこと言う気あるんですか?」
自分を見る6つの眼に、総司の頬を脂汗がだらだらと伝う。前門の虎後門の龍とはまさにこのことだろう。
返事をしないまま固まっている総司から視線をそらして、千鶴は再度平助たちを見る。
「さ、斎藤先輩はどうですか…!わ、私じゃだめですか……?」
「いや……。別にダメではないが……」
茫然としながらも、一は素直に問に対する答えを口にした。
「!っちょっ…!ちょっと一君……!」
「沖田先輩、何か言う事、ありますか?」
ギロリ、そんな音がしそうな目で千鶴が総司を見た。
もうだめだろ総司!素直に言って謝っちまえ!!
平助が必死にジェスチャーで謝るように、総司に言う。
総司は相変わらず茫然としたまま口を開いた。
「し……知らない……」
あくまでもしらを切りとおそうとする総司に、一の表情も険しくなる。一はスッと一歩前にでると、唇をぎゅっと噛みしめている千鶴のこわばった肩をそっと抱いた。
「……行くか」
千鶴は一の顔を見た。あいつはすこしこらしめてやればいい、というような一の表情に、千鶴もうなずく。
「……はい」
千鶴はそう言うと、一とともに総司に背をむける。最後にちらり、と千鶴は冷たいまなざしで総司を見てから歩きだした。
もう理解を超えてしまっている展開に、総司は去って行く二人の背中を見つめながら茫然とたちつくしていた。
平助にはそんな総司になんと言葉をかければいいのかわからず、憐れむような目で見ることしかできなかったのだった……。