【僕と彼女たちの一年間  冬 春 夏】
青藍シリーズ「something blue」、SS「とらいあんぐる」の後のSS…というより小ネタ集です。
かけているわけではありませんが
子ネタです。苦手な方はブラウザバックでお願いします。
時系列的には、沖田さんの海外留学が終わって日本に帰ってきてからの一年間です。














 






「たーたーん」
総司と並んでソファに座りテレビを見ていた千鶴の胸に、甘え泣きをしながら千代が潜り込んできた。
さっきまでつづきになっている子供部屋で機嫌よくブロックで遊んでいたのだが、ブロックを踏んだせいで痛い思いをし、甘えにきたようだ。
「はいはい」
千鶴が慣れたしぐさで抱き留めると、千代は当然のように千鶴のセーターの裾をたくし上げ、ブラを下に下げておっぱいに吸い付いてくる。

 こくこくこく……。

幸せそうにおっぱいを飲んでいる千代を、千鶴が微笑みながら眺めていると、隣で総司が覗き込んでいるのに気が付いた。千鶴は、なんとはなしに体をずらして総司に見えないようにする。
「……なんで見えないようにするのかな?」
総司の言葉に、千鶴は頬を少しだけ染め首を傾げながら答えた。
「……少し……恥ずかしいから…?」
「恥ずかしいの?あんなところやこんなこともう知ってるのに?」
「ほら、そういうことを言いそうだから、見えないようにしたんです」
千鶴は頬を膨らませる。
飲み終わった千代が、千鶴のブラもセーターもはだけさせたまま、またおもちゃ部屋へと戻って行く。慌てて服をなおそうとした千鶴の手を抑えて、総司が千鶴の瞳を見た。その表情に千鶴はいや〜な予感がする。

「……飲ませて」
「……はい?」
「僕にも飲ませて」
「……」
唖然として固まったままの千鶴の胸に、総司が顔を寄せる。はっと我に返った千鶴は必死で総司の頭を押し返そうとした。
「だっダメです!!」
「なんで?君は僕のモノでしょ?じゃあ君のおっぱいも僕のモノで、ってことは母乳だって僕が飲んでもいいんじゃない?」
「こっこれは赤ちゃんが飲むもので……」
「別に大人が飲んでもいいでしょ。千代ばっかりずるいなぁ」
「ずるいって……」
総司はいったん体を起こすと、千鶴の手首をがっしりと掴み、抵抗できないように押さえつけた。
「だって、千代はもう普通のご飯も食べるじゃない。もっと早くに母乳をやめてる子だっているんでしょ?ってことは千代にとっても千鶴のおっぱいは完全な嗜好品なんだよ。それなら僕だって権利あるでしょ」
「〜〜!……なんで飲みたいんですか!?牛乳とかならあるんで……」
「え〜?やっぱりこっちの方がおいしそうだし?いろんな意味で。……ほんとにすごくおっきくなったよね……」
総司の視線から、千代の事を言っているわけではないことはわかる。

ぱくっ。
「あん!」

いきなり吸い付かれて千鶴は思わず甘い声をあげてしまった。頬を真っ赤に染めながら千鶴は言う。
「総司さん…!電気もついてるしお風呂も入ってないし……。千代だってすぐそばにいるのに…!」
「千鶴はやらしいね〜。僕はそんな不埒な思いで君の胸を吸ってるわけじゃないよ?人類が皆、生まれ落ちた瞬間から口に含む神聖な飲み物の味を知りたい、という崇高な思いでだね……」

なんだかさらに胸に夢中になっている夫の屁理屈に、千鶴はあきれながら目をぎゅっとつぶったのだった。

 

 

 

 

 

 







「無事入学おめでとう。それと卒乳も」
ちん、とグラスが重なる音がして、総司がワイングラスを千鶴のそれに軽くあてた。
「ありがとうございます。入学…というより復学ですけど……。卒乳も……もうすぐ二歳ですもんね……」
千鶴が恥ずかしそうに言う。隣で千代が、自分も乾杯がしたいとオレンジジュースのはいったプラスチックのコップをもちあげてアピールしているのに、総司がワイングラスをあててやる。

 今日は、千鶴の復学と、千代の保育園入園祝いのささやかな自宅でのお祝い夕食だった。総司の好きなものと千代の好きな物を並べた食卓で、千鶴は授乳が終わったおかげで久しぶりに飲むことのできるようになったアルコールを味わう。千鶴は別にアルコールが大好き!というわけではないが、それでもワインや甘いお酒は好きな方だ。飲まなければ飲まないで平気だが、やっぱり飲めるとなると嬉しい。
総司の眼がキラリとひかっているのには気づかず、千鶴はワイングラスに唇をつけた。


 「……総司さん……」
妙に真剣な顔でこちらを見ている千鶴に、千代のにんじんを食べてやっていた総司は言う。
「何?千鶴」
「総司さんってなんでそんなにかっこいいんですか……?」
ブッ!
総司は思わず口に入れた人参を噴き出しそうになった。
「ええ!?」
もう一度改めて千鶴をよく見てみると、目じりがほんのりと赤くなり、大きな黒目がちの瞳はこころなしかトロンとしているような……。
「もう!?はやくない!?まだグラスに半分も飲んでないよね?」

そう、千鶴は酔っぱらうとデレるのだ。それを知ってから、総司はいつも千鶴を酔わせようとしてきた。今日もそれを少し期待はしていたが、それにしても早すぎる。まだ三口くらいしか飲んでいないはずなのに。実際総司も千代もまだ夕飯が半分程度しか済んでいないし、千鶴にいたってはほとんど食べていない。

 !……そうか……。ご飯食べる前に飲んじゃったし、妊娠やら授乳やらで3年近く全く飲んでいなかったし、酔いがまわるのが早くなってるんだ……!

「総司さん……」
千鶴は本格的に隣の総司に向き直り、総司の肩に頭を寄せる。総司はとりあえず箸を置いて、どうしようかと考えた。
「ちょっと…ちょっと待ってね千鶴……。嬉しいけど、今は……」
「総司さん、こっち向いて下さい」
ぐいっと千鶴の手が総司の顎にかかり、自分の方を向かせる。至近距離で潤んだ瞳で、千鶴は総司をほれぼれと見上げた。千鶴の細い指先が、総司の唇をそっと撫でる。
「……おいしそう……」
千鶴のその言葉に、不覚にも総司はぞくっとして反応してしまった。目の前では千代が夕飯をぐちゃぐちゃにしながら美味しそうに食べている。しかしもうお腹がいっぱいになったのか、食べる…というよりは遊びだしてしまっていた。総司はすっかり食欲が失せ、かわりに別の欲がムラムラと出てくる。
総司の首に絡めてくる千鶴の細い腕をなんとか解いて、総司は席を立ち千代の前の皿と机を片付けた。千代の手を拭いていると後ろから千鶴が総司の腰に手を回してきた。
「……総司さん」
「待って待って。今千代の手を……!」
「総司さん、キスしてください……」
「ちょっ……!ちづ……!」
総司は、千代の手を拭いた姿勢のまま、千鶴に強引に両頬を抑えられて千鶴の唇を重ねられた。熱い吐息と温かい舌が優しく絡んでくる。
「とーたん?あにしてんの?」
千代の声ではっと我に返った総司は、気を取り直して、とりあえず絡んでくる千鶴を適当にいなしながらマッハで千代と机をきれいにして、TVのリモコンを手に取る。
「総司さん、あったかい……」
ピピピ……、とリモコンを操作している総司のシャツの襟元のボタンを、千鶴は一つ一つ外すとスルリと手を総司の服の下に滑り込ませる。
意識をもってかれそうになるのに必死に抗いながら、総司は録画してあった番組を呼び出した。

「ほら!千代、トトロだよ〜!って千鶴!どこに手をいれて…!あとちょっと。あとちょっとだからイイ子に……あっ!ダメだって…っ」

『♪隣のトットロ〜トットロ〜♪』

聞きなれたテーマソングが聞こえてくると、不思議そうに総司の足元で二人を眺めていた千代が、はっとテレビに反応した。
ててて……っとソファの前側に回り込みテレビの前に座り込む。
「おなりのおっとろ〜♪」
一緒になって歌いだしている千代を横目に見ながら、総司は腕をからませてくる千鶴を抱き上げて寝室に向かったのだった。


 
            とーたんは、おとろがおわるまでねんねのおへやからでてきませんでした。


 「あ〜……、千代。トトロ終わった?」
千代がエンディングを見ていると、寝室からジャージの下だけをはいた総司が出てきた。
「たーたんは?」
「おかあさんは寝ちゃったんだよ。千代、いっしょにお風呂入って寝よっか」
二人で手をつないでバスルームへと向かう。
ちょっとやりすぎちゃったかな……、と苦笑いしながら頭を掻いている総司を、千代は不思議そうに眺めた。

 

 

 

 

 

 









 「沖田さん、奥様からお電話が入ってます」
隣の社員からそう言われて、総司は不思議に思いながら受話器をあげた。
「千鶴?どうしたの?大学は?」
『お仕事中にすいません…。大学は終わって、今千代と総司さんの会社の近くの公園にいるんです。今日、残業はしないって言ってましたよね?』
「うん。あと……」
総司はそう言って振り返り、職場の壁にかけてある時計を見た。
「あと30分くらいで終りだから、帰るつもりだけど?」
『あの、そしたら一緒に帰りませんか?』
「いいけど……」


 総司が受話器を置くと、隣の席の同僚がからかうように言った。
「奥様のお迎えですか?いいですね〜。新婚って」
「ん〜?結婚してからもう2年になるけど、それでも新婚?」
再びPCに向かってメールの続きを打つ総司に、同僚が再び言う。
「え?2年?そうなんですか?なんか雰囲気が……、こう初々しい感じだったんで、てっきり新婚なんだとばっかり思ってました」

 万年恋人夫婦だからね。

にやにやしながら総司は思う。
そう、千鶴の初々しさはいつまでもかわらない。相変わらず丁寧な言葉遣いだし、恥ずかしがり屋だし、控えめだ。
そんな彼女が、自分の大学が終わってから千代と一緒に総司の会社まで来て、総司の帰りを待つ、なんてことは初めてだった。

 これは多分、『早く会いたかったから』とかじゃないよね……。アレかアレか……、それともアレがあったかな?

どちらにしても何か困って半泣きになっている千鶴を想像すると、楽しくてゾクゾクする。
早く終わらないかな、と思いながら総司は仕事をサクサクと片付けて行った。


 総司が、会社の近くの大きな公園に行くと、ぱっと千鶴が気が付き千代が駆け寄ってきた。
「とーたーーーーーん!!」
飛び込んでくる千代を抱き留め、後ろから複雑な顔をして近づいてくる千鶴に、総司は言った。
「また鍵を失くした?」
突然の総司の言葉に、千鶴は一瞬驚いたものの、すぐに頬を染めて首を横に振った。
「ちがうの?じゃあ、財布?」
千鶴はまた首を横に振る。
「じゃあ……、また強引にコンパにさそわれた?違う?変な男につけられた?夕飯を焦がした?羽アリが大量発生した?」
最後の言葉に千鶴がぴくりと反応した。
「ち、近いです……」
千代を抱きながら二人で駅まで歩き出す。総司は首をかしげた。
「羽アリが近いの?じゃあ……、アリ?それともまさか……あの、黒くてぬめぬめしてて素早いやつ?」
「そうなんです!!昨日千代がベランダの網戸を少し開けたままにしていたみたいで、さっき家に帰ったら、それが……」
「大量発生?」
ぶんぶんぶん!!
音がしそうなくらい千鶴は首を振った。
「た、大量発生とかではないと思います。多分一匹だけ、その隙間からはいったんだと……」
「それで戦う前に逃げてきちゃったんだ」
千鶴は真剣な顔でコクリとうなずいた。
「今日僕が残業とか出張だったらどうしたのさ?」
「ホテルに泊まります」
きっぱりと言い切った千鶴に、総司は思わず吹き出した。
「君、あの虫の何倍の大きさだと思う?あいつら、ぜったい君の事怖がってるのに……!!」
「そういう問題じゃないんです!それで総司さん、退治してくださるんですか?くださらないんですか?」
怒ったように言う千鶴に、総司ははいはい、と軽く返事をした。
「退治させてもらいますよ。かわいい奥さんのためにね。…今回はお風呂中じゃなくてよかったね」
悪戯っぽくウィンクをした総司に、千鶴はキョトンとする。
「まぁ、今の君が助けを呼ぶのは僕だけだろうから別にいいけどさ」


シューーーーーッ。
「はい終了」
総司が家に帰るとちょうどそいつは玄関にいて、絶叫をあげて飛びずさった千鶴を後目に、総司は殺虫スプレーをとるとすぐにそいつをやっつけた。
「千鶴〜?やっつけたから出ておいでー」
マンションの廊下の端っこでこちらをうかがっていた千鶴と千代は、その言葉で恐る恐る近づいてきた。
千代は何が起こっているのかわからず、すたすたと玄関の中に入って行く。
「こえなに?」
そう言って千代は、それの死骸の前にしゃがみこみ……。

「ーーーーーーーー!!!!!!!!!」
千鶴の声にならない雄叫びと共に、千代はそれに指を伸ばした。
「おっと、千代。それはばっちいから触っちゃだめだよ〜」
すんでのところで総司が千代の手を掬い取る。
「じゃ、片付けるからもう君も入っていいよ……って千鶴?」
「たーたん?」

千鶴は立ったまま気絶していた。

 

 

 

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