【ある夜の出来事 雪村千鶴】
総司大学三年生、千鶴大学二年生の冬の一コマです。SSというより小ネタアホ話です。「青は藍より……」「BLUE ROSE」の延長線上のいつかの設定です。







 ドスン!
ドアに人が勢いよくぶつかったような音がした。しばらくして、ゆっくりとドアが開く。廊下の電気が明るい色合いの可愛らしい部屋を薄暗く照らした。
「……ふぅ〜……」
小さく溜息をついて、部屋の主はドアに寄りかかりながら部屋に入ると、珍しくバッグを床に放り投げてそのままよろよろとラグの上にへたりこんだ。ベッドによりかかり、赤く染まった頬をそっと手で押さえて瞼を閉じる。と、携帯の呼び出し音がカバンの中で鳴りだした。
本人はあわてているのだろうが、傍から見ると緩慢な動きで、千鶴はカバンの中から携帯を取り出して通話ボタンを押す。


「はい、千鶴でぷ」

『〜〜〜〜〜?』

「沖田先輩。いえ、酔ってませんよ?ちょっと舌をかんじゃっただけです」

千鶴はしゃきん!と背筋を伸ばして言う。数秒後、またゆっくりとベッドによりかかりながら。

「はい、クラスの子たちと飲み会で……。そうですよ。女の子ばっかりです。言ったじゃないですか」

『〜〜〜〜〜』

「……なんでですか…?私、酔ってないって言ってるのに……。明日の件ですよね?全然大丈夫です。話てください」

『〜〜〜〜〜』

「どうして……」
見開いた千鶴の大きな瞳に、涙が浮かび上がる。
「……私のこと、嫌いになったんですか……?だから明日の件、話してくれないんですか……?」

『!!〜〜〜〜〜』

「……ほんとに……?」
千鶴の瞳から、溢れた涙が一粒ぽろりと毀れた。
「……はい。私も好きです。私……沖田先輩が、大好きなんです……。嬉しいです」

『〜〜〜〜〜?』

「はい。いつも見とれちゃいます。かっこいいなぁって……。ほんとに素敵ですよね先輩って。背が高いし、頭小さくて手足が長くて……。モデルみたい。ううん、モデルなんかよりぜんっぜんかっこいいです。スポーツしてる人!って感じで……動きや仕草の一つ一つが滑らかで……え?もういいんですか?」

『〜〜〜/////』

「……そうですか……。で、なんの話でしたっけ…?あ!明日の件!なんでしょう?」

『〜〜〜〜〜』

「……どうして、そんなこと……」
千鶴の瞳に、再び涙が盛り上がる。
「私、ちゃんと話してるじゃないですか……!嘘じゃないですよ?酔ってるわけじゃなくて、ほんとにほんとに先輩のことが好きで、素敵だからそう言ってるのに……!どうして信じてくれないんですか?」
そこで千鶴は、はっと息を呑んだ。
「……まさか……、他に好きな人ができたんですか?」

『!!〜〜〜〜〜』

「……!!だって!!そうじゃなければどうして……?私が先輩のこと好きなのがうっとおしくなったんじゃないんですか?だから聞きたくないんですよね?でも…でも私……、別れたくありません……!!」

『〜〜〜〜〜!!』

「……ほんとに?」

『〜〜〜〜〜』

「……よかったぁ……。今先輩にふられちゃったら、私生きていけません……」

『〜〜〜〜〜』

「……でも、私眠くないですよ?全然。酔ってもないし。もっと先輩とお話してたいです。知ってます?私、先輩の声が大好きなんです……!」

『〜〜〜/////』

「ふふ……。ナイショにしてたんです。恥ずかしいかなって。こんなに何もかも好きなのって、おかしいでしょ?でも、全部好きなんです。ほんとに」

『〜〜〜〜〜』

「あー……何か、暑くなってきました。エアコンが効いてきたのかな?先輩ちょっとごめんなさい。脱いでいいですか?」

千鶴は携帯を肩と頬で押さえながら器用にコートとカーディガンを脱ぐ。

「え?今ですか?ストッキングを脱いでるところです。え?柄?今日はちょっと大人っぽく、黒に縦のラインが入ってるやつにしてみたんです。クラスの男の子が脚がきれいだねって褒めてくれました」

『!〜〜〜〜〜?』

「え?ああ、飲み屋さんの隣のブースで、なんとクラスの男の子たちが4人くらい飲んでたんですよ!偶然ですよねぇ…って大学のすぐ近くの飲み屋さんですからあり得ますけど。ええ、別にちょっと話しただけで、あとは別々に飲んで……あ、ちょっとすいません。ブラとるんで携帯置きますね」

『〜〜〜〜〜?』

「ええ、とりました。はぁ〜……楽になりました……。え?はい。今裸です。何か着なきゃ……」

『〜〜〜〜〜』

「ええ?でもこのままじゃ風邪ひいちゃうし……。え?薫ですか?はい。今日はいませんよ。外泊するみたいです」

『!〜〜〜〜〜?』

「ほんとですか!?嬉しいです!待ってますね。沖田先輩に、ぎゅってしてもらいたいなぁってさっきから思ってたんです」

『!!〜〜〜〜〜』

「ふふ…嬉しいです。私も……キス、したいです。////恥ずかしいですけど…」

『〜〜〜〜〜』

「そうなんですか?じゃああとすぐで、先輩にギュッてしてもらえますね……」

バタン!と勢いよくドアが開いて、双子の兄の薫が顔を出して怒鳴る。
「おい!千鶴!上半身裸で何くっちゃべってんだよ!さっさと風呂入って寝ろ!」

『??〜〜〜〜〜』

「あれ?……そっか。いましたね。いなかったのは昨日だったかな……?ハクシュン!あ、ちょっとパジャマ……」

千鶴はゴソゴソとパジャマを着るとそのままベッドにもぐりこむ。

「じゃあ、先輩。おやすみなさい……。むにゃ……」

 


そうして千鶴ちゃんは夢の中で総司にギュッとしてもらい、
総司はすっかり着替えて後は靴を履くだけの状態で、自宅玄関で切れた携帯電話を見つめていたそうです。








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