【次の日の出来事 雪村千鶴】
総司大学三年生、千鶴大学二年生の冬の一コマです。SSというより小ネタです。「ある夜の出来事」の次の日設定です
「え?覚えてないの?」
「……はい…!ごめんなさい!私いっつもそうなんです!」
何かご迷惑かけてしまいましたか……?不安そうな上目使いでそう聞いてくる千鶴に、総司は言葉に詰まった。
迷惑……はかけられた。確かに。散々煽られて期待させられて、いざ!となったら放置……。あの後もう一度部屋着に着替えて一人で寝たときの虚しさときたら……。いじめてやろうと次の日千鶴に勢い込んで会った途端、謝られた。悪気はなかったのはわかったが、かといってすんなり許す気にもなれない。総司は、どうしたものか、と考え込んだ。
「散々もてあそばれたからね……。何か償いはしてほしいけど……」
「そうだ!いいこと考えた!」
突然のひらめきに総司はにんまりした。
「今日の夜、近藤さんちで平助とか一君とか、左之さんや土方さんたちも呼んでみんなで飲むでしょ」
「はい、私も呼んでいただいて…。ありがとうございます」
「千鶴ちゃん、そういう飲み会の時、いっつも飲まないけど、今日は飲んでよ」
「え?」
今夜の飲み会で、総司専属でお酌をするとか、今夜総司の家に泊まれとか、そういう罰を考えていた千鶴はキョトンとした。
「私が飲むんですか?それで沖田先輩の償いになるんでしょうか?」
千鶴は別にお酒が嫌い、というわけではない。甘いお酒ならどちらかといえば好きなくらいだ。千鶴がお酒を呑む、というのでいいのだろうか?
しかし総司は特にこだわるようでもなくうなずいた。
「うん。いっつも飲まないで気を使ってるからさ。たまには飲んで楽しくなればいいのになーって思ってたんだよね。今日は片付けとかお酒の追加とかには気を回さないで楽しんでよ。千鶴ちゃんが楽しんでると僕も楽しいからさ」
それが償いってことで。という総司の言葉に千鶴は心がじんわりと暖かくなるのを感じた。
剣道部や友達との飲み会でも、あまり酒に強くない千鶴はほとんど飲まずにみんなの世話をする方にまわってしまう。総司はそれを見ていてくれて、いっしょに楽しんでほしいと言ってくれたのだ。
総司のさり気ない優しさに、千鶴はにっこりとほほ笑んだ。
「はい!ありがとうございます。そんなこと言っていただけて……。嬉しいです。じゃあ今日は私も楽しませていただきますね」
「いや!沖田先輩、行かないでください……」
近藤宅での飲み会も終盤。一旦片付けるか、という土方の言葉に総司が手伝うために立ち上がろうとすると……。
総司の首に両腕を回して甘えるように言う千鶴に、総司の頬はおっこちるのではないかと思うほど緩む。
「えー?千鶴ちゃん〜。もう、しょうがないなぁ……。すいません、土方さん。彼女が離れたくないって言うんで、そっちの片付け手伝えないです〜。ほんとに困っちゃいますよねぇ、千鶴には。甘えんぼなんだからなぁ」
つん、と人差し指で千鶴のおでこをつつく総司に、千鶴は幸せそうに抱きついて頬を総司の肩に寄せる。
「だって……。沖田先輩が大好きだから……」
そう言うと、体を起こして総司の瞳を至近距離で覗き込む。
「沖田先輩…。大好きです。私、頑張りますから、嫌いにならないで……」
潤んだ瞳で見上げてくる千鶴に、総司はキュンとなって抱きしめる。
「ばかだなぁ…!嫌いになるわけないじゃない……!!」
「だって先輩かっこいいから…。大学でも女の子たちが噂してるの、よく聞くんです。告白とかたくさんされてるんじゃないですか?」
いつもなら決して口にしない千鶴のかわいい嫉妬が聞けて、総司は舞い上がりそうになった。
「何?そんなこと気にしてたの?全然知らなかったよ……!いい?僕はね、千鶴ちゃん以外見えてないから……」
ごにょごにょごにょ……。千鶴の耳元でささやく総司に、千鶴はくすぐったそうに笑う。
そんな二人を後ろから見ている男たちがいた。
「おら」
土方が木刀を平助に渡す。
「これで殺ってこい」
<おまけ>
「なんだよ平助、飲み会の最中に道場になんか呼び出してさ。僕の彼女が寂しがっちゃうよ」
平助が放り投げた竹刀を受け取りながら、総司が文句を言う。
「千鶴なら特大くまプーに抱きついてるから大丈夫だよ。それより指令がでてさ。総司をぶちのめせって」
平助の言葉に、総司は面白そうに眉をあげた。
「へぇ?ぶちのめせると思ってるの?」
「ま、全国大会優勝は伊達じゃないのは知ってんかんな。ハンデはつけさせてもらうぜ」
そういって平助は、竹刀ではなく木刀を構えた。
「へぇ〜。汚いね平助。まぁでも避ければすむことだからね」
「ハンデではないぞ、平助」
一が声とともに、平助の横に並び木刀を構えた。
「え!?まさか一君も参戦するの?二対一?しかも木刀?それはハンデありすぎじゃないの?」
少し焦る総司に、一は冷静に言う。
「だからハンデではないと言ったろう。俺は単にお前が目障りだからぶちのめしたいだけた」
「俺もそうだ」
と土方の声がして、一の横に並ぶ。
「ま、俺は祭りには参加する主義だから、だな」
艶のある声とともに左之も並ぶ。
ずらっと並んだ面々に、さすがに総司は固まったのだった。