【夏と海と冒険と 7】












船の上に上がる段になって、ようやく千鶴の手は放してもらえた。
甲板でマスクとレギュレータを急いで取って、千鶴は総司に口を開く。
「あの…!沖田さん、もう一度……」
しかし最後まで言う前に総司ににらまれてしまった。
「一体どういうつもり。海の中での僕の指示は絶対だって言わなかったっけ?」
冷たい緑の瞳に見つめられて、千鶴の言葉は喉元で止まった。かわりにどもりながら謝る。
「あの…ご、ごめんなさい………。でも、でも見つけたんです!あの岩山の隙間から見えました!あれは絶対自然物なんかじゃないと思うんです。もう一度潜れば…!」
マスクとレギュレータを甲板に放り投げ、ダイビングスーツを腰まで下ろした状態で総司は手のひらを千鶴に向けて「ストップ」と言葉を止めた。
「初心者であの水深にそう何度も潜るなんてできない。それに天候だって……」
総司はそう言うと斎藤を見た。斎藤は頷いて口を開く。
「台風の接近は今夜からだろうが、海はもうそろそろ危険だ。千鶴が2〜3時間休んで1時間潜って帰っていたら間に合わん。残念だが今日はここまでだな」
平助がフィンを取りながら慰めるように言った。
「大丈夫だって。場所がわかったんなら台風が過ぎたらまたこようぜ」

「ダメです!」

千鶴がさえぎるように叫んだ。その言葉の強さに皆が驚いたように彼女を見る。
「ダメなんです。台風の後じゃ間に合わないかもしれない。今なら……チャンスは今だけなんです!お願いです。お金なら倍でも3倍でも払うので今もう一度潜らせてください!」
斎藤が困ったように答えた。
「望みをかなえてやりたいのはやまやまだが……。しかしこれは金の問題ではないのだ。水圧というのは思ったよりも体に負荷をかける。初心者でなれていない人間が連続で潜るのは危険すぎる。しかも時間がたてばたつほど台風が近づいてくる。ここは平助の言うとおり諦めてもらうしか……」
「じゃあ、じゃあ私一人で潜ります。こちらの会社には何があっても迷惑が掛からないように『全て自分の独断と責任で』と一筆書いて行きますので……!」
どうしてもと言いつのる千鶴の言葉をさえぎるように、冷たい声が響いた。

「いい加減にしなよ」

総司だ。
腕を組んで、あからさまに機嫌を悪くしている表情だ。
きいてくれそうにない。もうあきらめるしかないのか……でもあきらめたらあれはもう二度と手に入らないかもしれない。
手に入らないだけならまだいい。あいつらの手に渡ってしまったら……
唇を噛んで俯く千鶴に、総司が続けた。
「何か事情があるのはわかってるよ。君が一人で沈没船に関わる何かを見つけたいのもわかってる。でも沈没船の探索は慣れたダイバーでも危険だし、こんな状況で焦って初心者が行ったら事故になるのは目に見えてる。なんでもっと僕達を頼らないのさ」
最後の一言が思いもよらない言葉だったため、千鶴は目を見開いた。
「……え?」
「ここまできっちり調査してきた君だから、きっと探し物が沈没船のどのあたりにあるのかとかどんな形なのかとかも調べてきてるんでしょ?」
千鶴が頷くのを確認して、総司は千鶴の頭にポンと手を置いた。
「僕と平助で潜るよ。頼るべき時には頼らなくちゃ。君は僕達を信じてくれさえすればいいんだ」
「……」
これは……潜ってくれると言う事なのだろうか。千鶴はダメだが、総司達が代わりに?
千鶴が見ている前で、総司が平助に「いい?」と聞き、平助も頷いた。総司は再び千鶴に向き直る。
「ほら、こっちは準備ができたから。あとは君が僕達を信頼して探し物の場所とか形とかを教えるるだけだよ」
総司はそう言ってまっすぐに瞳を覗き込んできた。

「僕を信じて」

抜けるような青い空。
真剣な瞳で覗き込んでくる総司。
千鶴は胸が熱く高鳴るのを感じた。
総司の緑色の瞳は、深いエメラルドグリーンになっていた。真剣さと誠実さが入り混じった綺麗な色。
千鶴は彼の瞳の中に溶けてしまいそうになりながら、ゆっくりとうなずいた。




『岩場の岩と岩の隙間。
そのさらに奥にある広い空間に、人工的な立体らしきものがあったんです』

千鶴の言葉通りに潜っていくと、砂や海藻やいろんなものがかぶさっている大きな何かが海底に沈んでいた。
総司は平助を顔を見合わせる。
長い間潜っているし、有名どころの沈没船見物のダイビングツアーもしたことがあるが、自分で新しいものを見つけたのは初めてだ。沖縄の海の周辺には小さいものから大きいもの、古いものから新しいものまでいろんな船が沈没してはいるらしいが。
ゆっくりと近づいて行くと、中型船のようだ。

『私の調べたところによると、その船の船首部分に航海の安全を祈る小さな船首像がついていたようなんです』

どちらか船首かもうわからないが、それほど大きな船ではないため総司と平助はぐるっと回ってみた。ココかなと言うところに近寄り目を凝らす。
古く腐った船体が、触ったことにより崩壊することもあるため総司達は慎重に探した。
これではないかという部分を平助が見つけ、総司もうなずく。

『その船首像の首を回すと取れるようになっていて中に……』

砂を軽く払い、頭部分らしきところをゆっくりと回す。錆びついているかと思ったが少し力を入れるとなんなくまわった。
ドキドキしながら中を手で探ると……

……あった……!

それは千鶴が言った通りの黒い箱だった。浮力のせいで正確な重さはわからないが、鉄の塊と言っていいくらいの頑丈なつくりで、どこからあけるのかわからないくらい完璧に溶接されている。大きさは総司の手のひらぐらい。
上で千鶴が待っているし、斎藤が台風の進路を見ながらやきもきしているだろう。首尾よくコトはなったので、マジマジと観察するのは陸でやればいい。
総司と平助は目線でそう会話をすると、鉄の箱を持って沈没船を後にして浮上し始めた。
水深に体を慣らしつつ浮上しながら、総司は足元に見える過去の沈没船を妙な感慨で眺めた。
陸からそれほど遠くはないが、泳いで帰れるほどの距離ではない。見たところ相当古そうで今の様な海難事故に対応できる時代のものではないようだし、きっと乗っていた人達も沈没と同時になくなったのだろう。
何年もずっとここに、眠るように………

総司がそんなことを考えていたとき、何かが脇をすごい勢いで通り過ぎた。
残像しかわからなかったが、まるで矢のような……
少し前を行く平助が驚いたように動いた。
『なんだ?』『魚……じゃないよね?』という目線での会話の途中で、また何かが横切る。いや、横切るというよりはこれはまるで狙っているかのような……?
総司と平助がそれが来たと思われる方向を振り向くと、浅い方の岩棚に人影が見えた。
もうかなり水面に近くなっていた総司達が驚き辺りを見渡すと、自分たちの船底の向こうの方に同じ小型の別の船底が進んできているのが見える。そして岩棚に居る人影は何かを持ってそれを構えていて……

水中銃!?

総司と平助は顔を見合すと、すぐさま船へと浮上を始めた。
何故なのか、あいつらななんなのか、自分たちを知っていて攻撃していたのか、それともこの海域から出て行ってほしいだけなのか。
もう少し南の方では隣国の漁船や海賊まがいの船が出ると聞いたことがあるが、こんなに本島に近い場所では聞いたことも無い。しかし考えている猶予はない。
『わっ!』と言う声が聞こえそうな感じで平助が、またもや放たれた水中銃を見た。距離があるのと水中のせいか、幸い当たってはいないが、威嚇ではなくあきらかに狙ってきている。
何も武器を持っていない総司達は逃げるしかない。
ザバッと海面に顔をだすと、平助と総司は抜き手で水をかき、船へと急ぎ、まさに飛び乗ったという形容詞通り勢いよく船に戻る。甲板にたどり着くと斎藤が待っていたように言った。
「来たか!よかった。先程から妙な船が近づいてきてな。怪しいので早く船をだしたかったのだ」
動きやすいようにダイビング装備をむしりとりスーツを急いで脱ぎ、切りっぱなしのジーンズだけをはくと、総司は濡れて額にかかる前髪をかき上げながら、船尾から近づいてくる船を見た。
多分総司達に水中銃を撃ってきたのも、あの船の人間たちだろう。敵意があるのは確実だ。
隣に来た平助が、振り向いて叫ぶ。
「一君!早く船だしてここから逃げねーと!あいつら海の中で俺らになんか変なもん撃ってきたんだぜ!」
斎藤が首をかしげる。
「変なもんとは?」
「水中銃か何かだと思うけど、銛みたいなやつで狙われたんだよ。とにかく逃げよう!」
操舵室へ入る斎藤と入れ違いに、千鶴が出てきた。
「沖田さん、平助君、お疲れ様です。あの……」
総司は手に持っていた、沈没船から持ってきた四角い箱を千鶴に渡す。
「話は後。これ、言われたところにちゃんとあったよ。千鶴ちゃん、危ないかもしれないからそれを持って中に……」
ガガガガッ!という何かをこする様な大きな音がして、総司は言葉を止めた。
振り返ってみてみると、なんと例の船がこちらの船体に接触してきているではないか。
「ちょっ…!ちょっと何を!!」
「おい!」
総司と平助が慌てて接触部にかけよる。斎藤も操舵室から出てきた。
千鶴は、総司達が取ってきてくれた鉄の箱を持ったまま茫然として彼らの背中を見ていた。
事故なのだろうか。ぶつかったにしてはほとんど衝撃が無く、接舷するためにわざと近寄ってきたようにしか見えなかったが…
乾いた破裂音が空気を切り裂くように何回か聞こえてきた。千鶴が驚いてそちらを見ると、ぶつかってきた船の上に一人の男が立っているのが見えた。
あててきた船と『きらきら青い海』の船の間に板のようなものを渡して、その上に背の低い男が立っている。
ずんぐりとした固太りその男が、空に向けて銃を発砲したのだ。
「おい…‼おっさん何を……!!」
平助が怒鳴ると、その男は厳しい声で何かを言った。日本語ではなく外国語で。
「なんだよ…なんだよお前!何言ってんのかわかんねーよ!外人?なんだよそれ!」
平助がくってかかると、その男はサングラスをした顔で平助を見る。そして銃口を平助に向けた。
「平助!」
総司が平助を抑え、外人を睨む。斎藤も操舵室を出たところで動くに動けない。
総司達が動かなくなったのを見て取った男は、そのまま何かを探すように視線を巡らせた。そして鉄の箱を持ったまま立ちすくんでいる千鶴に目を止める。
男が後ろに向かって何か合図すると、後ろから今度は別の大男が現れた。
その姿を見て、平助、総司、斎藤はぎょっとする。

髪が白いのだ。
肌の色は白人の色だが艶やかで皺もなく若いのにもかかわらず。そして目が……
「目が赤いぜ……」
平助が茫然とつぶやく。
「赤いって言うか……」

人間じゃない

皆が心の中で思った言葉だった。自然な色ではない。光彩が輝くように赤く血の色に底光りしているのだ。
その化け物は船を乗り移り、銃口を向けられて動けない総司達の前をよたよたと操り人形のようにあるいた。
「おい…」
平助が総司に小声で言うと、総司も頷いた。
バケモノの視線の先、進む方向から考えて狙いは千鶴だ。

平助はあの銃を持った男。総司は化け物。

無言で役割を確認すると、二人は『せーの』で逆方向に走り出した。
平助が「うおおおおおおおお!」と叫びながら銃を持っている男に姿勢を低くして突っ込んでいく。突然の平助の突進に、外人の男は驚き銃を撃つ間もなかった。平助の腹へのタックルが決まり、男が「ぐっ!」と叫び声をあげて背中から倒れる。その拍子に転がった銃を、平助は反転しながらつかんだ。
形勢が逆転し、今度は甲板に横たわった男に平助が銃をつきつける。
「……日本人には撃てないだろう」
以外にも男は流暢な日本語で言った。平助は不敵な笑みを浮かべて、銃の安全装置をはずす。
「ハワイの観光で撃ったことぐらいあるさ。こっちも命がかかってるからな。この至近距離ならはずさねーぜ」
背中を汗が伝うのは暑いせいばかりじゃない。はったりにだまされてくれるか冷や冷やしているのがばれないといいが。
幸い男は、はったりかどうか自分の命を賭ける気はなかったようで、黙り込んだまま動かなくなった。


一方総司は、甲板に転がっていたエアータンクを広い、バケモノの頭を後ろから思いっきり殴りつけた。バケモノは衝撃でわずかに上体をゆらしたが、そのままの姿勢でギロリとエアータンクを持っている総司を見る。
「あ、やば……」
総司がつぶやく。バケモノが大きな手で総司を払った。軽く払っただけのように見えたのに、総司はエアータンクごとふっとび、操舵室の壁にしたたかに背中を打ち付けた。
「沖田さん!」
千鶴の悲鳴が響く。バケモノの目が千鶴を見たのを察して、斎藤が千鶴を引き寄せようと手をのばした。
「千鶴!」
一瞬早く、化け物が千鶴の手首をつかむ。
「きゃあ!」
千鶴の悲鳴を聞きながら、総司はくらっとする頭を振りながら操舵室の壁に寄りかかりながら立ち上がった。
「ったくタフだな…」
タフな奴には手で殴っても対して威力は無いだろう。K−1などの異種格闘技でもタフな選手を一発で沈めるのは……
「足技だよね!」
総司は軽く助走をつけると、バケモノに背中を向ける形から腰を落とし長い脚を円を書くように大きく回しバケモノの延髄をめがけてハイキックで蹴り上げた。
「ぐがあ!」
さすがに効いたのか、バケモノがよろめいた。しかし千鶴の手首は離さない。
そしてよたよたしながらも千鶴を肩に担ぎあげた。
「きゃあああ!いっいや!」
千鶴が脚をバタバタと動かすが、当然なんの効果もない。バケモノはそのまま歩きだし自分たちの船へと向かう。
総司はちらりと平助たちの方を見た。
平助は銃で外人の男を制圧はしているが、千鶴を人質にとられてどうすればいいかと焦っているようだ。銃口をむけられている外人が何かを平助に言うと、平助が大きく動揺する。総司は舌打ちをした。

多分、銃を返さないとバケモノに千鶴ちゃんを傷つけさせるぞとかなんとか言われたのかな

このままでは千鶴もさらわれ、こちらもどうなるかわからない。一か八かだがなんとかしなくては。
「斎藤君、船を出す準備をしててくれる?バケモノを追い出して千鶴ちゃんを取り返したらすぐに逃げるよ」
「かまわんが…。一体どうするのだ」
「できるかどうかわかんないけど、やるしかないよね」
総司はそう言うと、エアータンクを抱えた。エアータンクで殴ってもあのバケモノには聞かないことはわかってる。
総司はそのままバケモノの背中に肩から突っ込んで行った。
「千鶴ちゃん、頭を守って!!」
総司が体重をかけたタックルをバケモノにかましたせいで、千鶴は肩から放り出された。その瞬間総司の声が聞こえて、千鶴は必死で頭を抱えて小さく丸まる。一瞬時間が止まったような浮遊感を感じた後、千鶴は外人たちの船の甲板に転がり落ちた。
千鶴がとっさに丸まったおかげで、肩とおしりをしたたか打ち付けただけで骨を折ったりはしていないようだ。
バケモノはタックルに体勢をくずしただけで、転んではいなかった。そのまま後ろに手をやり、総司の頭を大きな手でつかむ。
「そうだ!殺れ!」
外人が叫んだ。
「総司!」
平助が銃口を化け物に向ける。
「平助、船に戻って!」
総司はそう言うと、エアータンクの底の部分をバケモノの腹にあて、先程殴ったせいでぐらぐらしているバルブを思いっきりひねった。
バシュッ!と空気を切り裂くような音と共に、エアータンクの圧縮された空気が破裂して吹き出しタンクがロケットのように化け物を押す。
化け物の驚いた顔と、総司は一瞬目が合った。

「なんだ、ちゃんと表情もあるんだね」

そうつぶやいた直後、バケモノはエアータンクと一緒に海へと落ちて行った。

「総司!」
平助が『きらきら青い海』の船から叫ぶ。手には奪った銃を持っている。ということは、あの外人は武器を持っておらずバケモノも海の中ということだ。
「斎藤君、船だして!」
総司はそう言うと同時に、外人の船の甲板で四つん這いになっている千鶴に向かって『きらきら青い海』の船の甲板から手を差し伸べた。
「千鶴ちゃん走って!」
総司の声に、千鶴は弾かれたように立ち上がり船のヘリへと走り寄った。ドドドドドとエンジンがかかった『きらきら青い海』の船が、すこしだけ外人たちの船から離れてしまった。怯えたような顔で海を見た千鶴に、総司は再び叫んだ。
「飛ぶんだ!受け止めるからジャンプして!」
「え…、で、でも……」
「早く!!僕を信用して!必ず受け止めるから!!」
総司がそう叫ぶと、千鶴は覚悟を決めた顔をした。そして少し後ろに下がり助走をつけると、目をつぶって思いっきり甲板を蹴ってジャンプをした。

空中で飛び込んでくる千鶴を、総司は両腕を大きく広げて待ち構えた。
スローモーションのように青い空を背景にして、総司にすべてをあずけて飛び込んでくる千鶴が見える。
波の動きと船の動きで届かないかと総司は一瞬ヒヤリとしたが、千鶴の手首をつかむことができた。そしてそのまま勢いを殺さないようにしてひっぱり、総司は背中から今度は自分たちの船の方へと倒れこむ。
「うわっ!!」「あっ…!」
千鶴の叫び声が聞こえたが、総司の腕の中には暖かく柔らかな感触が確かにある。そして背中と後頭部は硬い甲板に打ち付けられた鈍い痛み。

エンジン音がフル回転しているような大きな音が、総司が倒れこんでいる甲板にも振動として伝わってくる。
きっと出力全開にして本土へと戻っているに違いない。
あのバケモノは海に落ちたから拾い上げている時間もいるし、水中で総司達を狙って来たダイバーも船に上がらなくてはいけないだろう。その時間を考えれば充分逃げられる。
総司はほっと溜息をついて、胸の中でまだ目をつぶっている千鶴を見た。



千鶴はギュッと目をつむったままだったが、暖かなものに包む様に抱きしめられているのを感じてそろりと片目を開けた。
目の前にあるのは小麦色に焼けた人の肌。……男性の胸だ。
千鶴がぎょっとして顔をあげると、ちょうどこちらを見下ろしている緑の瞳と目があった。
「怪我はない?」
キラキラと光る透明なサンゴ礁の海の色の瞳が心配そうにのぞきこむ。千鶴は茫然としたま頷いた。
「そう。それならよかった」
そう言ってにっこり微笑んだ総司の表情に、千鶴は胸が別の意味でドキドキしてくるのを感じた。
さっきまで変な男たちに掴まりそうになったり船を飛び越える大ジャンプをしたりというドキドキが、ほんわりと宙に浮いたようなドキドキに……。
千鶴は自分の頬が熱くなるのを感じ、何か言おうと口を開いた。その時、それまで優しげにきらめいていた緑の瞳が妙に凄味のある深い色に変わる。
表情も心なしかまずいような逃げ出した方が良いような黒い感じに……
「ところで……いろいろ聞きたことがあるんだけど」
「……聞きたいこと……」
「そう、あの船はなんだったのか、沈没船と君とどういう関係があるのか、ずっと信用されずに内緒にされてきたけどいくらなんでももう僕達にも聞く権利はあるよね?」
『ない』などとはとてもいえそうにない凄味のある顔だ。
笑顔なのがまた怖い。
「………」
千鶴は瞬きも忘れ、頷いたのだった。







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