【Can't Help Falling Love With You 3】
幕末ですが、本編捏造がはなはだしいです。
「なんで僕なの」
出会った最初のころから、斬るよ、といつも言っていたからか。それとも近頃よく意地悪を言ったり、からかって、たまに泣かせたりもしてしまったから?微笑みながら飄々と人を斬るから、自分を斬ってもたいしたことではないだろうと千鶴ちゃんは思ったのだろうか。
思いもよらなかった質問に、千鶴は面食らった。
この案件を受けるのが嫌なのだろうか……。沖田なら後味が悪かろうが少々無理をしようがやってくれると思っていたのだけれど……。
今回の件を沖田に頼もうと決めたのは、沖田の資質や気持ちを考えてではなく、全く自分のためだけだった。
言わない方が沖田の負担が少ないような気もしたが、本当のことを伝えないといけないような、真実を知りたがっているような、めずらしい沖田の本音が垣間見えた質問に、千鶴は心を決めた。それに……、もし自分が斬られて死んでしまうとしたら、この誰にも知られず消えてしまう想いが哀れに思えた。
「沖田さんは……、女の人を斬ったことはありますか?」
何を突然……、弱い存在を斬る卑怯者と非難でもしたいのか、と思いながらも沖田は千鶴の腕から目を離し、千鶴を見ながら挑発的に答えた。
「あるよ」
千鶴は、その答えを聞き、少し困ったような顔をして、じゃあ……うーん、と目をそらせて考える仕草をした。
「じゃあ、沖田さん、ちょっと屈んでもらえますか?」
千鶴の言葉に、??と思いながらも掴んだ千鶴の腕はそのままで、少し腰をまげて、千鶴の方に顔をよせる。
と、急に千鶴の顔が近づき、唇に暖かくやわらかいものが触れた。
理解不能の出来事に、沖田がそのまま固まっていると、ふわっと千鶴の暖かい匂いがして、千鶴の唇が沖田の唇から離れる。
そして、顔を真っ赤にした、思いつめた瞳の千鶴が言う声が、妙に遠くから聞こえてきた。
「じゃ、じゃあ口付けしたことのある女の人を斬ったことは……ありますか?」
呆然とした沖田の頭の中の一部は、妙に冷静で、口付けしたことのある女を斬った事があるかを真面目に考えていた。
沖田はもともと人に触れることがあまり好きではなく、色事にも淡白な方であったため、花街にもめったには行かず、行ったとしても適当に自分の欲の処理だけを済ましさっさと帰るため(ヒドイ)、口付け自体あまりしたことがなかった。
というより、得体の知れない、今日始めて会うような女性と口付けをしたいとすら思わなかった。
行為の途中で求められて仕方なく口をあわせたり、その気にさせるために宥めるようにしたことはあっても、自分から求めてしたことはほとんどない。
そうなると、その数少ない口付けをした女を、斬るような事態にもなるはずがなかった。
「いや……、それは…、ないと思うけど……」
この話がどこから来てどこに続くのかすっかりふっとんでしまったが、沖田は機械的に答え、ギギッと音がしそうなくらいぎこちなく、傾けた体をもどし、ずっと掴んでいた千鶴の腕を放した。
「そうですか…」
千鶴は相変わらず顔を真っ赤にしたまま、潤んだ、真剣な眼差しで沖田を真っ直ぐに見つめた。
沖田は、さっぱりわけがわからず、まるで異世界の人間をみるかのように千鶴を見る。
殺してくれと頼まれて、
どうして自分なのかと聞いたら、
女の人を殺したことはるのかと聞かれて、
あると答えたら、口付けされて。
なにがなんだかわからない……。
「私、せめて沖田さんの、『はじめて』に、なれればなって思ったんです」
そうしたら、私を忘れないでいいてくれるでしょう?
そんな言葉をつむぎ出す、桜色の唇を見ながら沖田は立ち尽くした。
コノコハイッタイナニヲイッテイルノ。
ジブンガドレダケザンコクナコトヲシテイルカワカッテイルノ。
沖田は俯き、ふふふっと微かに笑った。
千鶴がその声に、沖田の方を見ると、きらきらと光る緑の瞳が、千鶴をがっちりと見据えてるのに気が付いた。
これは……、拙いのでは……。
雌としての本能が、逃げ出すよう千鶴に命じたが、一瞬早く、雄の手に捕まってしまう。
「あ、おき……!」
一言もしゃべれないまま、強引に手をひっぱられ沖田の方にたおれこむと、上からおおいかぶさるようにして、唇がふってきた。
「ん…!」
首をそむけ、唇をはずそうとするが、沖田の大きな両手が千鶴の頭から顎にかけての両頬をがっちりとはさみ、頭を動かすことすらできない。
千鶴を罰するためにはじめた行為だったが、彼女の唇にふれ、吐息を感じ、匂いに包まれた途端、こみ上げてくる感情に流されて、沖田はその甘さに酔った。
がっしりと首を掴んだ両手とは対照的に、優しくついばむように唇をはさみ、あわせ、彼女の吐息を奪っていく。
ああ、なんて甘いんだ。
頭がくらくらする。
生まれて始めて味わう甘露に、沖田は夢中になった。
角度をかえて、何度も何度も優しく吸い、頑なな体をほぐすよう、唇をひらき自分を受け入れてくれるよう優しく促す。
「ん…」
鼻からぬけるような彼女の声が甘さをおびる。
沖田の肩で押し返すようにしていた千鶴の手の力が、徐々に抜けていくのを感じる。
誘うようにうっすらと唇が開くと、待ち構えていた沖田の舌がするりと入った。
その途端、彼女の体に再度力が入り、沖田の胸を白い細い腕がたたく。
そんなかすかな抵抗をものともせず、沖田は頭を抑えていた手の一方を離し、彼女の華奢な腰にまわして、自分の体にびったりと抱き寄せ、更に深く唇を貪った。
薄い夜着越しに彼女の女性らしい体の線を感じ、むせるような甘やかな匂いにつつまれ沖田は我を忘れた。
角度を変えて、深く何度も千鶴を味わう。逃げ惑う千鶴の舌を捕まえて強く絡めると、体に甘い電流が走る。
唇を動かすたびに千鶴の唇からもれる甘い声も、沖田をさらに狂わせた。もっと欲しい、もっと深く……。
「息を吸って」
千鶴が呼吸のタイミングを計れず苦しそうにしているのに気づき、少しだけ唇を離して囁いた。その声の低さと艶めいた声色に自分で驚く。千鶴が顔を真っ赤にして、それでも素直にぷはっと息をするのを待って、待ちきれないようにすぐに口付けた。
もう顔をそらして逃げることもないだろうと判断して、沖田は頭を支えていたもう一方の手をはずし、彼女の両手をとり、自分の首にまわすよう促した。
千鶴はもう考える力も衰えているのか、されるがままに、手を回す。
なだらかな女性らしい体が、沖田の体にびったりとすきまなく合わさる。
沖田の両腕は彼女の体にまわされ、ぎゅっと強くひきよせて包み込んだ。
沖田の長身で筋肉質の体にすっぽりと閉じ込められた千鶴は、全身で彼の熱を感じ、体が溶けるようにどこまでも柔らかくなっていくのを感じた。
それと比例するように沖田の体は熱く、硬くなっていく。
角度を変え、何度も何度も与えられる深い口付けに、千鶴はもう何も考えられず、ただ夢中でしがみつくだけだった。
一方沖田もかつてないほど甘い口付けに陶酔し、興奮していた。
口付けだけでイきそうだ……。
全く働かなくなった頭で、何故ここにこうしているのか、これからどうするのかを一生懸命考えようとするが、意味をなさない思考の断片しか捕まえられなかった。
さらにその合間に、彼女の身動きやら、甘い吐息やら、可愛らしい声やらが彼を煽るため彼はもう理性を手放す寸前だった。
ここがどこで、状況がどうでも、もうどうでもいい。今ここで彼女を奪わなくては気が狂ってしまう。
彼女に回した両腕にさらに力を込めて、自分の体に押し付ける。
唇を離して、彼女を見つめると、頬を赤らめて潤んだ瞳でみつめ返す彼女と目があった。
その彼女の表情が、さらなる興奮をよぶ。
沖田は無言で、真っ白に輝くうなじに唇をよせた。
なんでこんなとこまで甘いんだ……。
そう思いながら、首に唇で吸い付く。
驚いたような彼女の声が聞こえてきて、さらに沖田を熱い興奮の池へと落とす。
そのまま下へ唇を這わせようとした時、地面におちた血がついた手ぬぐいが目にはいった。
その途端、頭から冷水を浴びせられたように、沖田は硬直した。
私を殺してもらえますか……。
口付けした女の人を殺したことはありますか……。
先ほどの千鶴の言葉が頭をうずまき、沖田は彼女の肩をつかみ、ばっと体を離した。
千鶴の上気した頬、うっとりとした表情を見て、心が大きく揺らぐ。
離れた部分が妙に冷たく感じ、細胞全てが、もう一度彼女を抱き寄せろと叫び声をあげたが、沖田はそのまま踵を返して、彼女から早足で遠ざかる方を選んだ。
後に残された千鶴は、突然の出来事に、呆然と立ち尽くすだけだった。