【Blue Rose 9−2】
『青は藍より出でて藍より青し』の続編です。前作を読まないと話がわからないと思います(スイマセン……)。
作者は剣道、その他について未経験者です。内容については信用せずフィクションとしてお楽しみください。
※大人向けの内容があります。苦手な方、18歳未満の方は閲覧をご遠慮ください。
先輩のベッドにそっとおろされた私に、先輩がのしかかる。ギシッとベットが音をたてた。
いかにもなシチュエーションに、何故かあらためて緊張してしまった。そんな私をみて先輩が言う。
「止めたくなった……?」
「なってません。ちょっと……緊張して不安なだけで……」
「僕も不安だよ。こんなギラギラした自分を千鶴ちゃんに見せて、怖がられたり、嫌われたりしないかって……」
「そんなの…、沖田先輩だけじゃありません。私だって、エ、エッチなことはあんまりないですけど、十分汚いところとかひどいところもあるし……。天使なんかじゃありませんよ……?」
私の言葉に、のしかかっていた先輩は、フッと自嘲するように笑った。
「僕にとっては、千鶴ちゃんは天使なんだよ。いや……天使っていうよりも……天女って言った方がイメージに近いかな……」
「て、天女……」
「僕は、なんでだかたまたまうまいこといっちゃって、大事な羽衣取り上げて君を傍に置いておくことができたけど、羽衣に気づいた君がいつ天にかえってしまうかって、いつもおびえてるんだ」
その自嘲ぎみの顔が、あまりにもさみしそうで、私はだまりこむ。
「最初は君が僕とつきあうのを怖がってたけど、実は僕も、君を失うことをこんなにも怯えてる」
「……どうして、自分を全部私に見せたら、私が先輩を嫌うって思い込んでるんですか?」
「……なんでかな?僕みたいなのが手に入れてはいけないきれいなものだからかな。しかも羽衣を隠すっていう汚い手段で手に入れてるし」
「私は、天女じゃないし、きれいじゃないし、羽衣もないし、汚い手段で沖田先輩を好きにさせられたわけじゃありません。たとえ羽衣があったとしても、ずっと先輩のそばにいます」
「……うん、ありがとう。なんで……信じられないのかな……?千鶴ちゃんがそう言ってくれるのはほんとうに嬉しいのにね」
その頼りなげな先輩の笑顔に、私はそっと手をあげて、彼の頬をはさんだ。
ああ、この表情だ。
出会った最初から気になってた瞳の奥の暗がり。私はそれを消してあげたい。そのために勇気をだせるように頑張ってきたんだけれど。
「先輩とつきあうのが怖かった私を、先輩はゆっくりと優しく導いてくれました。いつもそばにいてくれて、好きだよって言ってくれて…。不安になる暇もないくらい抱きしめてくれて……。今はもう沖田先輩が傍にいてくれることが普通になって、怖いことなんてなくなって幸せになったんです。だから……」
そう言って、彼の首へと腕をまわし、やわらかくひきよせる。
「だから、私にも沖田先輩の不安を祓わせてください。私が先輩の傍にずっといることを、先輩のどんなところも好きだっていうことを先輩に受け入れててもらえるように、私に……」
先輩は私の体を、縋り付くように抱きしめた。
「千鶴ちゃんを、全部頂戴?千鶴ちゃんの全部に、触れさせて……」
「全部……、全部、触れてください……。全部……」
私の言葉は、彼のキスで途絶えた。
先輩の唇は、本当に私の体全部を辿った。温かく湿った口づけがいたるところに落ちる。これまでこんな所に感覚があるなんて自分でも知らなかった部分を、先輩が探っていく。私はそのたびに、さっき恥ずかしいと思った声を、あげてしまう。
これまで自分では小さくて劣等感しか持っていなかった胸も、先輩は愛おしそうに優しく扱ってくれる。薄い肩も、細い腰も先輩が気に入ってくれているのなら、自分でも少しだけ好きになることができる。
先輩の緑の瞳に、私が映ってるのが見える。指先から、唇から絶え間なく伝えられる私への気持ちが、私を幸せにしてくれる。快感なのか痛みなのかわからないくらい強烈な感覚におびえる私を、優しく宥めてくれる……。たくましい腕と繊細で節のある指、私とは全然違う作りの胸板と腰……。
真っ白になった頭には、先輩がつぶやくかすれた声だけが響いた。
ほんとにきれいだ……。
千鶴ちゃん、かわいい……。
大好きだよ…。
小さかった波がだんだんと体全体をさらう大きな波になっていく。抑えようもない上ずった声が、絶え間なく聞こえる。先輩の愛撫の合間に、自分があげているんだと気が付くけれど、止めようもない。沖田先輩が小さく呟く声が聞こえると同時に、するどい痛みが体に走った。思わず逃げ出そうと上へと体をずらしてしまうけれど、先輩はなだめるように私の髪を撫でながらも強い力で拘束するので動けなかった。
知らず知らずのうちにあふれた涙を、先輩の唇がそっとぬぐう。私よりつらそうな顔をしている先輩の瞳を見つめていると、ゆらゆらと波間を揺らされて、だんだんと現実と頭の中の感覚の世界との区別がつかなくなってきた。わけのわからない思いが胸の奥からあとからあとから湧き出てきて、感情を揺らす。
先輩の心が流れ込んでくるような感覚。
暖かい。
凍っていた何かがゆっくりと溶けていく。
もういい。
もう痛みなんて、感じなくなってしまってもいい。
この熱だけ。この人の熱だけ感じられればもう十分。
でも、この青い空の中で迷ってしまわないように、お願い……。
「せんぱ……」
「何…?」
言葉にならない私の呼びかけに、先輩は息を切らしながらも応えてくれた。
「腕…」
「腕…?」
「腕を……、掴んで……」
私の言葉に、先輩は私の両腕を掴んで、シーツの上に押し付けた。
「強く……。離さないで……」
私の世界は染まりながらはじけて、先輩が私の名前を切なげに呼ぶ声とともに空の色に溶けていった……。
私はこれまで必死に握っていた何かをゆっくりと手放した。
すべてがさらけだされてしまうけれど。
すぐに傷がついてしまうかもしれないけれど。
でも、もう大丈夫。
誰かが泣いてる。うずくまって涙を流している。
あれは私。
泣いている私を、後ろから見ている私も見える。
どちらも私。
今まで目を背けて、見ないようにしていた。
私はゆっくりと歩き、うずくまっている私を後ろからそっと抱きしめた……。
頬を濡らす暖かいもので、私は目が覚めた。
見慣れない天井と隣の暖かい体で、さっきまでのことを思い出す。別に悲しいわけでもないのに、あとからあとからあふれてくる涙に困って、私は安らかに眠っている沖田先輩を起こさないようにそっとベッドを抜け出した。ドアの隙間から漏れてくる廊下の電気で、先輩の部屋を見渡す。ぐしゃぐしゃになった制服を着る気になれなくて、とりあえず先輩のシャツを借りてはおった。そうしてそっと部屋を出る。
廊下の電気がまぶし過ぎて、あわてて電気を消した。
洗面所で顔を洗えば、この涙もとまるかも……。
何度か来たことのある先輩の家で、洗面所へ向かった。涙は止まるどころかどんどんひどくなって、私はとうとうしゃくりをあげながら、洗面所に入る。顔を洗ったり鏡を見る余裕もなく、洗面所の扉を閉めて電気もつけないまま私は子供の様に立ったまま泣きじゃくった。声をださないようにしていてもしゃくりをあげる声がどうしてもでてしまう。
泣きながらも、不思議な心地よさを感じていた。今まで我慢している気もなかったけど、でもほんとは泣きたかったんだ。
とっても。
ようやく解放されたような心地がして、しばらく思うがままに泣き続けた。
「……なんで一人で泣いてるの」
後ろからむすっとした声が聞こえた。びくっと肩を揺らして後ろをふりむくと、ズポンをはいてシャツをひっかけただけの沖田先輩が立っていた。私の肩を掴んでゆっくりと自分の方に向かせる。
そして優しく抱きしめると、洗面所の台に浅くもたれた。
「一人で泣かないでよ。前と違って今は、この胸もこの腕もちゃんと君の傍にあるんだから」
そう言いながら柔らかく私の髪と背中を撫でてくれる。
止まりつつあった涙がまた溢れた。
「ご……、ごめんなさ…」
「……何か、嫌だった?……痛かったと思うし…。思ってたのと違った?がっかりした……?」
先輩の腕にギュッと力が入る。私は驚いて見上げようとしたけど、先輩が私の顔を胸に押し付けて見れないように押さえる。
「先輩……。違います…!」
私はわたわたしながら訂正した。
「泣いてたのは、そういうことじゃなくて……。なんだか…感動してしまって……。あの、嫌なんかじゃなかったです。痛かったです…けど……。でもすごく……」
続きを言うのが恥ずかしくて、思わず口ごもってしまったけれど、先輩が全身で緊張して私の言葉を待っている雰囲気が伝わってきたので、勇気を出して続けた。
「すごく……す、すてきでした……」
先輩の腕から、ほっとしたように力が抜けた。私の頭に頬ずりするように先輩が顔を寄せてきた。
「……よかったぁ……。起きたらいきなり君はいないし、見つけたら洗面所で大泣きしてるし…。何かヘマでもやらかしたのかと……」
私が唖然として先輩を見上げたら、先輩は珍しく頬をうっすらと染めてむっつりと言った。
「……何」
「先輩がそんことを気にするなんて、思いませんでした……」
「そりゃ、するよ。普通」
「でも、先輩いつも余裕たっぷり、っていうか……」
「余裕なんてないよ、君に関することは。いつもいっぱいいっぱい」
視線を合わせずに、拗ねたようんい言う先輩が可愛くて、私は思わず微笑んでしまった。
「千鶴ちゃん、何その顔」
生意気だよ、と照れ隠しのように言って先輩は私の両頬をぎゅっとつねった。
「それで?もう泣き止んだの?」
「ふぁ、ふぁい…。せんぱい……いたいれす……」
ようやく手を放してくれたほっぺたを自分の手で撫でながら、私は言った。
「ほんとに……、なんであんなに号泣したのか、今思うと我ながら不思議な感じです。でもあの時はほんとに泣きたくて泣きたくて……。今まで我慢してきた涙が一気に出たかんじでした。今はもうなんかすごくすっきりしてます」
私がそう言うと、先輩は複雑な顔をして私をまた抱き寄せた。
「……ずっと、泣いても誰も涙をぬぐってくれなかったんだね。でも、もう僕がいるから。泣くときは僕が抱きしめてあげる。涙は僕が全部ぬぐってあげるよ。っていうよりもう泣かせない。大丈夫」
その言葉に、何故かふたたび涙がにじんだ。
「あれ…。私また…?」
「……思い出したわけじゃないんだね。…」
先輩はそうつぶやいて、泣きだしてしまった私の背中を優しく撫でてくれた。先輩の「大丈夫、大丈夫だよ……」というやさしいささやきを聞きながら、私は今度は先輩の胸の中で暖かい涙をこぼしたのだった。
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長い間おつきあいいただいて、本当にありがとうございました!
次回でBLUE ROSE
最終回です!いつもどおり金曜日にUPする予定ですので
最後までお付き合いいただけると嬉しいです。本当にありがとうございました!
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