【Blue Rose 9−1】
『青は藍より出でて藍より青し』の続編です。前作を読まないと話がわからないと思います(スイマセン……)。
作者は剣道、その他について未経験者です。内容については信用せずフィクションとしてお楽しみください。
※大人向けの内容があります。苦手な方、18歳未満の方は閲覧をご遠慮ください。
「少林サッカー?こんなの見たいの、千鶴ちゃん」
「宣伝だけ見たことあるんです。面白そうじゃないですか」
千鶴ちゃんの意外なDVDの選択に、僕は少し驚いた。僕の勝手なイメージだと、ローマの休日とか選びそうなのに……。
「へぇ〜、なんというか……。面白い子だねぇ……。君って。まぁ、いいけど。別に見てもいいよ。これから僕の家……じゃまずいから、また今度にしよっか?」
今日は2月最初の金曜日。あの、『これはいったいどういう意味?女の子男の子クイズ』から一か月くらい。僕は千鶴ちゃんのGOサインを相変わらず待ってて……。でもさすがに女の子たち全員の×判定に従って、勝手に深読みしたり判断はしないように努力している。
要は千鶴ちゃんの行動の一つ一つを、僕が自分の希望的観測に捻じ曲げてたってことだよね。彼女は多分僕が考えるよりずっと初心で……、まだ準備ができていないんだろう。そんな真っ白な彼女を思うと、こんなことばっかり考えてる自分が嫌になる。
でもさ、もし準備ができたとして、それはどうやって伝えてくれるのかな?ストレートに『エッチしたいです』なんて言ってきてくれないだろうし、やっぱり行動から推測してGOするしかないんだよね。その判断って、難しいよね〜。GOサインが出ているのに気が付かなくて無駄に時間を過ごしちゃったってのは避けたいし。
まぁ、でもとりあえずはそういうシチュエーションをちょっと作ってみたりして、彼女の様子を見て、全然反応がなかったらあきらめて……ってことを繰り返してる。今日も、下心見え見えかなぁ……と思いながらも自宅に誘ってまったりデート。相変わらず無防備な千鶴ちゃんは何の疑いもなくついてきて、嬉しいようながっかりのような……。もうちょっと警戒してくれたりすると、こっちも仕掛けようがあるというか……。借りてきたDVDを二人で見てお菓子食べて、ちょっとキスとかしてみたりして……。でも僕がわかる範囲では特にGOサイン的なものはなかったから、今日はここまでかなって。逆にその気がないのにシチュエーションだけ進んじゃうと(夜二人きり、とかさ)、ボンノーに負けちゃうから避けた方がいいし。だから、敢えて少林サッカーは別の昼間に見ようって言ったんだけど……。
「何で、今からはダメなんですか?」
千鶴ちゃんは心底不思議そうな顔をして、下から覗き込んでくる。
「何でって……。今から見てたら門限過ぎちゃうよ?」
「あ、今日うち誰もいないんで大丈夫です」
なんですと!?
僕は思わず目を剥いて千鶴ちゃんを凝視した。
「父様は今日当直で病院だし、薫は南雲の家で不幸があったんで昨日から四国に行ってるんです」
だから、遅くなっても大丈夫です。とにっこりして言う千鶴ちゃんに、僕は苦笑いした。
危ない危ない……。もう騙されないぞ。これは例のトラップだ。多分純真な千鶴ちゃんは家に誰もいないってことに何の意味も持たせていない筈。
「でも、こんな夜に二人きりだと、ね……」
「ダメですか……?明日休みだし……」
問題は何もないと思うんだけど……、そんなことを思っていそうな顔で下から見上げられて、僕は額に手をやって溜息をついた。
そして、髪をかき上げる。
こうなったらはっきり聞こう。千鶴ちゃんも、そろそろ自分の言葉にどういう意味が含まれてるかわかってくれてもいいころだし。君はそんなつもりはなくても、そういう言葉を聞いた男は、こう思うんだよ。
「……もしかして誘ってる?」
千鶴ちゃんは一瞬ポカン、として……。ぼぼっと音がしそうなくらいの勢いで真っ赤になった。
「ちっちちがいます……!沖田先輩を信用してるんです!」
「信用……ねぇ…。されたくないなぁ」
僕は意地悪な視線で千鶴ちゃんを横目で見た。
DVDを一緒に見たかっただけなのに……。
変な方向に行ってしまった会話に、私はとまどった。
でも、先輩を信用してるっていうのは本当。先輩が思ってるみたいに、そんなことしないと思って信用してる、っていう意味じゃなくて。
出会ってからもうすぐ一年。つきあってからは……半年くらい?決して長くはないのに、もうずっと一緒にいるような気がしてしまうくらい先輩との日々は密度が濃かった。自分でこんな感情があるなんて知らなかったような感情も知って。嫌いな自分にも向き合って。こんなにも誰かを知りたい、理解したいって思ったのは初めてだった。
先輩のことを知れば知るほど、どんどん好きになっていく。最初は怖くてどういう風に接すればいいのかわからなかったけれど、でも仲良くなれば可愛いし子供みたいなところもたくさんあって、でも立ち入れない少し怖い部分もあって、そのどっちもがどうしようもないくらい私には魅力的だった。
こんなに素敵な人が私なんかをってなぜなのか信じられなかったけど。でもそんな不安が入り込む隙なんてないくらい、先輩はいつも傍にいて必ず約束は守ってくれて、こんな私をとても大事にしてくれた。
もう、沖田先輩となら、どんなことになっても大丈夫。変に自分を守るようなことはしないで全部さらけだせる。傷つくのが怖かったけど、沖田先輩になら傷つけられてもいい。
そういう意味で信用してる。
『幸せな約束』を怖がっている私に無理強いせずに、ゆっくりゆっくりつきあってくれて。私が鈍すぎて怒らせてしまったこともあったけど、でももっともっと沖田先輩のことを知ることができて仲良くなれたと思う。自分から男の人を抱きしめたいって思ったのも沖田先輩が初めて。
私に触れてくる感じやキスの感じで、沖田先輩がとっても我慢しているのもわかってる。前にアクシデントで旅館に泊まった時も、突然のことで準備ができていない私の気持ちを考えてくれて、添い寝だけで何もしないでくれた。クリスマスの時だって、私が固まってるのを見て、我慢してくれた。いろいろ悪戯をしてきて、意見が違うこともあったけど、自分の気持ちを押し付けてくるんじゃなくてちゃんと私の気持ちも考えてくれた。
沖田先輩は、私はまだ心の準備ができていないって思ってると思う…けど、こんな風に思うっていうことは、もう準備ができてるんじゃないのかな?別に今日、とは思ってなかったけど……。
私が自分の考えに真っ赤になりながらそんなことを考えていると、沖田先輩は私の沈黙を勘違いしたのか苦笑いをして言った。
「……今日は、やめとこうか?送ってくから、帰ろ?」
そう言って踵を返して玄関へ向かおうとする先輩の背中に、私は自分の考えていることを一生懸命伝えようと声をかけた。
「あ、あの……。大丈夫です……。私……。沖田先輩を信じてますから……。何があっても…大丈夫です」
それを聞いて、先輩は立ち止まって真顔でこちらを向いた。
うっすらとほほえみがはりついているけど、あの表情は……先輩怒ってる……?
な、なんで……?
私は思わず後ずさる。それに合わせて先輩もこちらに一歩、一歩とすすんでくる。とうとう私の背中は廊下の壁で行き止まりになってしまった。
先輩は底冷えのする微笑みを顔に張り付かせて、近づいてくる。そして妙に優しい、甘い声で言った。
「……ほんとに?」
そう言いながら、人差し指で私の頬をなぞる。
「僕を信じるって、僕の全部は知らないでしょ?君が見ていない僕もあるんだよ……?」
大きく目を見開いている私の顔の横の壁に腕をついて、彼は顔をよせて耳にささやく。
「たとえばね、僕はもう何回も君を抱いてる。頭の中で」
あ、何回、じゃなくて何十回、かな。
そう言う彼を見上げて、私は真っ赤になった。あんなことを自分から言ったくせに、今の先輩は少し怖くて、両手を自分を守るように体の前でぎゅっと握りしめる。
「今日も、抱いたよ。そのかわいい制服を一枚一枚脱がせてね。千鶴ちゃんの感じてる顔を想像した」
赤くなって固まっている私を見て、彼は苦笑いをした。
「怖い?でもこんなこと考えてる汚い僕もいるんだよ。あんまり信用されても困るんだ。行こう。送ってくから」
『汚い。』
その言葉に、私は目を瞬いた。
改めて先輩は玄関に向かって歩き出し、「送ってくよ」と言ってくれたけど、私は動かなかった。あとから思うと、このとき私の心は決まったんだと思う。沖田先輩に抱いて欲しいって。自分のことをあんな風に言う沖田先輩は見たくない。あんなことを言わせてしまったのは、私が臆病者だから。
怖がらせすぎちゃったかな……。そんな顔をした先輩がもう一度近づいて来た。
「千鶴ちゃん、ごめん。大丈夫だよ。君が嫌なことはしないし、前も言ったけど準備ができるまで待ちたいし」
「準備できました!」
思わず叫んだ私に、先輩は目を見開いた。
そのまま二人で見つめあう。
「千鶴ちゃん……。ごめん。さっきのはほんとに気にしなくていいよ。無理しないで。あんなこと考えてる僕が悪かったから……」
先輩が困ったように言う。
「沖田先輩のことが好き、って私は何度も言ってるのに……」
私が思わずつぶやいた言葉に、先輩は不思議そうな顔をした。
「……わかってるよ。千鶴ちゃんが僕のことを好きでいてくれるってのは……」
「じゃあ、なんで『汚い』なんて言うんですか?私の知らない沖田先輩があるなら、知りたいと思うし、そんなところもきっと好きになれます。『汚い』なんて思ってるのは沖田先輩で、私じゃありません」
私は両手を胸の前で握り締めて、先輩に近づいて言った。恥ずかしかったけどどうしても伝えたくて頑張って続ける。
「準備……できるまで、待ってくれてた先輩のことも大好きです。怖いし……恥ずかしいし……。でも……!私だってもっと沖田先輩のこと知りたいって思うし、沖田先輩に触れたいって思います」
沖田先輩に、私全部に触れて欲しいって思います……。
最後の言葉は、恥ずかしすぎて、声が掠れてささやくようになってしまったけど、私の気持ちを全部伝えたくて、顔を赤くしながらも必死に言った。今度は恥ずかしさから目が潤む。
私がそう言った途端、突然沖田先輩の手が伸びてきて私を引き寄せ、力いっぱい抱きしめられた。
言葉もなく私にむさぼるようなキスをする。私は驚いたけど、一生懸命に応えてキスを返す。いつものように優しいキスじゃなく、無理やり情欲を煽るようなむき出しのキスだった。
口づけをかわしながら、先輩の手が私の体中を這う。これまでウエストを優しく撫でられたり背中をさすったりしてくれたことはあったけど、これは押し付けるような汗ばんだ愛撫だった。
私の制服のブラウスがくしゃくしゃにされ、スカートもまくりあがる。どこに手を落ち着けるか決められないように、先輩の手は動き回り、制服の下に忍び行った。
その感触に、私は息をのんで思わずびくっと反応してしまうけど、先輩はそれを感じてさらに夢中になったように私の全身をまさぐった。そして無我夢中になりながらも痛くないようそっと廊下に押し倒す。私を床に固定すると、先輩はさらにキスと愛撫を深めた。まくりあげたブラウスの下のブラジャーの上から私の胸をそっと掴む。
「…あっ」
誰にも触られたことのない場所への、初めての手の感触に、思わず上ずった声をあげてしまった。びくんっと背中が反り返る。先輩の嵐のような愛撫に翻弄されながらも、私は頭の隅で今の自分の声に驚いて恥ずかしかった。まるで映画のラブシーンの時のような声……。こんな声を自分が出すなんて、信じられない。
沖田先輩、変に思わなかったかな……。
そんなことをちらっと考えてたけど確かめるような余裕は私にはなかった。先輩の手がふとももを撫でまわしている。気が付くと自分の足の間に先輩の膝があり、先輩をはさむような恰好になっている。もちろんスカートははだけ、ほとんど下半身はむき出しだ。先輩の口は今は私のうなじをさまよい、甘く噛み、なめている。もう一方の手は背中に回され、ブラのホックはすでに外されていた。
自分の恰好に恥ずかしいと思う一方で、私は自分にのしかかる先輩の体にも新鮮な驚きを感じていた。
沖田先輩……。熱い…体温が信じられないくらい熱い…。
そして息が荒く、腕も唇も乱暴と言える程荒々しくて、いつもと全然違う。先輩を感じているだけで、妙に切なくなって息が荒く、目が潤んできてしまう。
私も先輩に触りたくなって、鎖骨のあたりをさまよっている先輩の髪にそっと手を差し入れてみる。
やわらかい……。それにさらさら……。
私の手に気が付いた先輩が顔をあげ、目があった。
これまで何度か見た、深い色になった緑の上にぎらぎらとした金色の斑点が浮かんだ野生動物のような瞳が、今は私にターゲットを定め、食べつくすように見つめていた。
ドクンッと心臓が大きくなる。みぞおちのあたりが熱くなり、その熱が下半身に広がるのを感じた。その圧倒的な感覚に、思わずギュッと目を閉じる。
それを見て、沖田先輩ははっとしたように体を離した。
急に寒くなった自分の体に驚いて、私は目を開け、先輩を見た。
先輩は少し理性が戻ってきたようで、今がどこで、何をしていたのか初めて気が付いたような顔をした。そして、制服をぐちゃぐちゃにされて廊下に押し倒されている私を見て、ひどく後ろめたい表情をする。
「……ごめ……」
「ほら、またですよ」
謝罪をしようとした先輩をさえぎって言った。キョトンとしてる先輩に、私はほほえみながら言う。
「私の気持ちを勝手に想像して謝ろうとしたでしょう?私は、こんなに望んでもらっていたのかって、涙が出るほど今幸せで嬉しいです」
私はそう言って、自分から腕を先輩の首にまわして唇にそっとキスをした。
先輩は一瞬体をこわばらせたけど、すぐに力を抜き、キスに応えてきた。先ほどの乱暴なキスではないが、酔ってしまいそうなくらい濃厚なキス。
キスをしながら、先輩は私の手を求め、指をからめてつなぐ。何度も何度も角度を変え、深いキスをする。のしかかる先輩の体温と絡めた指の感触と、キスの合間のお互いの甘い吐息に、私は何も考えられなくなって体の力が抜けていくのがわかった。
永遠に続くかと思ったキスがようやく終わり、先輩の唇がそっと離れた。ぼーっとしたままの私を見つめて、そっと抱き上げる。
「廊下じゃなくて、せめてベッドに行こう?」
そう言ってキスの雨を私に振らせながら先輩の部屋まで連れて行ってくれた。