【Blue Rose 4−1】

『青は藍より出でて藍より青し』の続編です。前作を読まないと話がわからないと思います(スイマセン……)。
作者は剣道、その他について未経験者です。内容については信用せずフィクションとしてお楽しみください。
※大人向けの内容があります。苦手な方、18歳未満の方は閲覧をご遠慮ください。










 
 目が覚めてしまった。

千鶴は、真っ暗闇を見つめていた。夜中に目が覚めてしまうのがつらくて、昼間に一生懸命体を動かして疲れきってから寝るようにしているのに、今日は何故か目がさめてしまった。

 ぼんやりとした弱い月明かりで天井を見る。
月がでていると、あの人と一緒に月を眺めた日々を思い出して余計つらくなる。以前は夜中に目が覚めると、隣で眠っている暖かな体に甘えるように擦り寄って行ったものだった。そうするとその暖かな身体は、眠ったまま千鶴を抱きしめてくれる。そうして千鶴は守られて、その人の心臓の音を聞きながら安心して、また眠りに落ちていくのだ。


 でも今は。


 一人。
彼はもういない。
夜中に目が覚めてしまうと、再び眠りが訪れるまでがまるで拷問のようだった。
他に気を紛らわすものもなく思考が内むきになり、昼間は考えないようにしていることを考えてしまう。

 もしかしたら、京に行ったら会えるのではないだろうか?あの屯所に、前と同じ縁側で、ぼーっと空を見ているのでは?そうでないなら江戸は?療養していたあの部屋で、まだ眠っているのではないだろうか?私が行くと『遅いよ』と、あのすこし意地悪で、でも甘やかすような微笑を浮かべて抱きしめてくれるのでは?

 そこまで考えて、千鶴は目をつぶった。
 涙が知らず知らずのうちに流れる。

 

 もういない。

 

この世の、どこを探してもあの人はいない。
もう二度と会えない。どんなに願っても、もうあの人に触れてもらうことも、抱きしめることもできない。

 千鶴は、叫びだしそうになる口を必死に抑えた。叫んでしまったら、きっと狂う。ほんとに狂ってしまう。その方が楽かもしれないと、ちらっと思うが、千鶴は必死に我慢する。

「……会いたい……」

会いたい、会いたい、会いたい。あの人に会いたい。
思わず心の底からもれた、小さな声。自分の耳に入ってきて初めて自分がそうつぶやいたことに気が付いた。

  誰か助けて。

 

 

 「ん……」

 感情が高ぶり叫び声をあげそうになった時、千鶴は自分のものではない寝言のような声を聞いた。
薄暗い闇の中で驚いて目を見開く。
身を起こして隣を見ると、闇になれた目に布団の向こうで確かに誰かが隣に眠っているのが見える。

 千鶴は混乱した。
 昨夜のことを思い出しても、特にいつもとかわらない普通の一人の夜だったはずだ。誰かが勝手に家に入ってきたとしても、何もせずに隣で寝ているだけなんて考えにくい。じゃあ、隣に寝ているこの人は……?
おそるおそるその人の頭に触れてみる。

その髪の感触に、千鶴は衝撃を受けた。忘れようとしても忘れられない……。
柔らかくて細くてふわふわしていて。湿気の多い梅雨時はあっちこっちはねてしまう髪をもてあまし、いらいらしている彼を見て、千鶴は可愛くていつも笑ってしまっていた。暗くて見えないけど、きっと色は明るい茶色で……。

 

 「そ、総司さん……!?」

 


 ん……?千鶴ちゃん……?
あれ、僕いつの間にか寝ちゃってた……?

千鶴ちゃんが横にいるのに何も手出しができないなんて蛇の生殺し、とても眠れたもんじゃないと思ってたけど、意外に寝ちゃってたんだ。昼間デートで結構歩いたからかな。
僕はそんなことを思いながら寝返りをうって千鶴ちゃんの方を向いた。
まずいな……。早く立ち上がって障子の向こうの布団に行かないと、寝ぼけて理性が弱まったままあったかい千鶴ちゃんを抱きしめちゃいそう……。そうなったら絶対止まらないし……。

 このまま本能に負けてしまいたくなる気持ちを抑えて僕は起き上ろうとした。と、千鶴ちゃんが布団の上に半身を起してこっちを見ているのに気が付く。あ、隣で寝ちゃってる僕にびっくりしたのかな?

それにしては…何か様子が……。
 
 「千鶴ちゃん……?」

暗闇の中で、半身を起こしこちらを見ている千鶴ちゃんを見て、僕はぎょっとした。

 な、泣いてる!?

 それも普通の泣き方じゃなくて。暗闇の中でも千鶴ちゃんの白い頬に幾筋も幾筋も、あとからあとから涙が伝って流れてる。まるでどこかが痛いみたいに、可愛い顔をゆがめて、僕の顔を食い入るように見つめてる。確かに隣で眠っちゃったのは悪かったけど、別に襲ったわけじゃないし……。なんでこんなことになってるんだ?
僕は唖然として千鶴ちゃんを見た。すると、千鶴ちゃんが手を僕の方にスッとのばしてきた。震える白い指が、ためらいがちに僕の頬にのびてくる。そして何かを確かめるように、つっと人差し指で僕の頬を上から下へとなぞった。

 「……っ」
愛撫のようなその仕草に、僕は思わず反応してしまった。
「どうしたの、千鶴ちゃ……」
僕の言葉は、覆いかぶさって抱きついてきた千鶴ちゃんにさえぎられた。千鶴ちゃんは僕の首のところに自分の頬を押し付けて、声を殺して泣いていた。尋常でないその様子に僕は焦った。焦ったけど、そこは男の性で、華奢な千鶴ちゃんの体の感触に抗うことができなくて、細い肩に腕をまわして抱きとめる。千鶴ちゃんの肩は細かく震えていた。

 「幽霊でも物の怪でもなんでもいいです……。死んでしまったのにもう一度会えるなんて…!」

 

 その言葉に、僕ははっとした。

 これは、もしかして……千鶴?

しかも僕が、一人残してしまって逝った後の、千鶴?

そう思ってみると、こころなし表情が大人っぽいような気がする。

そしてこの態度……。




 今がいったいいつのなのか、僕は混乱して千鶴ちゃんを抱きしめながらも闇の中に目をこらす。部屋を見渡してみると布団の枕元には千鶴ちゃんの携帯電話と僕の財布と携帯。部屋の隅には僕のシャツと千鶴ちゃんのチュニックがかけてある。

 現代……だよね。

ってことは、この千鶴は千鶴ちゃんで……?
千鶴ちゃんの中にいた、昔の記憶……?
僕のつけた傷……?

僕が必死にそんなことを考えている間にも、千鶴ちゃんは、いや、千鶴は僕の首や耳、頬に、唇を押し付けてくる。そしてその柔らかな唇はとうとう僕の口にたどり着いて唇を合わせてきた。
夫婦だった昔でさえも、こんな積極的な千鶴は初めてで僕は面食らった。

いや、一度あったか…。

僕は昔のつらい記憶を思い出して一瞬眉根をしかめたけど、すぐに千鶴の熱い唇に意識を奪われた。思わずキスに応えそうになるけれど、頭の隅でかすかに警報が鳴る。

 記憶は夫婦だったころの千鶴でも、この体は、千鶴ちゃんだ。
まだキスしかしたことがなくて、それすらも真っ赤になってしまう千鶴ちゃん。
幸せな約束が嫌いで、僕を好きになることが怖い、臆病な、僕の大事な大事な彼女。
キス以上のことをしてもいいのか……?

 「待って、ちづ…!」
思わず声を上げようと唇を開いた僕の、その隙間から、するり、と千鶴の舌が入ってきた。
あたたかな彼女の舌が僕の舌に絡みついてくるその感触に、僕は体の力が抜けるのを感じた。
理性の止める声が聞こえていたけど、身体はもう抵抗する気すらなく千鶴の誘いにやすやすと、しかも喜んでのってしまった。

 千鶴の髪が、カーテンのようにたれさがり、僕を閉じ込める。涙にぬれた黒目がちの目がすぐ近くで揺れながら僕を見つめている。僕は手をあげて、千鶴の耳の後ろをささえ、僕からもキスを返した。彼女は角度をかえて何度も何度も、これまでどれだけ僕が恋しかったかが伝わってくるように、甘い切ないキスを繰り返す。息をつぐために唇が離れるその瞬間に、震えるような吐息が二人の口からもれる。

その甘さが、さらに僕たちを駆り立て行く。

 キスだけでは我慢できないのか、千鶴はキスをしながら自分の浴衣の帯をほどき、浴衣をはだけた。そして僕の帯も手でさぐり、ほどこうとする。

 僕は慌てた。
 ちょっ、ちょっとまって千鶴!その先は駄目だよ。千鶴とは何度もしたけど、君は今千鶴ちゃんで、千鶴ちゃんはきっと初めてのはずで…。
言おうとしてもキスで口がふさがっていて言えない。でも千鶴との気の遠くなるほど久しぶりの深いキスは、あまりにも甘くて僕には止められない。まるで磁石のように合わさって、離れることができなかった。
 そうこうしているうちに、彼女はとうとう僕の帯をほどき前をはだけさせてしまった。待ちかねたように、自分の真っ白いなめらかな肌と僕の熱い肌をぴったりとあわせる。ほんの少しでも僕たちの間に何かを挟みたくないのか、千鶴は自分の浴衣を脱ぎ捨て僕の体の上に全身を預けてきた。

 久しぶりのその感触に、僕の体の芯が震えた。我知らず熱い途切れ途切れのため息がでる。勝手に動く僕の手が千鶴のウェストのあたりをなで上げた。それに敏感に反応した千鶴が、あっ、と小さな声をあげる。そのあまりにも艶めいた声に、僕は眩暈がして目をギュッと閉じた。

 「千鶴……!」
熱く囁く。千鶴は唇を離して僕の顔を確かめるように、縋るように見つめた。


「もう、離れたくありません……!もしまた逝ってしまうんでしたら、今度は私も連れて行ってください……!」


囁くような小さな声だったが、悲鳴のように僕の胸に響いた。

 

 


 ああ、君は。


ずっとそんな気持ちを抱えて生きていたんだね。
僕があっけなく逝ってしまった後も、ずっと。
僕を許して、なんて言えないけど。

僕もずっとずっと寂しかった。つらかったんだ。
君がどれだけ涙を流しているか、どれだけつらい思いを抱えているか、考えるだけで哀しかった。
思い出していないときも、誰かと楽しく話しているときも、どんなときも心のどこかに君がいた。
君を思っていた。


僕に癒させてもらえるなら。
こんな機会があるなんて思いもしなかったけど、 

 


 僕に、君を、癒させてほしい。

 


 僕は、千鶴と体を入れかえ彼女を優しく組み敷いた。
じっと見つめる僕の顔を、千鶴は愛おしそうに見つめながら綺麗な涙をぽろぽろとこぼす。
震える白い手が、僕の顔を、肩をなでる。まるでここにいることが信じられないというように。
僕は、その華奢な白い手をとり指をからめた。自分の大きくて浅黒い手との対比が女を感じさせ、どきりとする。

 千鶴の瞳をみつめたまま顔をゆっくりと近づけ、唇をそっとあわせる。
「……会いたかったよ。千鶴……」
唇をかすかに合わせたままで、そうつぶやいた。

 「……わたしもです……っ!総司さん……!」
「心配しなくても、もう離さないから。ずっとそばにいる。君がもういやだって言ってもね。だから覚悟して」
微笑みながらそういうと、千鶴がはじめてふっと微笑んだ。溢れた涙が千鶴の髪を濡らしていく。
「いやだなんて、絶対に言いません……」

 

 僕は、はだけてもう腕にひっかかっているだけの自分の浴衣をぬぎながら千鶴にゆっくりとキスを繰りかえした。彼女の柔らかな唇を覆うように何度も何度も。舌で彼女の唇をなぞると、彼女の口から声にならない熱い溜息がもれる。しなやかな背中をのけぞらせて、白い喉をむき出しにして、僕を全身で欲している。
情熱的な千鶴も魅力的だ。本当に溺れてしまいたいくらい。むちゃくちゃに抱きしめて、食べるように愛し合いたいくらい。だけどあのペースで煽られたら、僕はすぐ終わってしまう。それに『千鶴ちゃん』は初めてだから、ゆっくりと時間をかけてあげないとつらいはずだ。今は千鶴が意識の大半をしめているみたいだけど、『千鶴ちゃん』も今夜のことを覚えているかもしれない。それに、もしかしたら都合のいい考え方なのかもしれないけど、この千鶴の傷を癒すことこそが、魂の傷を消して、『千鶴ちゃん』の、僕を好きになることや幸せな約束に対する恐怖を消すことにつながるんじゃないのだろうか……。

 手のひらに吸い付くような千鶴の肌をなでおろし、口を千鶴の耳に移す。
千鶴の弱いところは僕の記憶の中に全てある。初めて手に入れた自分だけの愛おしい女性の体に、前世の僕は溺れまくった。朝も昼も夜も関係なく彼女の体の秘密を少しずつ知り味わったんだ。僕は記憶、というより体が覚えているその愛撫を行動にうつした。彼女の耳をなめ、かじり、もてあそぶと、千鶴の動揺した可愛い声が聞こえてきた。その声に刺激され僕の胸の中にどうしようもないくらいの熱い、彼女への思いがこみ上げる。

ああ、なんでこんなに華奢な体にここまで夢中になってしまうのか。前世でも現世でもそれなりに他の女性との経験もある。なのに、なぜ彼女だけこんなに特別で、彼女が触れると僕の魂にまで触れられているように感じてしまうのか。

幸せすぎて、好きすぎて、感じすぎて、痛いくらいだ……。

 
 彼女の胸を手のひらでそっと包み、胸の頂点を転がすように優しく愛撫をする。
「あ……」
背筋をそらす千鶴の背中を持ち上げるように手をいれて、下から上へなで上げる。千鶴の上に覆いかぶさってうなじと耳への愛撫を続ける。
彼女のうなじには汗でべったりと髪がはりついていて、うるんだ瞳と、上気した頬で僕を見つめるその姿は、あまりにも色っぽい。

暗い部屋の中で、僕と布団の間で、千鶴の白いからだがぼんやりとほの白く光る。



千鶴の甘い吐息と僕の熱い溜息が、暗い部屋に溶けて行った。


 













私は高校生ではなく、18歳以上です。→NEXT【4−2】


私は高校生、もしくは18歳未満です。→NEXT【4−3】




※18歳以上の携帯ユーザーには本当に申し訳ないのですが【4-2】は、たぶん携帯からは見られないようにしてあります。【4-2】を飛ばして【4-3】に行っても話は通じます。









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