【青は藍より出でて藍より青し 2-2】
SSLではありません。が、似ている設定も多々あります。そして長いです……。
作者は剣道、その他について未経験者です。内容については信用せずフィクションとしてお楽しみください。
部活の練習の合間に、総司は嬉しそうに近藤に近寄って行った。近藤の傍には千鶴がいて、近藤から何か話を聞いている。
「近藤さん。どうですか?新しいマネージャー」
「おお、総司か。なかなかしっかりしてて、いいじゃないか。お前が勧誘したんだってな?彼女ならしっかりやってくれそうだ」
近藤はにこにこ笑いながら、嬉しそうに千鶴を見た。手放しな褒め言葉に千鶴は赤くなる。
「そうですか?近藤さんにそう言ってもらえるなんて嬉しいなぁ」
やけに素直な総司の言葉に、千鶴は思わず総司の顔を見上げた。総司は千鶴の方を見もせず、近藤を嬉しそうに見つめている。その顔に千鶴は驚いた。まるで子供の用に感情を表にだした無邪気な笑顔だったから。時々感じる総司の奥にあるさみしげな子供が、表に出てきて、喜んでいる、そんな感じだった。
こんな表情もできるんだ……。
かわいい……。思わず千鶴はそう思ってしまう。総司が近藤の道場に小さいころから通っていて、家族のような関係だとは土方から聞いていたけど心を開いた人には、総司はこんなふうに接するのかと、総司の新たな面を発見して千鶴は少しドキドキした。同じように小さいころから一緒だったはずの土方とは、総司は犬猿の仲のようだったから、昔からの知り合いなら誰にでもこんな風に接するわけじゃないのだろう。千鶴は少し近藤がうらやましい。
いいなぁ。近藤さん……。あんなかわいい顔で沖田先輩から笑いかけてもらえるなんて。
総司は相変わらず千鶴の方はちらとも見ず、近藤と楽しそうに話していた。
「おつかれさまっしたー!」
着替えを終えた部員達が三々五々、剣道場を後にしていく。千鶴は備品を片付けながらそれにいちいち律儀に挨拶をしていた。
今日は部長の一に、仕事を教えてもらいつつ、手伝いをして終わった。思ったより仕事量が多そうだが、人の世話をするのがもともと好きな千鶴は、無理やり入らされた部活だがやりがいがありそうだと楽しみになってきていた。
千鶴は、部員達にお疲れ様でした、と挨拶しながらも、瞳は思わず総司がどこにいるか、みんなと楽しそうにしているか、探してしまう。
今日の練習中も、総司はふとしたときにあの表情をしていた。周りの部員達は気づいてないみたいだが、千鶴はそれが気になってしょうがなかったのだ。いっそのこと、迷子の子どものように話しかけ、その寂しそうな色あいの元を消すことができればいいのだが、そこまで踏み込めるような類のものではないことも、なんとなく感じていた。
「千鶴!一緒に帰ろーな!着替えてくるからちょっと待ってて」
いつもと同じ明るい笑顔で、平助が部室のドアから顔を覗かせて言う。うん、とうなずくと、平助の後ろから着替えた総司が出てきた。そして、平助と千鶴の顔をそれぞれ見ながら言う。
「彼氏彼女みたいだねー。幼馴染ってそんなに仲いいものかな〜?」
「なっ!うるせーよ!総司!」
赤くなって叫ぶ平助を、押し込むようにドアをしめて、総司は千鶴の方に歩いてきた。顔はにっこりと笑っているが、オーラが黒い……。千鶴は思わず後ずさる。そんな二人を、部員達が不思議そうに見つめる中、総司は言った。
「ほら、僕の手の手当てしてよ。昨日の夜も、今日の朝も湿布かえて包帯まいてくれたでしょ」
雪村さんは、沖田先輩とも仲がいいのか……。しかも夜と朝に湿布をかえるって…。どんだけ会ってるの…?
部員達がそんなことを考えているのが手に取るようにわかってしまった千鶴は顔を真っ赤に染めた。が、総司が言っているのは本当のことだから何も言えない。千鶴は一瞬ちらっと総司の瞳を見て、あの痛々しい光がないことを確認すると、だまって、総司の手から新しい湿布を受け取り、包帯をほどき始めた。
手当てをするには不自然なほど、身体をよせてくる総司に、千鶴は少しずつ後ずさる。そうすると総司はさらに距離をつめる……。それを繰り返してとうとう千鶴は道場の壁際に追い詰められてしまった。
総司はあいている左手を千鶴の頭の横の壁について、いわゆる壁サンド状態にする。ふわっと総司の香りがする。汗の匂いも少しするが、不快な匂いではなく、安心するような匂いだった。密着した身体に、千鶴は緊張して、うまく手が動かせずいつもよりも包帯を巻く時間がかかってしまう。焦って、総司を見上げると、総司はにんまりと、とても楽しそうな顔をしてそんな千鶴をみつめていた。
どっ、どきどきするっ……!ぜったい心臓の音が聞かれてる!!
千鶴は顔を伏せて、包帯に集中しようと一生懸命だった。総司は、千鶴がうなじまで真っ赤になっているのを見ながら、妙に楽しい気分だった。
千鶴ちゃんが、僕を目で追っているのはなんでかな?妙に心配そうで、優しくしてくれるのは、彼女の性格?僕の怪我を心配してるのかな、とも思ったけど、よくわからないな……。
でも全然不快じゃない。むしろ心地がいい。もっともっと心配して欲しいくらい。
平助達に絡んで、千鶴ちゃんと一緒に帰ろっかな。二人だけで返すのもしゃくだしね。
総司がそんなことを考えていると、同じ二年の部員が剣道場の入り口で、からかうように総司を呼んだ。
「おーい!沖田!!彼女のお出迎えだぞー!」
その声を聞いて、千鶴はびくっと肩を揺らした。動揺を悟られないよう下をむいたまま残りの包帯を急いで巻いて留める。
総司を見上げると、総司は頭だけ入り口の方を向いていた。そして、初めて気が付いたように。
「ああ、あの子か……」
とつぶやくと、千鶴に目線を移し、にっこり笑って言った。
「ありがとね、千鶴ちゃん。明日7時半にまたよろしくね」
入り口へと向かう総司の背中をみつめながら、彼女がいるなら、彼女に手当てしてもらえばいいのに……と千鶴は何故か哀しくなった。入り口には髪の長い、清楚な感じの美少女が待っており、不安そうに総司を見ていた。総司はそんな彼女に笑顔で何か言うと、カバンとスポーツバッグを手にとり、一緒に外へと向かっていった。
そんな光景を見て、千鶴は何故だが胸が痛かった。
そうだよね、あんなに素敵な人だから、彼女がいて当然だよね。他の人が「彼女」って言っても沖田さんは否定をしなかった。
だからきっと本当に彼女なんだろう。すごく綺麗で素敵な人だった。二年生かな……。なんだ、私が心配するまでもなく、沖田先輩には、もう寂しさを救ってくれる人がいるんだ……。
ほっとしていいはずなのに、千鶴は、自分が彼を心配する権利が全くないことに、すこし傷ついていた。
「ワリ!遅くなった!帰ろーぜ!」
平助がばたばたと駆け寄ってきて、千鶴はすこしほっとする。
「うん!」
最後に部室の鍵をしめている斎藤に、お疲れ様でした。また明日からよろしくお願いします。と挨拶すると、めずらしくうっすらと微笑んで、ああ、と返事をしてくれた。
帰り道。平助は気になっていたことを千鶴に聞いた。
「なあ、お前なんで総司と知り合いなの?総司、なんでお前をマネージャーに誘ったんかな?」
喧嘩の話しはできないため、千鶴は注意しながら考え考え説明する。
「えーっと、昨日、たまたまちょっと危ないところを、沖田さんに助けてもらって。沖田さん、そのせいでちょっと手を傷めちゃったんで手当てをしてたら、剣道部の話しになって、なんだかこういうことになっちゃってたの」
「危ないとこって、何があったんだ?最近帰り時間が違っちゃって、俺なかなか送ってやれないからなー」
平助が心配そうに聞く。
「あ、大丈夫なの。ぜんぜんたいしたことはないの」
「ふーん、ま、俺はもともと千鶴にマネージャーになって欲しかったから、別にいいけどさ。でもさ、お前総司に近づくなよ」
急にまじめな顔になって、平助は千鶴に向き直った。
「え?近づくなって言われても……」
同じ部活だし、と続けると。
「そうだけどさ、部員とマネージャーってだけにしとけってこと。変に仲良くなったりすんなよ?ほれたりしたら最悪だそ」
いつも明るい平助の表情が曇っているのが、千鶴は気になった。なんでそんなことを言うの?そんな顔の千鶴を見て、平助は苦笑いをする。
「あいつさ、今でこそあんな普通な感じだけど、中学の時ひどかったんだよ、荒れてて。変な奴らとばっかつきあって、喧嘩して……。警察やら喧嘩の後始末やらで、道場の土方さんや近藤さんがあわてて対応してるのを何回も見てるからさ。総司自身も昔はぴりぴりしてるっつーか、こんなに簡単に話しかけられないような雰囲気だしててさ。目つきも悪りぃーし、ほんとアブネェ奴だったんだよ。高校入って、ちょっとづつ変わって、一君とも仲良くなって、俺とも話すようになったんだけどさ。あいつん中には、あの頃の危ないのがまだ残ってる。時々それを感じる。あいつが言うことを聞くのは近藤さんだけだ。千鶴一人じゃ、うまく扱えないし、巻き添えくうこととかあるかもしんねぇからさ」
あんま近づくな。平助君は最後の言葉をぽつり、とつぶやいた。
「俺自身はあいつのこと、けっこー気に入ってんだ。わかりづれぇところもあるけど、別の意味でわかりやすくてつきあいやすいっつーか。ほっとけないっつーか」
そう言って少し照れたように笑う。
千鶴は思ってもみなかった総司の過去に、少し驚いた。いつもにこやかで人当たりがよくて飄々としていて優しげで……。
でも確かに昨日千鶴を助けてくれたときの容赦のない手加減のない暴力は、千鶴の手にあまるものだった。優しげに笑いながら、考えられない程残酷なことをする……。昨日は確かに総司のそんな一面をちらりと見た気がした。けれど……。
「うん…。平助くんの言ってること、少し分かる気がする。でも、それだけじゃないよね?沖田先輩って。優しい、というか暖かいところもあるし、なんか小さい子みたいでほっとけない……」
千鶴がそういうと、平助は、ぎょっとしたような顔で千鶴をまじまじと見た。
「おいおい、千鶴。ほだされてる?だめだぞ!あいつはほんっとだめ!さっき話したこと以外でも、あいつってほんっと女癖わりーから!千鶴なんか朝飯前に食べられちまうって!近寄んな!」
平助は、あわてながら一生懸命説明する
「なんか、ツレの悪口言ってるみてーでやなんだけどさ。総司、中学のときから女とっかえひっかえしてて。来るもの拒まずっつーか。告白されたらすぐ、今まで付き合ってた彼女と別れて、新しい子とつきあっちゃうんだよ。だから三ヶ月もてばいいほうでさ。そんなんだから、彼女をぜんぜん大事にしてなくて。見ててかわいそうだったよ。歴代の彼女達がさ。お前、そんな扱いうけたくないだろ?」
千鶴はショックだった。
昨日会ったばかりの沖田先輩が、どんなに凶暴だろうと女癖が悪かろうと、特に千鶴には関係がないはずなのに、平助の話し、特に女性に対する態度に、千鶴はショックをうけた。
あの優しい目は、嘘だったんだろうか……?あのさびしげな様子も?沖田先輩は誰にでも、あんなふうで、それで女の子はみんな誤解して、先輩のことを好きになっちゃうんだろうか?誰にでもあんなふうに楽しげにからかって笑うんだろうか?それで簡単に釣れてしまう女の子達をみて、楽しんでたの?私のことも?
昨日、今日と千鶴に少なからず影響を与えた総司が、思っていた人間と違う、とうことが、千鶴を惨めにさせた。すこし意識してしまっていたからなお更。平助が言うとおり、千鶴は男の子とつきあったこともないし、いつも平助や兄の薫が守ってくれていたため、男の子から傷つけられたことも無かった。そんな純粋培養の千鶴からみたら、今の話しの中の総司は、まるで理解の及ばない、「男の人」だった。
沈みがちになる千鶴に気づかず、平助は「腹減った〜」と夕飯の話しになり、そこから普通の会話にもどっていく。
千鶴も合図うちをうちながら微笑むけれど、心の中は先ほど聞いた総司のことでいっぱいだった。
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