【青は藍より出でて藍より青し 2-1】

SSLではありません。が、似ている設定も多々あります。そして長いです……。
作者は剣道、その他について未経験者です。内容については信用せずフィクションとしてお楽しみください。












 


   放課後、総司は通いなれた高校の武道館の、剣道部の部室にいた。
この薄桜学園は、理事の近藤の意向もあり、武道の部活動に力をいれており、高校にも体育館とは別に武道専門の武道館があるのだ。中には、剣道、柔道、弓道、それぞれの部室と、剣道用の道場、空手の畳スペース、弓道の弓道場とがある。剣道部はその中でも全国大会上位の常連であることもあり、一番広い部室が用意されていた。

 今は部活の始まる前で、部員達は皆、道着に着替えたり部活の前の腹ごなしにお菓子を食べたり、馬鹿話をしたりしながらだらだらしていた。総司は、部室の脇にある畳スペースで寝そべりながら、練習メニューをチェックしている斎藤一と、お菓子を食べている藤堂平助と、他愛もない話をしている。平助も一も同じ二年で、平助は小学生の頃から近藤の道場に通っており総司とは旧知の仲、一は高校剣道部で始めて会ったのだが、お互いの強さに驚き、今は一も近藤の道場に通っている。

 「そんでさ、マネージャーの事なんだけどさ、前話したろ。俺の幼馴染の女の子が一年で同じ学校に入ったって。そいつにお願いしてんだよ。絶対いいと思うから、そいつにしてくれよー」
ポテチのコンソメパンチをぼりぼり食べながら、平助が言う。
「平助、ポテチを食べ零すな。掃除しておけ」
一がノートから顔をあげずに注意する。
「しかし、マネージャーか。はやく決めてもらえると助かるな」
一はそうつぶやいた。

 この剣道部は代々マネージャーがいなくて、部長と個人個人がマネージャーの仕事をこなすことになっていた。武道をたしなむもの、たとえ雑務とはいえ修行である、との信念から、理事の近藤と剣道部顧問で教頭の土方が決めたのだ。
しかし、総司と一と平助が入部して華々しい成果をあげ、全国的に名が知れ渡るようになると、部長の一にかかる雑務の負荷が急激に増えてきた。
 練習メニューの作成とチェック、練習中の補助、朝練や居残り練習の学園側への武道館利用申請、急に増えた練習試合の申し込み対応……。こんな現状から、土方はようやく今年から一人マネージャーを置くことを認めたのだった。
剣道部は男子のみであるため、部員はみんな色めきたった。部活動とマネージャーといえば、高校生の醍醐味ではないか。やっぱり可愛くて、優しくて、面倒見が良くて、明るくて……。と、まるで自分の彼女に対する希望のような期待を、部員はみんな持っていた。

 「あ、マネージャー、もう決めてきたから」
そんな中、さらっと言った総司の言葉に、騒がしかった部室内がしーん静まり返った。一拍おいて。
「えええええ!?」
なんで?どうして了解もとらず?どんな子?どうやって勧誘したの?
一斉に沖田に質問が殺到した。

 沖田は、両手の平をあげて、まぁまぁ、と皆をおさえて。
「今朝、入部届け出しちゃったよ。大丈夫、かわいいし、手際もよさそうないい子だよ。平助も多分気に入るよ」
「えー!前から言ってただろ、総司ぃ〜。俺の幼馴染〜」
「ああ、平助の彼女っていう子?」
「彼女じゃねーし。幼馴染だよ」
ちょっと焦った様子で平助が訂正するのを、ふーんと関心もなさそうな顔で総司は見ていた。
「なんて名前だっけ?でもその子まだマネージャーになるのオッケーしたわけじゃなかったんでしょ?」
「そ、そうだけどよー……」
練習メニューのチェックが終わった一が、道着に着替えようとネクタイをほどきながら言う。
「誰にせよ助かる。いつから来てくれるんだ?」
「あ、今日来るように呼んであるよ。教室まで迎えに行ったんだけど、土方先生に呼ばれててさ。僕だけ先に来たんだ。
多分もうすぐ先生とくるんじゃない?」

 その言葉と同時に、部室のドアをノックする音がして、顧問の土方が顔を覗かせた。
「おい、新しいマネージャーを紹介するから、早く着替えて出てきやがれ!」


 剣道場にずらっと並んだ30人あまりの部員を前にして、土方は道場の脇にある外にでる入り口の方をみて、呼ぶ。
「おい、でてこい」
部員達の期待をこめた注目をあびながら、緊張した面持ちで千鶴が入ってきた。桜花学園の学園長であり、総司達が通う道場の道場主でもある近藤も一緒だ。

 「ち、千鶴!?」
平助が素っ頓狂な声をあげる。
「マネージャーって、おまえ!?え!?なんで?総司?知り合い?」
平助は、列の前の方に並んでいる総司の顔を見る。

 総司は総司でちょっと驚いたように言った。
「あれ?平助の幼馴染って千鶴ちゃんなの?」
「おまえ知らないで千鶴を誘ったのかよ?」
「うん、偶然だねー」
「てめーら、私語は部活が終わったらやれ!おら、雪村、自己紹介しろ」
土方の怒鳴り声で、総司と平助は静かになった。

 千鶴は、小さく腰のあたりで平助にバイバイをしたあと、整列した部員の方をみて一礼した。
「一年B組の雪村千鶴といいます。がんばりますので、よろしくお願いいたします」
緊張のためか、顔を真っ赤にして挨拶する千鶴に、部員みんなが好意を持った。かわいいなぁ、いいねぇ、なんていう囁き声が聞こえてきて、千鶴は更に耳まで真っ赤になってしまう。どこを見ればいいかわからなくて、視線をさまよわせていると総司と目があった。総司はにっこり、と笑い、千鶴に小さく手をふる。知らない顔ばかり(平助は違うが)の中で、唯一知っている顔があり、千鶴はすこしほっとした。

 

 今日の一年生の教室は、どこの部活に入るかで盛り上がっていた。この薄桜学園は部活動がさかんで、今日の1.2限目に各部活動の紹介があったのだ。その中でも、試合のデモンストレーションをした剣道部は、面をとった部員達が皆イケメンだったため女子達の中で大人気だった。
「剣道部って、女子剣道部ははないんだってね!」
「マネージャー募集も一人だけなんでしょ?」
「それなら、同じ武道館で女子部もある弓道とかに入ったほうが近くで見られるかなぁ?」
「マネージャーになれたら、もう天国だけどね。どうやって選ぶんだろ?」
「あの人、かっこよかったね!!部長さんだっけ!?素敵な声の!」
「私、その相手の人の方がよかった〜!茶色の髪で背の高い。色っぽい声の〜!!」
「あ、あとさ、あの人もよくなかった?ちょっと小さくて元気な感じの!」
「ああ、あのやんちゃっぽい!?私あの人タイプ〜!」
きゃあきゃあ騒ぐクラスメートの中で、千鶴は小さくなっていた。

 沖田さん、もてるんだ……。そりゃそうよね。昨日もかっこよかったし、今日のデモもすごく素敵だったし……。
でも一見爽やかで素敵なのに、何故か黒いオーラを感じるのは気のせいかな……。どっちにしても私が剣道部のマネージャーになったなんてすごく言いにくい雰囲気…。

 「千鶴ちゃんはもうどこに入るか決めたの?」
そんなことを考えている千鶴に、しっとりとした笑顔をむけて、菊、という先ほど友達になったばかりの女生徒が話しかけてきた。
朝教室の入り口でぶつかりそうになり、お互い先をゆずって、なかなかはいれなくて、思わず二人で噴出してしまった結果、自己紹介をして、仲良くなったのだ。菊は千鶴と違って大人っぽくてミステリアスで、千鶴はそんな女生徒と友達になれた事が嬉しかった。
「私……、実は、なんというかもう入っちゃった…っていうか入らされたというか……」
自分でもわけがわからなかったため、千鶴はごにょごにょと言う。
「え?もう?入部届の用紙もまだもらってないでしょ?どこに入るの?」
「うーん、なんか変わりに書いてだしてくれたみたいで……。それが剣道部のマネージャーなの」
「え!?」
叫び声を上げた菊を、他のクラスメイトがいぶかしげに見る。千鶴は必死に菊の口を手で押さえて、しーっと人差し指をたてた。

 菊は、あたりを見渡して、声をひそめて言う。
「剣道部のマネージャー、ってあの競争率の高いところでしょ?どうやったの?」
「うーん、沖田さんって人がなんか強引に入部届をだしちゃって……」
「沖田さんってさっきデモしてた、かっこいい人よね!?千鶴ちゃん知り合いだったの?」
「知り合いってわけじゃ、ないんだけど、ちょっといろいろあって……」
はっきり言えない状況を察してくれたのか、菊はそれ以上つっこますに、千鶴を見ながら息をついた。
「千鶴ちゃん、これからたいへんよ…」

 それは千鶴も感じていたことだった……。

 

 

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