【どうなってるの? 2】
二人の部屋に入り、壁際にある背の高いスタンドの電気を一つだけつけると、千鶴はそのままショールを脱いで衣裳部屋へと歩いて行った。と、ふと視線を感じて振り向くと、総司がソファに座ったままこちらを見ている。
「……なんですか…?」
不思議そうに千鶴が聞くと、総司はソファの背に体重をあずけながら言った。
「……それさ、どうなってるの?」
???という顔をしている千鶴に、総司は人差し指で円を書くようにして続けた。
「後ろ。どうやってとめてるのかなと思ってさ。回ってみてよ」
総司の言葉に、千鶴はキョトンとしながらくるりと回って見せた。
「……紐でむすんでるんだね。スカートはどこからでてるわけ?」
「あ、これはつながってるんです。ワンピースで……」
「でも中に何枚も布が詰まってるじゃない?そういう花ってあったよね、バラみたいな……」
総司の言葉が面白くて千鶴は小さく笑った。
「ラナンキュラスですね。たしかに。『何枚も布が詰まってる』おかげでスカートがふんわり膨らむんですよ」
「どうなってるの?」
「え?」
「どうやって何枚もくっつけてるの、ってこと。何枚もスカートをはいてるの?」
「いえ、縫いつけてあって……」
「めくって見せてよ」
自分のドレスのウエストあたりを見ていた千鶴は、総司の言葉に目を見開いた。聞き間違えかと思って顔をあげる。総司はかまわず繰り返した。
「見せて、って。上の下着みたいなヤツの紐も解いてみてよ」
座ったままショーでも楽しんでるみたいに千鶴を見る総司に、千鶴は固まった。
「な、何を……」
「今日…びっくりしたよ。すごくきれいで。……似合ってる」
「あ、ありがとうございます……」
なんだか変なことを言われたと思ったら今度は褒められて……。千鶴は怪訝に思いながらも赤くなってお礼を言った。
「だから、見てみたいんだよね。それを脱ぐところも」
楽しそうに言う総司の言葉に、千鶴は息をのんだ。
妙な緊張をはらんだ空気が部屋の満ちる。
「まず……イヤリングをとって」
総司の静かな声に、千鶴はとまどいながらも、イヤリングなら……と、催眠術にかかったようにゆっくりと耳に手を伸ばしイヤリングをとった。
「じゃあ、次はその上の紐をほどいて」
総司の言葉に千鶴は困惑する。恥ずかしくて涙が出そうになる。
「お、沖田さん……!それは……」
「いや?」
赤くなりながら瞳に涙をためてうなずく千鶴に、総司は言った。
「千鶴ちゃんはさ……。僕を見てどう思う?」
千鶴は薄暗い部屋の中でソファに座っている総司を見た。今日の総司はブラックスーツにブルーシルバーのネクタイ。胸のチーフもネクタイと同じ色で、いつも四方八方にはねている前髪は上に無造作にあげられていてとても素敵だった。けれども千鶴にそんな台詞が言えるわけもなくて……。黙り込んでいる千鶴に総司は続けた。
「僕に触りたくならない?ネクタイをほどいたり、シャツの下は素肌なのかどうなのか気にならない?」
総司の誘うような瞳のきらめきと口調に、千鶴は思わず総司のネクタイとシャツに包まれた胸を見た。
「僕は気になるよ。千鶴ちゃんのその上の服。僕のハートは見えてるのかどうか、とかさ」
背中の痣のことを言われて千鶴はパーティ会場でのあの男のことを思い出して赤くなった。このハートは総司ももちろん気がついてて、そういう……時はいつもそこにキスをするお気に入りの場所だったのだ。
「……こっちにおいで」
逆らうことは許さない、という声に、千鶴はゆっくりと総司に近寄った。総司の前でたちすくんでいる千鶴を見上げて、総司は言う。
「僕のネクタイをとってよ」
総司の言葉に、千鶴はドキドキした。総司の服を脱がすなんて初めてだ。ほんの少しの好奇心と緊張を感じながら素直に千鶴はソファに膝をついて体を乗り出し、総司のネクタイに手をのばした。しかし予想に反して、なかなかネクタイが外せない。総司の喉もとに顔を寄せながら千鶴はネクタイの結び目がどうなっているのか覗き込んだ。そんな千鶴を、総司は楽しそうに見下ろす。
千鶴がようやくネクタイを外すと、総司はネクタイと、千鶴がまだ手のひらに握っていた真珠のイヤリングを受け取り、近くのテーブルの上に放り投げた。
「シャツのボタンをはずして……」
総司が千鶴の耳元に唇を寄せてささやく。千鶴は熱に浮かされたように総司の言うがままに彼のシャツのボタンを上から外し始めた。なめらかに筋肉がついた総司の胸が現れる。千鶴は思わずそこに唇をよせてキスをした。総司の息を呑む声が上から聞こえてきて、なんだかいつもと立場が逆転したようで千鶴はわくわくしてくる。そのままボタンをはずし、唇もゆっくりとそれにあわせて下げて行く。体の脇においてある総司の手が、ぎゅっと握りこぶしになるのを見ながら、千鶴は唇をはわせた。脇腹のあたりにキスをすると、総司はピクリと動いた。
すべてのボタンをはずし終えると、千鶴は困ったように総司を見上げた。総司の瞳は薄暗い部屋の中でもわかるほど濃くなっていた。表面に金色の光がきらめいている。
「ベルトのバックル、はずしてごらん……?」
総司の言葉に、千鶴はぼんやりとベルトに指をのばした。
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