SSLの斎千ルートの始まりはこんなだといいなーという勝手な妄想です。
第一話(平千ルート)→第二話(沖千ルート)からなんか続いてる感じですが、斎藤さんは日々コツコツと好感度を上げてくキャラを希望します!そして学園モノといえば学園祭!一緒に高校生活を満喫しつつフラグを立ててればいーよ!
「斎藤さん!」
駆け寄ってきた千鶴に、斎藤は小さく手を挙げて挨拶した。
「待たせてしまったか?すまなかった」
「いえ、私も今きたところです。すいません、わざわざ来ていただいて」
「いや、同じ沿線だしたいした労力ではない。では、……」
行くか、と言おうとして、斎藤は後ろにいる見慣れた男二人に気がついた。
「平助……総司も。こんなところで何を?」
斎藤がそう聞くと、平助がムスッとした顔で答えた。
「それは俺らのセリフだってーの!一くんこそこんなところで何してんだよ?それに、この、この……」
このこの言いながら、平助は目線で千鶴を示していた。斎藤は千鶴を見て、それからまた平助を見る。
「千鶴のことか?」
「なんでいきなり呼び捨てなの?一君の彼女とか?」
今度は総司が、妙にすわった目で聞いてくる。千鶴は斎藤の視線を辿り後ろを振り向いて平助と総司を見て、『あっ』と小さく声をあげた。
「朝の……それから、海で……」
千鶴と目があった平助が、照れくさそうに挨拶をした。「朝、ごめんな。遅刻しなかったか?」
「は、はい。間に合いました」
「そっか、よかった。あのさ、連絡先――」
言いかけた平助のセリフにかぶせて、総司が口を開く。
「僕のことも覚えてる?」
千鶴は視線を総司に移すと、頷いた。
「あの、海で夏休みに会った人ですよね?あの、私、突然いけなくなっちゃって……すいませんでした」
ペコリと頭を下げる千鶴に、総司はにっこりと微笑んだ。
「なんだ、嫌われたわけじゃなかったんだ。よかった」
「そんな!嫌うなんて、そんなわけないです!」
まだ続きそうな会話に、斎藤が割って入った。
「話し中のところすまないが、時間が迫っている。千鶴、行こうか」
「あっ。は、はい!すいませんでした」
「いや、謝ることはない」
そう言ってさくさくと二人で去ろうとする斎藤と千鶴に、平助と沖田は追いすがった。
「ちょっ……ちょっと待って!どこ行くの?なんで一君?」
斎藤は定期を出しながら答える。
「土方先生に頼まれて、夏休み中何度か薄桜学園を案内したのだ。今日もこれから学園に彼女を連れて行かなくてはならん」
「土方先生?薄桜学園に?なんで?」
平助も改札を通りながら聞く。
「あの、私、来週から薄桜学園に転入することになりまして……」
千鶴がそう言うと、総司と平助は「ええ!?」と素っ頓狂な声をあげた。
「うちの学園は男子校だぜ?」
「来週から?なんでそんな中途半端な時期に?」
ちょうどホームに入ってきた電車に乗り込みながら、この質問には斎藤が答える。
「うちの学園は実は昨年から一応男女共学ということになっている。女子生徒も募集はしていた。だが、これまで男子校として名が売れていたため、昨年は一人も入学者がいなかったらしい。千鶴は、家の事情で近藤さんや土方さんの世話になっており、その関係でこの時期に島原女子から転入することになったのだ」
千鶴もペコリと頭をさげた。
「そうなんです。一年生に転入することになりました。よろしくお願いします」
総司と平助は顔を見合わせる。そして総司が言った。
「こちらこそよろしく。僕は沖田総司。二年一組だよ。平助も同じ。一君は二年二組。……ところでどうして一君が君を迎えに来てたのかな?」
千鶴の代わりに斎藤が答えた。
「土方先生から面倒を見てもらえるかと頼まれたのだ。授業の進み具合も学園の方がすすんでいたため、転入してからこまらないように夏休み中に何度か勉強をみたり、各委員の説明をしたりした」
斎藤はそう言うと、千鶴の方を見て続ける。
「勉強の方は順調か?わかりづらかったところはないか?」
「いいえ、とてもよくわかりました。ずっと数学が苦手だったんですけど丁寧に教えていただいて、これまでやってきたところも理解できたと思います。教えるの、お上手なんですね」
少しだけ頬を染めて尊敬の念のこもった目線で千鶴から見られて、斎藤は無表情のままパチパチと瞬きをした。
土方に言われて単に義務としてやったまでなのだが、ここまで感謝されると面はゆい。教え方もあれでよかったのかと不安に思っていたので、千鶴の言葉は嬉しかった。
「いや、たいしたことは……」
頬を染めてモゴモゴと返事をする斎藤を、平助と総司がしらーっとした横目で見ていた。
『他の男子生徒どもに見つかるとうるさいからな』と、体育教師の原田は体育教務室に千鶴たちを入れてくれた。
土方の用事が終わり、『担任と顔あわせとけ』と土方に言われ体育教務室までやってきたのだ。
「なんか飲むか?」
コーヒー、緑茶、コーラと飲みたいものを好き勝手に言った総司と斎藤と平助に、原田は『そんなもんあるか』と一蹴して、千鶴を含めた皆に麦茶を出してくれる。
「いよいよ来週だなあ。俺たちも初めてで唯一の女子生徒だから戸惑ってるところもあるが、全力でバックアップするからな。何かあったらなんでも言えよ?お前らも助けてやるんだぞ」
原田に言われて、斎藤たちはもちろんと頷いた。新学期になって男子生徒ばかりの薄桜学園を初めて見た千鶴は、正直なところ怖気づいていた。しかし新たに知り合った皆の優しい言葉にほっとして笑顔を浮かべる。
「ご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いします」
原田も微笑む。
「そんなに固くなるなって。俺が担任だから気軽にな。早く学園に馴染めるといいんだがな……何か部活とか委員とかやる気はあるか?」
「部活か委員……ですか?」
千鶴が首をかしげると、平助が「あっ」と声をあげた。
「学祭の委員をやればいいんじゃねえ?11月で、二ヶ月感みっちり活動があるから、あれでいつもみんな結構仲良くなるんだよな」
総司も頷く。
「そうだね。学校にも慣れるし。僕と平助も学祭委員なんだよ」
「そうなんですか?斎藤さんは……?」
千鶴が斎藤の顔を見ると、斎藤は答えた。
「俺は風紀委員をしているからな。掛け持ちはきついだろう」
斎藤の返事に千鶴は少しだけシュンとした。初めて親を見た雛鳥ではないが、学園への転入のあれやこれやについて斎藤がいつもそばにいてくれたせいで、心細く感じてしまう。そんな千鶴には気づかず、平助はむくれたように言った。
「一君も誘ったのになー。クラスや学年が違うと学祭委員でもやらない限りあんまつるめねーんだよな」
つまんねーという平助を横目で見て、総司はにやにやと笑った。
「一君はあれでしょ、学祭委員のコスプレがいやなんでしょ」
「コスプレ?」
千鶴が聞くと、総司は肩をすくめて説明してくれた。
「学祭委員は一般の生徒と見分けがつくように、当日はみんな制服じゃない服を着るんだよ。伝統として代々その衣装が受け継がれてるんだけど、ちょっとコスプレちっくなんだよね」
「どんな衣装なんですか?」
興味を惹かれた千鶴がそう聞くと、原田は「見に行けばいいじゃねえか」と言った。
「ここの裏だぜ、学祭関係の倉庫は。この前衣装を俺が全部だして風通してるから、ちょうど見れると思うぜ。ちなみに俺は学祭委員の担当教師だから、確かに千鶴が学祭委員をやったらいろいろと注意できていいかもな。男サイズばっかりだから千鶴の衣装は考えないといけないがな」
学祭関係の倉庫で広げられていた衣装は、英国紳士風のフロックコートに立て襟のアスコットタイ、シルクハットにステッキという、男子校でやる意味がまったくない素敵コスプレだった。
どうやら薄桜学園の姉妹校であるイギリスの学校からの寄贈らしい。
「学祭三日目は一般のお客さんたちも来るんだけど、女子からウケがいいんだよねこれ」
総司がそう言ったが、さもありなんと千鶴は全部で30着ほどある衣装を見た。
もちろん着る人にもよるが、ここにいる総司や平助がこれを着たら……さぞかし見栄えがするに違いない。
「このあたりでは薄桜学園の学祭委員ってアイドル並に有名で、学祭後もきゃーきゃー騒がれるんだよね、そして一君はそういうのがいやなんでしょ?」
総司の言葉が図星のようで、斎藤は一瞬黙り込んだ。
「……武道と学問について秀でているからこの学園を選んだのだ。古き良き日本の武士道がまだのこっている学校だからと。それなのにこのような浮ついたことは……」
「だからそれがカタイんだよって。三年になったら受験で忙しくで学祭委員なんてできないし、二年の学祭っていったら思い出つくる最後の機会だよ?女の子からキャーキャー言われるのが嫌だっていう方が、僕たちと思い出作るより上なんだ」
総司がそう言うと、平助も言う。
「そうだよ、一君はいっつもなんつーかクールって言うの?ぎゃあぎゃあやってる俺らを冷たい目で見てる感じでさみしいんだよな。一緒に踊るアホになってくれたら楽しいのに」
「む……」
平助たちも、特に真剣な恨み言というわけではなく日頃の不満をちょっと言って見ただけのようで、話題はすぐに別のことに移っていった。
しかし斎藤は何やら考え込んでいる。
「……私、学祭委員やってみようかと思います」
隣の部屋に移動してしまった総司と平助の背中を見ながら、千鶴は斎藤にそう言った。斎藤はフロックコートを見る。
「……そうだな。俺もやってみようと思う」
千鶴は驚いた。「本当ですか?風紀委員との掛け持ちは……」
「総司が言ったとおり、掛け持ちは確かにキツイが無理というわけではないのだ。総司と平助があんなふうに思っていたとは知らなかった。少し……凝り固まりすぎていたのかもしれんと反省していたところだ」
素直な斎藤の言葉に千鶴は驚いた。友達を大事にしているのが感じられる。
「斎藤さんと同じ委員ですね、嬉しいです」
「二学期からの途中参加という意味では、俺もお前も同じだな。よろしく頼む」
「こちらこそよろしくお願いします!」
二人が挨拶をしたとき、倉庫の入口が開いて原田が顔を出した。
「どうだ?見つかったか?」
「原田先生。はい、ありました。私、学祭委員に立候補してみます」
千鶴がそう言うと、斎藤も続けた。
「俺もやってみようと思います。よろしくお願いします」
隣の部屋から戻ってきた平助の顔がぱっと輝く。
「一君、やんの?マジで?千鶴も?うおーーーーー!楽しい学祭になりそーー!」
総司もニッコリと微笑む。
「楽しみだね。帰りとかも結構遅くなるから、女の子は気を付けないとね。家は遠いの?」
総司に聞かれて、千鶴は特に考えずに答えた。
「いえ、それほど遠くないです。土方先生のおうちにお世話になってるんです」
途端に周囲に落ちる沈黙。
一番最初に口を開いたのは原田だった。
「……土方さんにお世話に……って……」
平助が続きを聞く。
「まさか……」
総司がひきつりながら否定する。
「いや、まさかささすがにそれはないでしょう。あの人一人暮らしだよ?」
斎藤が最後を引き取った。
「一緒に暮らしているのか?」
皆の表情にたじろぎながらも、千鶴は頷いて言った。
「はい。そうです」
つづく