SSLの原千ルートの始まりはこんなだといいなーという勝手な妄想です。
第一話(平千ルート)→第二話(沖千ルート)→第三話(斎千ルート)からなんか続いてる感じです。
原田先生はもー!かっこよくて女心もわかってて優しくて頼りになるんだけど、決して簡単には落ないで欲しいです!




「ま、まあひとり暮らしでもあの土方さんだからな、そうまずいことはないんじゃねえか」

そう言ってその場を収めたが、皆は納得しかねるという表情のままだった。
当然だとは思う。左之自身もあまり納得は出来ていないのだから。特に隠していないようだし、PTA会長の芹沢はもちろん、ほかにもバレたらいろいろ面倒なことになるんじゃないだろうか。それにそういうこと以前に、年齢的にも一応結婚もできる年なわけでもあるし何か間違いが怒らないとも限らない。……あの土方に限ってそれはないとは思うが。
ただ、千鶴が島原女子から薄桜学園へ転入してくる経緯にもいろいろと複雑な事情があったらしく、そのあたりの関係で千鶴が土方の家に一緒に住むことになったのだろうとは想像がつく。
千鶴の家族やこの薄桜学園も巻き込んだかなり大きな話のようで、学園長で理事の近藤が深く関わっているようなのだ。

だけどやっぱりまずいよなあ

左之は渡り廊下を職員室に向かって歩きながら、ガシガシと赤い髪をかいた。
先程まで体育教務室にいた千鶴と、平助、総司、一は、皆で帰っていった。学年は違うが早速知り合いもできたようだし、学祭委員にも立候補すると言っていたし、あとは日々の学校生活をきをつけてやればなんとかなりそうだなと思う。
だが、土方の件は……。
一応彼女の担任であるわけだからして、生徒の家庭環境は把握しておいたほうがいいだろう。左之は心の中で一度頷くと、職員室のドアを開けた。
中では古典教師の土方が、机に座ってプリントの丸付けをしている。近づいてきた左之に気づいて、土方は顔をあげた。
「雪村に会ったか?」
「ああ。……それで、初めて聞いたんだが、土方さん、一緒に暮らしてるんだって?」
左之がそう言うと、土方は眉間にしわをよせた。
「ああ……まあ、な。あまり褒められたことでないことは俺もわかってんだが、成り行きでな……」
「雪村一人で一人暮らしとかはどうなんだ?独身の男と二人でくらすよりはまだ世間体は良さそうな気がするぜ」
土方はため息をつく。
「それもなあ……考えたんだが。夏にちょっと……警察沙汰になってな。雪村の父親の行方不明に絡んで結構きな臭い話もでてきてるんだ。近藤さんが雪村のおやじさんに『娘さんの安全はお任せ下さい』っつった手前、一人暮らしさせてて危険な目にあっちまいましたじゃあ合わせる顔がねえ」
左之が担任として聞いている雪村千鶴の家庭環境は、父一人子一人。父親は中国での研究機関に招致されて今そこで働いているらしい。そしてこの薄桜学園の学園長である近藤が、昔、雪村千鶴の父親にかなり世話になったと左之は聞いている。そしてどうやら今、千鶴の父親は何かに巻き込まれて困った状態で、娘について近藤に頼んできたらしい。
当初は島原女子高校に在学させたままなにかと面倒を見る予定だったようだが、先ほど土方の言った『夏に起きた事件』のせいでそこまで悠長なことを言ってられなくなったようだ。急遽この薄桜学園に編入させ、さらに家についても土方の家に一緒に住むことにしたらしい。
左之が聞いているのはここまで。
事件の深刻度や、千鶴の父親が何に巻き込まれているのか知らないため、無責任に土方との同居を解消させるわけにもいかない。
「俺んとこはどうだ?一応部屋は空きがあるぜ?」
ふと思いついた左之は、そう提案してみたが、すぐに却下された。
「新八もいるあのおんぼろアパートにか?住んでるのはヤローばっかだろ?壁も薄いし、逆の意味で心配しかねえよ」
「……だな」
左之も肩をすくめて納得した。
「じゃあ、ま、なんか相談があったら言ってくれや。一応俺も担任だしな」
左之がそう言うと、土方は頷いた。「そうだな、何かあったら頼む」



そして新学期――
「千鶴ちゃん!新しいクラスはどうだった?」
廊下で千鶴を見かけた総司は、そう声をかけた。
配られたばかりのたくさんの教科書を抱えて廊下を小走りに走っていた千鶴は、総司の呼びかけに立ち止まって振り向いた。
「沖田さん!……と斎藤さん、平助君も。移動教室ですか?」
「うん、体育は一くんとこと合同なんだよね。もう慣れた?」
総司の言葉に千鶴はにっこりと微笑んで頷いた。
「はい、クラスの皆さんとっても話しやすくて親切にしてくださいます。女子一人でいろいろ迷惑をお掛けするんじゃないかと心配してたんですが、今のところはなんとかやれてます。ご心配ありがとうございます」
千鶴の言葉に、総司たちは顔を見合わせた。斎藤がちらりと腕時計を見る。
「休み時間はあと二分だぞ。急いだほうがいい」
「わっ本当だ!ありがとうございます!じゃあまた放課後に!」
慌ててバタバタと走り去る千鶴の背中を見ながら平助が首をかしげた。
「放課後?」
「学祭委員会があるだろう。多分それのことだ。途中から入った人間の紹介と班決めをするらしい」
斎藤も、今日の学祭委員会に途中参加なので千鶴と一緒に初委員会なのだ。運動場に向かって歩きながら総司が聞いた。
「千鶴ちゃん、いきなり馴染んでるんだって、どう思う?」
「それはまあ……」
平助はそう言うと、斎藤と総司の顔を見る。二人が頷いたり肩をすくめてるのを見て、平助も頷いた。
「だろ?土方先生が左之さんを担任にしたかいがあったってことじゃねえの」
「……まあそうだろうね。左之さんにまかせておけばクラス内は安心だろうし」
平助と総司の言葉に、斎藤は別の所で異議を唱えた。
「学校では原田先生と呼ぶべきだろう」
近藤が別でやっている道場には、土方を始め、左之、新八、総司、斎藤、平助も昔から通っており、教師と生徒以前にも仲のいい知り合いだった。だが、学園ではけじめをつけるべきだと、斎藤はかたくなに『土方先生』『原田先生』と呼んでいる。
斎藤は続けた。
「雪村が転入してくる前に、クラスの生徒にきっちりと言い渡していたんだろう。そういうところは原田先生は情に熱く、人のキビにも通じている。原田先生に逆らおうとする生徒などいないだろうしな」
剣道でも素手でも強い体育教師に逆らうような高校男子は、薄桜学園にはいるはずもない。そのせいで、千鶴の学園生活は上々の滑り出しとなったようだ。
ピリピリピリー!という笛の音と共に、斎藤たちの体育教師が集合をかけている。平助と総司、斎藤は、運動場へと向かった。

放課後の多目的室。
学祭委員のメンバー総勢25名に、夏休み明けから途中参加することになった二名――斎藤と千鶴――で、総勢27名が集まっていた。
一番前の教壇で左之が「静かにしろー」と声をかける。
ざわめいていた声が、徐々に小さくなっていった。ざわめきのもとはやはり、この薄桜学園に突如現れた一年生の女子。学園唯一の女子、雪村千鶴の存在だった。思春期真っ盛りの男子としては嫌でも意識してしまう。しかしそれをストレートに出して話しかけるにも自意識が邪魔をするし、かと言って興味がないわけなどなく、横目でチラチラ見たりこそこそとささやきあって冗談を言って笑ったり。
注目の的になっている千鶴は、朝からこの状態で、ある程度は慣れたとは言えやはり居心地のいいものではなかった。
唯一の救いは、近くに座っている斎藤、平助、総司の存在である。彼らは学園の中でも一目置かれているようで、委員会が始まる前の自由時間でも彼らを乗り越えて無遠慮に話しかけてくる生徒はいなかった。

でも、ずっとこのままじゃだめだよね……
クラスの方はなんとか仲良くなれそうだけど、こっちも早く馴染めるように頑張らなきゃ

千鶴がそう決意を決めた時、左之が教壇で言った。
「お前らももう気づいてると思うが、学祭委員に二名追加だ。一人は二年の斎藤。もう一人が休み明けからこの学園に転入してきた雪村千鶴。ほら、二人、立て」
一斉に注目を浴びる中、斎藤と一緒に千鶴は立ち上がった。じろじろと興味深げな視線に、自然と頬が赤くなってしまう。千鶴はうつむきたくなるのを我慢して前を向いていた。
「二年二組、斎藤一です。よろしく」
斎藤が簡単にそう挨拶して会釈をする。千鶴もドキドキしながら続いた。
「い、一年一組の雪村千鶴です。よろしくお願いします」
ぺこりと挨拶をすると、生徒の一人が手をあげた。「せんせー。おれ質問あるんですけどいいっすかー」
左之は「ああ」と頷いた。
手をあげた生徒は二年。立ち上がらずに座ったままで、千鶴を見ながらにやけた顔で聞いた。
「彼氏はいますかー?」
委員会が始まる前にその辺の仲間とその話をしていたのだろう、周囲4、5人がその質問にドッと笑った。そして続いてその中の一人が手をあげて質問する。
「好みのタイプはどんなタイプですか?こいつとか彼女募集中なんだけど、どう?」
そう言って隣りに座っている男子生徒を指さす。ゆびさされた生徒は「おい、おまえよせよ!」と笑いながらそいつをこづき、こづかれた方も「なんだよ、お前そう言ってたじゃん!」と笑いながら言い返す。
傍から見れば高校生男子の無邪気なじゃれあいなのだが、衆目にさらされている十六歳の千鶴には極めて居心地の悪い雰囲気だった。
真面目に返すのも、同じように冗談で返すのも、別のネタでうまく切り返すこともできない。
「……」
何か言わなきゃと口を開けたのだが、言葉が出てこない。指先の震えがひどくなり、鼻の奥がツンとなるのを感じた千鶴は、ここで涙など見せたら全て台無しだと焦った。だが、どうすればいいのかわからない。
「あ、あの……」
なんとか笑顔を作って千鶴が言葉を探したとき、大きなため息が教壇から聞こえた。
左之は、開いていた日誌をパタンと閉じると、もう一度ため息をつく。教室中が見守る中、左之は呆れたように口を開いた。
「……おまえらさあ……もうどこからツッコめばいいのかわからなねえくらいひでえな」
そう言うと、先ほど千鶴に質問をしてきたグループを見る。
「学園唯一の女子の興味をひきたいのはわかるけどよ、そのやり方で興味ひけると思ってるとしたらてめーら小学生以下だぞ?そこわかってるか?」
一番最初に質問した男子生徒が、ムッとしたように返事をした。
「別に興味なんか引きたいわけじゃねーし。普通に質問しただけじゃん」
「それだとしたらてめーらは男としちゃあ最低ってことになるがそれでいいのか?」
ひやりと左之の声の温度が下がり、生徒たちは思わず座りなおす。左之は微笑んではいるが、瞳は笑っていない。
「知らないやつばっか、ヤローばっかの中にたった一人で転入してきた女子の気持ちもわからねえやつが、何を聞きたいことがあるのか教えてもらいたいもんだな」
「……」
左之は、ぐっと言葉に詰まったその集団を睨むと、教室全体を見渡した。
「おまえらもだよ。彼女に興味があんなら変にちょっかいかけたり嫌がらせをしたりしねーで普通に話にいけ。照れくさくてできねえんなら話しかけんな。照れくさいから話づれえが興味はあるから話したい、だからちょっとしたイヤミや嫌がらせを言って突っついてやる的な小学生レベルの行動は、見てるこっちもいらつく上に、雪村だって嫌な気分にしかならねえぞ。いいか、モテるモテないの前にまず女子だって人間なんだよ。不安に思うし嫌がらせをされたら不愉快に思う。お前らのお楽しみのためだけに存在してんじゃねえんだ。相手の気持ちを想像して、年相応にふるまうことぐらい出来んだろ。今こいつらがやったやり方、あれをもし自分が逆バージョンでやられたらどう思うか、やってきたやつを好きになれるか?女子だらけのなかで一人で、プークスクスやられて気分いいか?人として最低だって思って終わりだろ?それを見てるほかのやつだって同罪だ。内輪ウケのネタに、一人で不安がってる奴を使ったイジメと変わらねえ行為で、それを傍観してたってな」
左之は、よく通るつややかな声で一気に話した。
教室はシンと静まり返っている。左之は一拍おいて、声のトーンを下げた。
「まあ、お前らも、中高一貫のほぼ男子校みたいなところで育って、そもそも女子とどう接すりゃあいいかわかんねえところもあるだろ。せっかく女子が来たんだから頭低くして勉強させてもらえ。それからお前ら……」
左之はそう言うと、さきほど千鶴にセクハラ紛いの質問をしたグループを見た。
「とっとと彼女に謝っとけよ。意識しすぎなんだよ、そもそも」
左之に促されて、その男子グループはお互いに顔を見合わせた。いきがって質問したはいいが、左之にコテンパンに叩かれ、しかし負けを認めるには思春期のプライドと仲間うちでの面目が丸つぶれなのとで、はいそうですかと素直には言葉が出ない様子だ。

その時、立ち尽くしていた千鶴が口を開いた。
「あ、あの……!突然転入してきて、その上途中から委員に入ったりして、女子も一人だけですしいろいろやりにくい思いをさせてしまったり面倒をおかけしてしまうと思います。でも、私も薄桜学園に入るからには、高校生活を楽しみたいですし、皆さんとも仲良くなりたいと思っています。不器用ですし特技とかもあんまりないんですが、一生懸命頑張ります。どうかよろしくお願いします!」
真っ赤な顔で必死にそう言って、千鶴は勢いよく頭を下げた。

それに飲まれたように、最初に質問した男子生徒は瞬きをして頭をかく。
「あ、ああ……うん。こっちこそよろしく」
隣りに座っていた男子生徒も「俺も、その、よろしく」「どうも……」などとぼそぼそと答えた。
教室の空気が緩んだ時、左之がパンと手を叩く。
「よし!じゃあ委員会をはじめるか。早速、去年の運行表をとってきてもらいたいんだが……雪村、とお前」
左之はそう言って、最初に質問をした例の男子生徒を指差した。
「二人で倉庫まで取りに行ってきてくれ」
女子とふたりで、と言っても、さきほどの左之の演説のあとに冷やかすような声は上がらなかった。意外に素直に席を立ってドアをでようとする例の男子生徒に、左之はこっそりと「雪村にあやまっとけよ」と耳打ちする。
二人が出て行ったあと、委員長を教壇に据えて左之は脇に下がり、班分けについての話が始まった。

左之は、総司と斎藤、平助が座っているところまで来ると、三人の顔を覗き込んだ。
「お前らも口を出すなよ。お前らが睨みをきかせてたら、そりゃあその時はちょっかいかけてくる奴はいねえだろうが、お前らだって四六時中雪村にくっついてるわけには行かねえだろう。学年だって違うんだしよ。学園に馴染むのは雪村が自分で頑張んねえとダメなんだよ。気持ちはわかるが見守るだけにしとけ」
ポンポン、と一番ピリピリと苛立っていた総司の肩を左之は軽くたたくと、教室の反対側でくっちゃべって議事に参加していない集団の方へと歩いて行った。
その背中を見ながら総司は肩をすくめた。
「あーあ、左之さんってホントに罪作りだよねー」
斎藤が言う。
「原田先生と言え。何が罪作りなのだ。千鶴のこの先のことまで考えた見事な采配だと思うが」
「さっきの左之さんの演説。男の僕から見てもかっこよくて惚れそうだったよ。あんなこと言われて千鶴ちゃんが普通でいられると思う?」
「なんだよそれ?」
まるでわかってない平助に、総司はため息をついた。
「千鶴ちゃんの目がハートになってたよ、ってこと。あれだけかっこよくて優しくて包容力があれば普通の女の子はそうなるよ。左之さんずるいよねえ」
斎藤も首をかしげる。
「千鶴が原田先生のことを好きになるということか?しかし年齢差もある上に、教師と生徒では……」
「女の子なんてそんなの関係ないの。むしろ大人の男ってことで大人気でしょ。……でも千鶴ちゃん可哀想だなあ」
「??なんで?なにがかわいそうなんだよ?」
最初から最後までわからない平助が聞くと、総司は教室の反対側でほかの生徒と話している左之を見た。

「左之さんはオチないと思うよ。千鶴ちゃんがどんなに頑張ってもね」



総司の意味深な言葉に斎藤が質問をしようとしたとき、教室の扉が勢いよく開いた。
バン!と激しい音がして、教室内の話し声が一瞬止み、皆の視線が入口に集中する。
そこには真っ白なスーツを着た金髪と見まごうくらい明るい髪の色の背の高い男が、眉間にしわを寄せてつっ立っていた。
左之が入口に向かって歩き出す。
「今、ここは学祭委員会の最中で……誰だ、あんた?学校関係者じゃねえな?」
教育関係者とはとても思えない不遜な態度。身につけているものは教師の給料では買えなさそうな高級品だということは、そういうものに見慣れていない高校生でもわかる。
不審者による学校侵入に神経質になっている昨今、左之は警戒し、生徒をかばうようにその金髪の男と対峙した。
「あんたどこの誰だ?誰の許可をとって学園に入ってきた?返答次第によっちゃあ警察につきだすぞ」
左之の凄みをフンと鼻であしらうと、その男はゆっくりと教室二一歩踏み出す。
そして腹のそこから響くような低い声で言った。

「この学園のオーナーだ。……ゆえに出入りも自由、見学も自由にさせてもらおう。雪村千鶴がここにいると聞いてきたのだが、どこだ?」








つづく