SSLの風千ルートの始まりはこんなだといいなーという勝手な妄想です。
第一話(平千ルート)→第二話(沖千ルート)→第三話(斎千ルート)→第四話(原千ルート)からなんか続いてる感じです。
ちー様の公式SSL設定ではどーしてもかっこよく料理ができず……orz。本編の方の嫁募集ネタにしていみました。
公式SSLでちー様がどうなるのかドキドキです。



「……ごめん」
視線を合わせずにそう言った男子生徒を、千鶴は驚いて見た。
男子生徒の手には進行表。倉庫までの行き方を、ぶっきらぼうながらも教えてくれて、学祭委員がよく使う物置や生徒会室、準備室も、行きがてら教えてくれた。倉庫の鍵をあける暗証番号を教えてくれて、倉庫の中に置いてあるものもざっと説明してくれて。
帰る途中で、男子生徒はつぶやくようにそう謝ってくれた。
「わ、私こそ……さらっと返せればよかったのかなって。あんまり話すのとかうまくなくて……すいませんでした」
千鶴もそう謝ると、男子生徒の頬はみるみるうちに赤くなった。「別にいーよ」と言って、男子生徒は学祭委員会が開かれている多目的室のドアを開けた。

途端に一斉に注目があつまる。

男子生徒と千鶴は、びっくりして後ずさりした。目の前には原田先生と……あと一人、見慣れない、けれども異様に目立つ男性が立っている。
背が高く足が長く、その上髪の色が金髪といっていいくらい明るい。肌の色も目の色も明るくて、外国の人のようで白いスーツがよく似合っている。
その人の、紅茶のように深みのある赤い瞳が千鶴と見たとたん、きらりと光った。
「……雪村千鶴だな?」
低い声で、質問ではなく断定されて、千鶴は思わず頷く。その男性はつかつかと千鶴に近寄ると、千鶴の手首を掴んだ。
「行くぞ」
そうしてぐいっと引っ張り、教室から出ようとする。後ろから原田が慌てたように追いかけてきた。
「お、おい!おい、ちょっとあんた何を……!」
原田が風間の肩を掴む。風間がその手を払った。
「気安く触れるな」
凄むような声に、原田の顔が真剣になる。
「本当に警察を呼ぶぞ」
「俺は不審者ではない。近藤に招かれこの学園に来て、先程まで学長室で話をしていた。雪村千鶴の居場所を教えてくれたのも近藤だ」
「……近藤さんの知り合いか?……じゃあさっきのオーナーってのは……?」
原田の後ろから、近藤道場の門下生でもある総司と斎藤、平助が教室から出てきた。
「近藤さんのうちには入り浸ってるけど、こんなやつ見たことないよ」
総司が緑の瞳を据えて風間を睨む。斎藤も静かに頷いた。「確かに、初めて見る顔だ」
平助も怒ったように言う。
「オーナーとか嘘つくなよ。この学園の創立者でオーナーは近藤さんだぜ」
皆に囲まれているというのに、風間は余裕の笑みで答えた。
「嘘ではない。さきほど正式に資金提供を条件に経営権譲渡の話をしてきた」
「え…ええ!」
驚く皆に、風間は余裕の笑みで返した。
「今の薄桜学園の状況を考えれば受けざるを得ないだろう。頼みの綱の芹沢も、自身のスキャンダルで首が回らないようだしな」
原田はぐっと言葉につまった。そのとおりだ。前々からいい噂のなかったPTA会長であり学園のスポンサーでもある芹沢だが、先日酒に酔って人を殴り飛ばしたことがマスコミに流れ、裁判やら炎上やら賠償金やらでたいへんなことになっているのだ。
風間は自分が手首を掴んでいる千鶴を見た。
「台風の目であるこの女に、俺がしかるべき身分を与えてやろうというのだ。その上学園まで救ってやろうかという提案だ。ありがたく受け取るのだな」
「この学園は近藤さんが苦労して創立したんだ。学園の哲学も理念も全て近藤さんの夢だ。そう簡単に渡せないね」
ピリピリと緊迫したオーラを発しながら、総司が一歩踏み出した。
風間は見下すように総司を見ると、「フン」と馬鹿にしたように笑う。
「それは俺に言うのではなく、近藤に言うのだな。まだ学園長室にいる。今なら近藤が契約書にサインする前に止められるかもしれんぞ」
風間はピカピカに光る腕時計を見ると、千鶴と引っ張って歩き出した。
「この女をお前たちがかくまっている限り、別の国の資本からこの学園は狙われ続けるだろう。お前たちには分不相応なのだ。俺に任せておけ。行くぞ、雪村千鶴」
手首をぐいっと引っ張られ、千鶴は転びそうになりながら風間に付いていく。
「あ、……え、え?」
千鶴がどうしようかと風間を見て原田達を見る。
後ろから原田や総司たちの声が聞こえてきた。
「どうすんだよ、千鶴はほっとくのか?」と平助。
「放っておくもなにも話が見えないよ、僕はまず学園長室に行って近藤さんから話を聞いてくる」と総司。
「まて、俺も行く。平助と斎藤は学祭員会の皆に、今日は解散だと言っておいてくれ」と原田。
聞こえてくる皆の声を気にしながら、千鶴は風間を見上げた。
「あ、あの、どこに行くんでしょうか?」
風間がちらりと千鶴を見る。
初めて近くで見るその人は、至近距離でも整っていた。しかし視線は冷たく人を人とも思っていないような尊大な態度だ。
「校門に記者たちが待ち構えている。そこで婚約発表を行う」
「……婚約……。誰がするんでしょうか?」
「俺とお前だ」
あっさりそう返されて、千鶴は思わずむせてしまった。
「……えっ…!え、え!?こ、婚約ですか!?わ、私が?」
思わず立ち止まった千鶴に、風間は苛立ったように今度は彼女の腕を掴んで強引に引きずるようにして廊下を歩く。
「もともとお前の雪村家と我が風間家は遠い姻戚関係だった。今でこそ資産状況的には雲泥の差だが、家の格的には釣り合いが取れている。お前が俺のものになれば、学園の買収問題も他国からの干渉もなくなり、我が一族も落ち着くのだ。お前も父親と自分の安全が保証される上に、一生食うに困らない生活が約束される。お前にとっても俺にとっても悪い話ではないだろう」
「遠い姻戚関係……ですか?ちょっ、ちょっと待ってください。私そんなこと父様から聞いたことがなくて……」
「当然だ。小娘に話すような話ではないからな。記者会見が終わったら、お前は俺の家に引っ越して来い。婚約者がほかの男のマンションに住むなどと言語道断だ」
「待って……待ってくださいって言ってるじゃないですか!ちょっと止まってください!」
千鶴は大きな声でそう言うと共に、がっちりと掴まれている腕をひねって、風間の手を払った。そして一歩後ろに下がると風間から距離をとって、睨む。
「話を聞いてください!」
風間は払われた自分の手を驚いたように見て、そして千鶴を見る。しばらく目を見開いて千鶴と見ていたが、ふっと唇を緩めると、おかしそうにクスクスと笑いだした。
「……くっくっくくく……。我が未来の妻は気が強いらしい」
「……!だから妻になんてなりません!っていうより何がなんだかわからないので、記者会見なんか一緒にするつもりもありませんし、引越しをするつもりもないです」
千鶴が強く言い返しているというのに、風間はそんな千鶴を楽しそうに眺めている。
「……これは嬉しい誤算だな。風間頭領の嫁ならば、気が弱いそのへんの女では役不足だと思っていたのだ。この俺に言い返すほど気が強いのはなかなかいい」
「〜〜!話を聞いていますか!」
全く意見を変えていない風間に、千鶴は怒って言った。
風間は千鶴の怒りなどどこ吹く風で、再び千鶴の手首を掴む。
「離してください!」
必死に腕を振り払おうとしたが、今回は鉄の輪に捉えられているようにがっちりと捕まえれらていて振り払えない。
「記者会見はする。お前が俺の嫁になることを全世界に発表する。引越しが嫌なのなら、そのまま俺の家に連れて行こう。制服も持ち物も、全て新しく揃えさせればいいだけだ」
風間はそう言うと、校門へとつながる学園の玄関のドアを開けようと手を伸ばした。
「記者どもが群がってくる。覚悟はいいか?」
楽しそうな色が風間の朱色の瞳に浮かんだ。
「か、覚悟って……!だから私は――」

このままではむりやり外に引きずり出されて写真をとられてしまう。
風間グループは千鶴も聞いたことがあるくらいおおきな企業グループで、そこの記事はすぐにニュースとして流れてしまうだろう。後で訂正するにしても、その訂正記事など新聞や雑誌は載せてくれないだろうし、テレビで流してくれるなんて思えない。このままでは千鶴がこの男の婚約者であることが全世界に流れ、誤解を解くこともでいなくなってしまう。

ど、どうしよう……!
どうすればいいの!!

風間の手が扉にかかったその時。
後ろから鋭い声がした。

「風間!その手を離せ!」

声に驚き千鶴は後ろを振り向いた。風間も訝しげに振り向き、声の主を確かめうる。
「……お前か、土方」
「土方先生!」
千鶴が叫ぶと、つかつかと土方は千鶴たちのそばへと歩み寄り、千鶴掴んでいる風間の手首をつかみぎりぎりと締め上げる。

「とっととこの汚い手を離せ。外の記者達に風間グループ総裁のセクハラについてスクープさせるぞ!」
「……」
風間は睨むように土方を見ていたが、舌打ちをすると千鶴の手を離した。
「ひ、土方先生……」
安堵のあまり思わず泣きそうになってしまった千鶴の頭を、土方はポンポンと優しくたたくと自分の背にかばう。
「遅くなって悪かったな」
そして苛立った表情でこちらを見ている風間と正面から向き合った。






つづく