SSLの沖千ルートの始まりはこんなだといいなーという勝手な妄想です。
平千ルートの第一話からなんか続いてる感じですが、ここで沖田さんフラグが立ったりしちゃって!そして沖千ルートはやっぱり切なく甘く!頼んます!
「だから謝ってるよね、もう何度も。平助しつこすぎるんじゃない?」
総司がそう言うと、平助は「だーかーらー!」と言い返す。
「俺の携帯を総司が学園の池に落としちまったのは、いーんだって!弁償してくれたし最新のになったしさ!中のデータが消えちまったことを言ってんの!」
机の向かい側で新しく総司が買ったスマホを、携帯ショップのお姉さんが何やら設定してくれている。
隣り合って座っている平助と総司は、小さい声で言い合いをしていた。
「だからそれも謝ってるじゃない。消えたものはしょうがないでしょ?友達とか知り合いだって僕とほぼかぶってるしまた番号とか聞けばいい話なのにグチグチと……それとも何、何か大事な女の子のアドレスでもあったわけ?
」
「なっ…べっ別にねーよ!」
一瞬にして赤くなった平助の顔を見て、総司の瞳はきらんと光った。
「……あるんだ?」
「ね、ねーって!それに、その……メアドとかじゃなくてほら、思い出の写真とかさ!いろいろあんじゃん!去年の学祭の写真だってこれで撮ったんだしそのデータとか――」
「ふーん……メアドね……聞いたんだ?誰の?どこの女の子?」
「おまたせしましたー!」
ショップ店員の朗らかな声で平助と総司の会話は途切れた。が、店を出たら総司の猛攻が始まるのを予想して、平助はどんよりとなった。
そしてなんだかんだの後。
総司は嫌がる平助をつれて島原女子の最寄駅構内の真ん中にある時計台の下に立っていた。
「だからいーって。もう帰ろうぜ。明日電車で会えるからわざわざ帰りを待たなくても……」
平助は不満げにそう文句を言うが、総司は悠然と構えたまま動かない。
「まあまあ。連絡先を消しちゃった責任はとるって。平助、このまま放っといたら明日の朝とかになっても話しかけられなくてそのまま卒業とかありそうだし」
「なっ……そんなこと……」
無いと思うが、可能性はゼロではない。
平助は女の子に話しかけるのは別に苦手ではないし女友達だって結構いるが、自分からナンパのようなことをすることは苦手だ。今朝のだって、満員電車でスペースを譲ったりストラップがひっかかったりで、どうしようもないアクシデントのおかげでようやく彼女の連絡先が聞けたようなものなのだ。
「でも、やっぱいーよ」
「なんで。どんな子か知りたいな〜」
「だからそれがいやなんだって!お前に教えたらぜってー邪魔すんだろ!」
「しないって。どんな子か知りたいだけだよ。可愛い子なら僕だって興味があるし」
「だーー!だーかーら!それが嫌なの!もう帰るぞ!……あっ」
立ち上がった平助は、駅の反対側の入口から入ってきた一人の女子高生を見て思わず小さく驚きの声を上げてしまった。
あの子だ。
雪村千鶴ちゃん。
「どれ?あ、あの子?」
総司が目ざとく気づき、平助の視線の先を追って彼女を発見する。
千鶴を見た瞬間、総司の興味本位だった笑を含んだ緑の瞳がきらりと光った。
「……へー……あの子?」
「な、なんだよ。ジロジロ見るなよ。もういいから帰ろうって……」
総司を押し止めようとする平助の手をするりと交わして、総司は迷いなく千鶴に向かって歩き出した。
「かわいいね、彼女。僕が平助の代わりに謝って、もういっかい携帯番号とメアドを聞いてきてあげるよ」
「ちょっ…!やめ…おい総司!」
慌てて追いかける平助に構わず、総司はスターバックスを出て千鶴の方へと大股で歩いていく。平助は必死で総司を止めた。
「あの子は俺が先に見つけたの!お前は引っ込んでろよ!」
「何それ。先着順なわけ?それならますます僕の方が優先権があるよ」
「は?なんで?」
総司の腕を掴んで必死に抑えていた平助は、優先権が総司にあるという言葉に目をまたたいた。総司は反対側にいる彼女を見ている。
「あの子……僕、知ってるよ。夏休みの部活の帰りに毎日会ってた」
「はあ!?」
総司の脳内は、夕焼け色に一面に染まった空でいっぱいだった。彼女といつもあっていた時の空の色。
薄桜学園からほど近いところに海がある。
部活で指導教員の土方に負けて、さらに尊敬する近藤が困っていた問題についても土方が解決して。
『いやあトシがいないと俺なんてどうなってたかわからんなあ』
と笑いながら土方と話している近藤を見て、落ち込んだ日。
総司は一人で部活帰りに海へと行ったのだ。
別に観光地や海水浴場でもなく港があるわけでもない、本当に単なる日本の海岸線の一部。テトラポットが山のように積まれているせいで景観もよくなく近所の人も海の存在など忘れているようなそんな海だが、そのせいで誰もいない。
聞こえるのは波の音だけだし、目の前にはビルも電信柱もなにもない広い空だけ。
モヤモヤした気持ちを抱えて海をぼんやり見ていた総司は、少し先に女の子がいて同じように海を見ているのに気がついた。
その日はそれだけだったが、海を回って帰る帰り道が気に入った総司は、次の日も海を見ながら帰ろうとそこへ行き、また昨日見た女の子を見かける。
そんなことがしばらく続いたある日。
その女の子が長い棒を持ってテトラポットの隙間を付いているのを見かけた。何をしているのかしばらく見つめて、総司は彼女がテトラポットの間に落ちた傘を拾おうと悪戦苦闘しているのに気づいたのだ。
視線に気づいた彼女が振り向き、総司と目が合う。
お互いに存在は認識していた同士、総司は肩をすくめて言った。
『とれないの?手伝おうか?』
彼女は遠慮したが、『僕の方が手が長いし、君よりは可能性があると思うよ』と言うと、素直に『お願いします』と言ってくれた。
すぐには取れなかったが、片足をテトラポットに乗せて体半分乗り出して腕をのばしたら、無事に棒きれを傘の柄の部分にひっかけることができた。
『ありがとうございます!』と満開の笑顔でお礼を言われて、それが可愛くて総司も思わず笑顔になった。
それから海で彼女と会える日もあったし、会えない日もあった。
会えた日は話をするようになって、名前も聞いた。彼女は引っ越してきたばかりで住んでいる近くに海があるのは初めてで珍しくていつも見に来ていたと言っていた。
そう言って夕焼けに染まる海を見ている彼女の横顔を、総司は見ていた。
『……明日もここに来る?』
約束のようなことはしたことがなかった総司が、初めて言った約束の言葉。
彼女は恥ずかしそうに微笑んで頷いてくれた。
人でごった返している駅の構内を横切りながら、総司は思い返す。
あの時、彼女は頷いたのに、次の日来なかったのだ。
その次の日も。その次の日も。
もう来ないだろうと思いつつも、総司はいつも海を回って帰るようになっていた。
知っているのは名前だけ。まさか島原女子の生徒だったとは。
「ま、毎日会ってたってどういうことだよ!?」
平助の声に、総司の物思いは破られた。
「そのまんまの意味」
「つ、つきあってんの?」
「……」
総司は横目で平助を見る。ここで肯定できれば話は早いが残念ながら違う。
「……まだ付き合ってはないよ」
「ま、まだってなんだよ!」
「それもそのまんまの意味だよ」
「そのまんまって意味わかんねーし!」
言い合いしながら総司と平助が押し問答をしていると、それに気づいていない千鶴はきょろきょろと誰かを探しているように視線をおよがせた。そして探していたものを見つけたのかパッと表情を明るくすると、反対側へと小走りでかけていく。
「斎藤さん!」
お互いでつかみ合っていた平助と総司は、千鶴のその澄んだ声にポカンと動きを止めた。
千鶴の駆け寄る先をみると、そこにはいつもつるんでいる同じ剣道部の斎藤が、千鶴に向かって優しく微笑み片腕を上げて合図しているではないか。
「……あれ……」
「は、一くん……?」
続く