【WILD WIND 16-1】

※千鶴ちゃん(記憶無)と斎藤さん(記憶アリ)の間の子どもがオリキャラとしてでてきます。それ以外のオリキャラオリ設定てんこもり。苦手な方はブラウザバック!






ガラガラと音を立てて、あげられて渡れなくなっていた橋がゆっくりと下がっていく。
それと同時に上流の方でも水門が下がっていくのが見えた。
「……終わったみてーだな」
中洲の城跡の方を見ながら、不知火がポツンとつぶやいた。
天霧の援護にと、先陣部隊の半数程度が既に川を渡り敵と戦っていた。一進一退で、北の鬼たちは最後の一人になるまで徹底抗戦をしてくると思っていたのだが、意外にあっさりと白旗を上げたようだ。
千鶴も、斎藤の隣でみなと一緒に中洲の方を見る。
先ほどまでは戦いの声や川の流れの音でうるさいくらいだったのに、今はざわざわとしたざわめきが聞こえてくる程度だ。
「どうなったのだろうか……」
千鶴の横で、斎藤が呟いた時。
中洲の方から船が一艘やってくるのが見えた。小さな船で、乗っているのは3、4人程度。真っ直ぐにこちらを目指しているようだ。
「あれは……」
水に濡れた前髪をかき上げて、船の方に目を凝らした斎藤が呟く。千鶴も気が付いた。
「左之さんに平助君…!」

「おお〜!!!あっちで見てたぜ!よかったあ!ほんとよかった!」
「まったく冷や冷やしたぜ!」
途中で船から飛び降りて、今は浅瀬になっている川をざばざばと渡りながら、平助と左之は千鶴と斎藤の無事を大喜びしてくれた。
中洲で戦っていた天霧の援軍と、城跡に潜り込んだ斎藤の応援のために、左之と平助も第一陣に交じって城跡に船で渡ったらしい。斎藤を探そうとしたその時に千鶴が飛び込み、斎藤が後を追い……。
岸に何とか上がったところまでは平助達からも見て取れたので、中洲でいっちょ暴れるかと腕まくりをしたところで、急に敵方の動きが止まったらしい。
「動きが……?何かあったのか?」
斎藤の問いに、左之がうなずいた。
「遠目だったけどよ、敵のえらい奴みたいなのが急に出てきたんだよ。『争いをやめろ!』っつって。仲間の爺さんたちからも『何を言ってるのか』『中の安全なところにいろ』とか言われてたけど、そいつはきかずにど真ん中まででてきてよ。んで天霧に『話がしたい』って」

敵のえらい奴……

左之の言葉に、千鶴は自分を嫁にすると言っていた鬼の頭領を思い出した。
「あ、あの、その人、金色の髪の、風間さんにどこか似た…?」
千鶴がそう言うと、平助が目をぱちくりさせてうなずく。
「そーだよ。千鶴知ってんの?そうそう、その風間って前に白河城で倒した西の頭領とかいう鬼にすげー似てた!」
やっぱりそうだ。間違いない。千貴という名前の、あの鬼だ。
一族の老人たちの言うがままに滅びるしかないと言っていた彼が、戦いの場に出てきて戦を止めた?
千鶴が驚いていると、不知火も不思議に思ったようで質問する。
「どういうことだ?そいつが千鶴をさらったんじゃねえのか?俺たちに自分からケンカ売っといて今更仲裁って、どういうわけだ?」
「あいつらのなかでも意見が割れてる見てーだったな。その金髪野郎以外はみんな『女鬼が手に入らなけりゃここで一族郎党討死だ!』みたいな感じだったんだが、そいつは違ったみたいだ。ちょっとしか聞こえなかったけど、一族の生き延びる道を、西の鬼や人間の知恵を借りて何とか探りてえって。今回の戦の咎は自分の首一つで赦してもらえねえかって詫び入れてるみてえだったな」
「頭領の首渡すから、なかったことにしてくれって?頭領自らそう言ってんのか?」
不知火が目を見張る。
千鶴も息を呑んだ。
あの部屋で話しているときは、彼は…千貴は、もう一族の皆の言うがまま滅びの道を堕ちていくと言っていたのに、気が変わったのだろうか?しかも自分の首を差し出す代わりに一族の存続を望むとは。
左之は不知火の言葉に頷いた。
「みてえだぜ。こいつは話が通じるってんで、天霧が今話してるとこだがよ。まあせっかく話せる頭領がいるってわかったんだ。首なんざとらねえでこれからどうするか話し合っていくことになると思うけどな」

「…どうした、大丈夫か」
千鶴の様子に気づき、斎藤が肩を抱く。千鶴は小さくうなずいた。
「その、頭領と言う人と、私少しだけですが話したんです。私の家の…雪村家の家老を代々勤めていた血筋で、雪村家が滅ぼされてからとても苦労をしたようでした。あの、あの人達の復興に、私もできるかぎりの協力をしたいです」
千鶴がそういうと、不知火は目を瞬いた。
「あ、ああ、もちろん。いいんじゃねえか?千の姫さんもお前の協力がありゃあ喜ぶぜ、きっと」
「いいのか?つらいことを思い出したりするのではないか?」
心配そうな斎藤に、千鶴は首を横に振った。
「羅刹に狙われたりさらわれたり…怖い思いもたくさんしたんですが、でもそれは雪村の血のためだったんだってわかりました。私の知らないところで、雪村家のために血を流して苦しんでいた人達がたくさんいたんだって……。雪村というこの血に、私はたいした恩恵をうけてないんですが、でも私が雪村千鶴でなければ、会えなかった人がたくさんいます。……一さんとだって出会えなかったかもしれません。……だから、自分の血からは逃げないで、ちゃんとできるかぎりのことをしていかなくてはって思うんです」
「……そうか」
斎藤は優しく微笑み、千鶴の手を握った。

千鶴の、この真っ直ぐな瞳が美しいと思う。
美しいからこそ、この瞳に映って恥じない自分でいたいとも思うのだ。

そうして二人で前を向いて、ともに歩いて行けたら。







東北の開けた盆地にある有名な温泉街。
東北の大名や、その奥方達が旅行や娯楽で訪れたという旅籠や料亭の数々。
東北の田舎とは思えないくらい栄えているその宿場町で、千鶴と斎藤、平助と左之は宿をとることになっていた。
西の鬼たちは、例の東北の鬼とまだこれからいろいろと戦について今後について詳細をつめたいということで、例の城跡の近くにとどまっている。
千鶴達はもうあまり関係がないし、人間の脚だから東北から江戸まで帰るのに時間もかかるため一足先にゆっくりと帰っていろと言いといわれ、今この宿場町に来ていた。

千鶴に一部屋。男三人で一部屋とり、早速それぞれ風呂へ行く。
特に千鶴と斎藤は川で全身ずぶぬれで、一応里で乾いた着物に着替えさせてもらったが体は芯から冷え切っている。
男風呂は竹で囲ってある大きなヒノキの内風呂と、露天の岩風呂。
斎藤たち三人は、外の岩風呂にのんびりつかっていた。
「いやあ〜全部丸く収まって、よかったよかった、だな」
「なあ!でもなんか俺せっかくここまで来たけど、全然何もしてないような……」
頭を掻く平助に、左之が「ばーか、何もない方がいいんだよ」と、手で鉄砲をつくり水をかける。
「千鶴も無事で斎藤も無事で、俺たちも天霧たちも怪我がなくて。これで東北の一族と全面戦争だったら誰か怪我してただろうし、怪我してなくても東北の一族全員ぶっつぶすとなりゃあ後味悪いぜ。千鶴から聞いた話だと、結局あいつらも私利私欲でこんな風に突っ走ったわけじゃなくて、人間に滅ぼされた雪村家のおかげで変な風にうらみつらみが積み重なっちまっただけみてえだし」
「鬼ってのもいろいろたいへんなんだなあ〜」
平助が顔を拭い、伸びをする。
心地いい沈黙が露天風呂に流れた。しばらくの沈黙のあと、左之が斎藤に言う。
「……なあ、さっき平助とも話したんだけどよ。これで江戸に帰ったら、俺ら一旦新八の道場に顔だそうかと思ってんだ。あいつも寂しがってるしよ。斎藤ももしよければ、いっしょにこねえか?新八の奴、斎藤に会いたがってたからよろこぶぜ〜。その時にはよ、もしできれば千鶴と千太郎も一緒にどうかって思ってんだがよ」
斎藤は静かに左之を見た。
「……そうだな。新八には会いたいと思っていたのだ。あやつも千鶴と会いたいだろう。もう北の鬼に襲われる心配もなくなったのだし、自由に動くことができるからな。しかし、その前に……」
ふと言葉を止めた斎藤の顔を、平助が覗き込む。
「その前に?」
斎藤は頷いた。
「そうだ。その前にやらねばならんことがある」
「何?」
「何だよ?」
妙に真剣な顔でそう言った斎藤に、平助と左之は不思議そうに首をかしげた。
斎藤の蒼い瞳が真っ直ぐに前を見つめる。

「夜這いだ」





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