実録!オカズをめぐる仁義なき戦い(風間VS千鶴編 3)







とりあえず二人きりで話せるように、千達は風間と千鶴を置いて部屋を出て行った。
一昨日の朝、風間が出社するのを見送ってその後千鶴も書置きを残して家を出たから、会っていない時間は一日とちょっとなのだが、千鶴には随分久しぶりに彼を見た気がした。
(なんだか少し……疲れてるのかな?)
いつものあのまばゆいばかりのオーラが7割ほど減っているように見える風間を、千鶴はまじまじと見つめた。
風間も千鶴を見返す。勝手に家をでて連絡もせず外泊したことを怒られるかと思ったが、風間は何も言わずに千鶴を見つめているだけだ。
その目は千鶴の考えていることを探るようで……
(まさか…本当に…?君菊さんや不知火さんの言ったとおりなのかな?)
彼らに言われたことを思い出しながら風間の顔を見ると、確かに彼は慎重に……怖がっているとも言っていいくらい慎重になって千鶴の出方を待っているようだ。
ここで千鶴がSなら、試しに離婚を切り出してみて風間の反応を確かめてみるところだろうが、あいにく千鶴はどちらかと言えばMよりだった。
「あの……家出して、連絡もせずに外泊をしてスイマセンでした……」
立ったまま両手を前で揉む様にして千鶴はうつむきながら謝る。風間もつったったままだ。
「……千の家に泊まったのか」
頷く千鶴に、風間は何も言わなかった。
「心配させてすいません」
「書置きがあったからな。事故や犯罪に巻き込まれたわけではなく自分の意志で出て行ったとわかる」
「……」
「で、自分の意志で家に帰る心づもりはできたのか」
風間の言葉に、千鶴は顔をあげて彼の顔を見た。しかし風間は顔をそらして部屋の反対側を見ている。
前までの千鶴なら風間のこの態度を、『たいしてこの話題に興味がないのだろう』と判断していたかもしれない。しかし不知火たちの話を聞いた今では、もしかしたら……とも思う。
風間は千鶴の返事が怖いのではないか。『家には帰りたくない』と千鶴に言われるのが怖くて、その時の表情を千鶴に見られたくなくて顔を背けているのでは?

タコの化け物のように思えていた風間の、今目の前の様子に、千鶴はこわばっていた心がゆっくりと溶けて行くのを感じた。

大丈夫。
多分大丈夫だ。

千鶴はおずおずと足を進めて彼に近づいた。
「家に…帰りたいです。私と千景さんの家に……」





意識してみると、風間が全神経をとがらせて千鶴のことを気にかけているのがよくわかった。
ケンカの後だからというのもあるだろうが、いつもの横柄な態度ではなく何事も千鶴の気持ちを考えてくれている。いや、今だけではない。

そういえばこれまでだって、彼のエラそうな態度でわかりにくかったけれども、いつも彼は千鶴の希望や気持ちを優先させてくれていた。
会社関係のパーティに妻同伴ででるのも、気疲れする千鶴のために10回に9回は断ってくれているらしい。そのせいで風間には妻がいないのかとか新婚なのにもう逃げられたのかとか、風間が浮気性で妻に見張られていたくないからだろうとか、口さがない人々がいろいろ言っているらしいと風のうわさできいたことがあるが、風間は全然気にしていないようだった。
風間家の実家も、相当親族関係が複雑で千鶴に好意的でない人達も多いのに、全て風間がシャットアウトしてくれているらしい。
そんな対外的なことじゃなくても家の中のことだって。
風間の好みとは明らかに違うのに、部屋のインテリアを千鶴の好きなピンクと白をふんだんにつかったラブリーな感じにしてくれた。
その中に立っている風間があまりにも違和感があったので、千鶴は『あの……やっぱりあんまり居心地がよくないですよね…?』と聞いたものだ。風間の返事は『別にお前が気に入っているのならかまわん。お前がいれば居心地はいい』だった。

触手萌えとか一人の時間が必要とか、やっぱり女である千鶴には理解はできない部分はある。千鶴の前の風間とそういう風間とが千鶴の中では納得した形ではつながらない。
が、それでいいんじゃないかと思う。
(全部理解できてしまったらつまんないんじゃないかな。理解できないからこそもっと知りたい、もっと仲良くなりたいって思うんだと思う。
きっと千景さんは千景さんで私の考えていることで理解できないこともあると思うし)

そうだ、風間も言っていたがAV女優に嫉妬する千鶴のことを理解できないと言っていた。千鶴にしてみればなぜ理解できないのかわからないけれど、やきもちを焼いてしまうのだ。やきもちを焼くなと言われても無理だ。
そしてそんな自分をそのまま受け入れて欲しいと思う。
それなら自分だって、理解できないままでも風間のすべてを受け入れられるはずだ。
その双方そのままの自分を『受け入れて欲しい』『受け入れたい』と思う気持ちがあれば、きっと夫婦はずっと上手くいくんじゃないかと千鶴は思った。理解できない部分も愛しい風間で、風間を構成する一部なのだから。


千鶴が先に風呂をいただき、なんとなく手持無沙汰でキッチンの掃除をする。
風間も風呂にはいったようで、タオルを頭にかけて濡れた髪を拭いている。
時間は夜の11時。
明日は週末で二人とも休みだが、もう寝室に行ってもおかしくない時間ではある。
(どうしようかな……一人で先に寝室に行くのと、誘ってるととられるかもしれないし、一人で寝たいから私が眠ってから来てくださいってメッセージにとられるかも……。でも、改まって一緒に寝室に行きませんか?って言うのもヘンだし……)
千鶴は思い悩みながら、無駄にキッチンの壁まで掃除しだしていた。風間は、とリビングをうかがうと、テレビも見ずにソファに座ってなにやら雑誌を眺めている。 どう見ても今すぐ読まなくてはいけない雑誌を読んでいる風ではなく、時間をつぶしているというか手持無沙汰と言うか、そんな感じだ。
(千景さんもどうしようかと思ってるのかな…いっそのこと千景さんから誘ってくれたら『はい』って言えるんだけど…)
気まずい沈黙の中、時間だけがどんどん過ぎていきとうとう夜の12時になってしまった。
千鶴が歯ブラシでキッチンの壁の隅っこを磨いていると、風間がリビングをでて廊下を歩いて行く音が聞こえてきた。
トイレか、それとも寝室へ…?と思いながら千鶴が聞き耳を立てていると、パタンと寝室の扉がしまる音がする。
(えっ!ま、まさか先に寝ちゃうの?千ちゃんのところから帰ってからロクに会話してなのに……!)
このまま風間が眠ってしまったら、なにも話さないまま明日を迎えてしまう。そうなるとますます話せなくなる……というか夫婦生活がしにくくなる気がする。

千鶴は慌ててエプロンをはずすと、リビングとキッチンの電気を消し戸締りを確認してから寝室へと向かった。
「ち、千景さん…?もう寝ちゃいましたか?」
真っ暗な寝室の中をベッドに向かってそろりと歩いて行く。ようやく暗闇に慣れてきた目で見ると、風間はベッドの上に膝を立てて座りこちらを見ていた。
「あっ…!」
目があった千鶴は驚いて思わず立ち止まる。風間は何も言わずに千鶴に手を伸ばした。
一瞬ためらいうような仕草をしてから、風間は千鶴の腕をつかむと彼女を引き寄せた。千鶴は緊張のあまり固くなったまま風間の膝の上に座り腕に抱かれる。
「……体が固いな」
耳元でささやかれる風間の低い声に、千鶴は背筋がぞくりとするのを感じた。
「……」
「やはり、俺に触られるのは嫌か」
そう言って体を離そうとした風間の腕を、千鶴は慌てて掴む。
「嫌じゃないです」
そうして覗き込んだ風間の赤い瞳は、確かに傷ついた色を宿していた。千鶴は風間の腕を掴んで彼を見上げる。
「……嫌じゃないです……」
「じゃあ何故そんなに強張っている」
「嫌じゃないんですけど、まだ少し……千景さんが知らない人みたいで怖いんです」
「怖い?」
真剣に聞いてくれている風間の様子に、千鶴は少しだけ勇気を出して本音を話した。
「触手の話とか、一人の時間とか……。私は千景さんのことを知ってると思っていたのに、まだ知らない千景さんがいたんだなって」
風間は溜息をつくと髪をかき上げた。
「何度も言うが、AVの内容と実際のおまえとの……」
「わ、わかってます!それは不知火さんとか君菊さんからも聞いて、男性はそういうものだっていうのもわかったし、理解はできないですけどそれが嫌だっていう訳じゃないんです。そういうところも含めて千景さんだし、私は千景さんが本当に好きなんだなって今回の件でわかりました」
「……」

いきなりの愛の言葉に、風間は目を瞬いた。千鶴の方から自発的にこういうことを言ってくれるのははじめてではないだろうか。
風間は、落ち込んでいた気持ちが一気に急上昇するのが自分でもわかった。それに伴っていろいろな所が盛り上がるのも。
「では、いいのだな」
風間はそう言うと千鶴の腕をつかんでくるりと体勢を変え、ベッドに押し倒した。上からのしかかるようにして千鶴の首筋に顔をうずめた風間に、千鶴は慌てたように訴える。
「ま、待ってください!待って!!」
その声が真剣味を帯びていたので、風間は顔を上げる。
「なんだ。俺はじらされるのは好きではないぞ」
「……その、千景さんの事は好きなんですけど怖いんです。特に手が……」
「手?俺の手か?」
千鶴は風間の顔を見上げながらこくんとうなずいた。
「触手を連想しちゃって怖いんです。時間が経てば治ると思うんですけど……」
「……」
そう言われてしまったら風間としては千鶴の胸に伸ばそうと思っていた手を止めるしかない。
「ではどうすればいいのだ」
「私に考えがあるんです。千景さん、ベッドに仰向けになってくれませんか?……そう、そうです。それからこれ、私の使わなくなったスカーフなんですが……」
風間は眉根をよせて千鶴がクローゼットから持ってきたスカーフを見た。
「それをどうするのだ?」
「これをこうして……そしてこちらもこうするんです」
千鶴はそういうと、風間の右手首をスカーフで柔らかくベッドボードに結びつけた。左手首ももう一つのスカーフで結び付ける。
「こうすると、千景さんは物理的に手が使えないので怖くないかなって」
「……」
ベッドにスカーフで両腕を縛り付けられ動きを拘束された風間は、妙な気分で座っている千鶴を見上げた。自分が無力になったような気がして、心もとない。
「で、どうするのだ。このままでは永遠にお前を抱けんぞ」
「だから……私がするんです」
「……何?」
千鶴はそう言うと、ゆっくりと風間に跨った。そして上体を倒し、風間の唇の横にそっとキスをする。
「私のペースで私がやりたいように、やるんです。風間さんは動かないでくださいね」
千鶴はそう言うと、風間が着ているTシャツの裾を捲り上げた。
「ああ、これを脱いでもらってから手を結べばよかったですね…でも、こうやってTシャツを腕まであげちゃうと、風間さんはTシャツに隠れて目まで見えなくなりますね」
ふふっと蠱惑的微笑む千鶴の声が聞こえる。が、まくり上げられた自分のTシャツのせいで姿が見えない。
「千鶴……うっ!」
突然へその辺りに口づけられて、風間は息をのんだ。柔らかい唇と、千鶴の髪が風間の引き締まった腹を優しく滑る。
「ちっ……づる……っ」
「……気持ちいいですか?」
鎖骨の辺りにキスの雨を降らした後、ゆっくりと耳元へと千鶴の唇は移動して、甘い吐息と共にそうささやいた。
「……」
風間は返事ができなかった。初めての体験に興奮と緊張が入りまじる。
じらされるのは好きではなかったはずだが…だがしかしこの高鳴る心臓はなんなのだ。
「……どうしてほしいか言ってください。全部……全部やってあげたい……」
千鶴の甘い囁きに、風間はごくりと唾を飲んだ。
口の中がカラカラだが、これは喉が渇いているわけではないだろう。乾いて欲しているのは別のものだ。

風間は舌で唇を湿らすと、ゆっくりと口を開いてしてほしいことを千鶴に伝えた。










風間千景はMに目覚めた!
風間千鶴はソフトSに目覚めた!
風間夫妻は新たなプレイのドアを開けた!


作:RRA




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