【ある朝の都督】
「だから要は何をおっしゃりたいのですか?」
公瑾がいらいらとそういうと、仲謀は腕を組んでふんぞり返った。
「よし、じゃあはっきり言うぞ。もうそういう関係になっているのなら、たとえ結婚前だろうと一緒に住んだ方がいいんじゃないかってことだ!」
廊下を歩いているところを呼び止められ、10分以上も「あー」だの「うー」だの言いにくそうに回りくどくあれこれ言っていた仲謀の言いたかったことは結局これか、と公瑾はため息をついた。
「『そういう関係』とは?」
ひやりとした声で公瑾が返すと、仲謀は「うっ」と言葉に詰まる。
「だから〜……ほら、なんだ。この前あいつと二人で紅葉を見に行ったときだなー……その、お前らは二人でその、どこに泊まったのかはしらねーが、つまり……ほら、そういうことだろ?いくら婚約してるっていってもそんな状態のままあいつを放っておくのはあれだし、あいつだけ城だとお前もいろいろ面倒なんじゃないかと……」
「余計なお世話です」
公瑾はぴしゃりと仲謀の言葉を遮った。
先日花と二人で紅葉を見に出かけた帰り、滝壺に落ちてしまった公瑾の服を乾かすために、二人は近くの小屋で一泊したのだ。仲謀はその時に二人が一夜を共にしたと思っているようだ。実際に「一夜は共にした」が、仲謀が考えるようなことはなかった。いや花はかなりの無防備だったが、公瑾が理性の力を振り絞ってしなかったのだ。
「そもそも私は彼女に何もしておりません。そのような野卑な推測は迷惑です」
公瑾の言葉に仲謀は目を剥いた。
「はあ!?何もしてねえってあり得ないだろ!?花だって羽織失くしたって言ってたし、お前だって服がかなり着崩れてたし、そもそもお互い好きあってるやつらが二人っきりで夜を過ごして何もないなんて信じられるか!」
「でも何もなかったのですから、信じていただくほかありませんね」
仲謀は奇妙なものを見るような目でまじまじと公瑾の頭のてっぺんからつま先まで見た。
「……おまえが?あり得ねー……」
「……何を根拠にありえないとおっしゃっているのかわかりませんが、真実です」
まだも疑わしそうな目で公瑾を見ていた仲謀は、ふと廊下の向こう側を歩く人影に目をとめた。
「おっ」
仲謀が気付くと同時にその人影もこちらに気づく。
「公瑾さん!」
嬉しそうに公瑾に駆け寄る花を、仲謀は横目で見る。
「俺は無視かよ」
「え?何か言いましたか?」
花が無邪気に振り返ると、仲謀は「あーもうどうでもいい」とあきれたように手を振った。
「お二人でこんなところで何を話していたんですか?」
花にそう聞かれ、仲謀は言葉に詰まった。
先ほど公瑾にした「一夜を過ごしたか」という質問の答えに納得できていないのだから、同じ質問を花にすればいいのだが、さすがにそれはためらわれる。仲謀が躊躇しているのを見て公瑾が肩をすくめた。
「あなたの貞操の話をしていたのです」
「……は?」
花がポカンと口を開けたのと同時に仲謀は「わあああああ!」と慌てて手を振った。
「そんな話はしてねえだろ!俺はただなあ、お前たちがもう一緒に暮らした方がいんじゃないかと……」
「あなたからも仲謀様に言ってもらえますか。私たちはまだそんな関係ではないと」
公瑾の言葉に花は首をかしげた。「そんな関係?」
「肉体関係のことです。仲謀様はこの間の紅葉を見に行った夜に、すでに私たちが夫婦になったと思っているのですよ。私はあなたに一切手を出した記憶はないのですが、あなたはどうですか?」
こんなところで真昼間から男二人でそんな話を……と花は目を見開いたままみるみるうちに赤くなった。
「あの……はい。私は途中で眠ってしまって、特に何もなかったと思います」
「なんだよ公瑾、お前キャラが変わったなあ。でも城の奴らはみんなお前らがもうそういう関係だと思ってるぜ。変に意地張らずに一緒に住めばいいんじゃないか?」
公瑾は困ったものだと再びため息をついた。
「意地をはっているわけではありません。私はただ彼女とのことはきちんとしようと思っているだけです」
仲謀は腕を組んで公瑾を見て、次に花を見た。「お前は?どう思ってるんだ?お前もきちんとしたいのか?」
花はしばらく考えてにっこりと笑ってから答えた。
「私はこの国の生まれじゃないから『きちんとする』っていうのがどういうことなのかよくわからないです。でも、公瑾さんがそれでいいのなら、私もそれでいいです」
あーはいはい、ごちそうさまでした!とあきれたように言って立ち去る仲謀の背中を見たあと、公瑾は今度は花を見た。
「あなたは?こんなところで何を?」
「あ!そうだった!」
花はここまで来た理由を思い出して、両手をパンとたたいた。
「馬屋番の人から伝言があったんです。公瑾さんが頼んでいた馬が届いたそうです」
「そうですか」
「その馬って前に話してくれていた……」
「そうです。あなた用の馬ですよ。明日からでも乗馬の訓練を始めますか?」
「はい!」
「……だからと言ってこんな早くに来ることはないでしょう」
公瑾はそう言って、寝台の上で体を起こしてあきれたように横で立っている花を見た。
公瑾の邸宅は一応あるのだが、仕事が忙しいときや宴の時のために場内にも公瑾の部屋があり、花がここにいるようになってからはほとんど毎夜この部屋で眠るようになっていた。
まだ薄暗い朝の光の中で、珍しく公瑾も眠そうな顔をしている。花は張り切りすぎた自分に赤くなった。
「だって……『朝の早い頃なら時間があります』って公瑾さんが昨日言ってたから、早い方がたくさん練習できるかなって思ったんです」
「だからといって男の寝込みを襲うようなまねを……」
「公瑾さんだって私がノックしたら『どうぞ』って!」
「侍女だと思ったのですよ。今朝は早めに起こすよう指示していたので……」
話の途中で言葉をきり、公瑾は唇に人差し指を立てて扉の方を見た。
「誰かきます。……早く隠れて!」
「え?か、隠れるって……」
「侍女かもしれません。部屋に入るなというのは不自然です。どこでもいいですから早く!」
ど、どこでもって……と花ははあたふたと周りを見渡す。そして一番近く一番簡単に隠れられそうなところに潜り込んだ。
公瑾の寝台の布団の中だ。
「はっ花殿……!ちょっ…」
公瑾が慌てて花を追い出そうとしたとき、扉を静かにたたく音とともに侍女の声がした。
「公瑾様、昨夜申し付かっていた時間になりました」
「あ、ああ、そうですか。ありがとう。起きています。下がってくれて結構ですよ」
公瑾の声は一瞬裏返ったが、後半は落ち着いた調子でそう言った。布団の中の花はドキドキしながらもほっとする。みずから入ったとはいえ、公瑾の布団の中は薄暗くてあったかくて……公瑾に抱きしめられた時のにおいがする。それに一人用の寝台に二人入っているせいで、花は公瑾の脚にまたがってうずくまっているような恰好になっているのだ。
こ、公瑾さんの脚、長い……それになんかがっしりしてるっていうか。
私の胸が公瑾さんの脚にあたっちゃうよ…!公瑾さん、気づいてないよね……
当然ながら公瑾は気づいていた。
そのせいで自分の意思ではどうにもならないいろんなことがまずいことになりつつある。花の顔がまずいところのすぐ近くにあり、それを意識するとますますまずいことに……。公瑾は侍女を追い返そうと必死になった。
しかし侍女は戸惑ったように扉の向こうから言う。
「あの、でも……御指示のありました通り、簡単な朝餉と身支度の準備をお持ちしておりますが……」
「ああ、そうでしたね」
扉の前に置いておいてください…と言いたいところだが、いつも部屋の中にまで持ってきてもらっているのに今日だけそうしないのは不自然だ。城の中で自分と花が夜を共に過ごしているだのいないだの噂になっているときにそのような普段と違うことをすると、また変な噂になるかもしれない。
花が見つかるのもまずいが、花ではない女性を引っ張り込んでいるのではと痛くもない腹を探られるのも迷惑だ。
「お入りなさい」
「失礼します」
侍女は部屋に入ると、いつも通りの場所に朝餉の膳を置き服の用意をする。「では失礼しました」と女中が出ていくと、公瑾は「ふうー……」と珍しく安堵の溜息をついた。
「まったく…!」
そう言って布団を持ち上げる。
「早く出てきてください!そんなところに入るとは、いったい何を考えているのですか!」
怒られて、花は口を尖らせた。
「隠れるように言ったのは公瑾さんじゃないですか」
「そんなところに隠れるなんて思うわけないじゃないですか!」
「じゃあどこに隠れればよかったんですか。この部屋は公瑾さんの部屋なんですから公瑾さんが教えてくれたって……」
布団から出ようとしながら花がそう言ったとき、再び公瑾が「シッ!」と花の口を手でふさいだ。
その直後。
「公瑾殿?公瑾殿、起きていらっしゃいますか?子敬です」
扉をたたく音とともに、子敬の声がした。
花と公瑾は目を見開いて顔を見合わせ固まる。
「少しご相談があるのです。入ってもよろしいですか?」
「はっはい?いえ!しょ、少々お待ちを……すぐに用意しますので、執務室で……」
「申し訳ないのですが、もう使者として益州に出なくてはいけないのです。兵たちを待たせていましてね。どうしても一点だけ公瑾殿にご相談したいことがありましてな。入りますよ」
公瑾は慌てて、また花を布団に押し込んだ。そのせいで、布団の中で花は前よりも公瑾の脚と絡み密着する形になってしまった。しかしもぞもぞと動いて直せるわけもない。
緊張状態の公瑾と花には気づかず、子敬はのんきに寝台の横にまでやってきた。
「朝早くに申し訳ないですなあ。何かばたばたと音がしたような気がしたのですが……」
「あっああそれはですね……その、最近この部屋にはネズミが出るようになり、先ほども……」
「ああ、なるほど」
ひやひやものの公瑾の言い訳だったが、子敬は信じたのか信じていないのか鷹揚にうなずいただけだった。
「それで?ご相談とはなんでしょう」
「ああ、そうでした。実はこの書のここの部分なのですが……」
公瑾と子敬が話し出すのを、花は布団の中でまんじりともせず聞いていた。指ひとつ動かさず呼吸すらも抑えようとしているとなぜか体のあちこちがかゆいような気がしてくる。現に今は鼻が妙にムズムズとしてきている。我慢しなくてはいけないと思えば思うほど鼻のムズムズが……
「…っしゅん…!」
必死に抑えようとしたのだが、花はこらえきれず小さくくしゃみをしてしまった。
「ん?なんですかな、今の音は?」
子敬は話をやめて寝台のあたりを見た。
「何か音が聞こえたような気がしたのですが……」
公瑾は慌てて子敬の視界を遮るように手を振る。
「いやっ!その、私です。今の音は私の……その……そう!腹の音です。いや、最近朝になると腹が減って腹が減って……」
はははは、と珍しく朗らかに笑う公瑾を見てから子敬は机の上で湯気を立てている朝餉の膳を見て、なるほど、とうなずいた。
「朝餉の邪魔をしてしまったようですな、申し訳ない。しかし、いつもの朝議の時間よりはかなり早いかと思いますが……」
「ああ、それはその、約束がありまして……」
その約束の主は今、布団の中で自分の脚の上に乗っかっていることを思い浮かべて、公瑾は体のあちこちから嫌な汗が出てくるのを感じた。異様に焦っている公瑾を見て、子敬は誰との約束かわかったようだ。
「使者殿ですな」
「ちっ違います!彼女と約束はしていますが、断じてこの寝台になど……!」
「は?公瑾殿、何を?私はこの後使者殿との約束があるのですな、と言いたかったのですが」
「あ、そっそうです!そうです。花殿と約束しているのです。いやあ、仲が良くて困ったものです」
またもや、はははは!と不自然に笑う公瑾を見て、子敬もふぉっふぉっふぉっといつものように笑った。
「公瑾殿は女性にもててうらやましい限りですな。先日の宴の時も、お酌の女性といい雰囲気だった記憶がありますぞ」
「なっなにを……!何をおっしゃるのですかこんなところで!」
花が布団の中で聞いているというのに!公瑾の全身から汗が噴き出した。
先日の宴?子敬どのはいったい何を言っているのだ!別に私はほかの女性と浮気などした覚えは…!!
「い、いったい何の話でしょうか?私は今婚約中の身でそんなほかの女性となど仲良くした覚えはないのですが。い、いえ!たとえ婚約中でないとしてもほかの女性と仲良くなぞしませんがっ」
「そうですか?お酌の女性の耳飾に触れて何かささやいていた気がしますが」
子敬の言葉を聞いて花は布団の中で固まっていた。
耳飾りに触れてささやく……
公瑾がそんなことをほかの女性にしていたなんて知って、平静でいるのは難しい。
まさかこんな形で将来の夫の浮気について知ることになるとは。いや、まだ浮気と決まったわけではない。公瑾は必死に否定しているではないか。
花は息をひそめて布団の外の会話に耳を澄ませた。
公瑾の言い訳は続いている。
「あれはっ…あれはですね。彼女のつけていた耳飾りがとても精巧な細工で、あなたに、いえ、花殿に似合うと思ったから、どこで買われたのか聞いたのです。子敬殿、花殿に誤解されるようなことを言うのはやめてください」
子敬は公瑾の剣幕に面喰ったようだった。
「誤解、ですか?この部屋にはあなたと私しかいませんが……」
「でっですから、そのようなことをほかでは言わないようにしていただきたいということです」
子敬は「ああ、そういうことですか」とうなずいた。「ですが、そのあとその侍女と一緒に宴の場所から消えませんでしたかの?ほかのものは気づいていないようでしたが私はたまたま二人で出ていくのを見かけましてな」
「ちっちちちち違います!あれは、たまたま所要で私が席を立ったのと、彼女が足りなくなった酒をとりに行ったのが重なっただけで……って痛い!」
「痛い?どうしました、公瑾殿?脚をおさえていらっしゃるようですが、寝台に何か……?」
「いえ、寝台の中に虫が……そう、虫がいましてね。それが時々刺すのですよ」
ひきつった笑顔で公瑾がそういうと、子敬は不思議そうに首を傾げた。
「そうですか、それはいけませんな。侍女に言って布団を変えさせねば。……しかしほかの女性と仲良くされていることをそんなに必死になって否定されるとは変われば変わるものですねえ。伯符殿がご存命だったころの公瑾殿の女性に対する武勇伝は……」
「わー!わー!あー!」
突然大きな声で叫びだした公瑾に、子敬は驚いた。
「……こ、公瑾殿?どうされたのですかな」
公瑾は子敬の背後にある壁を指さした。
「いえ、後ろの壁をヤモリが走ったので私としたことがつい驚いて……」
「ねずみやら腹の虫やら寝台の中の虫やらヤモリやら……公瑾殿のお部屋はにぎやかですなあ、ふぉっふぉっふぉっ。」
「そっそれで……!それで、書の相談の続きをしませんか?急いでいるのではないですか?」
とにかく早く出て行ってほしい一心で、公瑾は子敬に言った。
「ああ、いや、先ほどのでだいたい公瑾殿のお考えになっていることはわかりました。状況を見ながらそれに沿うような形で交渉してきましょう」
「そうですか」
ほっと肩の力を抜いて公瑾は安堵の笑みを浮かべた。
じゃあさっさと出て行ってください……と言いたいところだがさすがにそれは言えない。じりじりとしている公瑾の様子には気づかず、子敬は書をしまいながら公瑾に話しかけた。
「しかし、公瑾殿は使者殿と出会って本当に変わりましたな」
しみじみとした子敬の口調に公瑾はふと子敬を見る。「そうでしょうか?」
「ええ、朗らかになられました。面白くなった、と申しましょうか」
「お、面白く、……ですか」
「はい。公瑾殿も毎日が楽しくなったのではないですか?」
子敬の見えているのか見えていないのかわからない目で見つめられて、公瑾は彼女と出会ってからの自分について思いをはせた。
「そう……ですね。確かに。思いもよらなかったことが日々起こり、退屈している暇がありません」
彼女に振り回されて思ってもみなかった自分を次々に発見した日々を思い出して、公瑾は微笑んだ。
「彼女といると……心が浮き立つと同時に休まります。こんな思いは確かに初めてですね」
布団の中で花が聞いていることを意識して、公瑾はゆっくりと自分の思いを口にした。
「彼女には感謝しています。私を再び生き返らせてくれた」
プライドが高く花のことを好きだと認めると負けだと思っているような公瑾が、めずらしく素直に自分の心を伝えているのを、子敬は微笑みながら聞いていた。
「そうですな。公瑾殿が使者殿を大事にしているのは城のみながわかっていますよ。使者殿のために馬をご用意されたとか。甘やかして人形のように扱うのではなく、ちゃんと自分で生きていける手助けのような扱いをするのを拝見して、正直私は驚きました。あなたは女性に……というか人に対してそういう愛し方ができるとは思っておりませんでしたのでな」
「……」
「彼女に出会う前のあなたは、抜身の剣のように鋭く情勢を把握し判断し切り込んでいて、それはそれで素晴らしかったのですがその分敵を作ることも多かった。私はひそかに心配していたのですよ。あのままではあなたはいつか誰かに殺されてしまうのではないかと」
「そんなことを……」
何を考えているのかわからないのんびりした子敬がそんなことを思っていたとは……
公瑾は驚いて子敬の言葉を聞いていた。子敬は書をしまい終え、公瑾を見た。
「身寄りがなく後ろ盾もない彼女をの評判を気にして、きっちりと婚約期間をとられているのも感心しておりました。あなたが彼女を大事にし尊重していることは城の内外に伝わり、きっと彼女のためになることでしょう。彼女の馬も、お忙しい中あなた自ら市に足を運び馬を選んだと聞いています」
「え、ええ……それは……。馬は性質のいいものを選ばないと危険ですから……」
子敬は満足そうにうなずいた。
「それでいいと思いますよ。それがいいと。……では、私は失礼しましょうかの。朝早くからお邪魔して申し訳ありませんでした」
子敬はそういうと、書をもって軽く会釈をすると扉を開けて出ていった。
公瑾はふう、と肩の力を抜いた。
子敬は突然来てとんでもないことをあれこれ言い……だが、最後の方はありがたかった。
普段はなかなか面と向かって言えなかった自分の彼女に対する思い。
照れくささとプライドが相まって素直に表せなかった思いを、子敬がうまく言葉にしてくれた。
最初は酌の女性と浮気しただのなんだの波風を立てられ彼女にも布団の中で思いっきりつねられたが、あの子敬との最後の会話を聞いてくれたら……
公瑾はそう思いながら布団をめくった。
「花殿、子敬殿はもう……」
寝ている……
唖然としている公瑾の脚の上で、花は丸まって眠っていた。
最後のいいところを聞かずに二度寝している花に、公瑾がいらっとしたのは、まあ、しょうがないことではあった。
そのころ子敬は、人気のない朝の廊下を歩いていた。
「ふぉっふぉっふぉっ、ほんとに花殿と出会われてからの公瑾どのはからかうと面白い。朝からひと笑いできましたな」
おしまい