【吐息 2】
総司大学三年生、千鶴大学二年生のお正月です。「青は藍より……」の延長線上のいつかの設定です。
※大人向けの内容があります。苦手な方、18歳未満の方は閲覧をご遠慮ください。
喉の渇きに千鶴が目を覚ました時は、既にカーテンの隙間から明るい朝の光がさしていた。
起き上ろうとすると、ひったくり犯に突き飛ばされた時の肩がズキッと痛む。総司との行為の間はまったく痛みなど感じなかったのに。
総司は何もかもを吐き出して、ベッドで泥のように眠っていた。
千鶴はけだるげに起き上った。体が信じられないほど重いけど、喉が渇きすぎて痛い。総司に散々啼かされた後遺症だ。
総司の脱ぎ散らかした黒いシャツを羽織ると、お茶を飲むだけだからいいだろうとボタンを一つ二つはめただけで台所へと歩く。冷蔵庫を開けコップにお茶を注いでいると、総司が千鶴の中に注いだ残りが漏れ出てくるのを感じ、千鶴は眉をしかめた。
どうすればいいんだろう……。でもこのままだと気持ち悪いし…。
千鶴はとりあえずトイレに行って始末をする。ふぅっと溜息をついてトイレから出て、ついであったお茶を喉を鳴らして飲んだ。コップを置きながら髪をかき上げると、フッと総司の匂いが自分の髪からした。
自分の体なのに自分の体でないような、不思議な感覚がする。たった一晩なのに、まるで総司のためだけの存在に創りなおされたような……。
千鶴がシンクに向かいながらそんなことを考えていると、いつのまに起きてきていたのか、後ろから総司がぎゅっと抱きしめてきた。
「僕にもお茶頂戴?」
抱きしめられながらも千鶴は空になったコップに再びお茶を注ぐと、後ろの総司に差し出した。
「……僕、今両手がふさがってるから千鶴ちゃん飲ませて」
にっこり微笑みながら甘えるように言う総司に、千鶴はあきれて目をくるりと回すと、頬を赤くしながらも総司の口元にお茶のコップを添え、傾けてやる。しかし総司があいかわらず千鶴を抱きかかえているので振り向けない。そのせいでコップを支える千鶴の手が無理な形になってしまい、総司の唇の端からお茶が一滴、二滴と伝ってしまう。
「ちょっ……!こぼれてるよ、千鶴ちゃん!ストップストップ!」
笑いながら顔を背ける総司に、千鶴も笑い出す。
「もう!だって先輩が腕を放してくれないから……!」
「だって僕は大事な仕事をしてるから腕が放せないんだよ。だから……ほら」
そう言って自分の顎を千鶴の方へ突き出す総司を、千鶴は不思議そうに見た。
「……何ですか?」
「僕は拭えないから千鶴ちゃん拭って。……キスで」
「ええっ!……そんな、そんなことしなくても私の手で……」
そう言いかけた千鶴の両手を、総司はさっと握る。
「千鶴ちゃんの手も大事な仕事中。ほら早く」
ほんとに大きな子供みたい……。
でも子供はこんなこと頼まないか……。
恥ずかしがりながら、怒りながらも、そんな総司をかわいいと思ってしまった千鶴の負けだった。
上目使いで総司を緩く睨みながら、千鶴は首をねじって総司の顎、唇の端、唇とキスをおとしていく。総司は千鶴がとどくようにわずかに体を傾け首を下げている。そして千鶴の予想どおり、唇にキスをした途端総司から、捕まえた、とばかりに貪る様なキスをされた。
「ん……」
鼻にかかった声をだしながら、千鶴は今夜一晩ですっかり慣れ親しんだ総司の舌を柔らかく受け入れた。
しばらくして唇をゆっくりと離すと、千鶴のうなじに顔をうずめながら総司ぽつりと聞いた。
「……体、大丈夫?」
総司の全身から伝わってくる千鶴を心配する気配に、千鶴は総司の不安定さがなくなったことを感じた。総司の手を握り返し、うつむいて微笑みながら千鶴は、大丈夫です、と言った。
「……怖くなかった?嫌じゃなかった?」
さり気なく聞いている割には、返事を緊張しているように待つ総司に、千鶴は素直に答える。
「……ドキドキはしました。なんだか……なにもかも、全部、私自身じゃなくて沖田先輩のものになったような感じです」
それを聞いた総司はしばらく黙りこみ、そして溜息をついた。
「……千鶴ちゃん、それは殺し文句っていうんだよ」
そう言って、腕の中の千鶴をくるりと自分の方へ向き直らせ再び抱きしめる。
ジャージのズポンだけ履いている総司の、熱くなっている熱が千鶴の素肌にあたった。千鶴はそれを感じて真っ赤になる。
「そんな一言で、こんなになっちゃう僕についてどう思う?」
「……あんなに……、したのに……」
「元気だよね、僕」
そういうと総司は千鶴を抱き上げてシンクの上に座らせた。
「ちょっ……!沖田先輩、こんなところで……!」
シャツの下に潜り込もうとする総司の手を、千鶴はあわててはたく。総司は千鶴の手を掴み動きを封じると楽しそうに笑った。
「前にもあったね、こんなこと」
「え?……そうですか?」
総司はそれには答えずに、千鶴の唇に自分の唇をゆっくりと寄せた。
「ねぇ、名前で呼んで」
「え?」
「僕の。名前。知ってるでしょ?」
突然のリクエストに、千鶴はどぎまぎした。今までこんなことを言われたことはない。なんとなく気恥ずかしくて顔が赤くなる。
「……そ、総司……さん…」
真っ赤になりながら小さい声でささやく千鶴の唇に、総司はキスをした。
「……足を僕の腰にからませて……」
「お、沖田先輩……!こんな体勢で……」
「総司だよ」
「そ、そ、総司さん……!せめてベッドに……」
「今欲しくなっちゃったから、もう無理。ほら大人しくして……」
千鶴の抵抗は、総司の甘い愛撫に溶けていった。
疲れきって眠り込んでいる千鶴を、総司はベッドで抱きしめていた。布団からでている千鶴の肩に、青黒い大きな痣を見つけて総司は眉をしかめる。
やっぱりあいつ、殺しておけばよかった。
総司はそう思う自分にも、あの時の暴力にも特になんとも思っていなかった。
でも、殺さなくてよかった、とは思う。
人を殺した手で千鶴を抱くのは、前世だけで十分だ。
前世では汚れた自分が千鶴を抱けば抱くほど彼女まで汚してしまうのではないかと、ふと思う時があった。あの時は近藤さんのために、という大義があった。
今は何もない。
単に憎いというだけ。
それだけで人を殺すことができる自分に、総司は特には驚いていなかった。自分の中にはこういう汚い部分がある。千鶴にも近藤にも絶対知られなくない自分が。
だからさ、千鶴ちゃん。君がトラブルメーカーなのは知ってるけど、できるだけ大人しくしててよ。君を心配すると僕は自分でも止められなくなっちゃうんだからさ。
「ん……」
千鶴はかわいらしく呟きながら総司の胸にすり寄る。
自分の胸の中にすっぽりとうずまり幸せそうに頬を寄せる千鶴を見ながら、総司は溜息をついた。
ほんとに閉じ込めておけたら安心なんだけど……。
総司はそう思いながらあきらめたようにあくびをして、千鶴を抱えなおすと彼女の髪に顔をうずめて瞼を閉じた。
。
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