がばっ!!

勢いよくその場で土下座した総司に、三人は目を瞬かせた。

「ごめん!!千鶴ちゃん!でも無実だから話を聞いて!!」
千鶴は総司のあまりの行動に、一瞬先ほどまでのショックも忘れてあんぐりと口を開けた。しばらくそのまま土下座をしている総司を見つめて……。はっと我に返り、あわててしゃがみこみ総司の腕を持つ。
「お、沖田先輩…!こんなところで何を……!早く立ってください!!」
総司は頭をあげて、千鶴の瞳を覗き込む。
「本当に無実なんだよ。千鶴ちゃん僕の事信じてくれる?」
「し、信じます……!信じますから早く立って……!」

 


 一と平助は、巻き込まれるのは勘弁してほしい、と言い残しそうそうと帰って行った。千鶴と総司はとりあえずマクドナルドに入る。
先ほどは土下座をしている総司にびっくりして、とにかく早く立って欲しくて、『信じる』と千鶴は言った。言ったが……、それでも総司の過去の噂(真実?)を思い出すととても信じることは難しい。でも総司は『無実だ』と言っていたし……。

 混乱して総司の顔が見れないまま、千鶴は総司の向かい側にちょこんと座った。

 きれいな人だったな……。大人っぽくてスタイル良くてきれいで色っぽくて……。先週って言ってた……。

思い出すと、千鶴の胸は痛み、鼻の奥がツーンとして、こらえようがなく涙がぽろぽろと溢れ出してしまった。向かい側に座って、どこから説明しようかと考えていた総司は、千鶴の頬に涙が幾筋も伝っているのを見て驚き、飛び上がるようにして千鶴の横の席に移った。
「千鶴ちゃん……!ごめん!ごめんね?ホントに!でも何にもしてないよ。名前も知らないしその前もその後も会ったこともないし……!」
総司にしてみたら言い訳のつもりで言った言葉だったのだが、想像もつかないことをどんどんと言われて千鶴は両手で顔を覆い泣き伏してしまった。
 
 どうして名前も知らない人とそんなふうなことになるの?その前もその後も会うこともないってその時だけのつきあいってこと……?
 やっぱり沖田先輩はそういう付き合い方の方がいいってことなの……?

総司は抱きしめていいのか、抱きしめない方がいいのか千鶴の肩のあたりで手を彷徨わせながら迷ったが、結局抱きしめた。これまでは柔らかく沿ってくれた千鶴の体が、抱きしめた途端固くなり、拒否されていることを感じて総司の胸も痛む。
「千鶴ちゃん、聞いて。言い訳。先週屋上の階段のとこで、千鶴ちゃんを無理やり……その……そういうことしちゃったよね?」
頭をあてた総司の胸から響いてくる言葉に、千鶴は涙を流しながらもうなずいた。
「それで、千鶴ちゃんが泣きながら走って行くのを見て……もう終わったって思ったんだ。完璧に嫌われたって。それで、しばらくショック状態になって商店街のベンチのとこでぼーっとしてたら……」

 

 「ねぇ、君一人?何してるの?」
総司よりは年上の、社会人風の女性が声をかけてきた。総司はぼんやりと声の主を見上げる。
「私今日昼ごはん食べてなくて。あそこの牛丼屋さんに入りたいんだけど女一人じゃ入りにくいのよ。もし時間があるのなら何かおごるから一緒に入ってくれない?」
女性が指差したのは有名な全国チェーンの牛丼屋で、確かに女性一人で入るのは敷居が少し高いのかもしれない。逆ナンにしてはおもしろい方法だな……と思いながら、総司はもうやけになって女性の言葉にうなずいた。

昼食と夕食の間のその時間は、客はぽつん、ぽつんとしかいなかった。『何にする?』という女性に、水だけでいい、と言い総司は席に座った。
考えるのは千鶴の事。自分がしでかしたこと。千鶴の泣き顔。千鶴の言葉……。

 そうだ。確かに僕は千鶴ちゃんのこと考えてなかった。土方さんにとられたんじゃないかって。ほかの男にとられるんじゃないかってそればっかり……。

自己嫌悪でミジンコになりそうなくらい落ち込んでいる総司にかまわず、その女性はにこやかにしゃべりながら牛丼を食べていた。しばらくして彼女は牛丼を食べ終えると、適当に相づちを打っている総司を意味ありげに見た。
「ねぇ、君かっこいいね」
覗き込む様にして言ってくる女性に、総司はそっけなく、どうも、と返した。
「……私のうち、ここから近いんだ。今からどう?」
一人暮らしだし。ね?と、驚くくらいあけっぴろげに誘ってくる女性に、総司は、もう帰るから、ととりあえず断った。
「えー?なんでよ?マンションに車もあるから帰り送ってったげるよ?どうしてだめなの?」
理由をしつこく聞いてくる女性に総司は面倒になった。

 どうせもう千鶴ちゃんには嫌われたんだし。そもそも千鶴ちゃんは僕が他の女の子と何かをしてもやきもちも焼いてくれないだろうし……。
 ……もうどうでもいいや……。

 

 

 白と茶色を基調とした部屋に、女性らしい細々としたものがあちこちに置いてある。
「一日仕事してたから、とりあえずシャワー浴びてくるわね。ソファにでも座ってて」
彼女がバスルームに消えると、総司は肩からかけていたカバンをドサッとソファに置き、自分も座った。髪をかき上げて天井を見る。
何をやっているんだろう、という思いと、千鶴の泣き顔が相変わらずちらちらと脳裏を横切る。
総司はもう考えたくなくてギュッと目を閉じた。

 今何時かな……。

ふと思いカバンに手を伸ばす。カバンの中の携帯にはiPodのコードがからまっていて、それごと取り出そうとするとその奥でガサッと何かが音をたてた。

 ?何か入ってたかな……。

身を少し乗り出してカバンの中を覗きこむ。


そこにあったのは、千鶴は調理実習で作って持ってきてくれたカップケーキだった。
袋を開けてみると二つ入っていて、一つは食べかけでつぶれている。

 

総司はそれを見た途端、迷うことなく立ち上がった。携帯とカバンを持ち、そのまま玄関へ向かい家を出る。


 僕が千鶴ちゃんにやらかした事実は消えないし、千鶴ちゃんを泣かせちゃったことも取り戻しがきかないけど……。

総司は速足で自分の家へと歩きながら、千鶴が作ってくれたカップケーキを食べた。

 

 

 でも、僕が抱きたいのは千鶴ちゃんだけだ。

 

 

 

 


 「……と、言うわけなんだよ」
総司が話している間に、千鶴のこわばりと嗚咽はおさまっていた。相変わらず顔は挙げてくれないけれど、胸に頭をもたせかけてくれている。
「……僕の言う事信じてくれる……?」
恐る恐る聞く総司に、胸の中の千鶴はしばらく沈黙していた。

 駄目だったか……?もうこうなったら泣き落とししか……

総司が覚悟を決めたとき、コクリと小さく千鶴がうなずいた。

「信じてくれるの?許してくれる?」

思わず体を離して千鶴の顔を覗き込む。
千鶴は泣きはらした目をしていたが、困ったように微笑んでいた








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