いやはや暑いですね


 


「あっっっっちいーーーーーーーー!!!!!」

夏真っ盛り。
平助の叫び声はセミの大合唱にかき消され、夏の青空に消える。
しかし、屯所で一番涼しい部屋でぐったりとしていた総司、新八、左之の耳には届いた。

「平助の声が暑い」
「静かにしろ、よけいに暑くなるだろ」
「……うるせえ……」

口々に言われたがそんなことは気にならないほど暑い。とにかく暑い。
ただでさえ肌の露出が多い姿の四人は、さらに胸をはだけ―の袖まくりもしーのとにかく少しでも涼しい恰好に着崩している。
暑さだけではなく湿気もすごい。髪がまとわりついて肌がべとべとしてセミがうるさくて脳みそが沸騰しそうで……
「一君、こんな中で巡察してんのかな」
平助が、嫌になるほど青い空ににょきにょきとそびえたつ入道雲を見ながらそう言うと、左之もぎらぎらとした日光が照りつけている庭を見た。余りの暑さに植え込みの木や草たちも元気がなくしおれている。
「死ぬぞ、あいつ……」
総司も薄目を開けて外を見る。
「例のあれでしょ?黒い着物にあの襟巻でさ」
「やめてくれ、想像するだけで暑くなる」
新八が最小限の言葉で、これ以上暑さが増しそうな言葉を空中に放り出すことを止めさせた。
左之がため息をつく。
「一雨来てくれりゃあちょっとはましになるんだが――……」と、言いかけて庭先をよぎったモノを見て言葉を止めた。
左之が途中で言葉を止めたのに気付き、寝ころんでいた新八も首をあげ、総司も目を開き、平助も左之の目線の先を見る。

そこには、暑さによたよたしながら庭に水を撒こうとしている千鶴の姿があった。

千鶴が水を撒いてくれるのはありがたい。暑さによろよろしてるのも、まあこの気温じゃあ当然だろう。左之が言葉を止めたのは、千鶴の格好だった。
たすき掛けをしているのだが、それがちょっと激しすぎると言うか……。ほぼ肩までむき出しなのだ。
新選組の隊士たちもよくやっているやり方で、袖ぐりの深い着物はそうやって思いっきり袖をたすきであげてしまえば、腕以外にも胸や腹のあたりも風が入って涼しい。
夏のこの時期は、特に作業中ではない隊士たちも屯所ではそうやってたすき掛けをし、頭に鉢巻を撒いて日中過ごしている者も多いが……千鶴がやると、女性特有の腕の滑らかさと白さを細さや肩の丸さが目立つ上に脇からチラ見えする胸の辺りが……サラシを巻いてはいるが、それがわかるということは見えているということでもある。

新選組に来た直後のガキならまだしも、今の千鶴は……いくつだ?
さあ……16?
17じゃねえ?
世間では普通にお嫁さんに行く年齢だよねえ……

四人は視線で会話をかわす。
皆の視線に押されて左之がしぶしぶ声をかけた。

「ち、千鶴」
左之が呼びかけると、千鶴は暑さでへにゃ〜となった笑顔で振り向いた。
「みなさん……暑いですね、今お水をまくので……」
「いや、それはありがたいんだが、おまえ……」
「私も部屋にいたんですけど、もう暑くて暑くて頭がもうろうとして……。昔から暑さには弱かったんですよね……。父様は私は江戸生まれだって言ってましたけど、私は本当は江戸よりももっと北なんじゃないかって密かに思ってるんです……」
そう言いながらふらふらと千鶴は水を撒いた。撒いたはしから蒸発していくが、その時に少しだけ涼しい風がふく。
最後に桶に残った水を千鶴は覗き込んだ。
かぶりたそうな表情をしている。
またも四人は視線を交わし、今度は総司が言った。
「千鶴ちゃん、ここでいきなりそれをかぶるのは……」
千鶴は悲しそうにほほ笑んだ。「大丈夫です。そんなことしません」
そして残りの水をすべてを、卵焼きができそうなほど暑くなっている大きな石の上にかけた。水は、じゅっと音を立てて一瞬で蒸発した。
「これですこしは涼しくなるといいですね……」
千鶴はそう言いながら、よたよたとまた自分の部屋に帰って行った。

残された四人は顔を見合わせる。
「……千鶴は、井戸端で水をかぶれねえだろうしなあ……」と新八。
「風呂もはいれないよな」これは平助。夜に自室でこっそり体を拭くくらいしかできないだろう。
「基本自室にいないといけないからね、そりゃ暑いよね」総司もうなずいだ。
しかし、左之が、「でも、ありゃあだめだろ」というと、平助と新八は大きくうなずいだ。
「駄目だと思う」「まずいよな」
千鶴の白い二の腕だ。独身の血気盛んな男ばかりの屯所で、あの腕は目の毒だ。
総司は襟元を大きく開いてうちわであおぎながら言った。「そうはいってもしょうがないんじゃないですか?この暑さで袖もきちんとおろしておけって言うのもかわいそうだし」

「いや、何か間違いがあってからじゃ遅い」

ふいに後ろから聞こえてきた土方の声に、四人は振り向いた。
「土方さん、いたんですか」
「お前らの誰か、ちょっと千鶴と話してこい」
「……」
土方の言葉に、皆は指名されないように顔をそらせた。千鶴が暑い思いをしているのは知ってるし、男どもよりも涼しくなる方法がかぎられてるのもわかってる。かわいそうだし、それに何より、子どもだった時期から一緒にいる女の子に、そういった性的な方面について話すのは照れくさい。みなどちらかというと女の子に『男には注意するように』と忠告する側ではなく、その反対の側なのだ。
いっせいに視線をそらせた四人の横顔を土方はにらんだ。
そして、「総司」と名指しする。
総司はあからさまに顔をしかめた。
「なんで僕が。嫌ですよ、そんなガラじゃないですし」
「他の奴らに比べりゃまだ『ガラ』だろーが」
島原の顔となりつつある新八と左之、それにくっついてよく島原に行く平助。そして芸妓からの恋文をもらいまくっている土方。
確かにこの四人が千鶴に対して、男の視線を気にするようにと説教するのは生々しい。それに比べれば総司は、もてるだろうにめったに島原にはいかないし女っ気がない。
「じゃあ一君にすればいいじゃないですか、一君ならもっと―……」「斎藤は今いねえだろう。いちいち今あったことを説明するのがめんどくせえ。決まりだ。今日中になんとかしろ」
他の三人も同意とうなずく。「嫌ですって!そんなひまじゃないですし!」という総司の抵抗は、土方と他の三人にあっさりと抑え込まれた。




「え?たすき掛けがだめって……どうしてですか?だって今までずっとやってきたのに?」
「だからー……」
総司はため息をついて、髪をかき上げた。
ホラ、こういう質問がくるってわかってるからみんな逃げたんだよね。だからってなんで僕がこんなことやんなきゃいけないの、嫌だって言ったのに。ちゃっちゃと明日からたすき掛けをやめるように言って、気まずい事とか居づらい事とかめんどくさい事になる前に部屋に戻ろっと。
夜も遅い千鶴の部屋。
部屋の隅にある蝋燭がゆらゆらと揺らめいている。こんな夜遅くに千鶴の部屋に一人で行くことは言語道断ではあるが、だからと言って真昼間人目の多いところでできる話しでもない。
「つまりさ、ここは男ばっかりでしょ?君は男の振りしてるけど本当は女の子で、あんまり肌を見せると、いろいろと影響があるんだよ」
総司の説明にも千鶴は首をかしげている。
「影響ってどんな影響ですか?」
「……」
誰か助けはいないかと総司は見渡したが、当然ながらこんな時間にこんな場所に誰もいるわけがない。誰もいないからこそこの話をしているんだし。
総司はめんどくさくなって、ズバリと言った。これでショックを受けたとしても知るものか。
「つまり、襲われちゃうよってことだよ。わかる?そこらへんで押し倒されて着物を脱がされて好きな様にされちゃうってこと」
しかし千鶴の首はさらに深く傾く。総司のいら度もそれに比例して高まった。
「何?わからない?『好きな様にされちゃうってどうされちゃうんですか?』とか言いたいの?説明してほしいならするけど、君の――」
「いっいえ!そこじゃないです。そこはわかるんですけど……」
「じゃあなにがわからないのさ」
既に居心地が悪くなってしまっている。総司は居心地の悪さを苛立ちに変えて千鶴にぶつけていた。とにかくはやくこの気の重い仕事から逃れたい。
「だって、私のことを女だって知ってる人は私が嫌がってるのに襲ったりなんかするような方たちじゃないですし、女だって知らない人はそもそも襲わないんじゃないですか?男の人が男の人を襲って、何をするんですか?」
そうきたか。
総司はぐっと言葉につまって、純真な大きな目で見上げてくる千鶴の顔をしばし見つめた。
「何をするって、そりゃあ……」
「女の人なら赤ちゃんができるようなことを無理やりっていうのは私も知ってます。でも男の人相手におなじことはできないですよね?」
総司はもう一度、誰か助けがいないかあたりを見渡した。当然誰もおらず、夏の夜の静寂が耳に痛い。
「同じこと……は、まあできないけど……それっぽいことはできるんだよ」
ごにょごにょとごまかす総司に、当然千鶴はつっこんでくる。
「それっぽいって……だって男の人には無いじゃないですか、女の人にはあるあの―……」
「とにかく!!」
それ以上は言わせないように総司は千鶴の言葉をさえぎった。
居づらい上に気まずい。めんどくさすぎる。総司は土方を心の中で100回地獄につき落としながらきつめに言った。
「とにかく君は、四の五の言わずに明日からたすき掛けをやめればそれでいいの!」




「あし……あ、脚が…」

次の日、暑くなってきた昼過ぎ。
今度は例の涼しい部屋で斎藤も交えて皆でぐでっていたら、突然斎藤がそううめく声が聞こえた。
総司は寝ころんでいたが斎藤の言葉に嫌な予感がして、うちわであおぎながら薄目をあけて斎藤の視線の先を追う。
「水、まきますね」
にっこりほほえんで庭で水を撒いている千鶴の腕は、昨夜総司の必死の説得が功を奏してきちんと手首まで袖で覆い隠されている。
だが脚が、膝から下だけではあるもののむき出しだった。
紐で裾をからげて袴を上にあげ、膝丈のフレアスカートのようになっている。裾から見える素足は当然ながら真っ白で、腕むき出しよりも清潔な色香が男たちの目を刺した。 細い足首に丸い踵。白い足の指の間に食い込んでいる男物の草履の鼻緒が妙にそそる。
左之と土方、新八に平助が、目をそらしてそ知らぬ顔をしている総司を見た。
「おい……」
「なんだあれ。ひどくなってんじゃねえか」
「おまえなんて言ったんだ」
総司肩をすくめた。
「『たすき掛けは止めろ』って」
土方の額に青筋がうかんだ。
「だからだろうが!ちゃんと、なにがどうなってどうまずいのか、千鶴が理解できるように説明しなけりゃそりゃ千鶴は『たすき掛けだけ』やめるだろうよ!今夜もう一度ちゃんと説明しとけ!」
予期していたとはいえ、土方の命令に総司は暑さも相まってゲンナリと目を閉じた。

千鶴のことを女の子だとしらない一般隊士たちが危険だから、という方向から攻めるのは危険だということは昨夜わかった。
「あとは〜……あの子のことを女の子だって知ってる僕達が、実は危険、とか……」
言えなくもない。新八、左之あたりを犠牲にして、『あの人たちがギラギラした目でみてるんだよ』とか『土方さんなんか女ならだれでもいいんだから千鶴ちゃんでも危ないんだよ』と言えばいいのだ。
だが、当然次の日から千鶴の、彼らに対する態度が変わるだろうし、それに気づいた土方や新八、左之からの逆襲を考えると面倒だ。
「あとは何かあるかな……」
皆が夕飯の話をしている横で、総司は考えていた。


言葉で理を説明してもわかってもらえないのなら、交換条件ではどうだ。
総司はその夜、寝る支度をしている千鶴の部屋に行くと、さっそくそう切り出した。
「夏の暑さを紛らわすために、何かしたい事…ですか?私がしたいことでいいんでしょうか?」
裏の井戸で水浴びとか、冷えたスイカを食べたいとかそのあたりなら総司でもなんとかなる。もっと涼しい部屋に移動させてほしいとかなら土方に相談は要るが断られないだろう。
しかし千鶴の条件は総司の想像を上回るものだった。

「『氷かき』っていうのが食べてみたいです」

総司は千鶴用の小部屋の入り口の上の部分を持ちながら、今度はそうきたか、と思った。
昨日の例からしてそうすんなりいくとは思わなかったが、『氷かき』とは……
「千鶴ちゃん、大方近藤さんあたりから聞いたんだろうけど、それは無理。将軍でも食べたいときにたべられるようなものじゃないんだよ。知ってて言ってる?」
千鶴は驚いた顔をした。知らなかったようだ。
「すいません。近藤さんと暑いですねっていう話をしていた時に、『一口口に含んだとたんすっと暑さがなくなって、真夏なのにすずしくなる不思議な食べ物』って聞いたので、そんなのを食べられたら涼しくていいだろうなってそれだけで、つい……」
総司はため息をつく。
「……ちょっと来て。氷かきほどではないだろうけど、たぶんこれも涼しくなると思うよ」

「ここは……?」
屯所の広い敷地の中で行くことを許されていない場所に連れてこられて、千鶴はキョロきょとを辺りを見渡した。今夜は満月で夜とは思えないくらいの明るさだが、そこは人気がなく、何処か薄暗く、塀と蔵に囲まれて一方しか開けていない。
千鶴が不安そうな顔で総司を見ると、総司はあごで少し先を示した。
「ここ、みんながあんまり使わない井戸があるんだよ。暑いしさっぱりしたいでしょ?見張ってるから水浴び思う存分したらどう?」

『いいんですか?ほんとうに?』
ためらいつつもパッと輝いた千鶴は、総司がうなずくとすぐに井戸に駆け寄った。
井戸は蔵と塀の間にあって、そこに行くには蔵を回り込まなくてはいけない。総司はその出口のすぐ先の所にある大きな石に寄りかかって人が来ないように見張った。
背後からザパーンという、水を盛大に流している音が聞こえる。やはり暑さが相当応えていたのだろう。

「と、いうわけでね。これから毎晩ここを使わせてあげるから、たすき掛けもあと今日みたいに脚を見せるのもやめてくれないかな」
「え?今日のもだめだったんですか?」
千鶴は、水浴び後で濡れた髪を手ぬぐいで拭いながら、井戸の横で総司を見上げた。水浴びは終わって、千鶴は夜着をちゃんときている。
驚く千鶴に、やっぱりなんにもわかってなかったんだと総司は心の中でうなずいた。こんな子にイチから男の生理と女の生理とその上におこるあれこれを教えるなんて自分には無理だ。その上昨夜は男と男のアレコレについても教えなくてはいけないところだったのだ。
「そう、だから、理由はもうわからなくてもいいから、とりあえずやめてくれればそれで、僕はすごく助かるんだけどどうかな?」
総司がさんざん考えた新たな策だが、千鶴はやっぱり首を傾げた。
「でも、私は別に他の人達をムラっとさせようと思ってあの格好をしてるわけじゃなくて、暑いから少しでも涼しくしたくてやってるだけなんですけど……」
「千鶴ちゃんがどうであろうと関係ないんだよ。見たヤツらがむらっときたらそれで終わり。一応君は幹部たちの管理対象だからあんまり不手際があると困るんだよね」
千鶴は今度は反対側に首を傾げた。
「それって、私のせいっていうより、その見る側の方たちのせいでは……?」
「……ん?」
思いもよらない方向から攻められて、総司は瞬きした。千鶴は大きな目で総司を見上げて言う。
「私に肌を見せるなっていうより、そういう人達に屯所にいる人間にムラっとするなって言った方がいいんじゃないですか?ううん、ムラッとするのはしょうがないにしても、襲うなって。だってみなさん法度のこと、ご存知ですよね?士道にそむくべからずって。ムラっとしたから襲うっていうのは、士道なんでしょうか?」
今度はそう来たか。
総司は、蔵の壁に肘をついてうっすらとほほ笑みながら、千鶴のキラキラした瞳を見下ろした。
言われてみればその通りの気もする。男が勝手にむらむらするせいで、千鶴は特に悪いことをしているわけではない。なのに千鶴にだけにさらに暑い思いを我慢するようにというのはスジが通っていないのかも……
いや、だめだ。ここでこの子の男と性に関する超論理に巻き込まれて今夜も敗退するわけには行かない。
総司は大きくため息をついた。
しょうがない。
この手は使いたくなかったが、今日何とかしないと明日この少女がどんな格好をしてくるか知れたものではない。
総司は大きく息を吸うと、風呂上りで髪をおろしいつもより女の子らしく見える千鶴を見た。

「じゃあ、僕が君にドキドキするからって言ったら?」

総司がそう言うと、千鶴の目は大きくなる。
「君も女の子だったんだなって、白い足首とか細い腕とか見ると思っちゃうんだよね。このままだと自分が抑えられなくなりそうで、正直なところ困ってるんだけど」
よし、これでいい。このあと少し脅かして怖い思いをさせて、そうしたら……
総司はそこまで考えて千鶴の顔を見て、目を見開いた。
千鶴の顔がみるみるうちに真っ赤になっていくではないか。
「何、きみ……」
総司が指をさして『どうしたの』と言おうとすると、千鶴は顔を背けてしまった。恥ずかしそうに下を見て、でも耳から首筋にかけて真っ赤にそまっているのが月あかりでもわかる。
「……」
そんなことをされたら総司だって何も言えない。
総司が千鶴の傍で言いかけたまま口を開けて突っ立っていると、千鶴が小さな声で言った。
「……たから……」
「え?」
聞き取れなくて総司が聞き返すと、千鶴はもう少し大きな声で言った。
「あ、明日から、たすき掛けも裾をあげるのも、……やめます……」
「あ、ああ……うん、えーと…そうしてくれれば……」
ごにょごにょ。
千鶴はそのまま、「おやすみなさい!」と投げるように言うと、総司の顔をも見ずに走り去ってしまった。

え?
あれ?
これって……何、もしかして僕が告白したとかそういうことになったとか?

誤解だと言って追いかけた方が良いのだろうか。あれは、千鶴が腕や脚を剥きだしにするのをやめさせるために考えた方法のひとつで、別に総司は千鶴を見てもドキドキはしないのだと。
しかし、今総司の胸は自分でもびっくりするくらいドクンドクンと、強く早く打っている。
「えーと……」
こんな展開は想像もしていなかった。しかも、よく考えたら『明日からはたすき掛けも裾上げもしない』ということは、総司にドキドキされないようにとういうことか?
「ってことはつまりフラれたってわけ?」
いきなり?
「じゃあなんであんなに真っ赤になってたのさ」
総司は誰もいない屯所の隅で一人つぶやく。

わけがわからない。
ただでさえ暑さでわけがわからなくなっているのに、女の子の考えることなんて総司にわかるはずがないではないか。おまけに色事関係は総司の得意分野ではないのだ。

夏の暑さのせいでふいに、思ってもみない方向に転がった二人の関係。
総司と千鶴の暑い夏が始まった。