【Blue Rose 7−2】
『青は藍より出でて藍より青し』の続編です。前作を読まないと話がわからないと思います(スイマセン……)。
作者は剣道、その他について未経験者です。内容については信用せずフィクションとしてお楽しみください。
毎年恒例の、斎藤先輩の家でやるクリスマスパーティは女子禁止。だから始まる前の準備の時に来て手伝ってよ、と沖田先輩に言われた私は、以前来たことのある斎藤先輩のマンションのベルを押した。ドアを開けてくれた斎藤先輩についてリビングのソファにコートとカバンを置いて台所へ行ってみると、そこはまるで戦場のようだった。あ、ぐちゃぐちゃっていう意味じゃなく、斎藤先輩の統制下の元、平助君と沖田先輩が料理に真面目にいそしんでたっていう意味で。
平助君は一抱えはありそうな大きなボウルに入った大量の茹でたジャガイモをマッシャーでわしわしとつぶしてた。
「なぁ〜、これどこまでつぶすの?えらい疲れるんだけど」
ぶちぶち文句を言う平助君に、斎藤軍曹……あ、違った、斎藤先輩は、訓練だと思え、と通達した。
沖田先輩は、と見ると、何故かサングラスをして涙を流しながら包丁で何かを切っている。
サングラス姿の沖田先輩。か、かっこいいですけど……なぜ?
私が唖然としていると、沖田先輩が私に気づいて、サングラスを下げた。緑色のきれいな目が真っ赤だ。
「一君に水中メガネ貸してって言ったんだけどさー、ないんだって。そんでまあ無いよりはましかって、これ」
沖田先輩が切ってたのは、当然タマネギ。
「平助のバカが、クリスマスはハンバーグカレーがいい!とかいうからさぁ。急遽つくることになっちゃって」
斎藤先輩は揚げ物の続きをしていた。覗いてみると、タワーのように鶏のから揚げが積まれている。おいしいから一つ食べてみなよ、と言って揚げたてを沖田先輩が手渡してくれる。斎藤先輩を見ると、微笑んでうなずいてくれたので、一ついただいてみた。
「……おいしい!」
生姜がきいてて、中はジューシーで外はカリッとしてて、脂っこくなくて……。
「斎藤先輩ってほんとに料理がお上手なんですね……」
「だよな〜!ぜったいいい嫁さんになるって」
平助君の言葉は無視して斎藤先輩は言った。
「料理には方式がある。その方式さえおさえていれば、必ずおいしいものができる。好きか嫌いかと言われれば、……好きなのだろう」
斎藤先輩らしい言葉に、私は微笑んだ。それにしても……。
「……ちょっと量が多すぎないですか?そんなにたくさんの人達がくるんですか?」
私の言葉に平助君と沖田先輩が顔を見合わせた。
「去年はうちのクラスの寂しい男とか道場の寂しい男とか、中学の友達の寂しい男とかが入れ代わり立ち代わり来て、飲み食いして、名前も知らねー奴ともゲームしたりしてたぜ。総勢……何人くらいだ?」
平助君の言葉に沖田先輩が答える。
「そうだなぁ……。一度に部屋にいたのは8人くらいだけど、この家に来たのは、全部で30人くらい来たんじゃない?」
そ、そんなに食べ盛りの高校男子生徒が……。それならこれくらいいりそう……。
「今日のメニューはハンバーグカレーと、ポテトサラダと、鶏のから揚げだ。あとは持ちよりの菓子と米だな」
斎藤先輩が炊飯器を二つセットしながら言う。
「一晩中みなさんで騒いでるんですか?」
「いや、さすがに11時過ぎるころにはみんな帰っていく」
「去年はその後、俺と一君とで明石屋サンタ観たよな」
平助君がおいもをつぶしながら言う。
「平助君は泊まってったんだ……。あれ?沖田先輩は?」
私の言葉に、平助君の目が泳いだ。沖田先輩も目をあわせないようにしてなんだが気まずそうにしてる。
「総司はその時の彼女と出かけていた」
斎藤先輩の言葉に、私は少し胸が痛んだ。
そっか……。そうよね。もちろん……。沖田先輩、そういう人だし……。
私が返事が出来なくて、冷蔵庫にマグネットで貼ってある買い物リストを凝視していると、サングラスをはずした沖田先輩が近くに来た。
「……ごめんね?今は千鶴ちゃんだけだよ。今年のクリスマス、千鶴ちゃんは夜はだめだから僕は一君の家に泊まるし」
「初耳だ。ベッドメイクもしてないぞ」
「俺も泊まるつもりだし」
「平助はソファーだな」
「え〜!なんで総司だけマイベッドがあんだよ〜」
「総司のベッドではない。客用の予備の折りたたみベッドだ。じゃあ一緒に寝ればいいだろう」
「はぁ!?勘弁してよ!」
斎藤先輩と平助君がぎゃあぎゃあ言っているのは気にせずに沖田先輩は私の顔を覗き込むようにして続けた。
「去年だって、千鶴ちゃんを知ってたら他の子となんかつきあってなかったよ?」
「……私、別に怒ってません。だって過去のことだし」
「そう?でもほっぺたが膨れてるよ」
からかうように沖田先輩は言って、私の頬を人差し指でつつく。
「これはもとからです!」
「ね、来年も、その次も、これからのクリスマスはずーっっと千鶴ちゃんだけだからね、機嫌治してよ」
沖田先輩が冷蔵庫と先輩の体に私を挟むようにして、体と唇を寄せてくると、平助君がべりっと引きはがした。
「っだ〜〜!!離れろ!カップルめ!いちゃいちゃすんな!総司、お前これ以上いちゃつくとこの家から退場だぞ!今日はここは本来彼女のいないやつしか来れないんだかんな!カップルはクリスマスツリーの下でこじゃれたメシでも食ってプレゼント交換してりゃあいいんだよ!」
平助君の言葉で私は思い出した。
「あ!私、みなさんにクリスマスプレゼントがあったんです!」
リビングのカバンから袋を持ってきて、それぞれを渡す。斎藤先輩は油の火を止めて、沖田先輩はサングラスをしたまま、平助君はマッシャーを持ったまま受け取ってくれた。口ぐちにありがとう!と言って中を開ける。でてきたのは…。
「?ネックウォーマー?にしては小っさいような……?」
「リストウォーマーなんです。剣道部で手首って冷やすとよくないんですよね?体が温まるまで使っていただければ、と思って」
「そうなんだ……。確かにこれは助かるかも。そんなのあるんだね。ありが…」
言いかけた沖田先輩は、斎藤先輩と平助君のリストウォーマーを見て口を開けたまま固まった。
「みなさん模様違いのお揃いにしてみました♪」
沖田先輩は黒に白のストライプ。斎藤先輩はギザギザの波線。平助君はチェック。
私がそう言うと、平助君が微妙な顔で言った。
「……嬉しいけど……嬉しくない……」
溜息をついてる沖田先輩の肩を、斎藤先輩はポン、とたたいて、ありがとう、大事に使わせてもらう、とお礼を言ってくれた。
沖田先輩……気に入らなかったのかな……?水玉模様もあったんだけど、そっちの方がよかったんだろうか……。
私が気にしていると、平助君も何かかわいらしくラッピングされた袋を持ってきた。
「はい、これ三人からいつもマネージャーをがんばってくれてる千鶴にプレゼント」
全然予想もしてなかったプレゼントに、私は驚いた。
「え?私?」
気を取り直したように沖田先輩が言う。
「そう。開けてみてよ。物は三人で決めたけど、買ってきたのは一君だからどんなのか僕も知らないんだよね」
ドキドキしながら開けてみると、何か白い薄い紙で包まれた柔らかい……布?薄い紙をそっととると、中に入っていたのは……手袋。濃い、鮮やかなプルーの暖かそうなフェルト地の手袋だった。
「千鶴さ、部活ん時手が寒そうだなって話になって。じゃあ手袋にすっかって」
「部活で使ってほしいと考えたからあまり汚れが目立たない色で、手袋をしたまま鉛筆がもてるように薄手で、しかし暖かいものを、と考えて選んでみた」
私はそっとはめてみる。とってもやわらかくて、中が裏起毛になっていて暖かい。
「あ、ありがとうございます……。大事に使いますね」
私は嬉しくて、手袋を見つめながら思わず顔がほころんでしまった。
リビングにあるカバンに手袋をしまいに行くと、後ろから沖田先輩がついてきた。
「玉ねぎ、いいんですか?」
「うん、それよりもこれ。彼氏の僕から」
プラン。
私の目の前にきらめくものが揺れた。思わず手を差し出して受け取ると、それは私の手のひらでひんやりと崩れてもつれた。
これは……ペンダント……。
銀色の鎖に、パラをかたどって彫られた青い……石?貝かな?のペンダントトップ。華奢で、大人っぽくて、女性らしくて、繊細で……。なんだかすごく秘密めいていて色っぽくて私はドキドキして顔が赤くなってしまった。。
「あ、ありがとう……ございます……。素敵です……。こんな……」
こんな大人っぽいの似合うでしょうか……?
そう続けようと思った私に先輩が言った。
「千鶴ちゃんはどう思うかわかんないけど、これが僕の持ってる千鶴ちゃんの印象。つけてあげるから後ろ向いて」
わ、私の印象……!こんなに……大人っぽくて色っぽくて……?
沖田先輩に映る私って……こんななんだ……。
私は何も言えなくて赤面した。くるっと沖田先輩に背中を向けておろしていた髪を片側によせる。沖田先輩は何も言わずにそっとネックレスを私の首にまわして留めた。髪をネックレスの輪からそっと抜いてくれる。その感触に妙に敏感になってしまって、私はぎゅっと目を閉じた。
沖田先輩の手が私の肩にかかって、振り向かせる。
なんだか変な気分……。
目が潤んで、先輩に甘えるようなすがる様な目をしてしまう。
どうしよう……。
先輩は私の表情に気が付いて、フとに真面目な顔になった。そのままそっと唇を寄せて……。
「っだーーーーー!!!!お前ら!言ったそばから!!もう帰れ!」
平助君の大声で、ぱちっと私は目を見開いた。自分がしようとしていたことに気が付いて顔が赤くなり汗がどっと出る。
わ、私、いいいい今こんなとこで何をしようと……!
沖田先輩は、視線だけで人を殺せるとしたらきっとこんな視線だな、というような、凍りそうな目で平助君をにらんでいた。
結局平助君に追い出されて帰る私を、沖田先輩が送ってくれた。
先輩がこいでくれてる自転車の後ろに跨ったまま私はぼんやり明日のことを考える。
明日は私と先輩二人だけのクリスマスデート。とは言っても土曜日で。先輩はもう引退してるけど、私は部活があるし、先輩は夕方から道場があるから会えるのは6時ごろから。私の門限は特別に9時になったから一応時間はある程度はあるんだけど、そんな時間からどこに行くか決まらなくて結局先輩の家で夕ご飯を作って食べようか、という話になった。
先輩と一緒にいるのは好きだし……嬉しい。けど……やっぱりそういうことになるのかな……。つきあいだして、もう四か月くらいだし……。先輩は、やっぱり…したいんだよね。たぶん。
私は自分がつかまっている先輩の広い背中と固い肩を見て赤くなった。
お、男の人だし……。ゴーヤの…アレ買ったって言ってたし……。やっぱりそうなんだよね、きっと。私の方は、心の準備ができたかって言われると……。できてない。全く全然。できればそんな恥ずかしそうな怖そうなことは一生しなくてもいいんじゃないかってちょっと思うくらい。いつか自分が、したい、なんて思うようになるとは思えないし、そうなると先輩はずっと待ってなきゃいけなくなって……。それで気まずくなったりしちゃうのが怖い。だから、私は明日先輩から、そういうことを、も、求められたら、断るのはやめよう、と決心した。
一度してしまえば、きっとたいしたことじゃないと思うようになるんじゃないかな。恥ずかしいのをちょっと我慢して、痛いっていうのは犬にかまれたと思って、明日は我慢しよう。(←ヒドイ…)
私がそこまで決心を固めたときに、自転車は家に到着した。
自転車から降りてお礼を言った私に沖田先輩が何か言いたげな顔をしてる。
「……あのさぁ……。千鶴ちゃんがそういう性格の子だってわかってるし、そういうところも好きなんだけど、今後のために敢えて言わせて」
自転車にまたがったまま髪をかきあげて、先輩はそう言った。
「クリスマスプレゼントね。調理実習と同じでさ、これも一応世間一般ではカップルのお約束のイベントとゆーものになっていてだね……」
話し出した沖田先輩の首に、私はそっと用意していたものをかけた。
沖田先輩は口を開けたまま、目を瞬かせた。
「……わ、私も一応クリスマスのイベントについては、知ってます……。みんなの前で渡すのは、恥ずかしかったんで……」
ふわふわした毛糸のマフラー。細い緑と明るい黄色の二本の糸でやわらかく編まれてて肌触りもいいし暖かそうだったのでこれに決めた。
「ほんとは、編んでたんですがあまり上手でないうえに間に合わなくて……。ごめんなさい」
先輩の首に巻いたマフラーの両端を両手で持ったまま、赤くなってそう言った私を、先輩は驚いた顔で見ていた。その瞳の色がフッと濃くなると、先輩の視線が私の口元に移る。
キ、キスされる……!
いつもなら身構えて目をぎゅっとつむって体を固くしちゃうんだけど、今は何故か私はそのまま先輩を見つめていた。
ゆっくりと、先輩も私の目と唇に視線を移しながら顔を近づけてくる。
そしてそのまま二人でそっと目を閉じて。
緑のマフラーの中で優しく暖かいキスをした。
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