【青は藍より出でて藍より青し 6】

SSLではありません。が、似ている設定も多々あります。そして長いです……。
作者は剣道、その他について未経験者です。内容については信用せずフィクションとしてお楽しみください。

 

  
  いつもの、平凡な日曜日。
平助は千鶴の家のリビングで、ゲームをしていた。
先ほどまで、『また来たの』といいつつ一緒にゲームをしていた千鶴の兄の薫は、もう飽きたのか本屋に行く、と言って家を出て行ってしまった。今は、千鶴が唯一できるマリオカートを、二人でやっている。
平助のマリオが、千鶴のワルイージと抜きつ抜かれつをしているときに、平助がテレビ画面から目を離さずにぽつりとつぶやいた。
「おまえさ、総司のどこが好きなの?」

 千鶴は、急なカーブを回りきってから、返事をする。
「……好き、なのかな?」
「そー思うけど」
「そういう風に好きにならないようにしてたんだけどなー……」
あ、抜かれた、と千鶴がつぶやいた。

 「俺も、最初はお前と総司って見るからにあわなさそうだし、総司が手さえださなきゃお前からは好きにならないかなって思ってたんだけどさ。でもお前があの時総司を追いかけていくのを見て、あ、千鶴は総司のこと好きなんだなーって」
千鶴は、ワルイージを操作しつつも、もう既に平助を追いかける気もなく、淡々と走らせる。そして人事のようにつぶやいた。
「そうなんだ……」
「で、どこが好きなんだよ」

 相変わらずテレビ画面から目を離さない平助を、千鶴はちらりと見ながら考える。
「……よくわかんない。でも沖田先輩寂しそうで……。つらそうに見えて。それが気になっていつも目で追っちゃうの。私をからかったり、平助君や斎藤先輩と楽しそうにおしゃべりしてる時は楽しそうだから安心するんだけど。だから私と話して気がまぎれるなら、からかわれても気にならないし嬉しいの。逆に寂しそうな時は傍に行って慰めてくなる。私よりも年上で、強い人なのに、こんな風に思うって……変かな」

 「あんな我侭でアブねー奴のどこが寂しそうかね〜」
「我侭をきいてあげたいって思っちゃう。危ないところも目が離せなくて、助けてあげたいって思う」

 ゴールした平助は、コントローラを放り出し、ソファにもたれて頭の後ろで腕を組んだ。
「で、どうすんの?告ったりすんの?」
千鶴は、コントローラを持ってテレビ画面を見てはいるものの、もう操作はしていなかった。ワルイージがぽつんとレース場の真ん中で止まっている。
「しないよ。そんなこと。想像するだけで怖いし」
「……怖いって、例のあれ?『幸せな約束』?」
「そう」
臆病者なの。千鶴は自嘲するように笑って、小さな声で言った。

 平助は千鶴の方をみた。千鶴は途方にくれたような顔をして、相変わらずテレビ画面を凝視している。
「楽しい未来の約束を破られるのが怖くて、約束自体をしたくない、なんて、後ろ向きだよなー」
「……変だよね」
「やっぱあれかな?薫、お前がちっこいころ一度南雲に連れてかれたろ。あれのせい?」
「どうかな。わかんない」
でも、と千鶴は続けた。
「想像だけど、沖田先輩から受けるそういう関係の傷は、他の誰からのものよりきっと凄くつらい。自分がどうなっちゃうのか怖いから。だから告白なんてしない。できないの」

 平助は、ため息をついた。しばらく考えてから、カーペットに手をついて千鶴の方に向き直った。
「俺にしとけば?」
「え?」
「俺、千鶴をぜってー泣かせない自身ある。千鶴には本当に幸せになって欲しいし。総司の事を思ってるお前はなんか幸せそうじゃないから、嫌なんだよな」

 特に赤くなるわけでもなく、真剣な瞳で千鶴を見つめる平助を、千鶴も見返す。そして面白そうに、ぷっと笑った。
「平助くん、嬉しいけど、つきあうってボランティアじゃないんだよ?平助君全然ドキドキしてないし、私の事そんな風に見られないでしょ」
平助は一瞬言葉につまったが、すぐ言いつのった。
「大丈夫!キスとかアレとか、やれといわれりゃやれるよ。なんか妙な罪悪感があるけど。そのうち慣れると思うし!」

 千鶴は、赤くなって頬をふくらませながら、そんな彼氏いりません!と怒ったように言う。
「大丈夫だよ。ちゃんと二番目に好きな人みつけて、つきあって、その人を幸せにする。二番目に好きな人とつきあった方がいいってよく言うでしょ?それってこういうことなんじゃないかな」

 千鶴は明るくそう言って立ち上がり、冷蔵庫へむかった。
平助の好きなカルピスをとりだし、自分の分と平助の分をコップについで、平助の前のガラステーブルに置く。
千鶴は自分も飲みながら、苦笑いをして言った。

 「それに万が一にも沖田先輩とそんな関係になることはないよ。だって全然私のこと女の子扱いしてないもの。沖田先輩が、彼女とか他の女の子達と話しているの見たこと何度もあるけど、私にするみたいにいじめたりからかったり全然しないんだよ。とっても優しくて、なんでもきいてあげてた。私のことはどっちかっていうと、平助くんとか斎藤先輩に対するみたいな態度でしょ?女の子っていうより、仲間、というか、遊び相手みたいな感じなんだよ、きっと」

 千鶴の妙に冷静な分析に、平助は思わずうなずいてしまった。
「確かにそうかも……。それに総司から女の子に告るってのも想像できねーしな……。でもその方がいいよ。あいつ『女の子』に対しては扱い酷いし。仲間の方が大事にしてくれるんじゃね?千鶴がそれでいいなら、その方がいいと俺も思う」
「うん。今は沖田先輩が眩しくて、きらきらしてて。近くにいられるのが楽しい」
千鶴は、にっこり笑って、自分のカルピスを飲んだ。

 そう、今はそれで十分。

 


 同じ頃、総司は道着姿で近藤の家のキッチンで冷蔵庫をあさっていた。
「確かここにペプシをおいて置いてたと……。あ、発見」
取出して、冷蔵庫を閉めたとき、キッチンの入り口から土方が入ってきた。
「……なんだ、お前。道場に来てたのか」

 近藤の家の横には、道場があり、総司は幼いころからここにいりびたり、近藤に遊んでもらったり、剣道を教えてもらったり門下生になってからは、一時総司の家の都合でこの家に住んだこともあった。そのため、総司の私物はいまだにすこしここにおいてあるし、冷蔵庫の中には総司のお気に入りが常備されている。学校が終わった後や、土日など、暇があれば総司はいまだにここに来て、ぶらぶらしていることが多かった。

 「せっかくの土曜日なのに、彼女と会うわけでもなく、家族サービスする奥さんがいるわけでもなく、寂しいですね、土方さん。僕は大人になってもそんな男にはなりたくないなー」
総司がペプシを飲みながら横目で土方を見る。
「うるせぇ!練習に来てるんじゃ、お前も似たようなもんじゃねぇか」
「でも、僕はつきあってる娘がいますからね。…あ。別れたんだっけ。まぁでもすぐまたできますから」
余裕たっぷりの総司の言葉に、土方は苦笑いをした。

 「お前のそれは、つきあってる、とか彼女とか言わねーよ。相手の気持ちにつけこんで、やることやってるだけだろ」
身もふたも無い言葉に、総司は眉をひそめた。
「うわぁ、汚い大人の発言だなぁ。こんなにピュアな僕をつかまえて」
「じゃあ、聞くが」
そう言って、戸棚の近くにあるコーヒーメーカーをセットし、マグカップをとりだしながら言う。
「おまえ、つきあってる彼女のこと考えて夜眠れなくなったことはあるか?夜中や明け方に、妙に会いたくなったり声が聞きたくなったりして、電話したことはあるか?ぜんぜん見当違いの嫉妬をして、かっこ悪い思いをしたことは?また明日会えるのに別れがつらくて、帰るなって我侭言ったりしたことはあんのかよ」

 「ないですけど……。そんなこと。それより土方さんがそんなことしてるかと思うとそっちの方が気持ち悪いんですけど」
総司は壁によりかかりながら、おえっと舌を出した。
「あほ!恋っつーのはみんなそういうもんなんだよ!そういう風に思える女とつきあえるから、『彼女』ってもんが幸せの代名詞になるんじゃねぇか。お前のは単に都合のいい女ってだけだよ」
土方は、総司がまだ中学生で問題を次々と起こしていたときに左之が話していたことを思い出した。
『総司のやつ、あんなに女をとっかえひっかえしてるくせに、手ぇつないだりキスしたりしねーんだよ。ヤってるだけ。まぁヤりたいさかりなのはわかるけど人を好きになることはもちろん触れ合うことも嫌みてぇでよ。この先心配だぜ。』

 ケンカはやめたし、生活態度もまじめになってきたが、女に対する姿勢だけはかわらずってことか…。

 土方は溜息をついた。

 総司は土方の言葉についてしばらく考えていた。

 たしかにそんな思いを女の子に対してした覚えはない。もちろん男にもないけど。でもそんなことを毎日するのはとてもたいへんで、面倒くさそうだ。要は一日中その子のことを考えてなきゃいけない訳だし。世の男がみんなそんなことをしているなんて信じられない。少なくとも僕にはできないな、そんな付き合い方は。

 「そんなことをしているより、近藤さんの道場にきて練習したり、小学生の相手をしてたほうが楽しいかな、僕は。女の子との付き合い方は人それぞれなんじゃないですか。土方さんの言うのが恋っていうのなら、僕は多分恋はしないタイプなんでしょうね」
上を向いてペプシの最後の一滴を流し込むと、総司はカラになったペットボトルを荒い、ラベルをとって、ゴミ箱に捨てた。
土方はコーヒーを一口飲みながら、総司を見る。
「ばーか、初恋もまだのガキが何言ってやがんだ。恋っつーのはするもんじゃなくて落ちるもんなんだよ。言ってろ。そのうち見事に落っこちてあわあわしてても助けてやんねえからな」
「僕は、そうはならないと思いますけどねー。人には向き不向きってのがあるんですよ」
土方に背中を向けて、手だけひらひらさせて、総司はキッチンから出て行った。

 土方はテーブルに浅く腰をかけ、コーヒーをすすりながら微笑んだ。
「いつかはみんな落ちんだよ」

 

 

 「あれ?総司、それ土方さんのだろ?何やってんの?」
道場の片隅、事務管理用の土方のパソコンをいじっている総司に、平助は言った。

 その日の夕方、二人は初心者の子供たちの指導をするクラスを受け持っており、そのためにやってきた平助は、子供たちに囲まれながらパソコンを操作している総司を見つけたのだ。
「ん〜?いろいろカスタマイズしてあげてるんだよ」
覗き込んでいる小さな女の子たちから、かわいい〜!という声があがっている。
平助も後ろからパソコンの画面を覗き込む。デスクトップには極端にデフォルメされたピンクピンクしたうさぎのキャラクターが背景になり、ピンクのウィンドウやら文字やらがちらばっている。マウスポインタもウサギになっており、動かすたびに軌跡にハートが飛び散る。

 (うざっ……!)
さすがの平助も引くくらい甘々なカスタマイズに、女の子たちは言う。
「これねー、小学校の女の子たちの中で今一番人気があるんだよ〜」
「シュガーバーニーズっていうの」
かわいいよね〜!と言い合っている女の子たちを見ながら、この画面を見た土方のことを想像し、平助は溜息をついた。

 「土方さんのパソコンだろ〜?怒るぜ」
「そう?かわいいのになぁ」
にやにやしながら、総司はカスタマイズを終え、パソコンの電源をおとす。

 ったく、あほらしいほどガキで性格悪ぃなこいつ……。千鶴はこんなやつのどこがいいんだっつーの。
さみしそうでほっとけない、とか言ってたけど、俺には悪巧みしてる面にしか見えねぇよ。

 「よしっ。じゃあ、これからゲームをしよっか!僕か平助に一本でも入れられたら、今日の練習は無しで鬼ごっこにしよう!今から練習が始まる時間までね!」
総司の提案に、子供たちが歓声をあげ、道場の壁に立てかけてある竹刀をとりに走る。
「ちょっ!待てって総司!俺まだ荷物おいてな……!」
平助のあわてた言葉は、竹刀を持ってかけよってくる子供たちの声にかき消された。平助のあわてぶりにかまわず、総司は楽しそうに笑いながら子どもたちの攻撃をよけている。平助も、走り回っているうちに楽しくなってきて、子供たちとはしゃぎまわる。
総司と平助の笑い声、子供たちの歓声が、道場の外に響いていた。

 
「ばいば〜い!」
「おう!また来週な!」
薄暗くなった街へと、子供たちは剣道の防具がつまった大きな荷物を持ちながら道場を出ていく。出口に立って、最後の一人を見送った総司と平助は、無言で子供たちの背中が見えなくなるまで見送っていた。そのままぼーっと外を眺めている総司を見て、平助は、このあほ面を千鶴は『さみしそう』とかいうのかな、と考えていた。

 「おまえさ、あの彼女とはどうなったの?」
「……ん?何、突然。……別れたよ。ちゃんと」
「ふ〜ん……」
沈黙。
「お前さぁ。やけに千鶴かまってるけど、あいつのことどう思ってんの?」
総司は一瞬目を見開いて平助を見た。そしてにやにやしながら言う。
「ふぅん……?平助、やきもち?」
「ばっ!ちげぇよっ!おれはあいつのこと妹みたいにっつーか、大事に思ってんの!総司にもてあそばれるのは見たくねーんだよ!」
「何それ、心外だなぁ。僕は別に自分から手を出したりしたことないよ」
「あー、そうっすね。もてる奴はつらいね!でも節操なく来る者拒んでねーじゃん!千鶴はヤローに慣れてねぇんだからさ。あんまり思わせぶりな冗談とか変に特別にかまったりすると誤解しちまうだろ?気に入ってかわいがるのはいーけどさ、その気がないんならそーいうところはちゃんとしろよ?」
また沈黙。
「……その気があったらどうするの?」
妙に平坦な声で総司が聞いてくる。平助はびっくりして思わず総司の顔を覗き込んだ。
「……あんの!?……っつーか、絶対ダメ!お前みたいに女癖の悪ぃやつに千鶴は渡せねーっつーの!だめだめ!ぜってぇ泣かせんだろ!」
手をぶんぶん振りながらダメダメを繰り返す平助に、総司は苦笑いをした。

 「大丈夫だよ」
総司はそうつぶやいて、灯りがともり始めた街へと目をやる。
「平助があの子を大事にするのもなんとなくわかるよ。僕も、つきあったりして別れちゃうよりも、このまま一生友達や仲間って名前で傍にいられる方がいいし」
そう言って、総司は道場の中に入って行った。
「そっか。よか……」
ん?
 ほっとして笑った平助は、総司の言葉にひっかかる。一生傍にいるって……。

 今のは、愛の告白?

 あれ?でもつきあわないって……。???

 平助には、それ以上のことがわからず、でもとりあえず総司は千鶴に手をださない…らしい、ということだけはわかってそれでよしとしたのだった。


 

 

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