【青は藍より出でて藍より青し 11-1】
SSLではありません。が、似ている設定も多々あります。そして長いです……。
作者は剣道、その他について未経験者です。内容については信用せずフィクションとしてお楽しみください。
総司は手のひらの中の携帯を、慣れた仕草で開けた。
メールをチェックするけれど、どうでもいい顔見知りからのどうでもいいメールはたくさん来ているのに、千鶴からのメールはなかった。
近藤の道場の隅、総司は道着で壁に寄りかかりしゃがみこんでいた。溜息をついて髪をかき上げる。昨日、あのキスの夜、何を書いたらいいのか散々迷って、何度も何度も書き直してようやく千鶴に出したメール。
『おやすみ、千鶴ちゃん。
あと、今日のことで
話したいんだけど。』
30分後に届いた千鶴からの返信は、「お休みなさい、沖田先輩」とだけあって、その下の二行については見事にスルーされていた。今度はいったいどんなヘマをしたせいで、千鶴が自分を避けているのか……。避けてはいないのだろうか?メールに返事はくれた。あれから一時間ごとに、千鶴からのメールが来ていないか携帯をチェックしているが、なんの音沙汰もなかった。
「よっ!総司!またせたな!」
トレードマークの緑のバンダナをして新八が竹刀を振りながら、明るい太陽の光とともに総司に向かって歩いてきた。
「新八さん」
総司は携帯を置いて、竹刀をとって立ち上がる。
「すいません。せっかくの休みなのに練習につきあってもらって」
「いいってことよ!総司がめずらしく全国大会優勝目指す!なんっつてるなら協力してやろうってもんよ!」
がはは!と笑って新八はその筋肉質の腕で総司の背中をばんばんたたいた。
「ちょっとっ…!痛いですよ!」
「まぁまぁ!高校全国大会一位をとったことのあるこの俺様に教示を願うなんて、お前も殊勝なとこあるじゃねーか!」
いつも総司に適当にあしらわれ、年上とは思われていないんじゃないかというくらいからかわれていた新八は、今回のことで総司が自分を頼ってきたのが嬉しくてしょうがないらしい。終始ご機嫌で、ハイテンションだった。
総司はたたかれた肩をさすりながら、新八にむけて竹刀を構えた。
「時間があまりないんですよ、僕も。早速お手合わせお願いできますか」
総司の目は、怖くなるほど真剣で、二人を包む空気がすっと冷える。それを見た新八は、今度は挑むような目でにやっと笑って、おもしれぇ、とつぶやいた。
「相手は風間……だったな。試合、俺も見たことあるぜ。力押しで速ぇ。技はねぇが運動神経が半端ねぇ」
新八も竹刀を、すっと正眼に構えた。
「どうすんだ…?」
それから1時間余り、二人は無言で打ち合った。総司が試してくるいろんな仕掛けや技を、新八が風間になりきり風間ならどう対応するかを想像しながらあらゆる試合展開を試す。竹刀で打ち合う乾いた音が道場に響き渡る。
しばらくすると、一と平助もやってきて、練習を始めた。左之もやってきて、道場がにぎやかになってくる。
総司と新八は、どちらともなく竹刀を下げ、一旦打ち合いを終えた。とりあえず現在で想定できる技はすべて試してみた。
「まずは体力だな」
新八が腕で汗をぬぐいなら言った。
「全国大会は勝ち抜けば一日で何試合もする。体力がつづかなけりゃ、風間の一発で竹刀をふっとばされちまうぜ」
「そうですね……」
総司は、肩で息をしていた。バケモノかこの人は、と思いながら息を全然乱していない新八を見る。そして大きく溜息を一つついた。
「まあ、体力はこれから全力でつけるにしても、今のままの試合展開じゃあ、風間の一発ですべてひっくりかえされちゃいますね。それが怖くて踏み込めなければ、そこを狙われて風間のペースに持ち込まれてしまうし」
熱くもならず、焦りもせずたんたんと状況を分析している総司に、新八は目を見開いた。
「なんか……。お前感じ変わってねぇ?」
「……そうですかね。それより、新八さんはどう思います?」
「あー……、そうだなぁ…。あいつの剣は半端なく重そうだし速ぇ。速さは総司でも十分対応できるとは思うが重さが尋常じゃねぇ感じだ。相手はどいつも一発くらった後ほとんど腕がつかえなくなっちまって負けてた。ってーことはだ、先手必勝。これしかねぇんじゃねぇか?」
「新八さんらしいなぁ。新八さんならそれでOKなんでしょうけどねぇ。僕がやるとたぶん賭けになっちゃうかな。まだ今は」
総司は竹刀を肩にかついいで息を上に吹き、汗で額に張り付いた前髪を吹き上げた。そして、しばらく天井を仰いで何か考えているように視線をゆらす。よし、という小さい声とともに、総司はもう一度新八に向き直った。
「もう一回相手してもらえます?ちょっと試したいことがあるんですよ」
打ち合ってすぐ、新八は総司の戦い方が変わったのに気が付いた。通常の構えから、すっと体ごと腕を後ろに深くひき、突きの構えを大きく変形させたようなフォームになる。
(……なんだ?あの構え……。うかつに踏み込まないで様子を見た方がいいか……?)
新八は一瞬迷ったが、風間だったらどうするかと考える。きっとあいつは自信家でかまわず打ち込むだろうという結論に達した新八は、大きな気合いの声とともに、踏み込もうをした。そしてその瞬間。
あっという間のできごとだった。
構えから突きが来ることはある程度想定していた新八は、視線の端で総司の腕が前にでて、突きが繰り出されるのを確認し、体を後ろにそらせてよけ、左から総司の胴を打った……つもりだった。
総司の間合いはすでに分かっている。確実によけたつもりだったのに、突きが入った。二人は防具をつけていなかった。総司は手加減した上に、狙いを急所から外したが、目に見えないほどの速さで繰り出された竹刀に突かれ、新八は思わず後ろによろけ、竹刀がかすった喉の横に手をやった。
「っってー!!なんだよ、今の?よけたと思ったんだけどよー?」
二人が打ち合いを初めてすぐの出来事だったため、総司は先ほどと違い、ほとんど息が上がっていない状態で、まるで実験結果を眺めるように言った。
「ふーん……。思ったとおりだなぁ。ってことは……使えるかな?これ」
「なんだよ、ちゃんと説明しろよ」
「この前関東大会で、動きの早い、運動神経のいいやつと戦ったんですよ。そいつは僕の打ち込みをことごとく後ろに体をそらせることでかわしてたんです。つまり、運動神経がいいやつは、くりだされる突きに思わず反応して、後ろによけてしまうんじゃないかなって考えて。僕はもともと腕が長いから、突き技は有利だし結構得意だから、使えないかと思っていろいろ試してみてたんですよ」
「へぇ〜?思ったより突きが伸びたのはどういう仕掛けだ?」
「簡単なことで、こうやって……。左手で限界まで引いて、両手で伸ばして、さらに右手だけで伸ばすんです」
総司はゆっくりと自分でやってみせた。腕の動きとともに、足も踏み込む。簡単、と総司は言ったが、その動きは優れた身体能力と地道な鍛錬と繰り返しの練習がなければ実際の打ち合いで使えるようなものではなかった。
「まだ剣筋が安定しないのと、片手だけの時に打ち込まれた場合についての対策が無いんですけどね」
「いや…。うん。面白いぜ、こりゃ。うん、うん。よく考えたな総司!」
新八の感心した声に、もう一人の男の声が重なった。
「ほんとだぞ、総司!お前が考え出したのか?」
「近藤さん!」
総司の嬉しそうな声が道場に響いた。
「トシから、総司ががんばってるって話は聞いてなぁ。もともとお前は抜きんでた才能があった。努力もずっとしてきてたが志があまりなかったな。そんなお前が、全国大会優勝などという立派な志を持ってこんな技まで考え出すとはなぁ…」
近藤は、感無量、という感じで慈愛に満ちた視線を総司に向ける。
総司は照れ臭そうに、少しぶっきらぼうに言った。
「まだ全然完璧じゃないですよ。必殺技みたいなのがあれば、そうそう簡単に打ち込んで来れないだろうって思って考えてたんです」
新八が言う。
「だけどよ。あの技は繰り出すときのモーションが大きすぎる。あの体勢になったらこれが来るってわかっちまったら威力も半減だぜ。もっとコンパクトな動きで出せるようにするとか、普通の打ち込みのモーションでフェイントかけといて途中から変えるとか、何か考えねぇと」
新八の台詞に、総司は考えるように顎に指をあてた。
「うーん……。それはなんか……僕らしくないなぁ……。僕としては、来るのがわかってるのに避けられないっていう風に技を進化させたいと思ってるんですけどね」
もっとフォームを安定させて筋肉つけて、素早く、強く技を繰り出せるように。
真剣に考え込み始める総司を見て、新八と近藤は顔を見合わせた。
「近藤さん、総司の奴、なんかえらい変じゃねぇ?いっつもはもっとへらへらしていい加減だったような気が……」
近藤は、うんうんと頷きながら総司を見つめ直した。そのまなざしはとても優しいものだった。
「……何かあったんだろうな、きっと。あれは成長だと思うがな」
ぱかっ。
総司は携帯を開け、メールをチェックをする。
「まーた見てんの?誰からかメール来る予定でもあんのか?」
平助が覗き込んだ。
「別に」
総司はそう言って平助に見られないように携帯を閉じて後ろポケットに突っ込む。
「来てなかったのか」
一が聞く。
「〜〜〜なんで、そんなこと気にするのさ二人とも!ほっといてよ」
「だって道場から駅にくるまでで、何回携帯開けたり閉めたりしてんだよ。お前いっつもほとんどいじんねぇのにさ。気になるだろ普通」
道場からの練習の帰り道。いっしょに飯を食ってこうぜと新八と左之が誘ってくれたが、近藤がテスト期間中だから早く家に帰して勉強させないと、と言うため、総司と一と平助の三人は誘いを断って帰宅途中だった。もう時計は7時をまわり、あたりは夕闇につつまれつつあった。
口を閉ざしてしまった総司にはかまわず、平助は大きく伸びをして叫ぶ。
「ああ〜腹減った〜!!今日は千鶴のカレーだ!」
その言葉に総司と一がそれぞれの理由で素早く反応した。
「千鶴ちゃんの!?なんで平助が食べさせてもらえるのさ!」
「千鶴が作ったのか?俺が教えたレシピだろうか……」
二人の見幕に、たじたじとなった平助が言う。
「……じゃ、うち食べ来る?今日明日とうちの親二人で旅行なんだよ。そんで千鶴が作っといてくれるって。そういえば今日道場に手伝いに来てくれるとか言ってたんだけど、朝になって急にやっぱ行けないってメールがあってさ」
なんかあったのかな、途中で約束変えるなんてあいつらしくねぇ。とつぶやく平助を見て、一が総司に視線を送る。
「……何かしたのか?」
「……なんで僕が何かしたとか思うわけ?」
「挙動不審な人物が二人いれば、何かあったと思うのが普通だろう。その場合仕掛けるのはお前からでしかありえない」
「何々?どういう意味一君?総司が千鶴になんかしたの?」
「あ〜〜!うるさいな、もうっ!何を聞かれてもノーコメント!」
意味深な目で総司を見つめる一と、なんだよ〜とぶつぶついいながらあきらめる平助。
「んで、どうする?うち来る?」
「「行く」」
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