図書館妄想
「約束、したでしょ?僕の誕生日プレゼント、何が欲しいか僕が言ったの覚えてる?」
「……」
千鶴はさらに顔を赤くして俯く。総司は目をそらしてしまった千鶴の顔を覗き込み、さらに聞く。
「忘れちゃった?」
「お……覚えてます……」
「三階でそれ、やらせてよ」
「……」
無言で赤くなったまま俯いてしまった千鶴の手を、総司は優しく引っ張り立ち上がった。
「ほら」
促すと、千鶴もおずおずと立ち上がる。
今日は土曜日で。場所は公立の小さな図書館の一階の閲覧室。ちょうどお昼ご飯の時間で総司達と同じく勉強しに来ていた人々は外に昼食を食べに行っていて席はガラガラだった。
総司は千鶴の手をひいて本棚の間を歩いて行く。人がほとんど来ない奥まった場所にある階段を昇っていくと、三階だった。
一階の三分の一以下の、まるで屋根裏部屋のような狭いスペースに、古くて分厚い辞書がずらりと並んでいる。
総司はさらに千鶴の手をひいて奥へと歩いて行く。本棚の後ろに小さなドアのない入口があって、その奥がさらに小さな書庫になっていた。閲覧者用ではないのだろう、並べ方も分類も乱雑で資料室や物置のようなホコリっぽい雰囲気だった。部屋の奥に小さな窓があり、そこから柔らかい光が漏れているが、前を本棚で塞がれているため部屋は薄暗かった。
ずんずんと奥にはいり、一番奥の本棚の裏、窓の横に進む総司に、千鶴は怖気づく。
「お、沖田先輩、こんなとこでそんなこと……。もっとその……二人きりの場所とかで…」
「二人きりの場所でそんなことしたら、僕絶対途中でやめられないよ。エッチ禁止令がでてるからそれはまずいんじゃないの?」
「……」
総司は窓の桟の、少し出っ張ったところに浅く腰を掛け、ほら、というように手を広げる。
絡めた指をぎゅっとにぎり、尻込みしている千鶴をゆっくりと引き寄せた。もう一方の手も指を絡めて握り、総司はゆっくりと口を寄せていく。
「お、沖田先輩……!違います!」
千鶴の抗議に、総司は口づけする直前で動きを止めた。
「ああ〜……、そうだっけ。イチャイチャするんじゃなかったっけ。千鶴ちゃん、じゃあお願いして?」
「え?」
「ほら早く!僕の誕生日プレゼントでしょ?それくらいサービスしてよ」
総司のずうずうしいお願いに、千鶴は赤くなる。
『そんなお願いはプレゼントにはいっていません』と押し返す強さもなく、『せっかくの誕生日プレゼントだし……』とも思わないでもなく、結局総司に甘い千鶴は、恥ずかしさを押し殺して、ぎゅっと目をつぶって、総司に『お願い』を言った。
「わ、私の……ホクロを数えて、そこにキ、キスしてくださ……い……」
「は〜い♪」
自分から提案した誕生日プレゼントをお願いされて、総司は嬉しそうに返事をする。そして千鶴は総司の足の間に引き寄せられた。
「まずね、ここでしょ」
総司はそう言うと、千鶴の下したままの髪をかき上げて、千鶴のこめかみのさらに奥、髪に隠れている所にちゅっとキスをした。
千鶴は固まったまま直立不動だ。瞼もぎゅっと閉じている。
「次はねぇ、このほっぺの下の方にちっさーいのが一個あるんだよね。二つ目」
総司は声ともに顔に角度をつけて、耳の下、顎のラインすれすれにちゅっとキスをした。
「後は……この耳たぶのうしろっかわに……三つ目」
そう言って耳をなめようとする総司に、千鶴はあわててストップをかける。
「ちょっ……!そんなところにほんとにあるんですか?」
「あるある。自分では見られないと思うけどね」
そうして今度はキスではなく念入りに耳をなめる。
「っ……んんっ……」
耳が弱い千鶴は、ビクッと肩をすくめ逃げようとするが、総司が千鶴の背中に腕を回して逃げられないように固定していた。
「ちょっ……沖田先輩、長……」
総司は息を吹きかけたりキスをしたりしながら千鶴の耳をもてあそんでいる。
「でもキスしてるだけだよ?」
「…ん…あんっ……」
散々耳をいたぶった後総司は、もういいかな、と言って次にむかった。
「次はね〜ここのうなじ。後ろのところにあるんだよね、ちっさいのが。四つ目」
「おっ沖田先輩!」
うなじがとても弱い千鶴は、さらに慌て訴える。
「本当にあるんですか?私が見えないからって……あっ」
千鶴の言葉の途中で、総司はうなじに優しくキスをした。そのままなぞるかなぞらないかのスレスレで、また耳へと唇を移動させる。
総司の手はいつの間にか千鶴の制服のリボンを解き、ボタンをゆっくりとはずしていた。
それに気が付いた千鶴が、慌てて総司の手を止めた。
「沖田先輩!」
ふっと首筋に息を吹きかけながら、総司は手の動きを止めた。
「服の下にもあるでしょ?ほくろ。わかってたでしょ?こういうことになるって?」
「わ、わかってましたけど……」
「じゃあ黙って。人は来ないけど、あんまり大きい声だすと聞こえちゃうよ?」
総司はそう言うと、向かい合わせになっていた千鶴をくるりと後ろ向きにさせ、片側に寄せた髪のすきまから見えるうなじに唇をはわせながら、千鶴のブラウスのボタンをゆっくりとはずしていった。
そしてするりと手を滑り込ませるとブラジャーの上から手のひらで胸を包み込む。
「沖田先輩!」
「あ、ごめんごめん。手が滑っちゃって」
総司の唇は、はだけさせたブラウスの襟ぐりから背中へ向かって滑って行く。そして音もなくブラのホックが外された。息を呑む千鶴に、総司はのんびりと言う。
「ここ、肩甲骨の内側にもホクロがあるんだよ。背中の空いた服とか着たら、きっと色っぽいと思うな」
そう言いながら指先で千鶴の背中を撫でおろし、唇でキスをする。
「ここと、……ここの腕の中側にも……あ、こんなところにもある」
キスをしながらも総司の手はそろそろと前にまわり千鶴の胸を包み込む。そして先端を優しくこすられて、千鶴はもう抗議の言葉を忘れた。頬をそめ、俯きながら声を必死に抑える。
「……あ……あっ……」
千鶴のブラウスの前は全部はだけ、はおっているだけ。さらに後ろに大きくはだけられたせいでほとんど上半身はむき出しだった。ブラもかろうじてまだ腕から紐を抜かれてはいないものの、大きく胸からずれていてその役目をはたしていない。
そうしてかなりの時間胸をもてあそばれて、耳とうなじを責められて千鶴はぐったりと全身の力が抜けてしまっていた。
総司が楽しそうに言う。
「ほら、僕と場所かわって」
ぼんやりと総司を見上げる千鶴に、総司はにっこりとほほ笑んで、今度は千鶴を窓の桟のでっぱりに腰掛けさせた。
「あ〜色っぽいかっこ……。たまんないなぁ……」
そうつぶやきなたら、千鶴の向かい側に発った総司は千鶴の太ももを撫で上げていく。
千鶴は、何かにつかまっていないと倒れてしまいそうだった。目の前の総司の首へと腕を回した。それをいいことに総司は、今度はホクロの無い方の耳にキスをしながら千鶴のスカートをまくり上げて行った。
「脚……広げて…」
千鶴の耳元でそう囁くと総司は千鶴の脚を大きく広げる。千鶴はぼんやりとそれを見下ろしていた。
「……あった…」
総司が嬉しそうに見つけたホクロは、脚の付け根の内側にあるものだった。
「ああっ……!沖田せんぱ……あっ」
「だって千鶴ちゃんつらいでしょ?」
「そ、そんなところにホクロは無…ああっあっ」
総司が指を動かすたびに、ぴちゃぴちゃという音が図書館の狭い書庫に響き渡る。
「ホクロはないけどね。このまま放置だと、下に戻っても千鶴ちゃん、勉強に集中できないよ?だからアフターサービスとしてイかせてあげるところまで、責任もってやってあげるから……」
「ああっあっ……!」
千鶴は必死で総司の首に縋り付き、総司の制服のシャツに口を押しつけて声を抑えようとしていた。総司はそんな千鶴の耳を唇でもてあそび、左手は胸の先端をつまむ様にして撫で、右手は……千鶴のスカートの中で動かしている。
総司の右手の動きが激しくなるにつれて、千鶴の腰が反り頬が紅潮していく。千鶴の脚は、間にたっている総司をぎゅっと挟んで、……そして、か細く甲高い声とともに全身を一瞬硬直させたかと思うと、ビクン、と何度か痙攣し、脱力した。
「……」
総司は無言で自分の制服のポケットからビニールの小さな包み物をだす。そしてそれを破いてから自分のベルトを外し始めた。総司が何をしようとしているのか察知した千鶴は、まだ快感の余韻が覚めないままぼんやりと言う。
「……先輩……だめ…こんなところで……」
「我慢できない。挿れさせて」
手早くゴムをつけると、総司はぐっと千鶴の脚をひろげ腰を引き寄せた。
「ああ……」
溜息のような声が二人の唇からこぼれる。
千鶴のナカはトロトロになっていた。
「先輩、結局……あっ…ホクロはいくつ……あっ…」
「っ…忘れちゃったよ。また数えさせて……」
「……ぱい…」
「……せんぱい…?」
「……沖田先輩?」
「先輩!起きてください!」
肩をゆさぶられて、総司ははっと目が覚めた。
「……あれ…?千鶴ちゃん?」
目の前にはきちんと制服を着た千鶴がいて、総司を覗き込んでいた。
ぼんやりと周囲を見渡すと、そこは公立の図書館の一階の、閲覧室だった。
「もうお昼の時間ですよ。休憩して外に行きませんか?」
「休憩……」
繰り返す総司に、千鶴はくすっと笑った。
「先輩はずっと休憩してましたけど。よく眠れました?受験勉強、夜遅くまでがんばってるんですね」
総司は千鶴の笑顔を見て……そして髪をかき上げてつぶやいた。
「なんだ、夢か……」
千鶴が机の上を整頓して、カバンを床からとりあげる。
「いい夢だったんですか?」
その言葉に総司は力強くうなずいた。
「うん、すごく」
「よかったですね。外、行きましょう?」
そう言って、席を立とうとする千鶴の手に、総司は自分の手をそっと重ねた。
「ねぇ……三階に行こうよ」
千鶴は手を握られたことで、少し頬を染める。
「三階って……なにがあるんですか?」
「ここの図書館の三階はね〜。つまんない分厚い辞書とか、地域の歴史の本とか……かな?」
総司の言葉に千鶴は首をかしげた。
「辞書……?」
「そう、つまんないから、……誰も来ない」
最後の一言は甘く甘〜く囁く。さすがの千鶴も意味が分かったのか急に真顔になった。
「ダメです!」
総司は目をぱちくりさせた。
「禁止令、だしましたよね?先輩がそういう言い方をするときは、よからぬことを考えてる時です!」
「いや、でも誕生日プレゼントの約束……」
「あ、あんなのはっ!禁止令が解除になってからに決まってるじゃないですか!」
「ええっ!?じゃあ大学受かってから?」
驚く総司に、千鶴は真面目な顔でうなずいた。
「そうです。スポーツディの時といい、沖田先輩と二人っきりでそういうムードになるのは危険だって学んだんです。さ、お昼に行きましょう?」
総司はしばらくぼんやりと千鶴を見つめて……
そして大きく溜息をついて財布を持って席をたった。
「あ〜あ、夢の中の千鶴ちゃんの方がよかったなぁ……」
総司はそうぼやきながら、しぶしぶ千鶴の後について、三階への階段ではなく図書館の出口にむかったのだった。
終
2011年10月発行
2013年11月発行
掲載誌:BLUE ROSE