Baby
Baby Baby 後日談
裏
「え?触っていいの?」
灯を落とした薄暗い部屋の中、熱く深い口づけの後の上ずった声で総司はささやいた。
いつも通り腰窓の桟に腰掛けさせられて、立った千鶴から口づけを受けていた総司は、今日の宿題は千鶴の体に触ってもいいのだと聞いて彼女をみあげてそう聞いた。
至近距離でほんのり上気した千鶴はとても色っぽい。潤んだ瞳を、同意という意味で瞼を恥ずかしそうにそっと閉じる。
ドクンと、総司は心臓が強く打った気がした。
春画本から、口づけ、深い口づけと、ずっとうずうずしていた自分の手を必死に抑えていたのだ。服の上からというのは残念だが、しかし彼女の柔らかさやなだらかな曲線は確かめられるはずだ。
総司は千鶴の眼を見ながらゆっくりと手を伸ばした。少しでも怯えるような影が彼女の瞳にうつれば、やめることができるように。
今の千鶴の表情からは、うっとりとしたものしかうかがえないがちょっと前は……さっとこわばり暗く陰ったのだ。またあんな表情をさせるくらいなら、総司は自分の欲望は抑えられると思っていた。
ゆっくりと伸ばした手で、千鶴の垂れ下がっている髪をそっと彼女の耳にかける。そしてその手をあご、首へとゆっくりさげていき、総司は彼女の薄い肩を着物の上からゆっくりとなぞった。
千鶴がすこしビクリとしたのを感じて、総司は彼女の顔を見る。千鶴は顔を真っ赤にして目をギュッとつぶっているが「嫌だ」という感じではなかった。総司はそのまま手をゆっくりと上下させて、彼女の緊張をほぐすようになんども腕をなでる。
「……目を開けて」
総司が囁くと、千鶴は潤んだ瞳をゆっくりを開けた。
総司は彼女の細い手首を優しくひっぱり、腰かけている自分の膝の上に横抱きに座らせる。
「ほら、口づけの宿題なんでしょ?」
総司がうながすと、千鶴はハッとしたように目を見開いて小さくうなずいた。そして至近距離にある総司の頬に手を添えると、柔らかな桃色の唇を寄せてくる。
ああ……
総司は胸の中で熱い溜息をついた。
気が狂いそうだ
腕の中には柔らかな千鶴。そして恥ずかしそうな、しかしたっぷりと技巧は教えられている様子の甘い口づけ。
脳の回路がプツリと切れて、このまま彼女を畳の上に転がして上にのしかかりたいという野獣のような欲望を、総司は必死に押さえつけた。
彼女の肩にまわしていた手をゆっくりと背中の方へ回し、反対の手を胸の方へと動かす。
「……あっ」
総司が着物の上から千鶴の柔らかい双丘を確かめると、千鶴は唇を離して小さく声を出した。総司は今度は自分から彼女の唇を求め、ふさぐ。そして左手でなだらかな胸の大きさを確かめた。
新選組に来たころはガリガリで少年のようだったが、今はさすがに大きくなっている。手のひらに余るほどとはいかないがちょうどいい大きさだ。
総司は柔らかくもみ、そして乳首を人差し指でたしかめる。
それは着物の上からでもはっきりわかるくらいピンと立っていた。人差し指を細かく左右に動かして、そこをさらに刺激すると、口づけをしている千鶴が身をよじるように動く。
「そ、総司さん……だ、ダメです…」
「ダメじゃないよ。宿題で『やりなさい』って言われてるんでしょ?」
総司はそう言いながら、今度は円を描くようにそれをもてあそび、つまむ様にして動かす。
「あっ、あ、あんっ…!」
かわいい喘ぎ声が聞こえてきて、総司はたまらなくなる。中には入れない。入れないのだが入りたい。その代償として、総司は千鶴の唇を自分から深くとらえた。そして強引に舌で彼女の唇を割り中に入る。実際の行為の時のような波打つ動きで何度も何度も舌を出し入れする。
乳首をもてあそぶたびにちいさく反応する体を膝の上に感じ、口の中からこぼれてくる喘ぎ声を呑みこみ、総司は夢中で彼女をむさぼった。
暫く愛撫をつつけていると、千鶴がもじもじと下半身を動かしだした。
これだけ刺激しているのだ。彼女の中心部がうずくのだろう。触ってあげたいが着物だと前袷がはずれてしまうので『着物の上から』という宿題では無理だ。彼女が総司の膝の上でおしりを動かすため、総司も刺激をうけてつらい。
このままだと二人とも今夜は眠れないのではないか。
だが、やめられそうにない。
柔らかくていい匂いがして甘くて……
総司の目の裏が赤くなり思考が途切れる。もう腕の中の千鶴の体、唇しか考えられない。……そうこれ以上はマズイ。
総司は強引に立ち上がり、深いキスでぼんやりしている千鶴を断腸の思いで膝からおろした。
「あ……」
回らない舌で突然放りだされたこともわかっていないような千鶴を置いて、「これで宿題は終わり」と言い捨てると、総司はそそくさと水を浴びに風呂へと向かったのだった。
■宿題五回目
「……今日の宿題は?」
あの後新選組での夜番や個別の隊務があり、ようやく総司が家で夕飯を食べゆっくりできたのは、三日後だった。
宿題四回目の夜はひどかった。
総司は結局熱くなり過ぎたからだを自分で慰め、それでもまだ足りずに千鶴を襲いたくなる気持ちを抑えるために水風呂に入り水を浴び、素振りをしてまた水風呂に入り……疲れ切って、もうこれなら大丈夫だろうと寝室にむかったのだった。
二刻くらいはたっていただろう。当然ながら千鶴はお布団をひいてくれていて、先に寝ていた。総司の夜着がきちんと枕元にたたまれている。
いつまでこんな夜が続くのか、いや、順調に前進しているはずだ。あと少し、あと少しと思いながら総司は疲れ切ったからだと横たえて眠りについたのだ。
そして今夜。
聞くのが怖いが、今夜も宿題が出ているはずだ。
幸せだがつらい宿題が。
千鶴がぽっと頬を染めて俯くのを見て、総司は体が熱くなる。
嫁の姿を見ただけで興奮するなど自分はもうどこかおかしいのではないだろうか。いや、どんな男でも好いた女子と夫婦になったのにこんな蛇の生殺し状態を続けられたら同じことになるだろう。
総司が生唾を飲んで千鶴の言葉を待っていると、彼女が恥ずかしそうに口を開いた。
「く、口づけをして…そして着物の上から私の体に触ってもらって……」
要するに前回までの復習だ。
「そして、今度は着物の下に触ってもいいと……」
例によって例の腰窓。
そして千鶴は総司の膝の上。
ゆっくりとねっとりと二人は熱い口づけを交わす。
「ん……ん」
鼻にかかったような声を漏らしながら、千鶴の方からも舌をからめてくる。本当にこの口づけは……気持ちよすぎる。一体どういう授業を受けてるのか。総司はそう思いふと冷静になって唇を離した。
「千鶴、口づけの練習のことだけど……」
「……は、……は、い……」
与えられてた快楽を急に取り上げられて、千鶴はぼんやりと総司を見上げる。
「まさか実践でやってないよね?どうやって教えてもらってるの?」
教師は君菊、生徒は千と千鶴のみときいているが……まさか実演用として別の男が来たりしてないだろうな、と総司は嫉妬でギラリと目を光らせた。
千鶴はぱちぱちと目を瞬かせ、頭をはっきりするように少しふってから答えた。
「主に図で描いて説明してくれます。口づけ以外の事は、人形があってそれで……」
総司は安心して頷くと、再び千鶴の唇を求めた。左手はゆっくりと胸へと伸びていく。
着物の上から同じように優しく撫でて充分に刺激する。
「そ、総司さん……」
「……ん?」
二人とも吐く息が熱い。
「君菊さんが……その、もしできるようなら一度『気』をやってみるのもいいですねっておっしゃってました」
総司はあまりにも刺激的なその言葉に耐えかねて、目をつぶった。
気をやる……要は達するといことだ。それをするにはかなり……その、かなりのところまでの愛撫が必要になる。着物の下の素肌を触っていもいいという今回の宿題はつまり……そうつまり……
総司は心を落ちつかせるために、深呼吸を二回した。
「……どういうことをしたら『気』をするか習ったの?」
「は、はい……」
それなら遠慮をすることは無い。総司の大きな節ばった手は、スルリと千鶴の夜着の胸元の袷から忍び込んだ。
「あっ」
初めての敏感なところへの接触に千鶴は小さく声を上げる。それがきっかけになり、総司は無言で彼女の帯をほといた。焦りのあまり手がもつれる。
「そ、総司さん、待って、は、恥ずかしい……」
その言葉が余計総司を煽る。はぎ取るように千鶴の着物をとると、総司は暗闇の中でほれぼれと千鶴を見た。
「……おいで」
恥しそうな千鶴を再び膝に抱き、総司はゆっくりと愛撫を開始した。
「ああ……あっ……は……」
総司の膝の上で片膝を立て、少しだけ脚を開いて、総司の肩に頭を押し付けて、千鶴はもう我を忘れて喘いでいた。
彼女の柔らかな白い太ももの間には、総司の浅黒い手が差し込まれている。ゆっくりと、くちゅりと音をさせながら動くその手に、千鶴は翻弄されていた。
「気持ちいい?」
総司の声も心なしか上ずっている。自分がイケない分千鶴をイカせたい。というより見てるだけで自分までイってしまいそうだ。
千鶴のそこは暖かく湿っており、散々総司の手にいたぶられた今は座っている総司の膝までぐっしょりと濡れている。
「どんな感じなのか言って……」
総司が耳元に息を吹きかけながら言うと、千鶴はビクリと首をすくめた。
「……何か……お腹の奥が…あっ!そ、そこは……あっ……」
「お腹の奥が…?」
千鶴の弱いところはここなのだ。ナカの人差し指の第一関節分くらい入ったあたり。指の腹で少し強めになんどもこすると……
「ああっ……あ…ああっ……だっだめ……」
「お腹の奥が何?」
「は……お腹の奥が……きゅって締まるような……ゆっくりせばまるような……あん!」
「ここが気持ちいいんだよね。こうしてれば『気』をやれるのかな?」
総司がくちゅくちゅと音をさせながら指を出し入れすると、千鶴はぎゅっと総司の着物をつかんだ。何かに耐えるように眉根をしかめて口で息をしている。
「ああ……ああ……あ、あ、……あ…」
千鶴の意識が一点に集中しだしたのがわかり、総司は指の動きを激しくする。それと同時に先ほどまで散々にいたぶった敏感な花芯を親指の腹で転がす。優しく何度も何度も転がしていると。
「あっダメダメ……!だめっ………」
最後の言葉を発した途端、真っ赤だった千鶴の顔は一瞬白くなり腰か下がびくんと大きく痙攣した。そして総司の指をきゅっとしめつける。
「あ……あ……」
放心したような声で、千鶴はくたりと総司の肩にもたれかかった。まだ時折思い出したように千鶴のナカが小さく痙攣する。
総司の着物を掴んでいた千鶴の手は緩み、ぱたりと落ちた。
総司はそっと指を抜くと千鶴を抱きしめて落ち着くように背中を何度も撫でる。総司自身はカチコチにこわばったままだ。千鶴がおしりの位置を少しでも動かしたらここでイってしまうほどに。
さすがにつらすぎて、総司は千鶴を抱きかかえてそっと敷いてあった布団に降ろす。千鶴ははじめての『気』で疲れたのか、眠ってしまいそうに目を閉じぐったりとしていた。
そんな千鶴に布団をかけてやって、総司が行く先は一つ……
そう最近すっかり入り浸っている風呂。水風呂だった。
■宿題六回目
総司は稽古が終わった後、ぼんやりと屯所で中庭を見つめていた。
いつもよりもきつめの稽古をして、他の隊士たちは皆道場でへたばったままだ。総司自身はそのあと更に素振りをして、体力バカの新八と打ち合いをして……。
さすがに疲れ切った。
そんな気にもならないくらい。
しかし、こうやってぼんやりしてくると頭の中に浮かんでくるのは……
自分の膝の上で悩ましく達した千鶴の姿。
汗で真白なうなじに黒髪が張り付いて、こぼした涙が睫を濡らして、細い指は縋り付くように総司の着物を掴んでいた。
柔らかな太ももの奥は、何度も想像した通りとても魅力的で、ゆっくりと慣らしていったせいかハジメテにもかかわらず総司の愛撫に敏感に反応してくれた。耳にはまだ千鶴の達した時の我を忘れた声が残っている。
それを思い出すだけで、疲れ切っているはずなのに総司の腰はじんわりとしびれたようになるのだ。
自分の煩悩の強さに呆れて、総司は溜息をついた。
もう十分だろう、最後まで行ってしまえという囁きと、ちゃんと千鶴の気持ちを考えて宿題を誠実にこなすべきだという囁きが総司の頭の中で戦っている。ここのところ一日中こればかりだ。
今の所、京の情勢は安定しているからいいものの、こんなことでは命にかかわるかもしれない。そうだ。千鶴を抱けないまま斬られて死んだなんて考えたくもない。千鶴だってこの状態で総司が死んでしまうのは嫌に決まっている。
今夜は……今夜こそは最後までいってしまおう。
そう決心し縁側から立ち上がったとたん、以前千鶴から見られた怯えた目と強張った体を思い出し、総司は再び座る。
いや、そうは言ってもこれからの長い夫婦生活に影響することかもしれないのだ。ここで焦ったせいですべてが台無しになってしまうのはさけたい。君菊の授業は、これまで宿題をやったり授業内容を復習したりしてわかったが、確かに的確だ。
さすがに女性が考えた……そういうことに対する授業なだけある。男からは思いもしないようなこと……甘い囁きや耳への愛撫が女性にとっては重要なのだということがわかり、総司も実は勉強になっている。
と、いうことはこのまま素直に授業を信じて言われた通りにしていた方が良いのか……
総司が思い悩んでいると、向こうから総司を呼ぶ声がした。
「総司〜!」
団子とお茶を持った左之と新八だった。縁側で隣に座りこむと、左之が目ざとく総司の浮かない表情に気が付いた。
「お?新婚のくせして暗い顔だな?」
すかさず新八が下品に笑いながら言う。
「毎夜頑張りすぎてつかれてんじゃねーのか?次に千鶴ちゃんに会ったらげっそりやせてたりしてな〜!!」
ぎゃっはっはっはっ!と笑いあう二人を横目で眺めて、総司は再び溜息をつく。左之が眉をあげて総司を見た。
「なんだなんだ?深刻そうじゃねえか。新婚生活がうまく行ってないのか?年上のおにーさんに相談してみろ、ん?」
「気にすんなよ、左之!総司は頑張りすぎて疲れてるだけだろ!」
デバガメ根性丸出しの二人の顔を見て、総司は肩をすくめてたちあがった。もともとこんなプライベートな話を相談するつもりなんてない。千鶴にもかかわることなのだし。
「……千鶴とは仲良くやってますよ。素振りしてきます」
そう言って立ち上がった総司に、左之と新八は縁側に座ったまま「夜のために体力は残しとけよー!」「千鶴が悲しむぞ!」などと下品な声をかけて笑い合っていたのだった。
夜。
ぼんやりと灯る行燈の光の中で、総司は魅せられたように夜着一枚の姿で腰窓に座った自分の前に立っている千鶴の唇を見ていた。
「今日も宿題があって……」
「うん」
自分の膝に座るよう伸ばした総司の手を、千鶴はするりとよけた。
「あの、今日は違うんです」
「え?口づけ⇒深い口づけ⇒体を触って…ってのじゃないの?」
「はい……」
千鶴はぽっと頬をそめて俯いた。
「あの、今日は授業で……その…初めて、初めて……その男の人の……を見たんです」
「ええ!!!」
総司は思わず腰窓から立ち上がった。
「ど、どういうこと?誰か男が来たの。天霧?不知火?そいつが見せてって……!何考えてるのさ!あいつら!!」
怒りだした総司を、千鶴は必死で宥めた。
「そ、総司さん!落ち着いてください。あの、本物じゃないです。その……偽物で……」
「偽物?」
眉根をひそめて聞き返した総司に、千鶴は更に恥ずかしそうに小さな声で答えた。
「その……張形って、言うそうなんですが……」
総司は目を瞬いた。
それは、聞いたことがある。誰からだったか……どうせ新八あたりだろう。男性器の形をかたどった、まあいわゆる「オトナのおもちゃ」だ。
「あ、そうか。それね」
総司は再び腰窓に腰掛けた。まあそういう授業ならそれを持ってくるのは考えられなくはない。真昼間に女子三人でそれを覗き込んであれやこれやしているのを想像すると妙に興奮しなくもないが。
「それで?まさか今日はその偽物で千鶴にあれこれするって宿題じゃないだろうね?」
そんなもので千鶴をいたぶるくらいなら本物でやらせてほしい。ここに立派な物がちゃんとあるのだ。まだなにもしていないというのに期待でカチコチに強張っている物が。
「偽物の方は持って帰っていないので……。今日はその、……やり方を教わったので、その、『本物』の方を私が……私が……」
ぎゅっと自分の着物の裾を掴んで、顔を真っ赤にして言う千鶴に、総司はごくりと唾を飲んだ。
「…え?」
千鶴は意を決したように、ぱっと総司の顔を見てはっきりと言った。
「今日は私が総司さんを気持ちよくします!」
総司が腰窓に座って固まっていると、千鶴がいざ!とばかりに自分の袖をまくって膝まずいた。そして総司の着物に触れる前に見上げる。
「あの……いいですか?」
ほんのり染まった頬に潤んだ瞳、自分の脚の間から見上げる上目使いの目……
これはまずい。
この光景だけで終わりそうなくらい扇情的だ。ダメだといいたいけれど、総司の舌は固まったように動かなかった。黙っているのを同意ととったのか、千鶴はそっと手を総司の筋肉質のたくましい足にかける。
総司はそれだけで、下半身全体に響くような甘いしびれを感じた。そろそろと総司の脚を広げ、千鶴は総司の着物の裾をはだけていく。千鶴の白い手が動き、優しくふんどしをとった感触だけで、総司は耐え切れずにぎゅっと瞳をつぶった。
だめだ。この光景とこの感触がそろうと、ガマンが出来なくなる。
しかし目をつぶると余計に感覚が鋭くなる。
総司は再び目を開けて、千鶴を見降ろした。
千鶴は目の前にある総司の『本物』を、茫然として見ていた。まじまじと見られて、総司の方が居心地が悪くなってくる。
しかし千鶴が次にどうするのかが気になりすぎて、総司は何も言わずに千鶴の反応を見つめていた。
お、大きい……
それになんだかものすごく……迫力が……
千鶴は正直思いっきりひいていた。
張形とは違い存在感が違う。それになりよりこれは……
これはとても入らないのではないだろうか。君菊の授業でさんざんどういうことをするのかを聞いてきたのである程度免疫はある。それにこれまでの宿題で、総司に…その、指なら入れてもらっていたので、だいたいわかってはいたのだが。
しかしこれは指とは全然違うではないか。
最終的にはこれが自分の中に入ってくるのかと想像した。
が、恐怖のみしか感じないかと思ったのだが、何故か下腹の奥がじんわりと熱くなり瞳が潤んでくる。
きっと気が狂うくらい強烈な感覚に違いない。
千鶴はつばを飲み込むと、最初に「それ」を見たときにひいた気持ちが薄れてきたのを感じた。それに反比例して、今度は「本物」に対する好奇心がわいてくる。
千鶴はそっと指を伸ばして、人差し指の先端でそれをなぞった。
「…っあっ…!」
上から聞こえてきた声に、千鶴は驚いて総司の顔を見た。
総司の頬は紅潮し、眉は辛そうにしかめられている。浅く息をしている様子がとんでもなく色っぽい。
濃く昏くなっている緑の瞳を見つめながら、千鶴は今度は華奢な手で包む様にして「本物」を柔らかく握る。
「ああ……」
熱い溜息のような吐息が総司の口からもれた。それを聞いているだけで千鶴は自分の息があがってくるのを感じた。手の中の総司が熱く、さらに熱く固くなるのを感じる。
千鶴は君菊に教わった通り、先端に唇をあてて軽く吸った。
「っあっ!」
びくり、と総司の腰が跳ねるのを感じながら、千鶴はゆっくりと唇を進める。唾液で潤しながら下で裏側を強めになぞる。
そして唾液でぬるぬるになったそれを優しく握ると、手を動かし始めた。
「ああ…千鶴……ちょっと……あっ……まず……!」
総司の口から洩れる意味をなさない言葉が嬉しい。自分の力で総司に快感を与えているのかと思うと千鶴はもっともっと、そう、興奮するのだ。手の動きはそのままにして手ではカバーしきれない部分を口を開けて含むと、千鶴はゆっくりと口をすぼめてしごき始めた。
「千鶴!」
総司が突然千鶴の手を払い腰をひく。千鶴は驚いて上を見た。
「す、すいません!私……私、何か痛かったですか?」
うろたえる千鶴には返事をせずに総司は千鶴をそのまま畳の上に押し倒した。
「……もう我慢できない。挿れるよ」
「え?」
「濡れてる?」
言葉と共に総司の手が千鶴の下半身に伸びた。そこは千鶴が自分でも驚くほどぐっしょりと濡れている。するりと入ってきた総司の指の感触に、千鶴はびくんと全身をふるわせる。
気持ちいい……
腰から背筋を伝わって脳にまで、甘い電流のようなものが流れて千鶴は驚いた。前回は最後の方はもうほとんど夢中でなにもわからなくなってしまっていた。とろとろと甘いねっとりとした渦の中でいつのまにか絶頂に達していた。
しかし今は……
怖いくらいにするどい快感が、総司が触れるそこかしこから全身に広がる。耳を舐められ、胸を愛撫され、指を入れられ……その全てに千鶴は強烈に反応していた。
わ、私……私どうしたの?体がおかしく……
こんなに全身が敏感な状態で、総司の「本物」が入ってきたらどうなってしまうのだろう?
「そ、総司さん、だめ…私、気が狂っちゃいます…!」
「狂ってよ。僕はもうとっくに狂ってるよ」
総司はそう言うと千鶴の白い脚を大きく広げた。そして自分の熱を彼女の潤みにあてがうと、ゆっくりと腰をすすめる。
「…っあ…!」
これまでとは比較にならないくらいの熱い感覚に、千鶴は思わずのけぞった。
総司はかまわずにゆっくりと腰を進める。
「あ…あ、あ…」
裏返る様な鼻から抜けるような自分の声をどこか遠くで聞きながら、千鶴は意識が薄まっていくのを感じていた。体の大部分を占めているのはこの感覚。空洞を埋められるような熱い……
「……痛い…?」
苦しそうに眉根をしかめながら、総司が聞く。肘をついた両腕を千鶴の頭の脇に置く形で、囁くような言葉が耳元に吐息とともに触れる。
千鶴は返事ができなくて、首を横に振った。
痛い、痛いと言うか…強烈なのだ。痛みもあるけれど、総司に全身をつつまれているような感覚も初めて味わう感覚で、『一つになる』という意味が分かる気がする。同じ感覚を総司とわけあっているのだ。総司が少し動くと、千鶴の全身に電流が走る。と同時に総司も「くっ」と歯を食いしばる。
きっと彼も感じでいるのだ。
この電流を。
その一体感が、千鶴をさらに深い快感へと導く。
思わず畳に爪をたてていた手を伸ばし、総司の首へと回した。総司は深い緑の瞳で千鶴を見る。
「そう…畳じゃなくて僕をかきむしって。君の感じる痛みと同じくらい」
言葉と共に総司がぐいっと腰を進めた。
「あっ」
千鶴の奥深くで何かがギシッと音を立て避けるのを感じる。鈍い痛みが一瞬快感の波をさらい、千鶴は総司の背中に爪を立てた。
そのことがさらに総司をうながしたのか、総司はさらに腰をすすめる。
「あっああっ!」
閉じようとする千鶴の脚をがっしりとした両手で抱え、柔らかな千鶴の体を抱え込み、総司はとうとう最後まで自分を推し進めた。
「ああ……」
総司の口から吐息が漏れる。
「千鶴、いくよ」
小さい声で呟くようにそう言うと、総司はゆっくりと腰を引いた。
埋め込まれているような感覚がふっと楽になり、千鶴は目を見開く。そしてすぐ次の瞬間に総司は再び深く突いた。
「いやあっ!」
千鶴を襲ったのは強烈な快感だった。体の中のすべてのものが出てしまいそうな感覚に襲われて、千鶴は顔をそむける。動き続ける総司に、千鶴は必死で言った。
「だ、だめ、総司さん…だめ…!」
「痛いの?」
波のようにうねりながら総司が聞く。しかし総司には答えが分かっていた。今の千鶴の体を支配しているのは痛みではない。やわらかくうごめく脚と滴る体液、そして千鶴の表情がそれをつたえてくれる。
「だって…ああ、どうしよう……ああっあ…!」
深く浅く総司が動く波に合わせて、千鶴は高みに昇らされたり焦らされたり、翻弄される。
「総司さん……ああ、あっああん…お願い……お願い……ああ…!」
総司に与えられる快楽に、千鶴は我を忘れた。探るように動き千鶴の表情を見ていた総司が、目を眇めて言う。
「一度イってみて。千鶴が僕のでイクところがみたい」
そういうとこれまでの緩やかな動きとは変わり、深くある一点をこするように激しく動き出す。
追い詰められるような感覚に、千鶴の頭は真っ白になった。体全体に広がった快感が一点に凝縮されていくのが分かる。
擦られるほどにその快感は深みをまし、千鶴の腰を覆い背中を昇る。そしてそれが臨界点に達した時。
「ああああああっ」
自分の声とは思えないような甲高い声とともに、千鶴は絶頂に達した。
以前感じた『気』とは比べものにならないくらい激しい。下半身がびくんびくんと痙攣し、目がうつろになるのがわかる。
快楽の海をしばらく漂ったあと、千鶴はぼんやりと地に舞い降りるようにして瞼をあけた。
目の前の総司は、千鶴をずっと見つめていた。千鶴の味わった快感を視覚から得ているように。
そして無言で再び動き出す。
「あっ」
弛緩した体を刺激され、千鶴は本能的に体を引こうとした。しかし総司がそれを許さない。
がっしりと抱きしめ、激しく動き出す。
「あっ…!い、嫌っ!だめ……!」
タガがはずれたような総司に、千鶴は動揺して叫び声をあげた。しかしそれも総司の唇に呑みこまれる。
心の準備もないまま、千鶴はまた弓を引き絞る様なあの感覚に襲われた。
「だ、だめ……!だめ、だめです…ああっ」
再びふわりとした空に投げ出され、千鶴は全身を震わせた。
ぼんやりとした千鶴の耳に、総司の甘い声が聞こえる。
「千鶴は感じやすいんだね……・もっともっとイかせておかしくしたくなるな」
総司は、そう言いながらまた腰をやわらかくうごめかす。
「そ、総司さん…だめ、だめです…!」
千鶴の瞳からは涙があふれた。しかし下半身は総司の熱をうけとめてふたたびしびれだす。
総司が千鶴を横向きにして、背後から抱くように体勢をかえた。反りの向きが千鶴の感じやすい場所にぴったりとあたりそこをなんどもこすられる。
「いやああっ」
逃げ出そうとする体を、後ろから総司の腕が抑える。その腕はそのまま前に回り、千鶴の敏感な蕾をさぐりだした。
「だ、だめ!だめ!いやっ…!あ…あ…ああ…!」
拒否の言葉は、総司が蕾を柔らかく揉む様に愛撫をしだすとしりすぼみに途切れた。後は小さな声の千鶴の泣き声だけが部屋に響く。
「ああ…いやあ…だ、だめえ……あっ」
中をこすられながら蕾をもてあそばれ、千鶴はこれまにない快感に翻弄されていた。羞恥心や恐怖もなにもかも捨てて与えられる快感に涙を流す。
「そ、総司さん……!ま、また……いく、いく…いっちゃうっ……!」
丸まるような姿勢になり、千鶴はまたもや達した。
「あ、あ……あ…」
口から唾液が垂れているのももうわからない。今回の絶頂はそれくらい深かった。一瞬意識がとんで世界が真っ白になる。
そのままその白い世界にしずみこんでしまいそうな千鶴を覚醒させたのは、またもや快感だった。
総司の腰が動き、再び千鶴の中をこする。指も優しく花芯を撫でている。
「そ、総司さん……私……あ、もう、もうだめです…こわれちゃう……」
「こわれていいよ。僕が拾ってまたあつめてあげる」
息を弾ませながら総司が言った。
「ほんとに…もう……だめ…」
ぐったりと横たわっているのに、総司の動きと指でまた千鶴の快感はかきおこされつつあった。もう指一本もうごかせないくらい全身の力が抜けているのに……
「あ、あ……ああ……」
「ああ、千鶴……ほんとに気持ちイイよ……。我慢した分たっぷり楽しませてもらうからね」
快感に体を揺らされながら、千鶴は総司の言葉を遠くで聞いていた。
結局いつ眠ったのかわからない。
いや眠っていないのかもしれない。意識を失い、また醒めさせられ、また達して……
拷問の様な快感はいつ果てたのかわからなかった。
ぐったりと憔悴した様子で横たわっている千鶴を起こさないようにして、総司はそっと布団から抜け出した。総司の方は昨夜散々楽しみ、体は疲れているはずなのに心身ともに元気いっぱいだ。
こうやって疲れてくたりとしている千鶴もいい。
今日隊務がなければさっそく朝から襲っていたところだ。瞼をあげるのも気だるげな千鶴を攻めて攻めて攻めて、絶頂へと導くのは征服欲が満たされる。
まあ、昨夜ははじめてにしてはやりすぎたかもしれないが。
しかしこれからは毎夜たっぷりたのしませてもらうつもりだ。目隠しして散々千鶴をイかせるのもいいし、手を縛ってもてあそぶのもいい。絶頂に達して我を忘れるときの千鶴は、信じられないほど色っぽいのだ。
思い出すだけで腰がしびれるようになる。
総司は首を振って気分を変えて、朝の支度をする。おにぎりぐらいはつくっておいてあげようと、大きなまんまるいおにぎりを千鶴のために作っておいた。
今夜のために体力をつけておいてもらわないとね
総司はにんまりと笑うと、静かに玄関を開けて仕事にでかけていったのだった。
終